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こんばんは、ゆうこです。このチャンネルでは、私の読書録や日々の学びを音声配信しています。
今日は、朝吹真理子さんの『TIMELESS』という小説について話してみようと思います。
海は人を好きになれない。 網は好きな人と子供を作るのが怖い。
お互い恋愛感情を持たず、後輩の約束だけして結婚した。
やがて、海が妊娠すると網は去り、父親不在のまま息子の青は17歳になった。
高校の教室、修学旅行の広島、ゴーヒメを弔う六本木、イワシウリの声が響く銀座カルティエ。
人々が結びつき織りなした時間の地層が、根性を生きる心の良姿となる、圧巻の長編。
ということで、いやー、圧巻でしたね。
朝吹真理子さんという方はですね、キコトアで芥川賞を受賞された女性作家になりますね。
1984年生まれ。
たくさん本を書かれているというよりかは、すごく印象的な小説を数少なく出されているという。
その中でも渾身というか、圧巻の長編がこのタイムレッスンですね。
あの私はあんまり自分が女性に生まれて良かったなって思うことは、今までの人生の中でそんなにないなと思うんですね。
男性に生まれて良かったなって思うことの方が多いんですけれども、
女性に生まれて、女性ならではの感覚を私は知っていること、知っているとか、
そういう独特の感覚を得ることができるみたいなことは、すごく女性に生まれて良かったなぁと、
そんな風に思うことがここ数年で少しずつ増えてきたのかなと。
実感することがなんかできる、できてきたなと思うんですね。
えくにかおりさんの小説を読んでいる時はまさにそうで、えくにさんの独特の感覚とか感性が、
私が女性だから理解できるのかもしれないって思った時に、女に生まれて良かったなって思ったりしました。
あさぶきまりこさんの小説を読んでいても、同じ感覚を得たというか、
女同士だからわかる、こういう快楽だとか残酷さ、
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虚しい気持ち、そういうことが共感というのかな、
わかるなぁと思った時に、こういう素晴らしい小説を理解できて、
女性に生まれて良かったなというふうに思いました。
この小説はですね、タイトルがタイムレス、時間を感じさせないという意味なんですけれども、
それとは逆説的に、偽物語から江戸時代、原爆というふうに、
いろんな時代をまるでタイムスリップするかのように、
主人公の青が思い出していくという不思議な小説になります。
平安時代から今に至るまで、まるでレイヤーが重ねられていくように、
時間という記憶が雨のように降り注いで、
その土地や人の体、そして細胞に染み込んでいって、記憶を蓄積していく。
それがやがて川となって、流れて海になり、
主人公の青を通じて、青の記憶や、青の記憶ではないんですけれども、
まるで青の記憶家のように思い出させたり、言葉として紡いだされるという、
すごく不思議な小説になります。
今語られている、この言葉や文章というのは、
一体いつの誰の記憶なんだろうというのが、途中ですごく曖昧になっていくんですね。
でも読んでいて、曖昧でもいいやと思いながら、
この朝吹さんの素晴らしく美しい文章に、どんどん浸っていきたくなる、
そんな不思議な小説でした。
海の記憶なのか、誰の記憶なのか、
青の記憶なのか、そういうところが曖昧になっていって、
海が経験したことが、子供の青の記憶になっていって、
土地が経験した記憶が、海の脳内に浮かび上がってくる。
そんな、多分聞いてて意味わかんないと思うんですけど、
これは読んでみた人にしかわからない不思議な経験なのかなと思います。
青はですね、快楽や感濃を感じることができないんですね。
なので恋愛をすることがないんです。
ただ、子供を持つために、その後輩をするために、高校の同級生の青と結婚するんですね。
で、その青と青の後輩のシーンっていうのは、
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快楽や感濃を感じられない青なんだけども、
どこまで行っても感濃的というか、そういう文章で進められていきます。
朝吹さんの言葉っていうのは、本当に美しい言葉で、
文章が美しいだけではなく、日本の美しい言葉の羅列が、
本当にいろんなところに散りばめられていて、それは四季を表す言葉だったり、
ただの現象なのに朝吹さんが言葉にすると美しく感じたり、
本当に感濃的で、なんかクラクラするという、読んでいてそんな感覚を覚えました。
一方で美しく感じることと、残酷に思えること、
その残酷な描写もあるんですけれども、それも読んでいるうちに、
美しいと感じることと残酷だと感じること、
何が違うんだろうというのがわからなくなっていく。
いろんなことがどんどん曖昧になって、どんどんわからなくなって、
その溶け出していく中にいるのが本当に気持ちいい小説でしたね。
言葉についてもそうで、主人公の青が女子高生の時の記憶も語られたりするんですけれども、
女子高生が語る言葉、ギャルが語る言葉、女子高生の感覚、拙い性への認識みたいなものと、
平安貴族が語る和歌の言葉、同じ日本語なのにこうも違うのかと。
そして現代の女子高生も平安貴族も、後輩ということをどちらもやるわけですね。
古来から生の営みっていうのはおそらく、どれだけ月日が経っても基本的には同じなんですけれども、
現代の女子高生が語ると長所の対象にもなるし、一方でその主を保存するための役割、行為とも言えるし、
平安貴族が語れば千年以上語り継がれるような歌にもなる。
同じ行為、一つの行為でも語る言葉や時代が違ったり、視点が違うとこうも変わっていくのかというのを読みながら、
まざまざと認識させられました。
またその死というものの現象をどんどん細胞レベルまで分解して表現していくことで、
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その死ということの持つ意味だったり感じることっていうのがどんどん解き放たれていくという不思議な感覚にもなっていて、
人が死んだら腐敗して朽ちて焼かれて骨になるということを分解して表現するとこういうことになるんだと。
それは一般的に死というものが連想されることとは全く違うような、そんな風にもとれるなぁと。
まるでそういう実験をされているかのような感覚もありましたね。
えっと、なので、
これはどこまで説明しても、なんというか、読んだ人にしかわからないことだと思うし、
説明すればするほど野暮な気がしてきて、ぜひこの私の今感じている不思議な感覚を
ぜひ皆さんにも味わってほしいなぁなんて思います。
前段の方で特に印象的だったのは快楽を感じることのない海、
恋愛をしない海が好きな人と暮らせない、こうなすことができない網と、
子供を作るその行為のところですね。どうして網だとわかるんだろう。
その人だけが持つ香り、そして共有した記憶だけが
その人が網だとわからせてくれるみたいな表現があってですね、
そこは確かにそうだなぁと思いましたね。暗闇の中で一緒にいるこの人が、
なぜ私の知っているこの人だとわかることができるんだろうとかね、
言われてみれば本当にそうだなぁなんて、すごく凡庸な表現なんですけれども、
こうやって読んでいくうちに、今まで自分が当たり前だと思ってきたことが、
問いが立つというか、本当にそれはそうなのかという気分になってしまう。
どうして好きな人とするセックスに意味があると思うんだろうとかね、
なぜその最中に愛をささやくんだろうみたいなことがどんどん不思議になっていて、
それがそうするものだと思ってそうしてるんだけれども、
果たしてそうなのかという問いが立っていく小説でしたね。
最後に印象的な文章をちょっとだけ読んでみようかな。
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網と呼ぶ。網は答える代わりに私の手を掴む。
暖かい体が本当に網の体なのかわからない。
網を網だと思えるほど網のことを知らないと思う。
あの日は網の体からジンの香りがした。
あの香水をつけていたから網だとわかった。
網を網だという気がするのはその香りだけだった。
これは快楽や恋愛を知らない青が網のことを思うシーンなんですよね。
快楽を知らない青が網のことを思う。
その言葉はすごく感動的で、
なんでこんな文章になるのか本当に不思議だなと思って、
そんな感覚を収支味わうような本当に不思議な小説でした。
タイムレス。
朝吹真里子さんを今まで読んでなかったということに
本当にもったいないなと思って他の本も読んでみようかなと思いました。
みんなは読んだことあるのかな?
朝吹真里子さん。
えくにかおりさんが一番新しい文庫の中では解説を寄せられていましたけれども、
えくにかおりさんが好きな人はきっと朝吹真里子も好きだと思いますね。
私がまさにそこがドンピシャだったように。
他にも朝吹真里子さん読んだことある方の感想を聞いてみたいなぁなんて本当に思いました。
とにかくおすすめの小説です。
この小説を味わえる私は女に生まれてよかったなってちょっと思いました。
ということで今日はタイムレス朝吹真里子さんの小説について話してみました。
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今日も最後まで聞いていただいてありがとうございました。
ではでは。