遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)は、BRCA1遺伝子又はBRCA2遺伝子の変異により、乳癌や卵巣癌を発症しやすくなる遺伝性の疾患です。この疾患では、がんを発症していない人でも、両側乳房切除や卵管・卵巣切除により発症リスクを下げられることが、近年のエビデンスで示されています。しかし従来は、がんを発症していない家族が、診断に必要な検査や指導について診療報酬の算定対象外でした。本稿では、この課題を解消する令和8年度診療報酬改定の見直し内容を解説します。
今回の見直しでは、がんを発症していない家族が新たに算定対象へ追加されます。見直しの背景には、HBOC患者へのリスク低減手術の有効性を示すエビデンスがあります。この背景を踏まえ、BRCA1/2遺伝子検査では、HBOCと診断された人の父母・子・兄弟姉妹が対象に加わります。同様に、がん患者指導管理料でも、HBOCと診断された人の父母・子・兄弟姉妹が対象に加わります。
見直しの背景:がん未発症でもリスク低減手術が有効
今回の見直しは、がんを発症していないHBOC患者へのリスク低減手術の有効性を根拠としています。HBOC患者は、生涯にわたって乳癌や卵巣癌を発症するリスクが高い状態にあります。このリスクに対しては、乳癌や卵巣癌を発症する前の段階で、両側乳房切除や卵管・卵巣切除を行う「リスク低減手術」が選択肢となります。近年、このリスク低減手術が発症予防に有効であるとのエビデンスが蓄積されてきました。
有効なリスク低減手術を活かすには、がんを発症する前にHBOCを診断することが欠かせません。HBOCの診断には、BRCA1遺伝子及びBRCA2遺伝子の変異を調べるBRCA1/2遺伝子検査が用いられます。この検査により変異が確認されれば、患者はがん発症前でも自らのリスクを把握できます。リスクを把握した患者は、リスク低減手術を含めた診療方針を、医師とともに検討できるようになります。
BRCA1/2遺伝子検査:家族が新たに対象へ
BRCA1/2遺伝子検査では、HBOCと診断された人の家族が新たに算定対象へ加わります。血液を検体とするこの検査は、乳癌や卵巣癌など複数のがんで用いられ、その用途のひとつがHBOCの診断です。現行では、HBOCの診断を目的とする場合、対象はHBOCが疑われる乳癌又は卵巣癌の患者に限られていました。つまり、HBOCの診断では、がんを発症した患者でなければ保険で検査を受けられませんでした。改定後は、この対象に、HBOCと診断された人の父母・子・兄弟姉妹が追加されます。この結果、がんを発症していない家族でも、保険でBRCA1/2遺伝子検査を受けられるようになります。
対象となる家族には、明確な条件が設けられています。追加される家族は、BRCA1/2遺伝子検査(血液を検体とするもの)によりHBOCと診断された人の、父母・子・兄弟姉妹に限られます。この条件により、HBOCの家族歴が確認された人へ、検査が的確に届く仕組みとなっています。
がん患者指導管理料:家族への説明・相談も対象へ
がん患者指導管理料でも、HBOCと診断された人の家族が新たに算定対象へ加わります。現行では、指導管理料ニの対象は、乳癌・卵巣癌又は卵管癌と診断された患者のうち、HBOCが疑われる患者に限られていました。つまり、がんを発症した患者への説明・相談だけが評価されていました。改定後は、HBOCが疑われる乳癌又は卵巣癌の患者に加え、HBOCと診断された人の父母・子・兄弟姉妹も対象となります。この結果、がんを発症していない家族への説明・相談も、診療報酬で評価されるようになります。
対象となる家族には、専門的な体制による指導が行われます。この指導では、臨床遺伝学に十分な知識を有する医師と、がん診療の経験を有する医師が共同で対応します。両医師は、診療方針・診療計画・遺伝子検査の必要性などを説明します。この説明を通じて、家族は内容を十分に理解し、納得したうえで診療方針を選択できます。
まとめ
令和8年度診療報酬改定では、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)の評価が見直され、がんを発症していない家族が新たに算定対象へ加わります。この見直しの背景には、がん発症前のリスク低減手術の有効性を示すエビデンスがあります。この背景を踏まえ、BRCA1/2遺伝子検査では、HBOCと診断された人の父母・子・兄弟姉妹が対象に加わります。同様に、がん患者指導管理料でも、HBOCと診断された人の父母・子・兄弟姉妹が対象に加わります。今回の見直しにより、家族はがんを発症する前でも、検査と指導を保険のもとで受けられるようになります。
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サマリー
令和8年度の診療報酬改定により、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)において、がん未発症の家族もBRCA1/2遺伝子検査とがん患者指導管理料の保険適用対象となりました。これは、がん発症前のリスク低減手術の有効性という強力な医学的根拠に基づき、予防医療へのパラダイムシフトを促すものです。健康な家族が将来のガンリスクを知り、専門家による精神的サポートを受けながら主体的に診療方針を選択できる画期的な制度変更となります。
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