ビニール袋と指先の乾燥
僕の指はビニール袋を開けられません。
カサカサの指先、ロール状のタイプのやつは取ることすらままならない。
朝の忙しい時間にゴミ箱へ新しい袋をセットしようとしても、指がツルツル滑るばかりで一向に開けられないんですよね。
結局、取っ手の部分を無理やり左右に引っ張って、中から僅かに飛び出るあの三角形のピロッとしたやつを掴んで、開ける手口を選ぶしかないんですよ。
お店によっては指を濡らすための対策が置かれてたりしますよね。
あのオレンジ色のボールみたいなやつとか、濡れ雑巾とか。
でもあのオレンジ色のボールって、触れるとき僕結構躊躇してしまって、なんだかね、見ず知らずの誰かの口の中に手を込むような、なんかそういう生々しさがあって、どうにも指が動かないんですよね。
濡れ布巾にしても、変にね、感染症とかをね、気にしてしまう謎の潔癖な心が働いてしまって、ちょっと触れないんですよ。
世間一般では、この指先が乾燥するのって老化と呼ぶと思うんですけど、
世間一般では、この指先がカサカサしている状態をだいたい老化と呼んで、指が乾くことっていうのは人体の欠陥であり、若さを失った象徴として結構自虐的に語られがちだと思うんですけど、
しかしですね、ふと思ったんです。これは本当に不具合なんだろうかと、欠陥なんだろうかと。
指先が乾燥して困る場面なんて、よくよく考えればビニール袋を扱うときくらいなものじゃないですか。
ビニールなんてものが発明される以前は、指先の乾燥をこれほどまでにデメリットとして捉えていた人間がそんなにいたのかなと。
むしろこれは、対価じゃなくて適応なんじゃないかと。
年齢を重ねるにつれて、何か事情があって指先がサラサラとした質感へと変化していっている。
人体に備わっている適応力なんじゃないかなって思ってるんです。
キャプテンアメリカの盾とか、ウルバリンの爪とか、あるいはマイティーソーのムジョルニアのような、ヒーローをヒーローたらしめる強力な武器。
それの僕たち版っていうのが、この極限まで乾燥した指先なんです。
アベンジャーズがアッセンブルするとき、僕たちはね、このカサカサの指先をね、たずさえて戦地へ赴くわけです。
スーパーのレジ袋が取れない板とかも、ヒーローが負うべき大いなる責任の一つぐらいにね、捉えられるんじゃないかなって思うんです。
年齢を重ねれば、必然的に年下の人と接する機会の方が増えますよね。
そのとき、じっとりした指先の大人とサラサラした指先の大人、どちらがより良い大人に見えるでしょうか。
例えば、子供の頭を撫でるシーンみたいなのをね、想像したときに、じっとりねっちりと湿った指先が髪に絡みつくよりは、
まるで草原を吹き抜ける冷涼な風のような爽やかな質感の指先の方が絶対に心地よいはずなんですよ。
そもそも指先が乾燥していなかった子供の頃を思い出しても、
ビニールを開けるとき以外、指先がジトジトしていて役に立ったことってほとんどないと思うんですよ。
指先の価値と転用提案
ですから、この乾燥っていう人体のテクノロジーは、もっと世の中に還元されてもいいんですよ。
アリの巣の構造がね、建築に活用されていたりだとか、
ハスの葉の撥水構造がヨーグルトの蓋の裏に転用されたりとかしている、いわゆるバイオミメティクス。
僕たちの指先だって、バイオミメティクスとして何かに転用されてもいいんじゃないかなって思うんですね。
だからこの僕たちの指先という柔らかくてサラサラした素材は、枕とかに転用できるんじゃないかなって思うんです。
大人の指の皮を集めて作った指先ピロー、あるいはユニクロのエアリズムならぬ指リズム、
カシミヤではなく指先の素材を使ったセーター。
これらはね、柔らかさとサラサラ感を両立した極上の肌触りになるんじゃないですか。
こうして自分の指先に価値を見出していけば、いつか私たちはこの乾燥した指先を誇りに思えるはずです。
ヒーローの武器のような指先で自信を持って子供を撫で回す、それが私たち乾燥した大人のこれからの役目なんですね。
もちろんね、ここまで聞いて皆さんが危惧していることもわかります。
ビニールはいいとして、紙の資料はどうするんだと。
乾燥した指先では紙を一枚ずつめくることができないんじゃないかと。
そこは先人の知恵を借りましょう。
指先を舐めるっていうあの伝統的なテクニックですね。
なりふり構わずベロベロに舐め回してめくればいいんです。
数学の先生がそうしていたんで、きっと数学的にもそれが正しいはずなんですよ。
はい、ということでね。
皆さんもね、物の価値が目まぐるしく変わる今の時代に
自分の指先っていうのを小瓶か何かに詰めてね、集めてストックしておけば
将来、価値が爆上がりした時に
兄さんに投資するように指先に投資することができると思うので
もし機会があれば、指先に投資することができれば
指先の方を集めてください。
それではご静聴ありがとうございました。さようなら。