1. 志賀十五の壺【10分言語学】
  2. #124 歌舞伎十八番『外郎売』..
2020-07-01 11:07

#124 歌舞伎十八番『外郎売』と音声学:後編 from Radiotalk

アワヤ咽、サタラナ舌に、カ牙サ歯音。ハマの二つは唇の軽重。

「五音」は中国語の記述のため、IPA は世界の言語音の記述のためなのでそれぞれ目的が異なります。そのため、五音は五音で完成された手法です。五音が不完全みたいな印象を与えちゃってるかもしれない、すみません…。

関連トーク https://radiotalk.jp/talk/255989

ほんとは「ひ」も声門閉鎖音ではないんですよね。

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始まりました、志賀十五の壺。皆さんいかがお過ごしでしょうか。志賀です。
今回のトークはですね、前回の続きとなっておりますので、まだ前回のトークお聞きになってない方は、ぜひそちらから聞いていただけたらと思います。
で、何の話をしてたかというとですね、お便りに回答するということだったんですよね。
そのお便りっていうのは、歌舞伎十八番の『外郎売』に出てくるですね、
サタラナシタとかカゲ・サシオンっていうのは何なのかっていうね、そういう質問だったんですよ。
で、これは日本語の詩音の発音の仕方について、つらつら言ってる箇所なんですよね。
なので、その本題に入る前に前回はですね、現代言語学において、
もっと言うと音声学においてですね、詩音っていうのがどういうふうに分析されているかということをお話ししました。
ざっとおさらいしとくと、
詩音っていうのは3つの観点で特徴付けられます。
一つは有声音か無声音か、これは声音と濁音みたいなね、大まかにそういう違いというか対立であると。
2つ目は聴音位置、つまり唇を使うのか歯茎を使うのか喉の奥の方を使うのかとか。
3つ目の観点は聴音方法、つまり破裂させるのか摩擦させるのか接近するだけなのかというね、
こういう3つの観点から詩音っていうのは特徴付けられるとお話ししました。
もっと詳しく知りたい方は、ぜひIPAっていう便利な国際的に定められた音声記号の表がございますから、そちらを参照してくれと前回はそういうお話をいたしました。
やっと今回その本題のういろうりのところに入っていくんですが、
該当歌詞をもう一回読み上げておきましょう。
あわやのど、さたらなしたにかげさし音、はまのふたつはくちびるのきょうじゅうというとこです。
これはですね、先ほども申し上げました通り、
発音の仕方を、もっと言えば詩音の発音の仕方をつらつら言っている歌詞です。
これは現代言語学ではなくですね、
語音と言われるですね、中国の音声学というか音韻学と言ったほうがいいのかな、中国音韻学の用語を日本語にも応用しているということになります。
それは当然中国はかなり歴史が長いですから、学問的にそういう発音の仕方を研究してきた歴史があるということですね。
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それを朝鮮半島を通して日本にも入ってきたということです。
なので先ほど言った、現代の言語学の詩音の特徴付け方とは若干異なります。
それが良い悪いではなく、中国から伝わってきた独自の方法で詩音を特徴付けているということです。
では一つ一つ見ていきましょうか。
最初はあわやのどなので、あ行とわ行とや行はのどを使って発音するというふうに言われているんですね、最初。
つまりこれは先ほど言った調音位置によって特徴付けているということです。
本当はのどっていうとはひふへほとかそういうのが現代言語学の音声学だと当たるんですが、
中国の伝統的な研究だと、のどの音っていうのは、詩音が何もない場合、つまりあ行をみたいな場合とか、
半母音とかや行をとかですね、現代言語学だと接近音とか言ったりもしますが、
こういうものをのどの音と分類しているので、
いきなりのどと言われるとうんとするところがあるんですが、そういう分析の仕方だとあはやっていう行の音はのどの音ということになります。
次ですね、さたらなした、これはさ行、た行、な行は下の音だということなんですが、
これはね、現代言語学というか、現代の音声学においてはですね、あまり下の方で調音位置っていうのを定義しないんですよね。
下っていうのは大抵使うので、どんな詩音を発音するときにも、むしろ下が対応する口の上側っていうんですか、そちらの方を使って詩音を定義します。
なので、さたらなは、現代音声学だと全部歯茎音にあたるものだと思います。つまり歯茎を使う音ということになります。
なのでやはりこのさたらなしたっていうのも、さ行、た行、な行、ら行の発音はその下を使うぞっていうその調音位置で定義しているということですね。
次はかげさ詩音ですが、まずかげから見ていきましょうか。このかげっていう芸は牙っていう字を書くんですが、この牙っていう字を使う詩音のことをが音というようです。
これは現代音声学だと南高外音と言われるものです。これはかきくけ子とかがぎぐげ子、あるいは美濁王のがぎぐげ子っていうものもこの南高外にあたります。
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なのでやはりこのかげさ詩音のかげのとこも調音位置で特徴を続けているということですね。
次のさ詩音のとこは、さ行は詩音に分類されるよということなんですけど、この詩音は歯の音と書いているので一見調音位置のようなんですが、
でもこれどちらかというと調音位置と調音方法がちょっと混ざっているような分類の仕方だと思います。
詩音というのは確かに歯のあたりを使うんですけど、それプラス摩擦っていう特徴も併せ持った詩音のことを詩音と言っているんだと思います。
というのは実際さたらなしたでさっていうのは下の方に分類されているので、
作業が2回出てくるということですね。
なのでさたらなしたの方は純粋に調音位置で分類していて、つまり歯ぐきを使う音として分類していて、
さ詩音の方は作業は摩擦音ということを強調しているというか述べているということになります。
最後ですね、歯間の2つは唇の矯順。
これは面白いですよ。歯は置いておいて、まの方から見ておくと、これは唇を使う音ということでマミムーメを持って唇を使うので。
なんで歯がここにいるんだよってことですよね。
でもこれは間違いじゃないんですよ。
というのはファフィフフェフォっていう音は昔ファフィフフェフォっていう唇を使う音だったんですよ。
昔。これね過去のトークでお話ししているので、そのリンクも貼っておくので、合わせてそちらも聞いていただきたいんですが。
実際にファフィフフェフォっていう両唇を使う摩擦音であったということが分かっています。
さらにね時代をね遡るとパピプペポっていう音だったんですよ、ファフィフフェホって。
もともと唇を使う音だったんですが、パピプペポがその唇の閉鎖がだんだん弱まってファフィフフェホになって、
さらに後ろにずれてですね、調音位置がファフィフフェホになって、フだけ現代日本語では唇を使ってますが、
それ以外は全部喉の奥の方、摩擦音って専門的には言うんですけど、
そうなってしまって現代の形に至っているということです。
一応ひととりお話ししましたが、あわやのど、さたらなしたにかげさし音、はまのふたつはくちびるのきょうじゅっていうここの部分はですね、
基本的に真音、口のどこを使って発音しているかっていうその調音位置によって特徴を付けているということになります。
1個だけそのさし音の部分は、調音位置というよりは調音方法ですね、摩擦音ということを特徴付けていると言っていいかもしれません。
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中国の伝統的な中国音韻学ではそういうふうに考えられていたという面白いことですね。
こういうふうに昔の中国音韻学では調音位置っていうのを重視していたのに対し、
現代の音声学では有声化無声化とか、もちろん調音位置がどこかとか、あとは調音方法ですね、破裂なのか摩擦なのか、
こういう3つの観点で特徴を付けるのがスタンダードであると、そういうふうにまとめることができます。
さあいかがだったでしょうか。
なかなか面白いですね。特にその浜の2つは唇の胸中というとこから、やっぱり波行は昔は唇を使う音だったということがね、この
歴史的に確かめられるというかね、そういうとこも面白いですね。
あとは、前回もお話ししたんですが、ぜひIPA、
日本語だと国際音声記号っていうのをね、ぜひ勉強してみるといいと思います。
これがわかると世界中のどんな言語でも理論上は発音できるぞと、こういうことになっているんでね。
というわけでお便り、送っていただいたですね、匿名の岡山出身の方、どうでしょうね、お答えになってますかね。
今回のお便りでですね、いつもそうなんですけど、僕自身大変勉強になりました。ありがとうございます。
今後もどんどんお便りの方を募集しておりますので、言語学に関係なくてもいいので、
大抵のことは答えようと思ってますから、ぜひぜひ送っていただけたらと思います。マシュマロのリンクも貼っつけておくので。
というわけで今回はここまで。
ということで、よろしかったら番組クリップお願いいたします。ではまた次回お会いしましょう。ごきげんよう。
11:07

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