今回は、頂いたお便りからソフトセンサーが求められる背景、使い方、導入までの流れの話をしています。
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サマリー
このエピソードでは、ソフトセンサーの仕組みや必要性、運用方法について詳しく解説されています。特に、化学プラントにおけるデータのリアルタイム取得の重要性や、機械学習モデルの活用方法が焦点となっています。また、ソフトセンサーの開発において、実験計画法と機械学習の併用が重要なポイントとして挙げられています。特に、適応的実験計画法がより効率的なデータ収集の方法として注目されています。
00:02
どうも、かねまるです。
プラントライフは、化学プラントの技術者が、化学や工場に関するトピックを分かりやすく紹介する番組です。
ソフトセンサーの必要性
今回は、ソフトセンサーという特殊なセンサーの話をします。
きょんきょんさんからお便りをいただきました。
やってほしいテーマとして、一つ目、ソフトセンサーの活用。
二つ目、実験計画法、多口メソッドと機械学習の比較、なんてテーマだと興味があります、とのことです。
世の中には、たくさんのセンサーがあります。
温度計とか、スマートフォンのタッチセンサーもそうです。
冬場だと、湿度のセンサーも重要ですね。
どれも物理的なセンサーが組み込まれています。
ただ、ソフトセンサーはちょっと違います。
いろんな物理的なセンサーの値を集めて、機械学習を使って新しい見方で検出します。
なんでそんなものが必要なんでしょうか。
センサー買ってきたらいいじゃんって思いますけど、そういうわけにもいかないんですよね。
今回はソフトセンサーが求められる背景と使い方の話をして、その上で最後にいただいたテーマのもう一つ、
多口メソッドと機械学習の関係についてもソフトセンサーに絡めて整理したいと思います。
ソフトセンサーの活用法
それでは行きましょう。
まず、ソフトセンサーが必要になる背景をお話します。
例えば、品質とか、成分とか、あとは水分量とか、濃度とか、
本当はその値が欲しいけど、プラントを運転しながらは測れないようなデータがいっぱいあります。
それはセンサーが高級品だったり、設置できなかったり、もしくはそもそも売ってないなんていうこともあります。
化学プラントの多くは別の場所に測定室があります。品質管理室と呼んだりもしますかね。
そこの部屋はだいたいエアコンが常時稼働していて、精密な機械が壊れないように常に管理されています。
そういう分析装置って絶対現場には置けません。
普段私たちが監視しているのは温度と圧力と流量の主に3つです。
場合によってはpHを測ったり、タンクの中に液体が何リッター入っているかレベル計というもので測定したり、色々あります。
製品が出来上がったタイミングでサンプリングという操作があります。
これは一部製品を抜き出して分析室に持って行って測定をするということです。
この分析が時間かかるんですよね。
もちろん測定方法によって様々で、値が出るまでに数分から数十分、場合によっては数時間かかることもあります。
それに対してプラントの運転って当然リアルタイムで操作します。
でも品質が遅れてやってくると何が起きるかというと、分析の結果が出てくるのが過去の情報になっちゃうんです。
プラントを運転していて、製品が出来上がったタイミングでサンプルを取ります。
それを分析室に持って行きます。
1時間後に結果が出て、不合格、品質が悪いという結果になったら、後追いで調整しないといけないです。
プラントの多くの製品は連続的にずっと製造し続けています。
その途中で数時間に1回とかサンプルを取って状態を確認します。
そんな連続的に動いている状態で結果が1時間後ってなんか嫌じゃないですかね。
1時間経って品質が悪かったので製造の仕方を調整してくださいって言われても、もう1時間運転しちゃったんですけどってならないですか。
でもこれは測定原理とか測定の仕方の関係でどうしようもないんですよね。
現状は過去の少し前のデータを使って微調整を繰り返している状況です。
ずっと後追いなんです。
そんな状況をどうしようかって考えられたのがソフトセンサーです。
成分みたいな時間がかかるデータは取れないけど、
普段自分たちが管理している温度とか流量とかって成分に関係しているはずだよねっていう話です。
じゃあ今ずっと取っている温度とか流量とかのデータを使って成分が計算できないかな。
リアルタイムで成分のデータってずっと出せないかなっていう考え方をしてソフトセンサーが始まりました。
分かりやすい話ではあるんですけど、私たちが普段Excelを使ったりして散布図を書いて相関を見るような単純な話じゃないんです。
様々なセンサーのデータが複雑に絡み合って、やっと品質のデータとして計算できます。
このために機械学習モデルを組み立てる必要があります。
様々なデータっていうのは単純にセンサーの数が1個2個3個っていう話だけじゃないんです。
化学反応を始めて1分後の温度データ、10分後の温度データ、30分後の温度データ、31分、32分、60分後の温度データ。
単純にセンサーの値を1個使うだけでも時間軸っていうのが関わってくると大量のデータになってきます。
そしてその時間軸のデータを全部使うのか一部だけ使うのか。
場合によっては化学反応を始めて1時間から1時間半のデータが大事だけど最初30分はいらないなんてこと。
ちょっと極端な言い方しましたけどあり得るかもしれないんです。
ここで私が思っているソフトセンサーの使い方っていうのを3種類紹介します。
1つ目が先ほどから話している運転状態の見える化です。
品質が遅れてしかわからないんだったら推定値でもいいんで今どんな状態かが見えるだけで創業が安定します。
2つ目が異常の早期検知です。
装置が汚れてきたとか反応に使う触媒が劣化してきたとか。
ソフトセンサーは複数の信号の関係を見ています。
それもあって物理的なセンサーよりも信号の関係が崩れたっていう見方で異常を早く検知できる可能性があります。
3つ目が制御への活用です。
1つ目の見える化に対する応用だと思ってください。
ソフトセンサーを使って出てきた値を人が見て判断して調節するんじゃなくて、
人を経由せずにプラントの運転制御装置が使うっていうことです。
リスクがあって難易度が高いですけど、これが実現できると相当大きな効果を得られます。
こうやってソフトセンサーがすごいみたいな話をしてますけど、めちゃめちゃ万能なわけじゃないんです。
連続的にずっと同じ条件で動いている場合が得意です。
ソフトセンサーの導入と運用
もちろん推定したい品質が温度とか流量にちゃんと影響を与えているかってところも大事です。
予算や設置場所の関係でセンサーがついてないところっていうのは、当然ソフトセンサーが使えません。
あとは機械学習モデルを組みますので、今まで運転した経験があるところ、データが残ってある範囲でしか活用できません。
そこから外側は外装って言ったりしますけど、機械学習モデルは予想はしてくれるけど本当に正しいのか、
経験したことがないからわかんないっていうちょっと怖い領域になります。
運転条件だけじゃなくて設備を改造したとか、原料の種類が変わったとか、
そういうことに対しても変更直後っていうのはソフトセンサーは対応できません。
新たにデータを収集して機械学習モデルを新しく構築してやっと使えるようになります。
だからこそ、今このソフトセンサーが信頼できる値の状態になっているかっていうのを常に意識しておかないといけません。
分析室で見ているような指標の場合は、定期的に測定をしてソフトセンサーとの差を見て調節するっていうのがいいと思います。
一定以上のズレが出たら再学習が必要という判断です。
ソフトセンサーの導入までの流れを簡単に紹介します。
まずは目的を決めましょう。
何を推定したいんでしょうか?
この品質を見たいって決めるだけじゃなくて、
この品質をソフトセンサーで見たことでどんな良いことがあるのか、そこまで決めないといけないです。
具体的には誰がどんな指標を見て何に使うのか、そこまで決めておかないと
頑張ってソフトセンサー入れたけど使えないってなる形、よく聞きます。
そして2段階目がデータを揃えるところです。
地味なんですけど、かなり重要な要素です。
データ分析の世界では、ガーベッジイン、ガーベッジアウトという言葉があります。
ゴミのデータを入れたらゴミの結果しか出てこないっていう意味合いなんですけど、成果を決めるのはデータです。
データに欠損があったら困りますね。
1秒周期で細かく見ないといけないデータなのに、1分周期だったら正しく捉えられません。
場合によってはデータの時間が間違っているなんてこともあり得ます。
実際に手元に保存されたデータは12時のデータなんだけど、実際は11時の時の1時間前のデータだったっていうこともあり得ます。
この原因っていろいろあるんですけど、パソコンの時刻設定が狂っていたとか、参照している時刻が実際の計測した時刻じゃなくて、
CSVにまとめてファイルとして作成した時刻を保存している場合もあります。
取得しているデータが何を意味していて、目的の品質とか指標に合っているかっていうのは詳細に確認するようにしてください。
そして3段階目が機械学習モデルを作ります。
モデルって聞くとちょっと難しい感じがするんですけど、最初から難しいモデルを使わなくて大丈夫です。
Excel でできるような創価を見るようなやつ、単回帰って言ったりします。
もしくは10回帰、複数の測定データを使って創価を見るような感じで。
あとは PLS とかリッチ回帰とかラッソ回帰とか、昔から使われているようなモデルってのもあります。
こうして比較的優しい形のモデルを選んで、それでもダメだったら、もっと難しいニューラルネットワークっていうやつですね。
ディープラーニングを使って予測するところまで考えていきます。
だんだんと測定精度は上がってくるとは思うんですけど、逆にブラックボックス化してきます。
なんでそういう判断をしたのかが分かりにくくなって、導入時に現場の方から本当にこれ大丈夫なんですかって聞かれる場合もあります。
用途に合わせてモデルをうまく調整してください。
そしてモデルが出来上がったら検証していきます。
実際に用意したデータで精度があるのは当然です。
大事なのは実際の運転に合っているかというところです。
ここで一番最初に決めた目的に立ち返ることになります。
何のためにその指標を使うか、何でソフトセンサーを作るかという目的によって、
現実とちょっと合わないなーって思っても意外と使える場合があります。
あなたの作ったソフトセンサーって精度が100%とか求められるものですか?
80%でも使えるような用途ではなかったですか?
モデルの精度の良さっていうのと、実際に目的に合った使い方ができるかってところは違います。
複雑なモデルを組み上げて精度を上げたところでそんなに効果が変わらないんだったら、
そこそこのモデルで計算量を少なくしてすぐ導入できるようにした方がいいと思います。
最後にモデルが出来上がったら保守と運用です。
ソフトなセンサーと言いながらも劣化します。
それは物理的な情報をもとにソフトを組み上げているからです。
原料が変わったり、触媒が劣化したり、熱交換器が汚れたり、運転の仕方が変わったり、
いろいろずれる条件があります。
ソフトセンサーと実験計画法
定期的に性能を確認してズレを見るのはもちろんなんですけど、
原料が変わったりとか装置が変わったりとか、何か変更点があるときに連絡がもらえるように、
すぐ対応できるようにするっていう関係構築も大事になります。
そこの仕組み作りまでが重要です。
最後にお便りでいただいた実験計画法、タグチメソッドと機械学習の比較の話をします。
タグチメソッドっていうのは、品質を作り込んで、
ばらつきに強くするための考え方とか進め方をまとめたようなものだと考えてください。
その中で使われるとても有名なものが実験計画法です。
実験計画法っていうのは、少ない実験回数で目的の条件にまで到達させるような実験のやり方ですね。
とても有名なのが直行表っていうものです。
理科の実験で対象実験っていう言葉聞いたことないでしょうか。
3種類ぐらい条件があって、その中のどれが効いてるかを確認するために、
2つを固定して1個を変更させて、このパラメータが効いてたんだなっていうのを理解するようなやり方です。
わかりやすいんですけど、よく考えたらこれ、条件がたくさんあると地獄みたいな実験になりますよね。
少しパラメータを増やしてみます。
温度と時間と濃度と混ぜる速度と量と、5種類の条件をそれぞれ3段階で試したいとします。
時間だったら5分と60分と2時間と、いろいろありますよね。
5個の条件を3段階で試したいってなると、3の5乗で243通りになります。
現実的じゃありません。
たぐちメソッドの直行表を使うと、組み合わせ表というものがありまして、
代表的な組み合わせだけを試すことで、少ない実験回数だけで要点をつかめるようになります。
たぐちメソッドの実験計画法は、うまいことデータを取ってくるような仕組みっていう感じですかね。
それに対して機械学習っていうのは、たぐちメソッド、実験計画法で得られたデータを活用して、
モデルを組み上げて、何かの予測をするっていうものです。
改めて整理しますと、実験計画法でデータを集めて、機械学習モデルを組み上げるということになります。
ソフトセンサーは機械学習モデルで作るっていう話はしました。
例えばソフトセンサーを作りたいけど、過去のデータに変化が少ないとき、
ずっと同じ運転していると、温度も流量もあんまり変わらないんですよね。
そうすると、どのパラメーターが効いているかっていうのもわかりにくいですし、
ちょっと条件が変わっただけで、使い物にならないソフトセンサーになっちゃいます。
こういう時は現場の対応できる範囲内で、温度とか流量を大きめに上げ下げしてデータを集めるっていうことをします。
その上げ下げの操作をどんな組み合わせでやったらいいかって考えるのに、実験計画法は向いてると思います。
さすがに現場的には、ずっとパラメーターを変更して情報を集め続けるっていうのはあまり好きじゃないですね。
意図を持って、必要最低限の変更で終わらせるということをするために、実験計画法が向いています。
ちなみに最近、適応的実験計画法という言葉も出てくるようになりました。
適応的実験計画法の利用
機械学習モデルを使って実験計画を立てる手法です。
今までのデータを使って機械学習モデルを作って、だいたいこの辺はこういう成果が出そうだぞっていう予測を立てます。
その予測をもとに、1回実験をしてみて、成果を出して、
1個実験が終わったら、また新しい機械学習モデルを作ります。
新しい機械学習モデルが推奨する条件で実験して、また新しい機械学習モデルを作ります。
それを繰り返すことで、すごく短期間で目的の精度に到達できるっていう事例も多々あります。
人が実験条件を決める時って、20度で上手くいったから、次25度に上げようとか、30度に上げようとか、
上手くいった、次40度に上げてみて、なんか微妙だったなってなるから、
チャンピオンデータで30度にしようとか、そんな決め方はすると思うんですよね。
適応的実験計画法のイメージとしては、20度とか10度とか、何種類か実験データがあるとしますね。
その結果を元に、60度だったら性能が良いものができる確率が高いと出したりします。
20度から急に飛んで60度で実験して、その幅広い実験結果を使いながら、最終的に32度にしてみてくださいとか、
そういうような提案の仕方になっていきます。
人間がやると、良い結果が出たから、その付近をやってみようってなりますよね。
適応的実験計画法を使って機械学習モデルを参考にして、客観的に実験計画を立ててもらうと、
ちょっと人間だと考えつかないような飛んだパラメータの設定をして、これでどうですかっていう提案をしてくれます。
将来的にはロボットが実験して、その結果を元に機械学習モデルで次の実験計画を立てて、またロボットが実験して、計画を立てて、
っていう感じで、無人でどんどん高い性能の製品ができる可能性があります。
まだちょっと先の話なんですけどね。
現状は人が分析しないといけないんで、結果のフィードバックがやっぱり時間がかかっちゃいます。
出来上がったサンプルが大量に並んで、分析に追われているような話も私は聞いたことがあります。
本題はここまでで、最後にお知らせです。
持続可能なポッドキャストライフを過ごすため、2025年は28日の放送で終わります。
2026年の放送開始は1月7日を予定しています。
ご想像の通り、実家に帰ります。
皆さんも無理のない年末年始をお過ごしください。
今回はここまでです。
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それではお聞きいただきありがとうございました。
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