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2023-10-16 13:26

#5. 古英語の「王」は「金を与えし者」

hellog 「#2677. Beowulf にみられる「王」を表わす数々の類義語」を参照.http://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2016-08-25-1.html
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英語史つぶやきチャンネルということで、英語史研究者の堀田隆一です。
第5回となります。不定期にですね、思いつきで発信しておりますけれども、今日の話題はですね、
古英語で、王、王様ですね、キングを意味する語、これがどのように表現されたか、ということでですね、
古英語の王は、金を与えし者。 こんな表現もあったんですね。金を
家臣に与える、武功を立てた家臣に与えるものという、こんな言い方で王のことを指す。
そんな表現があったんですね。 古英語ではですね、特に古英語の詩なんですけれども、
非常にですね、詩的な、ポエティックな表現というのが発達しておりまして、
ケニングというふうに言っているんですね。 これはですね、まあ訳すのは難しいんですが、説明的に
隠遊的複合語のように解説されることがあるんですね。 隠遊的複合語です。複合語というのは、本来独り立ちできる
単語が2つ、時に3つ以上のこともあると思うんですが、典型的には2つです。 2つ組み合わさって、全体として一語になるもの、これを
複合語と言いますね。 まあ2つの単語を組み合わせるという意味では、フレーズにも近いんですけれども、
それがこう、緊密に合体してですね、事実上一語になっているっていうもの、これを複合語と言います。
そして隠遊的という、隠遊というのはメタファーですよね。 〇〇のようにというと、これは直言というふうに言いますね。
彼女は花のようだ、というね。 一方隠遊っていうのは、彼女は花だ、彼女はバラだというふうに言い切ってしまう
ということです。 つまり、〇〇のようだという表現がないので、一見すると、
隠遊のように見えないんですが、よく考えると、彼女は花そのもののわけはないので、
これは、彼女は花のようにきれいだということがわかるという、このように〇〇のようだという表現を使わずに、
ずばっと、彼女は花だというふうに言う、これが隠遊、メタファーということなんですね。
そこで隠遊的複合語、ケニングと呼ばれる詩的技法が、小英語では発達しておりまして、
これによってですね、王様を指す単語、複合語がですね、たくさん
存在したっていうことなんですね。 特に詩ですから、今回注目するのはですね、ベオウルフという小英語で最も有名な詩ですね。
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英雄詩、小英語の序詞詩なんですけれども、これベオウルフその人がですね、王なんですね。
王になるんですね、途中から。 ですし、いろいろな王様が出てくるので、キングっていう表現ですね。
小英語ではキュニングという単語だったんですけれども、これが包まって今のキングになります。
王様を意味する一語、ズバッとした一語はこのキュニングっていうことで存在するんですが、 詩の中ではキーワードです。キーワードというよりも本当に頻度の高い単語で、
ひたすらキングを使っていると情緒であるということで、違う表現で事実上キング、王様のことを指すんだという、こんな表現がたくさん欲しいんですね。
そこで詩人がですね、その詩才を生かして、豊かな表現をたくさん作りました。 その時に、もちろんですね、聞き手、詩を聞いている、あるいは読んでいる人にですね、それと分からなければいけないので、
あんまり離れすぎることはできませんね。 かといってあんまり近すぎもせずという、この微妙な距離感で隠雄を作るわけです。
典型的には2つの語を合わせて隠雄を作り、複合語とする。 例えば、表題に挙げました、金を与えし者。
ゴールドイエワー という風に小英語で言ったんですが、これゴールドギバーです。金を与える者。金を与える者。
武勲を立てた家臣に金を与えるのが王の役割だということから、ゴールドギバーのような 言い方ですね。小英語ではゴールドイエワー と言ったんですが、これで事実上、文脈上、王様を指したわけですよ。
つまり、キュニングという、ありきたりの当たり前の単語を使う代わりに、ゴールドイエワー と言ったわけですよね。
そして、このような王を指すケニング、隠雄的複合語が、とにかくたくさん作られたんですね。
ここで、いろいろと挙げてみたいと思うんですね。 実際にこれは、ベオウルフという作品に現れた王を表すケニングなんですけれども、本当にたくさんあります。
この中から、いくつかを、今日ピックアップしてみたいと思うんですね。 まず、ゴールドギエワー、出ましたけれども、これとですね、とっても近いのが、ベーアグギバーです。
ベーアグギバー。 後半のギバーというのは、先ほどと同じギバーに相当し、与えるものということですね。
この複合語の前半部分は、ベーアグという単語なんですが、これ残念ながら、現代には残っていない英単語で、小英語特有の単語、リング、指輪を意味します。
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つまり、これもゴールドと一緒ですよね。金目のものということです。これを与えるものというのが、王様の役割だった。
ある種、重なっていますよね。ゴールドギエワーと、ベーアグギバーというのは、発想は似ているので、小英語の時代には、王というのは、こういう役割だったんだなと、典型的な王の役割というのが、ここから分かるわけです。
ベーアグギバー。こんな表現がありますね。
他にはですね、第一要素として、フォルク。これを含む単語があります。
フォルクっていうのは、FOLCというふうに当時は書いたんですが、現代でいうと、FOLKという発音になりますが、これ人々ですよね。
民、国民ってことです。つまり、国民を率いるもの、国民をすべるものということで、王様になるので、国民、フォルクっていう単語ですね。人々という単語をよく使うんですね。
例えばですね、一番単純なのは、フォルクキュニング。これ分かりますね。キュニングは、ズバリの王ということなので、もちろん、ただキュニングと言っても、キングの意味なんですが、ここにフォルクを加えることによって、人々の王という意味になるわけですね。
これも、王を表す言い方の、バリエーションを増やすのに役立っています。
この場面は、隠喩的という感じではありませんね。割とストレートだと思いますが、フォルクキュニングというのがあります。
他にはですね、フォルクトガというのがあります。フォルクトガ。このトガというのは、これも現在は失われてしまった単語で、死語になってしまっていますが、当時はですね、リーダーの意味です。
引き入る者、統率者、リーダーということですね。ですので、フォルクトガ。言ってみれば、people leaderと言っているようなもので、これもですね、比較的分かりやすい表現ですね。
ケニングというよりは、これは隠喩的というほどのことではないですけれどもね。
他はですね、フォルクアーゲンド。フォルクアーゲンド。
後半のアーゲンドというのは、ownという単語です。今の所有する。これの現在分詞なんですね。つまり、owning。
持っている人とか、持っている。ほにゃららという意味ですね。なので、
これは人々を所有している人、つまり王というような言い方になりますね。こんな言い方がよくありました。
他にはですね、いくつかあげますと、こんなのいいですね。ヘレウィーザー。ヘレウィーザー。
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これは何かと言いますと、ヘレというのは、軍隊の意味なんですね。アーミーのことです。そしてウィーザーというのは、文字通りはこれwiseっていうことなんですね。
賢いのあのwiseです。ここからwise man、つまり賢い人、賢者って意味になります。
賢者っていうことは、人を率いる資格がありますので、やっぱりリーダーぐらいの意味になっていくんですね。
それでヘレウィーザーと言いますと、軍を統率する者ということで、やはり王になります。
ヘレウィーザー。次にですね、ヒールドフルマ。これ好きですね。
ヒールドフルマ。 最初の要素のヒールドというのは、これは戦い、
戦闘のことですね。 人の名前でヒルダとかヒルデブランドなんていう名前がありますが、これ戦いという
後英語の単語ヒルドに由来します。現代では直接はない感じですね。こういう名詞、人の名前にちらっと残っているぐらいなんですが、
まあバトルぐらいの意味ですね。ヒールド。 そしてフルマ。これが最初、ファーストって意味なんですよ。
ファーストマンですね。つまり第一人者。 一番最初に駆けつける人。
戦闘に立っている人ということでフルマという単語がありました。 このフルという部分は実はですね、
現代語のファーストのファーの部分と語源的には同じです。 そこから最初のって意味があることがわかるかと思います。
そこでヒールドフルマと2語を合わせると当然バトルファーストっていう意味なんですね。
戦いにおいて第一人者。 一番最初に出てくる人っていうことでこれが王になるわけですよ。なかなかかっこいいですよね。
同じフルマを使ったケニングとしてはレオドフルマ。 レオドフルマ。これがあります。
レオドっていうのはこれは今はなき単語ですが小英語でやはり人々とか 民族っていう意味ですね。
そのフルマ。最初に立つ人っていうことでレオドフルマ。 こんな言い方があります。
とうとうですね本当にたくさんあるんですね。 もう一つウィネを使った表現ですね。これを紹介したいんですがウィネっていうのは小英語で
友達味方つまりフレンドの意味があったんですね。 ですので単にウィネと言っただけで文脈が整っていればこれで王のことだとわかる。
つまり人々の 最高の友というような言い方ですね。
複合にしてウィネドリヒテン。ウィネドリヒテンと言うとウィネはフレンドの意味ですね。
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そしてドリヒテンっていうのが主人ということなんで友でもありそして主人でもあるもの。
これはもう王様しか言いませんよね。 こんな言い方があったっていうことです。
それからゴールドウィネ。これは複合語の第二要素にウィネが入っていますが第一要素はわかりますねゴールドです。
金の友金を与えてくれる友ということでゴールドウィネこれもまた 王様を意味するということで
今挙げたのもですね本当に一部です。他にも様々な王の表し方があって
いろいろな表現そして詩才豊かに2つの語を組み合わせて隠遊的複合語を作る。
これが古英語の詩の伝統だったわけですよね。残念ながらこの伝統は現代英語に受け継がれていません。
古英語の方がずっとポエティックで非常に詩上豊かな 語形製法を持っていたっていうことがわかるかと思います。
今日は古英語に独特なケニング隠遊的複合語を紹介しました。
ではまた。
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