プラスチックの種類と需要
どうも、かねまるです。 プラントライフは、化学プラントの技術者が、化学や工場に関するトピックをわかりやすく紹介する番組です。
今回は、プラスチックって何でこんなに種類が多いの、というお話です。 ヒロヒロシさんからいただいた質問に回答する形で話していきます。
こんなお便りをいただきました。 いつも配信ありがとうございます。
樹脂、プラスチックって何であんなに種類があるのでしょうか。 ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリフェニゲンスルファイド、ポリメタクリル酸メチル樹脂など、もう何でこんなに種類があるの、って感じです。
ぜひ金丸さんのわかりやすい解説をお願いします、とのことです。 お便りありがとうございます。
いやー例に挙げたプラスチック、これはかなりわかっている人のラインナップですね。 確かにペットボトルですとか、服や自動車の部品まで、
私たちの生活というのはプラスチックに囲まれていますけど、 その原料の名前を挙げ出すともうキリがないですよね。
今回はそんな面白い疑問、プラスチックって何でこんなに種類が多いの、というテーマでお話ししていきます。
先に結論を言ってしまうと、それは世の中の様々な、こうだったらいいなっていう需要に幅広く答えられるように、
科学の力でいろいろカスタマイズしているからなんですよね。 ご質問いただいた通り、プラスチックっていうのは本当にたくさんの種類があります。
これって、でもプラスチックに限った話ではなくて、例えばネジとかもそうですよね。 プラスネジとかマイナスネジとか、
頭が六角レンチで締めるようなネジっていうのもありますよね。 長さも太さも材質も様々です。
この理由を考えると、人によって安いものが欲しかったり、すごく頑丈なものが欲しかったり、
錆に強いものが欲しかったり、 使う場所や目的によって求められる性能が違うんです。
プラスチックも全く同じで、とにかく安くしたいとか、衝撃に強くしたい、熱に強いものが欲しい、
透明で綺麗にしたい、薬品に強いものが欲しい、といった多種多様なニーズがあります。
最近ではそこにリサイクルしやすいものとか、自然に買えるものといった環境への配慮も加わってきました。
プラスチックはこうした幅広い需要に応えやすい、優れた材料なんです。
モノマーの重要性
その秘密はプラスチックがそもそも何なのかというところから理解するとわかりやすいと思います。
プラスチックというのは科学的には高分子とかポリマーと呼ばれる分子です。
これはモノマーと呼ばれる小さい分子が、例えば電車の車両みたいな感じで長くつながってできた分子になります。
数で言うとモノマーが何百個もつながってポリマーになります。 例えばスーパーのレジに使われるポリエチレン。
これはエチレンというモノマーがたくさんつながってできているからポリエチレンと言います。 ポリは多数を意味します。
なのでポリエチレンですね。 シンプルですね。
このプラスチックの性能を自在に変えるポイントは大きく分けて3つあります。 1つ目がモノマーの種類、小さい分子のところ。
2つ目がポリマーの作り方、長くする時の方法ですね。 3つ目が仕上げの配合、出来上がったものをどう材料として使うかというところです。
この3つのポイントを順番に見ていくと、世の中の需要にどのように応えていっているのかというのが見えてきます。
まずは1番目の基本、モノマーの種類です。 これがプラスチックの基本骨格になりますし、基本骨格から名前が付けられています。
分子構造から機能を考えるときというのは、原子同士がどんな形でつながっているかという点が重要になります。
多くのプラスチックの基本骨格は、炭素原子がずーっと長く鎖のようにつながった形をしています。
例えば一番シンプルな構造のポリエチレンは、炭素の長い鎖だけです。
これとよく似た名前のポリプロピレンは、その炭素の長い鎖のところどころから腕毛みたいな感じで炭素が1個ぴょこっと飛び出しているような形をしています。
ただこれだけの違いでもポリプロピレンの方が強度や耐熱性が少し上がります。 そこが面白いところですね。
この炭素の鎖に酸素や窒素、硫黄といった別の原子が加わったり、炭素同士のつながり方がちょっと特殊だったりすると、さらに機能がぐっと広がります。
特に強力なのが弁善管というものです。 高校科学でもしかしたらやったかもしれないです。
六角形に炭素ががっちりつながった構造です。 この弁善管が構造の中にあるとプラスチックの強度ですとか耐熱性が格段に上がります。
一つ具体的なプラスチックを例に見てみましょう。 ホリエチレンテレフタラート。
皆さんがよく知っているペットボトルの材料ですね。 これはホリエステルの一種です。
名前の通りエステル結合というつながり方でできたポリマーの総称です。 このエステル結合というのが科学的に言うとCOO、炭素と酸素と酸素でできた部分なんですけど、
その特徴として比較的作りやすいというメリットがあります。 小さいモノマー同士をエステル結合でつないで長いポリマーにするときに作りやすいエステル結合を使っているということで合成がしやすいということですね。
作りやすいというのは製造コストが抑えられるので安価に大量生産できるということです。
これは飲み物の容器みたいに大量に必要とされるものにはすごく大事なポイントですよね。
ではポリエチレンテレフタラートのモノマーは何でできているかと言いますと2つあります。 一つ目がエチレングリコール。
もう一つがテレフタル酸です。 エチレングリコールの方はまっすぐな鎖状の構造を持っています。
もう一つのテレフタル酸は耐熱性や強度を向上させるベンゼン管が構造の中に入っています。
この2種類がつながってペットができています。 つまりはポリエチレンテレフタラートというのは作りやすくて安価な特徴と
ベンゼン管のおかげで比較的丈夫という特徴を併せ持った非常にバランスの取れたプラスチックなんです。
ですので薄くても丈夫なペットボトルにぴったりなんですよね。 もっと言うとエステル結合というのはもう一つ特徴がありまして
ポリマーの作り方の違い
水と酸やアルカリガールと化水分解というのが起こります。 分解しやすいんです。
これがペットボトルがリサイクルしやすい理由にもつながっています。 回収されたペットボトルを化学的に分解してまた新しい原料に戻すことができる。
まさに構造的な特徴をうまく使った利用の例です。 せっかくなので質問にあった他のプラスチックもどんなモノマーからできているのか
ざっくり特徴を紹介します。 ポリアミドというのはアミド結合というつながり方でできたポリマーの総称なんです。
ポリエステルと一緒ですね。 非常に強靭で摩擦に強いので服の繊維などに使われます。
次がポリフェニレンスルファイド。 名前にフェニレンとありますけれど、これはベンゼン管を意味しています。
つまりはベンゼン管がたくさん入っています。 そしてスルファイド、イオウも含まれています。
ベンゼン管とイオウで構成されたこの構造のおかげで非常に高い耐熱性と耐薬品性を誇っています。
高い強度や耐熱性を持つプラスチックはエンジニアリングプラスチックと呼びます。 その中でもポリフェニレンスルファイドというのはものすごく性能が高いので
スーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれています。 そして最後にポリメタクリルサンメチル。これはアクリル樹脂のことですね。
最大の特徴はガラスに匹敵するほどの透明性です。 水族館の巨大な水槽にも使われていますね。
高い透明性はもちろんなんですけど、強度が高かったり加工がしやすかったり軽かったり、
強化ガラスよりも使いやすい安全な特徴があります。 こうして見ていくだけでもモノマーの組み合わせだけで全然違う個性を持ったプラスチックが生まれますね。
そしてプラスチックの性能を自在に変えるポイントの2つ目。 ポリマーの作り方のところです。
実は使うモノマーが全く同じでも、その繋ぎ方の違いによって出来上がるプラスチックの性能が大きく変わります。
その代表例がポリエチレンです。 実はポリエチレンには大きく分けて高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンという種類があります。
名前の通り密度が違うんですね。 ギッシリ詰まっているかスカスカ気味かという違いです。
そしてこの密度の違いが材料としての強さに直結します。 なんとなくイメージできますか?
ギッシリ詰まった高密度ポリエチレンの方が強くて硬い感じがしないでしょうか? イメージの通りで高密度ポリエチレンは非常に丈夫です。
その一方で低密度ポリエチレンは柔らかくてしなやかな性質になります。 じゃあなんで同じエチレンから作っているのに密度が変わるのかというと、
ポリマーの枝分かれの多さによります。 ポリエチレンの鎖というのは綺麗な一本のまっすぐな鎖とは限らないんです。
木の幹から枝が生えるように鎖の途中から短い分岐が起こることがあります。 この枝分かれがたくさんあるとどうなるんでしょうか?
たくさんの枝が生えた木々を束ねようとしても枝同士が邪魔しあってギュッとまとめられないですよね。
だいぶスペースの空いたスカスカの束になってしまいます。 この形が低密度ポリエチレンです。
柔らかいのでスーパーのポリ袋や食品用のラップなんかに使われます。 反対にこの枝分かれを少なくしてできるだけまっすぐな鎖を作ると、
鎖同士がぴったり寄り添って密に詰まることができます。 これが高密度ポリエチレンです。
プラスチックの性能の決定要因
丈夫で硬いのでボトルや水道管なんかに使われます。 同じエチレンというモノマーからできてますけど、作り方をコントロールするだけで
柔らかい袋から硬い水道管まで作れてしまう。 これがプラスチックの種類の多さにつながっているんですよね。
今話したのは一連だけ、一つのモノマーだけをつなげるっていう話だったんですけど、そんな必要もないですよね。
2個3個と複数種類のモノマーがつながった構分子もあっていいですよね。 それがコポリマーという名前です。
なんだか可愛い名前がついています。 複数種類のモノマーをつなげると、そのつなげ方は本当に様々です。
例えばAとBのモノマーがあったとします。 このつなげ方にもいろいろあって
ABABみたいに交互に規則正しくつなげる方法もありますね。 もしくはAAAAA、BBBBBという感じで、同じ種類のモノマーをブロック状にまとめてからつなげる方法もありますよね。
もしくは、もうランダムにつなげるなんていう方法もあります。
これも当然、出来上がるプラスチックの性能が変わってきます。 規則正しいほど性能が高い傾向にありますけど、反応の制御をしないといけないのでコストが上がります。
同じ名前のプラスチックでも作り方の違いで特性が微妙に、もしくは全然異なってきます。
プラスチックの性能を自在に変えるポイントの3つ目、仕上げの配合です。 実は出来上がったポリマーはそのまま材料として使うというよりは、添加剤を混ぜ込んで性能をさらにチューニングします。
例えば、もっと強度や耐熱性が欲しいという時はガラス繊維を混ぜ込みます。 いわゆる強化プラスチックですね。
もしくはプラスチックが硬すぎて加工しにくいという時は化素材というものを入れて柔らかくして成形します。
そして、太陽の光。 紫外線で劣化するのを防ぐために紫外線吸収剤を入れたり、燃えにくくするために難燃剤を入れたり。
こんな風に基本となるポリマーのちょっと弱い部分を添加剤でカバーしたり、特別な機能を追加したりするんです。
料理の最後の味付きみたいな感じですかね。 この添加剤の種類や量というのも組み合わせが山のようにあります。
もう生まれるプラスチックの種類というのは無限大に近いことが想像できると思います。 ここまでプラスチックの性能が決まる3つのポイントを紹介しました。
プラスチックの選択基準
1つ目がモノマーの種類。 2つ目がポリマーの作り方。
3つ目が仕上げの配合です。 では実際に何か製品を作るときにメーカーの人はどうやって無数の選択肢の中からプラスチックを選んでいるんでしょうか。
まず考えるのは使用環境です。 水周りで使うんだったら水に強い材料が要りますね。
熱がかかる環境だったら耐熱性が求められます。 特に100度を超えてくるとエンジニアリングプラスチックが求められます。
そして日光に当たる場合は紫外線に強い材料が必要です。 さらに科学の現場になってくると特殊な薬品も増えてくるので耐薬品性というのも重要になります。
もう一つ考える事項としては材料としての特性です。 強い圧力がかかるのであれば機械的な強度が必要です。
材料によって摩擦が異なりますのでツルツルがいいのかザラザラがいいのか そんなところも考えます。
後で色を塗る場合は塗装しやすいかっていうのも考えないといけないですよね。 こうして必要な機能をリストアップしていってその条件にクリアできるプラスチックを候補にあげます。
そして最終的にはその中から安価なもの 安定して調達できるものを選んでいきます。
どんなに素晴らしい性能を持っていてもコストが高すぎたら製品になりません。 反対に安くてもすぐ壊れてしまっては意味がないです。
この性能とコスト、そして供給の安定性というバランスを取りながら最適なプラスチックが選ばれていきます。
最初にいただいた質問に戻りますと、プラスチックの種類が多いのはこうした世の中のあらゆる製品のあらゆるわがままな要求に一つ一つ答えていった結果ということですね。
そして答えられる力がプラスチックには秘められています。 もちろんどんなプラスチックにも強いところと弱いところがあります。
熱には強いけど衝撃には弱いとか 透明だけど薬品には弱いとか
すべての要求を100%満たすような夢の万能プラスチックを作るっていうのも理論上は可能かもしれません。
でもそれっていうのはきっとものすごく高くて製造も難しくておそらくなんですけど
自然界では全く分解されないような環境に優しくないものになっちゃうんじゃないでしょうかね。 だからこそそれぞれの用途にちょうどいいプラスチックがたくさん開発されて
私たちの生活を支えてくれているというわけなんです。 今回はいただいた質問をきっかけにプラスチックってなんでこんなに種類が多いのというテーマでお話ししました。
イメージつかめましたでしょうか。面白い質問ありがとうございました。 こんな風にいただいた質問にはできる限りお答えしていきたいと思っています。
番組の概要欄にお便りフォームのリンクを載せていますので皆さんも何か気になることがあれば 遠慮なくメッセージを送ってください。
できる限り回答していきます。 今回はここまでです。
プラントライフでは化学や工場に関するトピックを扱っています。 毎週水曜日の朝6時に定期配信していますので
通勤時間や朝の準備などにお聞きください。 プラント技術に関する専門的な内容はケムファクというブログで解説しています。
最後にこのプラントライフがいいなと思っていただけたら番組のフォローや各ポッドキャストアプリから評価をお願いします。
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