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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶應義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった 英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。 今回取り上げる話題は、3単現のゼロを示すイングランド東中部方言、
という話題です。 3単現といえば、現代の標準英語ではSを付けるということが基本になっています。
My brother watches TV みたいな言い方ですよね。 典型的な3単現のSの用例なわけですが、集合がいわゆるhe、she、itで受けられるような
3単現、3人称単数の場合で、かつ時制が現在の場合で。 もう一つ細かく言うと、直接法であると。
仮定法ではなく直接法であるという条件も実はあったりするんですけれども、 この条件を満たすと、
動詞はSを付けなきゃいけない、という変なルールが英語にはあるわけですよね。 われわれ英語学習者は非常に戸惑うと言いますかね。
大変迷惑なルールといえばルールなんですけれども、 つまりそれ以外のところでは単に、現在形であれば語尾を何も付けなくていい、語尾がゼロでいい
というところが、3人称単数の場合のみですね、Sを付けてくださいというので、 この分非常に面倒なルールになっているというのは確かですね。
ただこれが現代英語のルールということになっています。 ところがこれはあくまで現代の標準英語のルールであって、他の方言なんかを見渡すとですね、
必ずしもこれがルールではないという、そういう方言がいくらでもあるんですね。 例えば、複数の時に逆にSを付けなさい、
であるとかですね、いろんな実はバージョンがあって、 その中でいろいろパターンがある中でですね、一番
楽なと言いますか、我々にとって夢のような英文法を持つ方言がありまして、 それがイングランドのイーストミッドランド方言なんですね。
東中部です。ロンドンから決して遠くありません。 北東に向けて、電車を走らせればですね、1時間ぐらいで着いてしまうようなエリアです。
主要な都市としては、サフォックとかノーフォックというような都市がありますけれども、 このエリアですね。
東中部の中でも東の果ての部分で、イーストアングリアと言っている地域なんですが、 ここではですね、実は三単元にSが現れない。
他のところでもSは現れないので、要するに現在形であれば全てゼロ語尾ですね。 つまり、原形の形そのまま使えば良いっていうことなんで、全く面倒がないという、
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そういう意味で、夢のような文法を持ったエリアなわけなんですけれども、 これがあるんですね。三単元のゼロを示すイングランドの東中部方言というのが存在するわけです。
これが標準英語になっていれば、どれだけ楽だったろう。 世界中がですね、世界中の英語を話す人がというふうに思うわけですが、残念ながらですね、
三単元のSというのが、これが標準になっているわけです。
このエリアで、三単元のゼロというのが用いられている。 もっと言えば、現在形の場合、とにかくどんな主語でもですね、動詞に主語がつかないという。
これが一躍有名になったのは、この地方のノーフォック出身の社会言語学者であるトラッドギルという人がですね、 これを大々的に宣伝したと言いますか、知らしめたからなんですね。
こういう方言もあったのか。 ただですね、他にこのエリア以外にも、世界で英語を話されていますけれども、
三単元のSなんていうのが出ない、あるいは絶対ではないというような英語の使い方というのはいくらでもあってですね。
例えば、アメリカの黒人英語なんていうのも、三単元の場合ですね。 Sが出ることもあったりするんだけれども、出ないことだってあるというような。
つまり、任意であるというようなね。 そういう世界の中の英語方言っていうのは、実はいろいろあるんですね。
歴史的に見るとですね、この三単元のゼロっていうのは、どんな感じでこう現れてきていたかというとですね、
このイーストアングリアに注目しますと、どうもですね、その期限は15世紀ぐらいまで遡れるっていうことなんですね。
伝統的な解釈によると、他の認証では、合詞語のときにはSとかつかなかったりするわけなんで、それがいわゆる三単元。
本来であればSとか、古くはTHがついたんですが、このスロットにですね、ゼロ語尾も侵入してきて、
最終的にSとかTHみたいな何か語尾がつくっていう形態がですね、廃止されたというような証拠がですね、15世紀ぐらいから出てくると。
16世紀後半ぐらいまでにはですね、ノーフォックの調査なんですが、ここでゼロ語尾を用いるっていうのが41%から77%。
ざっくり言えば半分ぐらいSとかTHみたいなのがつかずにゼロだったということなんですね。
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この辺りがどうも歴史を探ると、ノーフォックとかイーストアングリアにおけるこのゼロ語尾の起源のようですね。
その後、どんどんこのゼロ語尾というのがむしろ多数派になってきてですね、現代では一般的にはこの方言仕様、この当地の方言仕様では使われなくなったというような形らしいんですね。
ただ、このエリアに限らずともイングランドの中だけで見てもですね、19世紀あたりですと、いろんな地方でゼロ語尾っていうのがちょこちょこと現れる。
決して多数派ではなくて、むしろ少数派ではあるんですが、ゼロ語尾というのもちょこちょこ現れている。
これはですね、標準英語の3単元のSという規則がありながら、それを守っていないとか、それを誤ってゼロにしてしまっているということよりもですね、
そうではなく、少数派ではあるけれども、ゼロ語尾というのを一つのルールとしてですね、少なくともオプショナルなルールとして持っているということを示すのではないかということになります。
つまり標準英語を間違えて使って、ちょうど我々が3単元のSをつけ忘れてしまうようにエラーということではなくてですね、
3単元のゼロという一種のオプショナルのルールがあったということを含意するということです。
ただあくまでマイノリティですので、それがマジョリティのルールになったというのが、たまたまイーストアングリアであったということのようなんですね。
ではですね、本当にイーストアングリアで3単元のゼロというのが、今一般的になっているんですが、それを他の地域と違って、やっぱりたまたまこの地域だけが3単元のゼロになったんだろうか、本当にたまたま偶然という話なんだろうかということなんですね。
偶然ということはあり得るとは思うんですけれども、先に触れたトラッドギルは、いやこれは偶然ではないという説を紹介しています。
どういうことかというと、トラッドギルによればこの地域、イーストアングリアであるとか東中部全体なんですが、この地域は中西以来、ヨーロッパ大陸の低地地域、低い地域ですね。
低いというのは海抜が低いということで、具体的に言えば今のオランダとかベルギーというエリアですね。これをローカントリーズというふうに英語でも言ってますが、低地地域です。
いわゆるダムなんかがよく作られるほどですね、海抜が低いという、あのエリアなんですが、あの地域、オランダ語を母語とする、あるいはオランダ語の低地方言と言われるですね。
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方言を母語とする人との接触が伝統的に、このイーストミッドランドというのは非常に強い接触があったということなんですね。
実際この2つのエリアというのは向かい合っていまして、北海を挟んですぐのエリアです。交流も非常に激しかったということで、このイーストアングリアには低地地方からの移住者が多かったと。
そうするとですね、異なる言語、関連する同じゲルマン系の言語といえど、やはり異なる言語です。このように言語接触が激しくなると複雑化してしまうということなんですね。
その反動としてお互いに理解し合える、簡略化した言語を作ろうという流れになることが多いです。その結果、3単元もゼロになったのではないかということです。