群馬県中之条町、標高1000mの山の中ハーブや宿根草を育てる「ハナボウズ」園主(中島)が、日々の農作業の合間に、山の音と言葉を記録しています。
ステレオ録音で、山の中にある畑の環境ごと、カエルの声、鳥の声、風の向き、遠くのチェーンソー音、この山に生きているものたちの気配
いつか誰かがこれを聞くとき、朝の空気が伝わったら面白いなと思っています。
ハナボウズ圃場コード:たびたび登場する、畑の定義です。
K = 湿地・開放農地・森林が接するエッジ環境
A = アトリエ(現在の作業場の隣)
G = ゴリラ形の岩がある枝もの畑(Aから100mくらい)
M = 開拓時に水鉄砲がぶら下がっていた畑、標高1030m・北向きの最高地点の畑(Gの隣)
Y = 100坪のビニールハウス(町から借りている)
ハナボウズの様子(Instagram):
https://www.instagram.com/hanaboze92
https://listen.style/p/hanaboze92?Y5d1uTfJ
番組の魅力・推薦
道が封鎖された日
2026年8月15日13時33分、中島は自宅の前で録音を始めた。前夜の祭りで酒を飲みすぎ、疲れを残したままの声である。この日の記録は畑ではなく、住宅の前から始まった。午後から畑に出て、草取りと防除を少しやっておこうと考えていた。しかし昨日から今日にかけて異常な雨が降り、大雨のために畑へ通じる道が封鎖された。予定は道の封鎖という一点で崩れる。山の農地は、天候ではなく道によって断たれることがある。この日はインスタグラムで知り合った岡田花屋さんが六合地区に遊びに来ており、ハナボウズにも立ち寄る約束になっていた。中島は封鎖の旨をメッセージで送り、他の場所を見ていってほしいと詫びた。妻と子は明日のバーベキューの買い出しと日常の買い物へ出かけ、中島は家に一人残された。やらねばならないことを数えるうち、産地見学会に来る人のためのハナボウズの概要資料を、画像を入れてもっと固めようと思い立つ。畑に行かなくとも、やることはあった。最後に雑記として、中島は人に言っていなかった話をひとつ語った。
セミの鳴き声
八月九日、曇り。中島はKのハウスを歩きながら、しばらくぶりの記録に取りかかった。アルケミラとアストランティア・ローマのマルチの穴から出てきた雑草を抜きながら、義母とおばに贈った花に喜びの電話をもらった出来事を振り返る。お金のためだけでなく、感謝そのものが価値の交換になるという気づき。二棟目のセダムハウスでは自身の背丈近くまで伸びた雑草と、こぼれ種から育ったアマランサス・ベルベットカーテンの観察。鳥の声からセミの声へと、いつの間にか変わっていた環境音も記録に残る。ルドベキア・リトルヘンリーの生育不振、ユーフォルビア氷河の開花、アマランサスのピンチ試験区画の経過報告。8月28・29日には市場経由の来場者を迎える準備として、圃場の草取りを進めていく。
猪の爪痕、M(ほぼ環境音)
曇り、雨のち曇り。7月27日の朝、M圃場は猪に掘り上げられた畑。注文分のファイアワークスを切りながら、雨が来る前に今日の分を仕上げる。気分は3、平常運転。明日はA圃場の草刈りと防除が待っている。
先輩にピックアップしてもらうまでの一分
中島は六合地区の自宅から支所へ向けて徒歩で移動していた。これから花に関する勉強会(部会)、お弁当付きの会に参加する予定である。会議に向かう道すがら、中島は不安を感じ、ビールを何本か飲んできたことを口にした。良くないことだと自覚しながらも、そのまま歩みを進めている。勉強会への参加を前に、中島は「責任を持って黙って席についていよう」と語った。録音は「あれ?」という短い発話で終わっている。この後、録音は停止されたが、花農家の先輩が後ろから来て中島をピックアップしてくれたとのこと。
暑さ対策どうしてる
七月二十一日、火曜日。九時三十一分。中島はセダムとフロックスの防除作業を終えた。週に一度の作業である。あわせて、市場向けの箱詰めも済ませた。Kの石のベンチに腰掛け、山ログを録っている。今朝は出発が早かったため、朝食はバナナとコーヒーのみで済ませた。先ほど、妻が買ってきてくれたフルーツスティック——湿ったフルーツの入った、カロリーメイトに似た菓子——を口にし、いくらか力を取り戻した。今日の気分は五段階中四。空は曇りがちで、今は日が陰っているが、晴れ間も見える一日である。一昨日ほど前から、草刈り用にバートルのエアークラフトという空調服を導入した。装着して電源を入れると、涼しさがすぐに感じられる。
取材の振り返りとイノシシ災害
父・シンジの誕生日、曇り空の下で始まった一日。注文取りこぼしへの対応、セダムとフィリペンデュラの調整を終えた夕方、今年Mの畑を襲ったイノシシ被害を振り返る。モナルダのピンクをはじめクガイソウやマウンテンミントまで無防備のまま掘り返され、拾えたピンクはわずか五本。毎年注文をくれる花屋への申し訳なさと、暑さと重なる落ち込みの一日。数日前の関東農政局の取材では、公務員と花屋とで響く語り口の違いに気づかされた——ハイドパークやアメリカ研修の実体験が、感性や哲学よりも届いたという独り言。ハナボウズ圃場コード:たびたび登場する、畑の定義です。K|湿地・開放農地・森林が接するエッジ環境A|アトリエ(現在の作業場の隣)G|ゴリラ形の岩がある枝もの畑(Aから約100m)M|開拓時に水鉄砲がぶら下がっていた畑、標高1030m・北向きの最高地点(Gの隣)Y|100坪のビニールハウス(町から借用)
ナチュラルガーデントゥンクトゥンク
小雨の朝、Kの一棟目のハウスで中島は録音を始めた。鎌を手に作物の脇の草を刈ったところだ。一時間後には取材が来る。それだけの理由で、畑は少しだけ人に見せる顔をする。しかし人が数えようとしなければ気づかなかった数字がある——枝物を除いてなお九十種。中島自身、七十のつもりでいた畑だった。雨が弱まるにつれ、体は自然と動き出し、気分は一から二を経て三へと上がっていく。植物と同じように、人もまた環境に応じて姿勢を変えるのだと、この朝は静かに教えている。草に負けたAの畑、そこから生き残った株だけを掘り上げて作った新しい場所へ。量は去年に及ばないが、来年への期待はすでに芽吹いている。畑はきれいに管理されているというより、草より花のほうが元気に生きられる場所のように管理している。中島はそれを、ナチュラルガーデンと呼んだ。
畑を歩きながら畑にある花を数えてみた
前夜、妻との会話の中で、ハナボウズが何種類の花を育てているのか数えてみようという話になり、中島が数えることになった。三年前に数えたときは五十種類だった。今回、取材を機にあらためて正確な数を数え直そうと、出荷準備を終えた後、録音機を手に畑へ向かう。一番下の水道のそばから数えは始まり、シュウメイギク、クレマチス、ブルーベリー、セダム、ネペッタ、ロシアンセージ、モナルダ、アキレア、ジャーマンアイリス、マウンテンミント、サンゴミズキ、アリウム数種、水仙……と続いていく。路地に出てからは、沓掛さんからもらったレイセステリア、移住当初からよくしてくれた山本さんの奥さんがくれたチョウジソウ、花楽の里のヤスエさんから譲り受けたバーベインやジョーパイウィードなど、人とのつながりを伴う株も次々と現れる。フジバカマの草取りが追いついていないことも、率直に語られる。K圃場をひと通り数え終えた後、頭の中で整理しながらM、G、Yへと移動し、それぞれの圃場の株を加えていく。数え終えた時点で、確認できた品目は聞き取り不明瞭なものも含めて合計104件。三年前の五十種類とは数え方の前提が異なるため、単純比較はできないが、この日思いつく限りの株はひと通り記録された。晴れて暑い日、体を動かして気分は良い。午後は植え付け、草刈りへと続いていく。
手がまわらない
中島は、標高1030mの北向きの畑、Mへ足を運んだ。今年Yのビニールハウスが増えたぶん、Mまで手が回らなくなっていた。草はすでに手に負えない高さまで伸びている。暑さが増してきたこの日、目当てはモナルダの収穫だった。妻は作業場でセダムの調整に当たり、中島はひと息つきながらこの記録を録っている。Mではこれまで、モナルダとフィリペンジュラ、それにクガイソウが採算の取れる品目だった。しかしクガイソウには昨年から黒い斑点が見られ、今年はウイルス病とおぼしき症状が西側一帯に広がっていた。東側はまだ比較的元気な株が残っている。花を切り終えたあとに生きた株を掘り上げ、灌水できる場所へ植え付け直す計画を立てた。アルケミラとアストランティア・ローマの掘り上げは、昨日ようやく終わったところだ。今年はモナルダとウイキョウをKへ移した経緯もあり、Mという畑そのものを手放すことも頭をよぎった。トラクターで一度耕し直し、草を刈って更地に近い状態に戻す必要がある。南隣ではカベさんが花豆や野菜をきれいに手入れしている。除草の行き届いたその畑と、自分のMとの落差に中島は苦笑した。鳥の声だけが、変わらずよく響いていた。
ラブパレード
七月に入り、鳥の声が心なしか減った気がする畑で、中島は今年の花たちと向き合っている。アストランティアは去年の管理不足で株が弱り、マウンテンミントも植え替えの影響で先行き不安。それでも背伸びせず、来年への立て直しに舵を切った。アキレア「ラブパレード」は、今はなきカラクの里のオーナーだった方から譲り受けた苗が始まり。名前がしっくりこず色名で出していた時期もあったが、中卸さんの一言で名前が戻ってきた——時代がひと回りしたのかもしれない。午後は妻と分業。掘り上げ担当の妻が語った「エビ型」と「エンチョウ型」の芽の違いという気づきから、中島はふと反省する。日々の作業に追われて、考えたり試したりする回数が減っている気がした。ハナボウズの強みはなんだろうかを考える。
生産効率とハイドパーク
曇りから雨へ移る午後、中島は出荷前の調整作業を終え、軽トラの荷台に腰をかけながら今日を振り返る。育てて2年目のエリンジウムは枝ぶりこそ良いが、荷造りと送料を考えると単価だけでは仕事にならない――そんな現実と、ドライフラワー向けという新しい売り先への気づき。先週は安カ川ファームの博さんに車を出してもらい、青木村のフラワーファーム沓掛さんを再訪。重油栽培から季節の草花へ移行した十棟のハウスと、自ら世界観を築き発信する沓掛さんの姿に触れ、六合での産地見学会のあり方を考え直す。昨年の畑見学会で感じた、大学時代のハイドパークに似た「居ることが許される」空気についても語られる。中島の血を求めてブヨが飛び回る畑で、聞く図鑑をきっかけに始めた鳥の観察遊びにも話は及ぶ。ウグイスの声を聞き分け、いつかこの記録に出てくるK・A・G・Mの圃場符号についても説明を残しておきたいという気づきも。
ほぼ環境音、セダム切り忘れた
花を切り忘れたことに気づいた中島が、軽トラに積み込み中作業を記録した一本。発話は短く、その代わりに約28分間、里山の生物音が豊かに記録された。時間帯: 13:39〜の昼下がりにもかかわらず鳥のさえずりが活発 → 6月の繁殖期ピーク季節遷移: 春の鳥(ウグイス、カッコウ類)と夏の虫(ニイニイゼミ)の共存が特徴的 → まさに「晩春から夏への移行期」生息環境の推定: ウグイス + ホトトギス + オオヨシキリ + アマガエル + ウシガエル の組み合わせから、林縁部、畑、湿気が近接する圃場K: 11種以上の鳥、2-3種のセミ、2種のカエルを確認 → 非常に豊かな生態系
こいつにスパゲティを食わしてやりたい
ほぼウグイスの鳴き声とハサミのパチパチ音、たまに園主の声が入る回。六月二十三日、K圃場。アルケミラの株分け作業中、古い根を残すと苗が浮いて欠株するという仮説。曇りで風が少し肌寒い一日、妻と話したジョジョ五部のあのシーンの出典探し、産地見学会に向けた自己紹介の練習、桔梗の発芽率は七割くらいだった。給油(車に)とビール(園主に)を買って帰る一日。
たぶん鵺
深夜23時43分、六合地区。深酒の夜、中島は住宅の周囲を徘徊していた。南の空では雷が光り、星は霞に隠れている。針葉樹の闇の中から、一定の間隔で「ピー、ピー」と鳴く声が届く。その正体を確かめようと、マイクを手に外へ出た。夜鷹か、鵺か。鳴き声は判然としないまま、記憶は数年前の蒸し暑い夜へと遡る。この山に移住してから出会ったという、妖怪か神か分からぬものの話——酔いの中で、その輪郭をたどる。スマホのライトを点ける。「こわ」とつぶやく。補足分析によれば、この声はヨタカまたはトラツグミの可能性が高い。トラツグミは古来「鵺」の声として知られ、宮沢賢治の『よだかの星』にも連なる。先月まで定住していたフクロウは、いつの間にか姿を消していた。今夜の鳥は、まだここにいる。「歯磨きして寝ます」と言いながら、中島は家へと戻った。
遊びで続けていきたい
六月の午後、中島はAフィールド周辺の草刈りの合間に録音を始めた。七月になれば蜂が巣を守り始める——就農前に師匠から聞いたその話を、眉唾だと思いながらも肌感覚で信じている。藪を放置すれば、ある日突然、蜂が飛び出してくる。だから今のうちに刈っておく。日曜日に出品した中之条花マルシェは、客層がよかった。入園料を払って植物園に来る人たちだ。一本百円の売り台に自分で花を拾って束ねていった客のひとりが、上手に組んだ花を持ってきた。「花やってましたか?」と聞いたら「花やってます」と返ってきた。言葉ではなく、手の動きや作法から相手の背景が滲み出ていた。探偵みたいな、嬉しい瞬間だった。マルシェは労力を考えると正直割に合わない。それでも中島は「祭りだと思って」参加する。楽しいから。山ログのフォロワーが倍増したことへの、緊張ともちがう感覚もあった。「遊びで続けていく」とひとり確認して、録音を終えた中島は再び草刈り機のエンジンをかけた。
中之条花マルシェの準備
中之条花マルシェの前日、作業場で明日販売予定の生花選別作業を録音してみました。独り言、鋏で花を切る音、ハチの乱入、足音2026年6月13日土曜日14:36〜
圃場Kの環境音2026年6月13日
六月十三日、土曜日。K圃場で、中島はひとり花を切っていた。翌十四日の中之条花マルシェに向けた準備作業だった。マイクは軽トラの荷台の上に置かれ、その日の音を拾っていた。風の気配、鳥やセミの声、そして時折やってくる来客の声。録音はやがて、スマートフォンの発熱によって静かに途切れた。機械が音を上げたその瞬間まで、中島は花を切り続けていた。 マルシェの前日というのは、静かな緊張感がある。売り物になる一本を選び取る手つきには、値踏みとも愛着ともつかない感覚が混じる。Kの圃場は、そういう作業に向いている。広すぎず、狭すぎず、手が届く範囲に花がある。軽トラはその日の道具置き場であり、録音スタジオだった。 来客はいつも唐突にやってくる。会話がはじまれば、それも記録の一部になる。ログとは、計画された音だけでなく、その日にたまたま起きたことの総体なのかもしれない。マイクを置き去りにしても気にしない。いつの間にかマイクを指していたスマートフォンが熱を持ち録音は止まっていた。
自己紹介より先に鳥の声
市場と中卸の担当者が圃場を訪れた。車を降りた中卸の方が、自己紹介より先に言った言葉が「うわ、鳥の声がすごい!」。そこから中島のAI鳥図鑑トークが炸裂。ウグイス、ガビチョウ、晴れると突然鳴き始めるハルゼミ……圃場の四方を林に囲まれたエッジ環境が生み出す音響環境を、来客とともに楽しんだ。午後はアルケミラの掘り上げ作業へ。「もっと作ってほしい」と言われたばかりの花を、鋤で掘り起こし300株以上をコンテナへ。Yハウスに700〜800株、Kエリアに800株以上。6月中の定植完了を目指す。週末は中之条ガーデンズのマルシェ。目玉にしたかったアストランティア・ローマの路地ものは今年は不調で断念。ブルーベリーや草ものを中心に、あるもので臨む。Kの圃場は、湧き水と鳥声と花畑が交わる、尾瀬みたいな場所。今日の来客も、それを感じ取っていた。
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