00:07
真夜中の読書会おしゃべりな図書室へようこそ。
第197夜を迎えました。今週は前回に続き、2024年マイベストブック小説編の発表です。
2024年に刊行された新刊の中から、私が最も心揺さぶられた小説の1位と2位を発表したいと思います。
それではまず、第2位は、いじゅへさん著、牧野美香さん役の、「その猫の名前は長い」です。
先週、去年は小説をあまりたくさん読めなかったとお話ししました、高瀬潤子さんの短編集、新しい恋愛をご紹介したんですけれども、
そんな中で、読めるぞ、楽しいなっていう感覚を思い出させてくれた本ですとお伝えしました。
今日選んだ、「その猫の名前は長い」も短編集でして、何か時間を潰す必要がある時に、
あ、時間を潰すってあまり良い言葉じゃないですね。ちょっとまとまった時間があるぞっていう時に、
読書という選択肢が私にはあって良かったなぁと思わせてくれた本です。
帯にある言葉、見過ごしてきたけれど知っていた、中年女性のある感情を救い取る短編集とありまして、
これを読んで思い出した、このその猫の名前は長いを一回、前読で紹介してましたね。
先週、今まで紹介してない本を紹介しますって言ったけど失礼しました。
でもその時はまだちょっと読み終わってない、途中の段階だったんですけれども、
読み終わって今また改めてこの帯にある言葉を読むと、ちょっと印象が変わったなというふうに思いました。
その引かれて買った時は、些細な出来事を救い取るような繊細でほっこりとした共感の物語を想像して読み始めたんですけど、
なんというかもっとゴツゴツした、もっとシニカルで緊張感のある小説でしたね。
そして同時にこういうものが物語として世界で読まれるならば、
韓国だけでなくて日本語にしてくださって読めるという環境に対して、
まだまだいろんな小説の可能性があるなというふうに嬉しくなった本の一つでもあります。
この中には9編収録されてまして、私のお気に入りは表題作のその猫の名前は長いと、
私たちがパジュに行くといつも天気が悪いという小説の2つです。
2つ目の私たちがパジュに行くといつも天気が悪いはですね、もうタイトルからしていいですよね。
タイトルですでにストーリーのほぼ語られていると言えるんですけど、
03:02
私たちって言うからにはおそらく複数人ですよね。
多分女同士で恋人じゃないと思う。
いつもって言うからには何度も言っているけど、そんな頻繁じゃない感じもしますね。
パジュっていうのは韓国の地名なんだと思うんですけど、そこがどういう場所なのか私にはわからないけれど、
しょっちゅう行くなら、わざわざいつもとは言わないし、天気を覚えてたりはしないから、
ちょっとイベント的に行く場所なんだろうと想像できます。
あそこに行く時はいつも雨だねっていう程度に旅行性がある場所という感じでしょうか。
東京にとっての鎌倉とかなのかな、女同士複数人でイベント的に行くっていうと。
っていう風にタイトルを読んだだけでストーリーが膨らんじゃいますね。
おばさん3人が鎌倉に行く話と勝手に仮定します。
こういう風にタイトルから結構私を勝手に仮定して読み始めるんですけれども、
その仮定からは外れてなかったんだけど、もう一つ大事な要素が追加されていて、
それはこの物語が2020年のコロナ禍の設定なんですね。
まだコロナが何者でどう予防してどう拡散してどう感染するのかがわからないことが多かった時ですよね。
だからこそ規制も厳しかったし、世間の目も厳しかったように感じて覚えています。
そんな2022年に3人の女性が、仲良しの3人の女性が2ヶ月ぶりに会って、
パゼというソウルから少し離れた市街地でランチをすることになるんですね。
うなぎを食べに行くのを確か。
3人のうちの1人が父親を亡くしたばかりで、
でもコロナ禍だったから大きな葬式はできてなくて、
お悔やみを伝えられてなかったから励ましがてらにという風に集まるわけですよ。
ソーシャルディスタンスは社会的距離は保ちながら、
食べながらあまりペチャクチャ喋らないようにと気を遣いながらですね。
そんな時期があったなぁと思わや遠い昔のように、もはや懐かしく思い出されますね。
3人とも高校生の子供がいて、子供たちが帰ってくる前に帰らないといけないから、
そんなに長い時間出かけられないけど、近況を共有しあって、
うなぎ代は誰?コーヒー代は誰?って割り振ってて、
めっちゃ細かい話が出てくるんですけど、めっちゃ分かりますね。
そして帰ってくるんですけど、事件はその後に起こります。
スラお兄と呼ばれる3人のうちの一番お姉さん、年上なのかな?
スラさんの旦那さんがコロナに感染していたことは判明するんですね。
そしてママと他の人もコロナにかかってしまいます。
06:01
そこで旦那が咳してたって分かってたのに、体調が悪そうだったのに何で来たのよとかね、
急に罪人になるわけですよ。不注意な友達への怒りが湧いてくる。
分かりますね。そのあの頃はそういう感情が確かにありましたね。
誰かから写されたっていう時に、誰かが悪いわけじゃないんだけど、告白人ではないんですけど、
なぜ集まったのかとか、中止にしなかったのかとか、体調悪いのに来たのかとか、
この場合は本人じゃなくて家族が体調悪かったわけなんですけど、
スラお兄はめちゃくちゃ申し訳ないってひたすら謝るんですけど、3人にはちょっとした亀裂が走ってしまうわけです。
ただでもですね、この本の小説の主題はその3人の亀裂の話ではなくて、
お母さん3人がちょこっと集まるだけで、ものすごくいろんな気を使わなきゃいけないその状況、
若くはない女性が寄り集まることに対して向けられる社会の名を描いているんですね。
ランチで楽しそうにしていると、専業主婦が高いお昼を食べて優雅なもんだねって、白い目で見られたりとか、
家事と育児の合間にちょっと出かけるにも家族にめっちゃ気を使っている。
コロナ禍は特にそれが凝縮されて出てきた時だったし、お互いにもちょっと厳しい目を向けざるを得なかったっていう感じですよね。
そこを短い小説として切り取っていて見事だなって思いました。
中年女性の些細な居酒屋を描いているように見えて、そうさせてしまう彼女たちを引き裂いてしまうくらいの、
社会からのお母さんこうあるべしがあるっていうことを描いている小説なのかなと思いました。
そして表題作、もう一個私のお気に入りのこの猫の名前は長いわですね。
この猫の名前は何かと言いますと、若くして家計を支えなくてはいけないヒロインが就職した会社で、
いろいろと教えてくれる女の先輩、かっこいい女の先輩に強い憧れの気持ちを持つんですね。
彼女はちょっとだけ日本語ができるっていうのを応募書類に書いていて、
そのためこのヒロイン主人公はですね、社長の日本出張に同行することになるんです。
毎度日本出張に同行することになるんですけど、そうなってくると会社のみんなは怪しむわけですよ。
なぜ若い彼女を特別扱いして社長を連れて行くのかと。
日本語ができると言ってもビジネス通訳ができるほどではないっていうのも判明しまして、
そこにはやましい関係があるんじゃないかと考えられて、変な噂をされたりしてしまうんですね。
09:04
そして彼女が憧れていた女の先輩からも、ちょっと2人の関係を揶揄した厳しい言葉をかけられてしまうんです。
さてその真相はどうだったのかっていうのは、ちょっと読んでいただくとしまして、
これもですね、女同士の分断、亀裂を描いていて、
でもその亀裂が起こらざるを得ない背景のことを描いている小説なわけです。
もう一つその出張にはある秘密が隠されているんですけど、
それも秘密にしたくて秘密にしたというか、社会がそうさせた、世間の目がそうさせたと言えるかもしれません。
この2つの作品以外の短編もハッとする。
書きたいのはそっちだったのかみたいな、いろんな発見のある小説なので、ぜひ読んでみていただけたらと思います。
さてとうとう第1位の発表です。
2024年のマイベストブック第1位に選んだのは町田園子さんの私のしるはなです。
この本はですね、この想定からして名作全としているんですよ。
表紙になっている層がイラストですね。
とか表紙の紙質とか、この本の厚さだったりちょっと重さだったり、
その佇まいがすでに大事に読まなきゃいけない作品だぞっていう感じを醸し出しています。
最近ちょっと話がそれますがオーディション番組ばっかり見てるんですけど、
皆さんも見てる人いますでしょうか。
タイムレスプロジェクトとノーノーガールズをすごい楽しみに見てるんですけど、
オーディション番組もともと好きなんです。
オーディション番組とかの選曲で例えると印象に残るための意外な選曲とか、
気をてらったパフォーマンスとかじゃなくて、
みんなが知っている王道のバラード名曲で勝負してきたみたいな感じです。
かなりの歌唱力を要するもので勝負してきたな、みたいな感じがする。
私の知る花というタイトルからしてバラード名曲っぽいじゃないですか。
そんな王道名作路線をストレートに描いてきたって感じの、
私の知る花はどんな物語かと言いますと、
ある時から街に現れたおじいさん、彼の名前は桂木平さんと言います。
彼はいつも公園で絵を描いていてスケッチおじさんとか呼ばれているんですね。
でもなんだか昔は何か犯罪を犯して刑務所に入ったことがあるらしいなんという噂もあります。
そんな桂木平さんはどんな人生を送ってきたのかを、
桂木さん本人じゃなくて関わってきた人たちそれぞれの視点で語られる連作短編集になっています。
12:10
私、実は最初読んだ時、この桂木平さんという絵を描くおじさんにあまり惹かれなかったんですよ。
1話目で死んでしまうんですけどね、この方、孤独死してしまうんですけど、
この人の過去がどうだったかにあまり興味が持てなくて、
でも1話ごとに話者が変わるんですね。そういう連作短編集の構成がそのようになってまして、
5章それぞれに主人公が変わっていきます。
それぞれの主人公の抱えるものが重くて、それを見届けたい。
どうなっていくのかなって見届けなくちゃという気持ちで読み進めました。
一番メインとなるのは仲良くしていた異性の親友をですね、ある言葉で傷つけてしまった女子高生なんですね。
あとは夫婦で不妊治療をしていたんだけど、
途中で諦めて2人で生きていくことを選んだ、選んだんだけどまだ割り切れずにいる奥さんですとか、
過干渉な母親に苦しんで距離を取ることを選んで、今はちょっと疎遠になっていたんだけど、
そのお母さんが亡くなってしまい罪悪感を抱えている娘とかですね、
それぞれに心の柔らかい部分、触ってほしくない部分、くすぶっている部分を抱えている人たちなんですね。
グリーフケアの話でもあるかなと思いました。
亡くしてしまった誰か何かから立ち直って癒されていくお話でもあります。
それぞれバラバラに見えた、それぞれの人の人生とかお話がだんだんつながっていく後編の中でつながっていきまして、
それと同時に桂木平さんの過去も明らかになっていくといった、そんな構成の本です。
そこでタイトルの私の知る花は、私の知る彼という意味だったのかなって思ったりしました。
平さんはそういう人だったのかっていう、読み終わると深い感動があり、最初に戻るといろんな意図がつながっていくという感じの構成になっています。
最初に平さんにあまり興味が持てなかったということもあって、途中でこの話どうつながっていくんだろうというのがわからなくて、やや興味を失いかけて離脱しちゃってたんですよ。
そういうことはありますか?皆さんも。しばらく放置したら、またその登場人物たちの関係性がわからなくなって、少し戻ったり、また最初から読み直したりして、
すごい時間かかって読み終わった本だったんですね。これ実は。でも読み終わってみると、なんだか大河ドラマを最終回まで見終えたみたいな、
15:07
朝ドラを完走したみたいなね、そういう心地よい達成感がある本でした。壮大なドラマを見届けたっていう感じですね。
2024年はそんな感じであまりたくさんの小説を読めなかったし、一挙見っていうよりすごく一冊一冊読むのに時間もかかった年でもありました。
ただその分一つ一つじっくり味わえた感じもしています。大事に読めたなぁという印象もあります。
この私の知る花はおじいさんの過去というミステリー要素はあるんですけれども、そのプロット筋書きはどうであったかっていうことを追うっていうだけじゃなくて、
町田園子さんの繊細な描写を指でなぞるように、ゆっくり味わうのに向いている小説だなと思いました。
ではそんな私の知る花から紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
タイミングってのがある。不意に平さんが言った、無二の親友になれるタイミング、過去の友人になるタイミング、
大事な思い出を共有し合える存在になるタイミングに、もちろんきっぱり決別するしかないタイミングもあるとあります。
これはアンジュちゃんという女子高生の主人公と幼馴染のかなとくんの関係が今までとは同じではいられなくなってしまった時に平さんがアンジュに対して言うセリフなんですね。
このかなとくんは自分のジェンダーアイデンティティに悩んでいる。自分の心の性別が心の性別がわからないと悩んでいて、このかなとくんをどう描くのかというのはすごくデリケートなところでもあります。
マチダソノコさんの52ヘルツの鯨たちを読んだ方は、ああと思われたかもしれないですね。映画で言うとシソン・ジュンさんが演じてらした印象的でしたよね。
そんなシソン・ジュンさんのキャラクターがこっちの作品でもかなり重要な大きなポジションを持っている、大きな存在感を持っているというふうに感じましたが、
そしたらですね、この私を知る花に関するインタビューでマチダソノコさんが52ヘルツの鯨たちの映画化の際に、マチダさんも撮影現場に行く機会なんかもあって、
トランスジェンダーの監修の方が入っていたり、スタッフの人たちが講義を受けたりっていうのをしていたと、すごく大切に丁寧に描いていたっていう体験があって、この映画に関わる機会があったからこそ、
この作品のこのかなとさんを描くことにつながったというふうにおっしゃってたんですよね。
18:04
それで丁寧に扱われた作品からはまた新しいすごい作品が、丁寧な作品が生み出されるんだなあっていうことに感動したんですよ。
去年配信したポッドキャストの中で最も多く聞いていただいた、最も多く再生されたのは、私がフィクションがあまり読めなくなってしまったっていう話をしていた回で、
真剣だからこそ私たちは人を傷つけたり、傷ついたりするっていうタイトルの回でした。
それで2番目に多く聞かれたのが、この52Hzの鯨たちのことを喋った52Hzの鯨たちに心揺り動かされすぎてっていう回だったんですね。
だから2024年は町田園子さんの年だったなぁと振り返って思いました。
杉崎花さんを追いかけた年でもありましたね。アンメットとか海に眠るダイヤモンドとかね。
今ちょっと一番すごい女優さんの一人ですよね。杉崎花さんと花つながりですが、私の知る花、ぜひじっくり味わってみてください。
今週も最後までお付き合いいただきましてありがとうございます。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりな図書室は、皆さんからのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介しています。
リクエストはインスタグラムのアカウントバタヨムからお受けしております。
お届けしたのは講談社のバタヤンこと川端理恵でした。
また水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。