どうも皆さんこんにちは、文学ラジオ空飛び猫たちです。この番組は、いろんな人に読んでもらいたい、いろんな人と語りたい文学作品を紹介しようコンセプトに、文学と猫が好きな二人がゆるーくトークするラジオ番組です。
お相手は、私小説が好きな岡井のダイチと、羊を巡るカフェのミエの二人でお送りします。
文学のプロではない二人ですが、東京と京都をつないでお互いに好きな作品をそれぞれの視点で紹介していく番組です。
番組概要欄に詳細情報を記載しているので、初めてお聞きになる方などそちらを見ていただけるとありがたいです。
今回紹介するのは、久しぶりに日本人作家になります佐藤康史さんの「そこの身にて光り輝く」になります。
川出文庫から2011年に出版されているもので、単行本はもともと1989年に出版されています。
こちらですが、年始にリスナーの方からリクエストをもらった作家さんでして、
日本人作家だけど海外文化を読むような格好を味わえるということで、ご推薦いただいたという形でしたっけ?
そうですね。それをリスナーの方から教えてもらって、ちょっと調べるとこれは面白そうかなと思って候補に入れたというところですね。
個人的な印象ですけど、三重さんが押しているような印象があって、よしよしと思って今回読ませていただきました。
初めて読む作家さんなんですけど、海外文学を読んでいるような読みごたえがあるというのをリスナーの方に教えてもらったので、
そこにすごく期待してしまったというのがありますね。
後ほど述べるんですけど、佐藤康二さんが村上春樹さんとは同い年というところがあって、生まれが出て。
それも何か通じるものがあるのかもしれないという、そんなちょっと期待を抱きながら推薦したというところなんで。
なるほど。読んでみてこの後具体的に話しますけど、確かにちょっと今の時代から読むと結構やっぱりイメージがしにくい部分が多少あるかもしれないんで、
そこが海外文学を読んでいる感覚とちょっと私はリンクするなぁとは思いました。
なるほど。そこは思ったより読みやすかったんで、いかにも昔の日本人作家がちょっと堅苦しく書いているとか、そういうのとはまた違っていて、
すごくちょっと個性的な作家さんだなと思って読んでましたね。
では、この佐藤靖さんは1949年生まれの方で、村上春樹さんと同い年で、ただ1990年にもう41歳という若さで自殺をされています。
芥川賞に5回候補になったんですけども、受賞できなくて、生前はあまり評価されていなかったようで不遇の作家と調べると言われていたりします。
ただ2007年に佐藤靖作品集というのが発表されてから評価されるようになって、そこから2010年以降、佐藤靖さんの作品がどんどん映画化されるようになりまして、
今回の「そこの身にて光り輝く海端子情景」など5本の原作が映画化されています。
佐藤靖さんの作品の特徴として、作者が生まれ育った北海道の函館市を舞台に描いているというのが多いです。
私、映画はですね、「そこの身にて光り輝く海端子情景」とオーバーフェンスというのを見たことがあります。
みなさん映画は見てないんですよね?
そうですね、映画は見てないですね。
ちょっと私も見てるんで、原作との違いは後ほどお話しさせていただきたいと思います。
映画の「そこの身にて光り輝く海端子情景」を三保監督という方が撮っていて、
綾野剛が主演。
池巻千鶴とか須田雅紀が出演していて、脇を固めているというような映画でございます。
ちょっと後で詳しく話しますけど、原作と映画で設定に違いがあって、読んでみてすごく面白かったです。
個人的にはこのオーバーフェンスという映画が良くて、
織田桐生と青井優が主演だったんですけど、監督も違う人が撮ってるんですが、
かなり私はオーバーフェンスという映画にハマりましたね。
「君の鳥は歌える」っていうのも結構有名な作品であるんですけど、
佐藤靖さん原作の作品で。
こちらまだ見てないんで、ちょっとこの機会に見てみようかなと思いました。
多分今日収録しているのが日曜の午前中なんですけど、
今日の夜ぐらいなんか見そうだなって感じですね。
僕もどれか映画は見たいですね。やっぱり。
「そこのみて光輝く」やっぱりいいんじゃないですか?
そうですね。後でまた話しすると思うんですけど、
まだ映画は撮っておきたいなと思います。
なるほど。わかりました。
躊躇してしまうかもしれない。
了解しました。じゃあその話ちょっと楽しみにしておきます。
じゃあ具体的に作品紹介入っていきたいと思います。
今回のそこのみて光輝くなんですが、
まずどういう小説かというと、さっき出版は1989年に出版されたとあるんですけども、
もともと1985年の文芸に掲載された作品であり、
時代設定としては70年から80年代ぐらいのイメージで書かれているんじゃないかなと思います。
この登場人物たちの置かれている立場みたいなところで言うと、
労働者階級って言うとちょっとそれで一括りにはできないかなとはちょっと思っているんですけれども、
高度経済成長期の話ではあると思うので、そこの影の部分というか、
ややこの底辺にいるような人たちがこの登場人物たちに据えられていて、
ここがちょっと現代から見るとちょっとイメージがもしかしたらしにくい部分もあるのかもしれないなとは思います。
確かに今とは違ったまた空気感というと変かもしれないんですけども、
本当作品の中には独特な地方都市ならではというか閉塞感とか大廃的なところとかありまして、
時代的に社会が経済成長していって、街の形というのもだんだん変わろうとしているんですけども、
その中で主人公の周辺だけは光が当たっていない感じというのがあってですね、
結構その辺がこの作品の暗さというところになっているのかなというのがありますね。
あとはこの作品に影のあるようなところがあるので、
主人公たちの生活にあるのは本当に酒とか煙草とかパチンコ競馬で、
本当に住んでいるところのすぐ近くに闇社会というかですね、暴力というかそういうのもあるし、
そういう人たちが会話というのはやっぱりちょっとぶっきらぼうなところがあったりしてですね、
なかなか普段自分たちが生活している様子とはちょっと違った生活様式というのがありますね。
その映像とか他の作品とかでもこういうのは全然描かれていると思うんで、
イメージはできる部分はあると思うんですけど、
今回私読んでみてちょっと感じたところはあるので、
それはちょっと後でこの辺りについて話させていただきたいと思っています。
ではあらすじを紹介していこうと思います。
北の海、海辺の町で男はバラックに住む女に出会った。
二人が引き受けなければならない試練とは、苦さと痛みの彼方に生の輝きを見つめ続けながら
生き急いだ作家佐藤康氏が残した唯一の長編小説にして代表作。
青春の夢と残酷を結晶させた伝説的名作が20年を経て蘇る。とあります。
なんかこのあらすじいいっすよね。
なんかあれ、伝説的名作が20年を経て蘇るっていうのがいいワードですよね。
じゃあちょっとこれだけだとイメージしかつかめないと思うので、
ゆっくりこの小説がどんなストーリーかっていうのを私の方から話させていただきたいと思います。
こちら二部構成になってまして、第一部がそこのみて光輝く。
第二部が滴る日の雫にもというタイトルがついておりますが、二部構成になっております。
第一部は主人公の辰夫という人物がいるんですけれども、その辰夫がタクチという男にパチンコで出会うところから始まります。
辰夫がタクチがライターがないからライターを貸してくれと言われたことから、二人は話すようになって、その流れでタクチの家で飯をごろぞということになって、ご飯を食べに食事をするためにタクチの家に訪れます。
タクチの家を訪れた辰夫は、このタクチの家はですね、再開発されて高層住宅が立つようになった本宮の町に一軒だけあるみずぼらしいバラックの家でした。
ここで食事に来た辰夫は、タクチの姉である千夏という女性と出会います。
千夏は家に入った時に、ふらっと下着姿で出てきて、弟のタクチが飯を作ってくれと言うと、チャーハンを作って食べさせてくれました。
辰夫と千夏はこの時、お互い何かを感じ取り、その後二人は会うようになっていきます。
辰夫なんですが、造船会社で働いていました。ただ、今は退職して無職でいる状態です。
造船会社が経営不振で、労働組合が大規模なストライキを起こしていて、早期退職の話が出た時期で、辰夫自体はこの組合活動に誘われたんですけども、
そんなものに関わりたくないということで、関わる気もなく辞めてしまったという状況です。
現在彼は失業保険で暮らす無職、退職金で暮らす無職でございます。
一方、千夏の家は子供の頃から侍部族の子と言われ、この地域で差別されてきました。
過去には差別でからかわれたことが原因で、弟のたくじが衝動的にかとなって相手を刺してしまい、刑務所に入ったこともあります。
千夏の一家は父親が寝たきりになっており、母親が介護をしており、その生計は千夏が水商売で稼ぐことで一家の暮らしを支えている、そんな状況でした。
そんな底辺の暮らしをする千夏は、30目前の自分にはもう精神はできないと諦めていたが、辰夫はそんな千夏と一緒になろうとしていきます。
第2話はちょっと時間が経っており、辰夫と千夏は結婚して、すでに3歳の娘がいるという状況になっています。
辰夫は生活に車が必要なことから、千夏の弟のたくじに紹介してもらった松本という男がいるんですけれども、その男から4万円でボロボロの中古車を譲ってもらいます。
この松本という男なんですけれども、たくじとサウナで一度だけ出会ったことがある中で、この松本というのがなかなか気の良い男で、紹介してもらった辰夫はすぐに打ち解けます。
松本は鉱山を経営する会社の取締役をしていて、過去に事故で片目が潰れており、常にサングラスをしているという状況でした。
この中古車の受け渡しをきっかけに、中会社たくじは松本の元で鉱山で働いて一攫千金を当てるということを夢見るようになります。
一方で松本側は辰夫を自分の仕事の相棒として誘うようになってきました。
辰夫は現在水産加工工場というところで働いていて、なんとなくその現状に満足しないということが松本にあっさり見抜かれてしまい、
いろんな葛藤があるんですけれども、最終的には松本と共に鉱山に行って働きたいと思うようになります。
辰夫は松本たくじと共に鉱山に行くことを決意して職場を辞めました。
だけどその後、事件が起きて物語が終わりに向かっていくという流れになっています。
これがざっくりとしたストーリーですね。
ちゃんと生きていく術があったのに、なんでこんな孤独な人間になっていったんだろうというのは不思議に思ったりはしたんですけども、
そんな達夫が出会うタクジというのも憎めないキャラで、
見方とは純粋なんですけど、やっぱり光影があるということですね。
光のところでは本当にかわいい弟分みたいな感じなんですけど、
やっぱり影があるというか、それを生まれ育った環境というか、差別というところにそこがずっと引っかかったキャラでもあって、
何か逃れられない運命の下で生きている感じがして、タクジも見方によっては面白いなと思ってました。
これはもちろんヒロインの千夏という人も、第1部と第2部で読んでいると印象が変わっていましたけども、
千夏というのもヒロインなんですけども、達夫が一匹狼なら千夏も一匹狼みたいなタイプで、
ちょっと突き放した相手を見ているというか、冷めた目で見ているというかですね、
そんな2人が出会って惹かれるというのはすごく良くて、
あとは個人的に好きなのは2部から出てくる松本なんですけど、
この松本がやたらかっこよくて、この松本に関してはめっちゃハードボイルドなんですよね。
片目はちょっと事故で潰れて見えなくなってしまったんですけど、そんな話をしている時に、
でも洞察力とかはやっぱりすごくて、
そんな会話の流れで、片目になってからは他人がよく見えるようになったのさとかですね、
そんなかっこいいセリフがさらっと入っていたり、
あとちょっとこれは村上春樹の小説に出てきそうなセリフだなと思ったところが1箇所あって、
これも結構終盤の場面なんですけど、松本が過去に離婚をしていて、
なんで離婚したのかというのを達夫が聞くんですけど、
それに対して、いいかい、理由なんか話したら1日かかっても足りない。
他人のことはそんなものだろう。俺たちは若かった。いろいろあった。
やあと言って結婚して、じゃあと言って別れた。それだけだよ。
お酒切り取るとめっちゃ村上春樹に出てきそうだなと思って、
でも松本が言うとすごい、どのセリフも良くて、
ちょっとかっこよく書きすぎてるんじゃないかなと思うところもあったんですけど、
好きなキャラでしたね。
松本のセリフとか行動とかには松本の経験みたいなのがすごく感じますよね。
経験してることは描かれてないけど、
彼が経験してきたことが反映されてるっていう人物の作り方をされてるなと思うんで、
かっこいいですよね、ここはね。
そうですよね。ちょっと一人だけ大物感があるというかですね。
うんうん。
本当にボスとかで出てくるんじゃないかって思う。
人が味方になっていく。
私ちょっとこの小説で気になったのは、
この登場人物たちの感情の描き方っていうか、
そこはちょっと結構短いながらすごく上手いなと思ってまして、