海と森のつながり
さて今回は、海と森のつながりを考える、というテーマでお話ししたいと思います。
川で釣りをする方なら、今日は釣れそうな濁りが入っている、という自分なりの感覚を持っている方も多いと思います。
海で釣りをしていても、雨の後不思議とよく釣れるポイントを知っている、という方もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の話を聞いていただくと、この良い感覚が少しだけ理屈でわかるかもしれません。
まずは、基本的な水の循環サイクルについてお話しします。
私たちが釣り場に立っているとき、そこが海であっても、その水の一部は山や森からやってきていて、やがてまた山へ行くことになります。
具体的には、海で蒸発した水蒸気が雨となって山や森に降って、この雨が土壌に染み込んでいきます。
その後地中を通り、やがて湧き水や小さな沢になって、いくつもの流れが合流して大きな川になり、また海に注ぎ込む、というのが大きなサイクルです。
この時、川は単なる雨水の通り道ではなくて、土に含まれる栄養や植物が分解されたもの、小さな生き物や微生物も一緒に運ぶベルトコンベアのような役割を担っています。
一見透明に見えても、非常に様々なものが混じり合いながら海へたどり着くことになります。
川と海が交わる河口は、淡水と海水が混ざるいわゆる起水域を形成しまして、雨も場や日型などがその典型例ですけれども、そういった場所が出来上がります。
この起水域は、プランクトンやエビ、カニ、地魚たちにとって重要な餌場になりまして、川から運ばれた栄養が生まれたばかりの海の生き物たちの食事になります。
このように海から森、森から川、そしてまた海へ水を通じて様々なものを運ぶ、これが釣り場を支える自然循環サイクルです。
森は海の恋人プロジェクト
またプランクトンやアマモンなどの海藻を食べて育った小魚は、より大型な魚の餌となりますので、釣り場この循環サイクルとの関連性が極めて強いレジャーです。
この繋がりを知るだけでも、きっと釣りや自然の景色が違って見えてくると思います。
さて、このサイクルを踏まえた上でもっと解像度を上げるために、各地で海や森の環境をより良くするために行われている取り組みについてもお話ししていきたいと思います。
私が個人的に面白いと感じたのは、海の環境を良くするために山に紅葉樹を植えるという取り組みです。
この取り組み、その名も森は海の恋人プロジェクトというものですが、
これは宮城県気仙沼の柿養殖漁師である畠山さんをはじめとする方々が、漁場の赤潮発生をきっかけとして平成元年から始めた運動で、
海の豊かさは山にあるという信念から、流域の上流の山にですね、ブナやコナラなどの紅葉樹、これ広い葉っぱと書いて紅葉樹ですけれども、これを植える取り組みです。
ちなみに対になるのが、針の葉と書いて針葉樹になります。
で、なぜ紅葉樹なのかというのが大きなポイントです。
自然好きの方ならピンとくるかもしれませんが、紅葉樹の森と針葉樹の森には大きな違いがあります。
で、紅葉樹、代表的なものはブナとかナラ、ケヤキ、サクラなどですが、これらは一定サイクルで葉が落ちてまた生えるという循環を繰り返します。
これは一人中分厚い落ち葉を積み重ねて、ふかふかのいわゆる腐葉土の層を作ります。
この腐葉土はスポンジのように水をたっぷりため込む力があって、雨が降っても水が一気に流れ出さず、少しずつ川へ送り出されていきます。
また単純に腐葉土の層が地表をしっかり追うことで、激しい雨でも土壌が流れ出さずに、川の濁りや下流の土砂流出を防ぐ効果もあります。
雨水はこの層でじっくりろ過されて、不要な汚れは土が吸着して栄養素がじわじわ溶け出していくことになります。
例えば大雨の後でも、紅葉樹の森の沢は澄んだ水がゆっくりと出続ける傾向があるようです。
なので紅葉樹の森というのは、いわば大きなダムとして機能しているということになります。
一方の針葉樹。こちら代表的なものは杉とかヒノキですけれども、人の手が入った人工林は大半がこの針葉樹ですが、葉が細くて落ち葉が薄いことに加えて、そもそも葉が落ちない常緑のものが多いので、地面が剥き出しになりやすいとかですね。
上にまっすぐ伸ばすために、横から光が入らないように木同士の間隔を空けずに密に植えていきますので、地表に光が届かずに下草が生えにくい。そのために割り引くために間伐が必要なわけですけれども、このような特徴があるので、紅葉樹の森と比べて生育している土壌の補水力というのが相対的に弱くなりがちですね。
雨が降ると川へすぐに流れ出して増水したり、反対に渇水したり、土壌の流出もしやすい環境になりやすいという傾向があるようです。
令和6年の森林白書によれば、日本の人工林は森林全体の4割を占めていまして、そのほとんどが杉やヒノキなどの針葉樹です。
もちろん針葉樹は重要な役割があるので植えられているわけですが、ほぼ山全体が人工林になったような地域では土砂の流出とか水質の悪化が起こりやすく、下流の海でも貝や海藻の不作につながる事例も確認されているようで、現代では針葉樹を植える場合でもですね、紅葉樹との混合にする取り組みなんかも行われているようです。
まとめると紅葉樹の森というのはダム効果で土砂の流出を防いで、適量の水を安定して川に供給する効果がありまして、さらに落ち葉や土壌から出る有機物などが海藻やプランクトンの餌になりますので、植物連鎖の起点になることで海の豊かさ、つまり魚介類の豊富さにつながるということですね。
紅葉樹と新葉樹の役割
なので改めてですがこの山に紅葉樹を植えるというプロジェクトは単なる植林活動ではなくて、自然の循環サイクルを使って山から下流、そして海まで全ての生き物をつなぐ基盤を紅葉樹で回復して海の豊かさを取り戻そうという取り組みです。
これ私も畑山さんの著書を読んで驚いたんですけれども、この取り組みの有効性自体は各大学などの研究で科学的にも解明されているんですけれども、それは後からで畑山さんたちは全く科学的根拠を知って始めたわけではなく、漁師としての直感と観察でこのプロジェクトを始められているんですね。
この書籍の冒頭は、漁師は山を見ていた。海から真剣に山を見ていた。という一文から始まるんですけれども、内容を読むと確かに昔の漁師の方は電子機器などを使っていませんから、自分がいる場所から見える山々の位置関係を見て、その季節魚がよく捕れる場所に船をつけたりとか、天候を見るときも、例えばあの山に黒い雲がかかったら天候が荒れるので帰らないといけない。
と判断したりとかですね。それからそもそも漁師さんが昔乗っていた船は木造ですし、漁鐘なんかも昔は木をほとんどそのままですね、沈めて使っていたので、自ら山に入って材料調達をしたりと、非常に山との関わりが深かったということに驚かされました。
その意味では、山の変化と海の変化の関係性にいち早く気づいて行動を起こしたのが漁師さんであったことはとても納得しました。
読んでみると少し変わったプロジェクト名ですが、この名前が決まった経緯も面白くてですね、純粋に読み物としても大変楽しめる書籍なので、興味のある方は一度お読みいただけたらなと思います。
ちなみに興味のある方のために概要欄へこの辺りのメカニズムが科学的な視点でまとめられている資料のリンクなんかも記載していますので、こちらもですね、併せてご覧になってみてください。
さて、一方でこの取り組みの実際の効果ですが、NPOや大学、漁業がその効果について観測しているようですけれども、
牡蠣の成長速度のアップや海の透明度の上昇などですね、効果として言われています。
全国調査でも流域の森林率が高いほど海の生物多様性が高いという統計的な傾向も見え始めているそうですが、
この手の研究の難しさだと思いますが、純粋な紅葉樹の効果だけを測定するのが非常に難しいという課題はありそうです。
私が見た限りの全体的な印象として、確かに一定の効果はあるというふうに考えられるけれども、
果たしてそれがどのぐらいのインパクトなのかという点においては、まだまだ中長期的にも検証が必要なんだろうなとも感じましたが、
私個人的にはこの取り組みが好きなので、今後も杖長く続いてほしいプロジェクトだなと思っています。
補足ですけれども、先ほどの紅葉樹と新葉樹の私の説明だと、新葉樹が悪いかのような印象を持たれた方もいるかもしれませんが、
杉やヒノキなどの新葉樹は戦後復興の過程で大量に木材需要が発生したこともあって、成長が早くてまっすぐで扱いやすい木はですね、
人間社会に多くの恩恵をもたらしたということも事実です。
それだけではなくて、同じ樹齢であれば紅葉樹よりも成長が早くて上力なので、年間を通じて光合成を行いますし、
昨今の脱炭素という動きを考えても、製造過程で炭素を大量に排出する人工的な材料と比べると、結果として排出量を抑えるということにもつながってきます。
紅葉樹の森の特性
日本は人の手による新葉樹林がですね、森林全体の4割近くと非常に多くて、それゆえの課題もありますけれども、可決な木であるということは改めて補足したいと思います。
ここでフィッシュポッドは釣りの話がメインですから、この知識が釣り場で役立つかという視点でもお話ししてみたいと思います。
紅葉樹の森の方が確率論としては栄養が豊富で生態系が豊かだったり、土壌の流出が少ないので、一部の河川に見られるような河口に砂とか土砂が堆積するということが起こりにくいということは言えそうです。
なので、こういったことから釣れる可能性を高めるということはできそうだと。
実際に山へ行けば、その辺りが紅葉樹なのかどうかは確認できたりすると思いますが、とはいえ実際に足を運んでそこまで行くというのはハードルが高いです。
では遠くからだったとしても、どのように紅葉樹の森だと推測すれば良いのかというと、大きくは色の多様性と雨の後の川の色ですね。
色の多様性という意味では、春や秋、山の色が単色ではなくて、黄緑とか赤、黄色が混じっていると紅葉樹が多いという証拠になります。
反対に杉やヒノキなどの人工林は、同じトーンで濃い緑色が延々と続くような見た目になりやすいです。
2つ目の川の色ですけれども、川の規模にもよりますが、似たような大きさの川に同じ量の雨が降っても濁りやすい川と濁りにくい川があります。
すぐに濁ってですね、例えばすぐ茶色く味噌汁のような色になる川というのは、流域の人工林の割合が高いとか、途中で工事をしているとか、何かしらの理由で土砂が流れてきている可能性が高いと考えられます。
私自身の経験でも、例えばシーバスを狙っている時に、小規模な川でも雨が降ると適度な濁りが入って、爆発力が出る河川もあればですね、
反対に川幅が大きいのに、味噌汁のような色にすぐなってですね、濁りやすくて、砂や泥の堆積が進んで、雨が降ってもなかなか釣れないという川もあります。
こういったサイクルとか理屈を覚えておくことで、ポイントの見方とか選択の精度も変わってくるのかなと思います。
ちなみに補足ですが、海側から山を見るとき、ほんの少しでも谷になっている場所を見つけると、小規模でも水が流れる、流れ込みを発見できる可能性が高いです。
この時、目に見える表層に水が流れていなくても、その谷の延長線上の海底からですね、水が海に湧き出している可能性も高いので、
その周辺は良いポイントになったりとか、こうした自然に目を向けることで、釣りの確率というのは高くなってくると思います。
海と森の関係性
さて、今日は森と海の関係性についてお話をしていきました。
こういう話は一見ちょっと遠い世界のように感じるかもしれません。
でも、自分が実際によく行く場所に重ねてみると、不思議と記憶に残ったりします。
あの川、雨の後でも濁りにくいのは、もしかして上流が紅葉樹の森だからかも、とか、
ここの湧き水っぽい流れ込み、山の地形と繋がってたんだな、とか、
そうやって水と森の関係に気づいて覚えるということが、釣り場の見方を変えてくれるし、ポイント選びのヒントにもなってくると思います。
自然と知識を自分の中で繋ぎ合わせていく。
そんな感覚を少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。
良ければ皆さんも、自分の釣り場が森や川とどう繋がっているのかを一度考えてみてください。
それだけで、いつもと同じ景色もきっと見え方が変わると思います。
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