不規則な複数形の紹介
おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶應義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる話題は、雄牛 ox の複数形は oxen という話題です。
名詞の不規則な複数形については、これまでの放送でもいくつか取り上げてきました。
例えば、最も多い名のは children ですね。child に対して children という風に ren が付くというものですね。
それから man に対して men とか foot に対して feet であるとか、母音が変わるというものもあります。
それから無変化単服同型と呼ばれる sheep sheep deer deer のようなものもありますね。
それ以外の大多数は、いわゆる規則形ということで s が付く。あるいは、つづり字で言うと es が付いたりするんですけれども、基本的にはこれがほとんどなわけですね。
中には同じ s が付くでもですね、語尾、本体部分の語尾が濁るという、例えば wolf に対して wolves とか leaves なんていうのもあったりしますが、
この不規則な複数形、あるいは規則の中でもちょっとした不規則というのを合わせるとですね、何種類かあるということがわかると思うんですね。
その中でも、これは珍しいというのがですね、この今回の en を付けるタイプ ox に対して oxen っていうことですね。
小英語の歴史的背景
お牛、ox に対して oxes ではなく oxen というふうに en を付けるというタイプです。
最も近いのは最初に言った child、children なんですが、children の場合は r も込みで en っていうことですね。
広い意味では仲間という言い方、 oxen と children 仲間という言い方ができなくもないわけなんですが、
単に en を付けるというものでは、現代の標準英語で見渡してみるとですね、この oxen しかないんではないかと思うんですね。
もう一つマイナーな例は実はありまして、これは brother に対して brethren というものです。
これはですね、通常 brother、兄弟という場合には複数形、普通に brothers とやるわけなんですが、
特別なキリスト教の同胞同士、宗教上の兄弟ということですね。
こういう場合には複数形として brethren という形で使われます。
この場合、純粋に en を語尾に付けるというよりは brother のこの最初の母音が brethren っていうふうに、
おがえに変わっている、つまり母音変化のタイプでもあるので、純粋に en だけを付けて複数形を作るというものではないということですね。
もちろん oxen、 brethren、やはり仲間といえばヒーロー意味では仲間なんですが、純粋に en だけ付ける。
これはやはり oxen にしか見られないんではないかということですね。
さあここまで、現代の英語の状況を整理したところで、
じゃあこの歴史的背景はどうなのかということですね。
小英語には様々な複数形の作り方がありました。
現代ほどですね、もう s でほとんど全ての名詞を複数形にできるという状態ではなくて、あくまで s はですね、
名詞全体で言うと3分の1ぐらいですかね。3分の1ぐらいは確かに s を付ければ複数形になるということだったんですが、
残りの3分の2ほどはですね、現代も残っているこの en であるとか、
無変化であるとか、あるいは母音を変化するとか、他のまあいろんなタイプがあったわけですよ。
そのいろいろとあった中で、この ok-sen の元になるものですね、en 語尾の元になるものは当時は an でした。
この an の a の音が少し弱まって、en と綴られて n という発音になっただけで、
元としてはですね、小英語の an という語尾にさかのぼります。
そして当時からですね、このお牛の意味は ok-sa これがまあ多数形だったんですね。これに ok-san というふうに、
a で終わっているので an をつけるというよりは単に n をつけるだけになったんですが、
oxan というふうに移って ok-san これが後に語尾の母音が少し弱まった形で ok-sen と今の形になっているということなんですね。
この an をつけるというタイプは、そこそこ小英語時代にはですね、あったんです、多く。
比較的多くの名詞についてですね、複数形を作るという、この an はそこそこ有力な、 s ほどではないんですけども、
そこそこ有力な複数形語尾として存在していたんですね。
oxenの現在と未来
他に例えば name に相当する単語、これ nama というふうに当時発音したんですが、名前と意味ですね。
nama だったんですが、これ複数形は naman ということになります。
ドイツ語を勉強している人はですね、名前のことを name と言います。
そして複数形は namen というふうに n をつけるので、小英語の状況と一緒ですね。
同じゲルマン語の兄弟言語と言っていいので、振る舞い方がだいたい一緒です。
小英語では nama が naman になりましたし、 okusa が okusan になりました。
ちなみにドイツ語で今のですよ、今のドイツ語で、お牛、牛はですね、 okuse と言いますね。
そして複数形はもちろん okusen というふうに、ドイツ語と一致していますね。
小英語の話に戻りますが、他には例えばですね、 steola なんていう単語がありまして、これ star です。
星ですね。この複数形は steolan というふうに n をつける。
から tima っていう名詞がありました。これは time のことです。
これ複数形するには timan というふうに、このように n をつけるタイプですね。
an になるというタイプは非常に広く存在したんですね。
その中のあくまで一つとして okusa、 okusan というのがあったわけです。
さあ、中英語以降の歴史で、この比較的多くあった an をつけて複数形を作るっていう名詞が、
こぞってですね、 s をつけて複数形を作るっていう、あの有力なタイプにどんどんですね、乗り換えていったんですね。
つまり n 複数だったものが s 複数にどんどんくらがえしていったっていうことです。
そしてどんどんですね n 複数、本来の n 複数が少なくなって、
結果的に残ったのが、現在まで残ったのが okusan ということなんです。
ほかはすべて、ほぼすべて s 複数に乗り換えてしまったっていうことです。
先ほど挙げた、例えば names になってますね。から stars ですし times っていうことです。
ほとんどが乗り換えた時に、どういうわけか ox に関しては okusan に由来する、
en のツール4になりましたが okusan というふうに、古い複数形語尾をですね、
今の今まで保ち続けているっていうことが起こっているんです。
なぜここまで保ち続けたのかと、なぜ okusan だったのか、それが。
っていうのはなかなか難しい問題なんですけれども、
身近な単語であればあるほどですね、このように古いものが残されて、保持されてですね、
新しい s になびいていくっていう動きに対して、抵抗するっていう傾向があります。
ただ ox がどれだけじゃあ日常的で頻度が高いかというと、
現代の都会人にとってはですね、 ox って日常ではないかもしれませんが、
いわゆる農業社会ですね、牧畜の社会、公英語、中英語、そして近代も含めてですけれども、
地方ではかなり身近な動物であったっていうことは間違いありませんね。
で一方これ名詞は cow ですよね。で現代では cows というふうに言っていますが、
近代までは kine と続きますが、
kine という形ですね、これも母音も変わっていますが、これ一種の n 複数形です。
これが通用していたんですね。現代でもイングランドの北部方言やスコットランドでは言役で使われている方言形という形ですけれどもね、
kine というのがあるんですね。そうすると、お牛も目牛もですね、ある意味で n 複数をそういった方言では保っているということになります。
現代は別として、歴史的には非常に身近な動物、家畜であったことは間違いありません。
公英語から続く n 複数の唯一の、ほぼ唯一の生き残りが oxen なんですが、これ将来にわたっても生き残るかどうかはわかりません。
実際アメリカ英語では非常に少ない例ですが ox is と s に乗り換えたバージョンも確認されるんですね。
ではまた。