え?どっちもかなりの酸性ですよね。細胞の中でそんなにpHが違うんですか?
そうなんです。アジサイは細胞内の微小な環境を自らコントロールしているんです。有毒なアルミニウムを安全に隔離しつつ、青色への見事な化学反応を引き起こしている。
ただ毒に耐えているだけじゃないんですね。
ええ。それを美しさのために利用するシステムを作り上げているわけです。
毒を飲み込んでアートに変える化学プラント、いやーアジサイかっこよすぎませんか?
本当にたくましい植物ですよ。
じゃあもし白いアジサイ、例えば最近人気のアナベルとかを買ってきて、ものすごく酸性の土地に植えたらめちゃくちゃ鮮やかな青に染まるってことですよね。
それがですね、真っ白のままなんです。
え?酸性のドアマンがアルミニウムをどんどん通しているのにですか?
ドアマンが通してもですね、店内にアントシアニンがいないんですよ。
あーなるほど。
白いアジサイはそもそもベースとなるアントシアニン色素を作る能力を持っていません。
真っ白なキャンバスというより、絵の具のパレット自体が空っぽの状態なんです。
パレットが空っぽ?
はい。だからどれだけアルミニウムっていう筆を入れても色はつかないんです。
なるほど。ベースの色素がないからか。じゃあ、土をいじっても色が変わらないアジサイもあるってことですよね。
ええ。他にも例外はあります。
例えばノリウツギという品種は、土の酸度ではなくて、紫外線とか夜の気温が15度くらいに下がることで、白から赤みがかった色に変化します。
土じゃなくて、温度と光で変わるタイプもあると。
そうです。
じゃあ、お花屋さんで最近よく見る緑とか赤茶色っぽくくすんだアンティークカラーのアジサイはどうですか。
秋色アジサイって呼ばれてるやつですが、あれも何か特殊な土を使ってるんですか?
いえ、あれは土の成分によるものではなくて、単なる老化現象なんですよ。
え、老化ですか?
ええ。フェアリーアイなどの品種を長く咲かせ続けるとですね、花、つまり額の中の色素が少しずつ分解されて抜けていくんです。
色素が抜けていく?
はい。その結果、もともとの葉っぱに近い緑色が現れたりして、あのような退色した美しい色合いになるんです。
老化すらも美しいって、ちょっとアジサイずるいですね。
確かにそうかもしれません。
いや、こういう話を聞いていると、家にあるアジサイの色を自分でコントロールしてみたくなりますね。
ええ、ご家庭でもできますよ。
もし、去年の母の日にもらったピンクのアジサイを今年は真っ青にしてみたいと思ったら、どうすればいいんでしょうか。
まず前提として、水切れは厳禁です。
水切れ厳禁。
はい。アルミニウムは水に溶けて根から運ばれるので、土が乾燥すると花まで届かず綺麗な青色が出ません。
置き場所もですね、夏の直射日光を避けた風通しの良い半日がけがベストです。
鉢植えを長く楽しむためには、まず水と一緒にアルミニウムをしっかり吸い上げさせるわけですね。
その上で、青くしたいなら土を酸性にする必要があります。
未調整のピートモスを使ったり、あと漬物の色止めなんかに使うミョウバンを水に溶かして与えるのが効果的ですね。
ミョウバンですか?
はい。ミョウバンは硫酸アルミニウムなのでダイレクトに効くんですよ。ただ、肥料には気をつけてください。
え、肥料にも相性があるんですか?
肥料に含まれるリン酸が多いとですね、土の中でリン酸とアルミニウムがくっついてしまって根が吸収できなくなるんです。
ああ、邪魔されちゃうんだ。
そうなんです。だから、青くしたいならリン酸が少ない肥料を選ぶのが鉄則ですね。
なるほど。ただ酸性にすればいいわけじゃなくて、土の中の邪魔者を排除しないといけないと。
じゃあ逆に日本の酸性土壌に逆らって、どうしても赤にしたい場合はどうします?
そのままポンとしてても効果は薄いんですよ。
そのままじゃダメなんですね。
はい。よく洗って、内側の薄皮をきれいに取り除いて、完全に乾燥させてからすりこぎ等で徹底的にパウダー状になるまで砕いて土に混ぜます。
結構手間がかかるんですね。
ええ。薄皮を残すと腐って虫が湧くので注意してください。
あと、赤にする場合は仮分の多い肥料を避けるのもポイントですね。
薄皮を取って粉砕する。なんか理科の実験みたいで楽しそうですね。
週末に早速うちのアジサイに卵の殻を撒いてみます。
ああ、残念ながら今週末に撒いても今の花の色は変わりませんよ。
えーっと、間に合わないんですか?
花の色が決まるのはですね、顎の細胞が形成される数週間前、おおよそ3月中旬から4月中旬頃なんです。
そんなに前なんですか?
はい。園芸農家さんはその時期に土と肥料の仕込みを終えています。
花が咲いてから慌てて土をいじっても手遅れなんですよ。
梅雨の時期のアートは春先の仕込みで決まっていたのか。いやー、それは知らなかったです。
そうなんですよ。
でも、今すぐ目の前で化学反応を見たいという好奇心を抑えきれない人のために、資料に面白い仮定でできる実験が載っていましたよね。
ええ、ありましたね。赤いアジサイの花、正確には顎ですけど、それを少しちぎってすりつぶして、そこに先ほどの明晩の水溶液をかけてみてください。
おお、するとどうなるんですか?
さっき説明した作体形成がその場で起きて、一瞬で青色に変わります。
それはテンション上がりますね。子供と一緒にやっても楽しそうです。
ええ。で、この実験の面白いところは対照実験ができる点なんですよ。
対照実験ですか?
はい。その辺に生えている赤いカタバミの花を同じようにすりつぶして明晩をかけても、色は青くなりません。
えっと、同じ赤い花なのに?
カタバミも赤いアントシアニンを持っているんですけど、アジサイ特有の多子色素、コピモエントっていうんですけど、それを持っていないため、アルミニウムとうまく結合できないんです。
なるほど。同じアントシアニンでも、アジサイの持っているサポート薬がいないと、あの青は作れないんだ。アジサイがいかに特殊な植物か、自分の手で証明できるわけですね。
そういうことです。ここまで科学的なメカニズムを見てきましたけど、これからの梅雨の季節、家の中で楽しむのもいいですよね?