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2020-10-07 11:32

【第29夜】人が人に嫌悪感を抱くことの居心地の悪さについて

人が人へ抱く嫌悪感と、嫌悪感もってしまったと自覚した時の気まずさ、居心地の悪さみたいなものを描いてゾワゾワする、黒澤いずみさんの小説『人間に向いてない』をご紹介します。「異形性変異症候群」という架空の奇病を描いたこの小説、人間のグロテスクさを描きながら、愛を感じる小説でもあります。コロナが炙り出した人の黒い気持ちとの共通点とは……。

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みもれ 真夜中の読書会 おしゃべりな図書室へようこそ
こんばんは、KODANSHAウェブマガジンみもれ編集部のバタやんこと川端です。
おしゃべりな図書室では、水曜日の夜にホッとできて明日が楽しみになる、をテーマに、皆様からのお便りをもとに、おすすめの本や漫画、紙フレーズをご紹介します。
さて、第29夜となりました。今夜のお便りをご紹介します。
大阪府にお住まいのもえかの母さんより、サスペンス系が大好きです。
休むことなく続きが読みたくなるような本のご紹介をお願いします。といただきました。
ありがとうございます。サスペンス系ね、いいですね。私も大好きなので、嬉しいお題です。
サスペンスとミステリーの違いについて、みもれ編集部のブログでも書いたことがあるんですけど、ご存知でしょうか。
厳密なテーマ、定義っていうのはなくて、読む人の受け取り方次第なところもあるとは思うんですけれども、
ざっくり言うと、謎解きを楽しむのがミステリーで、ハラハラを楽しむのがサスペンスですね。
謎に重きがあるのがミステリーで、不安とか緊張、そういう心理状態が続く状況を描くのがサスペンスです。
例えば犯人探しの小説でも、ホームズとか東の警護さんのガリレオシリーズなんかはミステリーで、ドラマーでもありますけど、古畑忍三郎とか刑事コロンモとかサスペンスですね。
見る側は先に犯人やトリックがわかっていて、バレるバレるバレるっていうハラハラを楽しむタイプで楽しいですよね。
そういう意味ではサスペンスの方が幅が広いというか、ホラーもあるし、SFもありだし、もしかして夫や娘が、あるいは隣人がちょっと様子がおかしいみたいなタイプのサスペンスもありますね。
私は家族の恐怖とか、そういう家の緊張状態が続くサスペンスが一番怖いんじゃないかなと思っています。
今日の勝手に貸し出しカードは黒澤泉さんの人間に向いてないにしました。
後半はこの本の怖さについてたっぷりとお話ししたいと思います。
黒澤泉さんの人間に向いてないという小説は、ミュータントシンドローム、漢字だと異形性変異症候群という奇病が蔓延した日本を描いた小説です。
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この謎の病気は、突然人間が芋虫のような、形はいろいろみたいなんですけど、異形に変身してしまうという架空の病気がテーマになっていて、
この病気は感染症ではないんですけど、若者に多く、特に引きこもりやニートと呼ばれる人たちが次々とある日グロテスクな形に変わってしまうという気持ち悪い病なんですね。
この小説の主人公である三原の息子、雄一くんがその病気にかかってしまって、芋虫のような姿になってしまったというところから物語が始まります。
この時点で無理という方も結構いらっしゃると思うのですが、異形に不思議な形になってしまうという病気の大きな特殊な設定を入れることで、
親子とはとか家族の愛とは、人間の尊厳とはといったテーマを本音を炙り出すような愛のお話なんですよ。
少し前にパリュス・アヤコさんという小説現代新人賞を取った作家さんにインタビューさせていただいたんですが、
受賞した隣人Xという小説は、宇宙から避難してきた惑星星人Xが人間に姿を変えて地球に生息し始めているという世界を描いたSFの一つではあるんですけど、
それを難民として受け入れるとアメリカが発表して続いて日本も発表するという話なんですね。
これも宇宙からの難民という大きな嘘、ファンタジーを軸にすることで他のリアルさが際立つというか、いろんな社会の問題をリアルに描けるっていうね、
っていうようなことをパリュスさんがおっしゃっていて、なるほどと思ったんですよ。
この設定をパッと聞いて、読書好きの皆さんはカフカの変身みたいな話かなと思いましたかね。
そうですそうです、さすがです。
でもグレーゴルザムザが目覚めるとなっているのは、なんかちょっとカサカサしてそうな虫ですけど、
こっちはもうちょっとねっちょりしてるっていうか、粘度がありそうな、結構グロテスクなシーンも多いので、
苦手な方はちょっとそういう場面は飛ばし飛ばし読んでいただければと思います。
私も結構飛ばし飛ばし読みました。
治療法もないこの病気で、絶望の中で気持ち悪い姿になってしまっても息子を愛したいという母親となかったことにしてというか、
あまり考えたくないという感じで次に進みたい父親というのが描かれるんですよ。
政府はこの病を致死性の病と定義して、つまり死んだものとして扱っていいという決定を下すんですね。
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息子は死んだってことにして、次に進みたい父親と、
ミュータント感染者を家族に持つ会っていうのを見つけて、参加してみることにしたこの母親っていうのが描かれていきます。
ちょっと救われるかなと思いきや、ここからまたいろんなケースが出てきて面白くなるんですけど、
面白いって言うとあれですけど、遺族の会とか被害者の会って現実でも色々あると思うんですが、
その人その人その家その家で事情とか思いが違うわけですよね。
お金が賠償金がすぐにでも欲しいっていう人もいれば、ただただ怒りの矛先が欲しいとか、誰が悪かったのかっていうのを明らかにして欲しいとか、
一枚岩ではないわけなんですよ。 被害者の家族同士なら仲良くなれるって言うとそんなことはなくて、
その辺のドロドロした感じとか、びっくりするような対応をする人もこの小説で、母親も出てきて、
そんな中で春美さんは強くなっていくわけなんです。 この小説、単行本が刊行されたの2018年のことで、つい最近文庫になったばっかりなんですが、
今読むとやっぱりコロナのことをどうしても重ね合わせてしまうんですね。 コロナは外に出ると感染リスクが上がるけど、ミュータントシンドロームは引きこもっている人がかかりやすい病気っていうところもまたちょっと面白いなぁと思いました。
先ほどご紹介した隣人Xっていう小説は、人間に姿を変えた宇宙人、宇宙からの難民。
それは見た目にはわかんないから、この人もしかして人が人を疑うとか、
あとは差別の心だったりとか、自分とは違うものが近づいてきた時の嫌悪感みたいなのをある種象徴していると思うんですよ。
ミュータントシンドロームの設定は特殊ですけれども、人が人を抱く嫌悪感と、
嫌悪感を持っちゃったって、自分に自覚した時の気まずさだったり、居心地の悪さみたいなものを描いていて、
ゾワゾワするわけですね。 つまり怖いのはグロテスクな姿になってしまった息子ではなくて、
それを気持ち悪いと思っちゃった自分だったりとか、殺してしまおうかとさえ思ってしまった自分が怖いっていう怖さなんですよ。
今日はこの小説から紙フレーズをご紹介して終わりたいと思います。
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とにかく掃除しないと。 あーでも買い物にも行かなきゃ。
ユイチお願いしていい? どっちを? 買い物の方。 買ってきて欲しいものはメモするから。
このシーンの説明をするとちょっとネタバレになってしまうので、知りたくない方はここで再生をストップしてください。
いいですか? いい言いましたよ、先にね。
なんとね、この息子に詰めたかった父親が最後異形になってしまうんですよ。 あーって思わず声が出ましたけど、
先日トランプ大統領がコロナ感染のニュースを聞いた時に、この小説のこのシーンを思い出しちゃったっていうのもあって、
その、お母さんがね、夫をどうするかは、部屋の掃除を終えて夕飯を食べてから考えても遅くないっていうシーンなんですよ、ここはね。
全然かいに好きではない人と暮らし続けていても、今日はもうご飯は美味しくてっていうタイトルで、すごい反響はあちこちからいただいたんですが、
そういうとこありますよね、女無室ってね、なんかいろいろあったけど、昼間いろんなことが起こったけど、
夕飯どうしようっていうことをまず考えてるみたいだね。 夫がミュータントになってしまったことは去っておき、
夕飯を買いに行かなくちゃってことを考えているっていうシーンなのでした。 そんなお話を今日はご紹介しました。
休むことなく一気に読んでしまう小説なので、嫌がらずにぜひ読んでいただけたらと思います。
今日もありがとうございました。
さて、そろそろお時間になってしまいました。
真夜中の読書会おしゃべりなと出出は、こんな感じで皆さんからのお便りをもとにしながら、いろいろなテーマでお話ししたり、本を紹介したりしています。
MIMOREのサイトからお便り募集しているので、ぜひご投稿ください。
また来週水曜日の夜にお会いしましょう。
おやすみなさい。おやすみ。
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