長さと反対語の基本
おはようございます。英語の歴史を研究しています、堀田隆一です。 このチャンネル、英語の語源が身につくラジオheldioでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
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ぜひフォローしていただければと思います。またコメントやシェアの方もよろしくお願いいたします。 今回取り上げる話題は、long と short は対等な反韻語ではない
という話題です。 昨日の放送で、反対語って色々あって面白いという話題で、様々な反対語っていうのを紹介したんですね。種類があるっていうことです。
その中でも最も典型的な反対語というのが、昨日の放送ではグレイダブルアントニムといったもので、グレイダブルっていうのは程度があるっていうことですね。
典型的には形容詞を考えるといいと思うんですけれども、例えば long and short っていうこの反対語なんかは本当に典型で、まずこれ程度がありますよね。
同じ長い短いと言っても、その中で程度があるからこそ、例えば very で修飾できたり、 slightly で修飾できたりっていうことですね。程度がある。その両極ですね、長さという基準の中で両極、両端があって一つの端点が long であり、その逆側の端点が short ということで、この2つの両極の間に
いろんな箇所に点を打てる。無限に中間点があるっていうことで、これを程度化して表したりするのが、例えば very long であるとか、 very short のような形で表現できるっていうことで、グレイダブル。程度の差があるということなんですね。
これは典型的な反対語で long and short ということ。今日はこの1つの反対語ですね。 long and short というのを主に取り上げながらですね、実はこの分かりやすい反対語が意味論的にはなかなか深みがある。必ずしも分かりやすくないというような驚きの事実を紹介したいと思います。
まず単純に考えて長いと短いですから、これは本当に直感的にすぐ反対語だとわかるわけですね。実際表現も対応するものをいくつも挙げられますね。英語で言うと long hair に対して short hair ということになりますし、long distance short distance というふうに長さを表す。これ普通の表現ですよね。
それから長さといっても物理的な空間上の長さだけではなく、時間的な長さというのも表すことができますよね。例えば a long time ago と言ったかと思えば a short while ago のようにも言えるので、大体お互いに対応する表現というのがあることが多いですよね。ここまでは全く問題を感じない long と short は普通の反対語のように見えます。
言い換えれば、対等な関係で向きだけが逆向きを向いているという、そういう関係の反対語のように見えるわけですね。バランス的にはどっちの両端ともに同じ重さと言いますか、天秤としては釣り合っているような関係の真っ当な反対語のように見える。
前提とニュートラルな表現
ところがです。長さを聞きたいときに、普通 how long と言いますよね。例えば how long is the rope の長さを聞くときには、普通 how long と聞くのであって、how short is the rope という聞き方はしないと思うんですね。時間の長さに関しても同じです。例えば how long is the course 講座はどれくらい長くかかりますか、時間の話ですね。
決して how short is the course 尋ねないと思うんですね。つまりこの場合、ロングかショート、わからない状態でどのくらい長さなのかということを純粋に尋ねてるんですよね、聞きたい。つまり前もって長いか短いかも分かっていないときに、疑問文で使うものは long っていう長い方を使うんですよ。
短い方ではなくて、これは日本語でも一緒ですね。そして英語でも一緒で、how long is the course とか、how long is the rope という言い方をするのであって、逆ではない。つまりこの場合の long はショートに対する long という意味ではなくて、
ショートかロングかわからないので、とりあえず中立的に長さというものを表現したいという場合に使う、つまりかなりニュートラルな long の使い方ということになります。ショートというネガティブなものに対して、ロングというポジティブな意味合いで使うというそういう long と、あくまでニュートラルに使う long があるということです。
ロングには2つの意味があって、ポジティブの意味とニュートラルの意味。ところが、ショートの場合は1つしか意味がなくて、つまりネガティブな意味という意味では、先ほどの天秤の比喩で言いますと、ロングの方が意味が多いと言いますかね、ポジティブのほか、ニュートラルな中立的な意味をも持っているという意味で、
ロングの方が一般性が高いという言い方ですかね、あるいはデフォルトに使えるという言い方してもいいですかね。言語学ではこういったものを無表って言います。標識がないということで、unmarked と言いますね。つまりデフォルトのジェネラルな一般的な意味で使える方を無表と言って、そうじゃないもの、この場合ショートですね。
こちらの方を有表、フラグが立っている感じです。標識が立っている感じで、こちらは一般的には使えないということなんですね。つまり今まではバランスの取れた両端を構成する釣り合った天秤のような形で、ロングとショートを見ていたかもしれませんが、実際には釣り合っていなくてですね。
ロングの方が無表と言いますかね、ジェネラルな意味も合わせ持っているというところがポイントです。そしてショートは少し特殊な使い方をすると、短いという意味なんですが、ニュートラルな意味は持っていないという意味で、短いに特化したと言いますかね、特殊化した役割を担っているということになります。こちらは有表という言い方をします。
ですので、長さがそもそも分からない、つまり長いのか短いのかも分からないという前提で、純粋に尋ねたい場合の疑問文は、ロングの方を使うということになるわけですね。How long is the rope?
How short is the rope? が絶対ダメというわけではないんですが、この場合意味が変わっちゃう、前提が変わるんですね。これは先にそのロープがそこそこ短いということを知っていて、じゃあ短いというのは知っているんだけど、どのぐらいの短さなのというときに、How short is the rope? ということは可能です。つまり前提からしてロープが短いということがあれば使えるんですね。
ところが、前提がない、本当に聞いているんだ、純粋に尋ねているんだという場合には使えないというわけです。この場合には無表の方ですね、ロングを使うということになっています。How long is the rope? ここは前提がないということですね。本当に分からないという場合に聞くということです。
他にはですね、類例はいくらでも挙げられますが、How old are you? これは年齢を尋ねるときのデフォルトの言い方で、oldと言ってもですね、いわゆるおじいちゃんおばあちゃんということを含意しているのではなくて、単に純粋に年齢を聞いている。ですから、How old is the baby? という言い方だってもちろんできるわけですよね。3months oldとか、明らかに若いわけですがoldって使える。
反対語の複雑さ
そうではなく、How young is he? みたいに聞いた場合は、前提があるわけです。I know he is young, but how young is he? というような使い方です。若いのは知っているけれども、どのくらいの若さということなの? という場合にはもちろん使えます。
この前提という問題が関わってくるので、実は反対語というのは厄介なんですね。簡単ではない。釣り合った反対動詞の関係ということではなくて、少し重みが違うという感じなんですね。デフォルトの方、無表の方はだいたいlongであるとかoldとか、数値化すると大きく出る方ですね。これが無表として選ばれやすいという傾向はあります。
実際に名詞化したときに英語longから発生したlength、これが長さ。日本語もそうですね。長いの方の長さということで中立的な空間上の距離ですか、を表すんであって、短さとかshortnessという言い方はあまりしないと思うんですね。
単純に見える反対語の関係も意外と複雑だということがわかったかと思います。ではまた。