地方財政の現状と既存指標の課題
気になるあの本の一節を、朗読でお届けする、学芸出版社クイックライブラリー。
今回は、企業の財務診断と同じ手法で、地方自治体の財政を読み解く方法を解説した、
自治体の財政診断入門、損益計算書を作れば稼ぐ力がわかるから、
第1章、地方財政の現状と既存指標の課題をお届けします。
本章の著者は、大和総研、金融調査部、主任研究員の鈴木文彦さんです。
第1章、地方財政の現状と既存指標の課題。
1、将来に不安を抱える地方財政。
自治体の借入金をめぐる近年の動向。
2、地方財政の不安要因。
そもそも、地方財政の状況は良かったのでしょうか、悪かったのでしょうか。
2者択一で言えば、表面上、かつ少なくともコロナ禍以前は良好でした。
自治体の財政の良し悪しは、借入金と基金の大きさでわかります。
90年代に急増した借入水準は落ち着きを見せ、積み立てに回す余裕ができ、
実質無借金の自治体も小規模団体中心に散見されます。
しかし、将来にわたって万弱化と言えば話は別です。
図表1.1は、今から20数年後、逆三角形になった日本の人口ピラミッドです。
ここからわかることがいくつかあります。
まずは、高齢化による働き手の減少です。
働き手の減少は、将来の全集元の要因になります。
医療、介護など福祉関連の経費を押し上げます。
とりわけ、地方において既に深刻ですが、今後は大都市部の問題になります。
高齢化は住民だけではありません。
高度成長期に大量整備した上下水道、橋梁などの都市インフラが続々と対応年数を迎え、放っておくと支出は増える一方です。
目先では、新型コロナ禍による税収減と支出増が不安要因です。
これを仕込めに、比較的良好だった地方財政の仕込めが変わるかもしれません。
臨時財政対策債の増加。
俯瞰すると、以前のような借入急増はないものの、地方財政は一末のリスクを払っています。
都道府県及び市区町村の借入残高、地方再減財高の推移を見ると、2010年度以降は140兆円前半で推移しています。
臨時財政対策債の増加とその課題
都道府県、政令指定都市、その他市町村など、団体区分による違い、個々の地方自治体によるばらつきはありますが、
夕張ショックが取り沙汰された2000年代前半のように、借入が短期間で膨張したようなことはありませんでした。
しかし、借入の内訳を見ると別の側面が見えてきます。
確かに、2000年代から公共事業が少なくなったことを背景に、その財源の一つである地方財は少なくなりました。
他方、こうした建設地方財が少なくなったのと補充を表せるように、臨時財政対策債が増えています。
臨時財政対策債とは。
臨時財政対策債は地方債の一種で、資金使徒は自由です。
国から入る地方交付税の代替財源という考え方もあります。
地方交付税は自治体固有の財源で、国から交付される国の所得税、法人税、消費税、首税、及び地方法人税の一定割合が原資となります。
一方で、必要額は、人口や面積などを要素に積算した基準財政需要額と標準な税収入額をベースに計算した基準財政収入額との差額です。
平たく言えば、行政需要と地方税収のたらずまいです。
もちろん、原資と必要額は必ずしも一致するものではありません。
事実としては、供給が慢性的に不足しています。
この不足分の約半分は国債で補填されますが、それでも足りません。
個々の自治体に誘金される地方交付税の水準が、あらかじめ見込んだ行政支出額を補填するのに足りないので、差額は新たな借入金で賄います。
この借入金が臨時財政対策債なのです。
臨時財政対策債は借入金か、交付金か。
臨時財政対策債は、実態を見れば赤字補填のための地方債です。
この地方債が仮に存在しなければ、あるいは全く借入しなければ、資金ショートを起こすでしょう。
この側面では赤字地方債と言えます。
他方、地方交付税の代替という見方もあります。
本来は地方交付税として交付されるべきだが、地方自治体が借入する形式を取っているという考え方です。
臨時財政対策債の元利返済金は、地方交付税の算定の元となっている基準財政需要額に計上されます。
地方交付税に関する請求書の作成に当たって、請求額のプラス要素に加えるということです。
これを交付税措置と言います。
とはいえ、国から支出できる地方交付税の総額は、先に述べた国税・誤税の一定割合です。
請求に上乗せしても、地方交付税そのものが増えるわけではありません。
国税・誤税が増えるなら話は別ですが、そうでなければ、元利返済額を加えた分だけ、供給と需要のギャップが拡大するだけです。
元利返済額を反映した新たな臨時財政対策債が必要になります。
事実、臨時財政対策債の制度は、臨時が頭につくのと裏腹に、毎年継続され、残高はこれまで全年度を下回ったことがありません。増加の一途をたどっています。
コロナ禍による地方財政の変化
2.コロナ禍で様変わりした地方財政
コロナ禍以前からの課題とコロナ禍による課題、迫られる基金の大規模な切り崩し、臨時財政対策債の残高はこれまで全年を下回ったことがないとはいえ、増加ペースは鈍化しており、2019年度にはほぼ横ばいにまでなりました。
企業収益の回復で地方税収が顕著に推移していたことが背景にあります。
ところがその最中のコロナ禍です。
2021年度地方財政計画によれば、2021年度の臨時財政対策債は5兆4796億円と、全年度比74.5%の大幅増の見込みとなりました。
また、それまで積み立てていた基金を大きく取り崩すケースも散見されます。
2020年3月末に7.2兆円あった地方自治体の財政調整基金は、9月補正予算編成後の時点で4.9兆円に大幅に減少しました。
東京都は9,345億円だったのが、1,718億円に激減したところです。
ポストコロナに求められる戦略的な財政運営、夕張ショックが一段落した約10年間、東日本大震災やリーマンショックなどはありましたが、地方財政は比較的安定していました。
この点、地方財政に特筆すべき問題なしと言えそうです。
もっとも、地方自治体の財政問題とは、目の前で起きている事故、事件のようなものとは時間軸が異なります。
仮に今問題ないとしても、このまま何も手を打たなければ、いずれ財政破綻するといった類の話です。
現在の問題ではなく、将来の問題と言えます。
これまでは基金に余裕があり、個々のばらつきはあるにせよ、全体を見れば借入水準は横ばいないし減少傾向にありました。
しかし、コロナ禍で基金を一気に取り崩し、人事財政対策債が再び増加に転じたことで、これまで抱えていた収支上の課題が問題として顕在化する可能性があります。
財政に厳しい制約がある中で、必要とあれば全て取り組む、あれもこれも型の財政運営から、重要性と緊急性で優先順位をつけ、あれかこれか型の財政運営への転換が求められます。
優先順位をつけるためには、将来の明確なビジョンが必要です。一言で言えば、戦略的発想です。
百貨店や大規模スーパーは、品揃えを全て自分で賄うところが少なく、上階の家電、書籍コーナーなどは、外の専門量販店をテナントとして入居させるケースが多くなってきました。
それと同様、公共サービスの提供も、地方自治体が全て担う時代ではもはやありません。実績ある民間事業者と分担し、従来以上のサービスを低コストで提供することを図るのも昨今の流れです。コロナ後は、より一層進められていくことでしょう。
本書の朗読はここまでです。続きは、書籍をご覧ください。