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ニュースなんかを見ていると、ひどい事件が毎日のように報じられていて、信じられないような残忍な行いをする人間のことが目に入るわけです。
そういった人間に対しては、怒り、憎しみさえ覚えるし、当然、そんな人間は軽蔑されて罰せられるべきであると感じるのが自然な反応なわけで、
実際、ニュース番組の出演者や番組に対してコメントをする人は、そんな意見を述べるわけです。
逆に、自らを犠牲にして他人を助ける人とか、絶え間ない努力で社会に貢献する人っていうのもいたりして、そういった人間には大きな賞賛が寄せられます。
でも、どうして悪い行いをする人と、いい行いをする人がいるんでしょうか。
つまり、善人とされる人と、悪人とされる人の違いっていうのは何なんでしょうか。
善悪っていうのは道徳倫理の問題なわけですが、人間が生物である以上、その行動には生物学的な理由があるはずです。
今日は2つの研究を紹介した後に、それらの研究が意味するところを考察します。
ホットサイエンティストへようこそ、サトシです。
一つ目の論文は、2024年3月にサイエンティフィックリポートに発表された福井大学の倉田沢らによる研究です。
テレビなんかを見ていると、子供の虐待とかネグレクトの事件が頻繁に報じられたりしていて、とても見続けていられなくてチャンネルを変えてしまうような事例を頻繁に目にするわけです。
虐待っていうのは稀なことではなくて、全世界では毎年1億人程度の子供が虐待を受けているっていう推計もあります。
なぜ子供に対してそんなことができるのか理解に苦しむわけですが、虐待を行う保護者、多くの場合は親は、
暴力を自分でもコントロールできず止められないことに親自身も苦しむそうです。
だからどうして親がそのような行動をするのかを調べることが虐待を防ぐにはまず必要なわけで、この論文では虐待をした親の脳を調べるっていうことをしています。
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具体的には虐待をしていた母親11人と、比較の対象のために40人のそうでない人の脳をMRIを使って調べました。
拡散テンソル画像法と呼ばれる手法を使っているんですけれども、この手法では脳内の神経の繊維の構造を詳しく調べることができます。
解析の結果ですが、虐待を行う親の脳の特定の領域に構造の異常が見られることがわかりました。
この場所が衰退炉と呼ばれるところで、自発的な運動にとって重要な領域だそうです。
今回見られた異常のタイプが衝動性と関係あるようなものだということでした。
だからこの結果から、虐待を行う親では脳の特定の領域に異常があって、
衝動的に体を動かすのを止めるっていうことができなくて虐待を行っているという可能性が考えられます。
さらにこの研究では母親自身の幼少期の虐待経験についても質問していて、
それと脳の構造的異常との関係を調べていて、その結果有意な相関があるということを報告しています。
つまり母親自身が虐待を受けていると脳に異常があることが多いということです。
ということは、虐待を受けると脳に異常が生じる。
そして脳に異常がある親はその子供に虐待を行うという虐待の連鎖の仕組みを示唆しているわけです。
もちろんこういった研究は相関関係を見ているので、
確かに脳の異常が虐待の原因であるというような因果関係を証明することはできません。
でもそういった証明を人間で行うことは非常に困難で、
虐待を行う親には脳の異常があるということを示したこの研究は価値のあるものです。
そして脳の異常が虐待の原因であるのであれば、何かの加減で衝動的に手を挙げそうになった時に多くの人ではそれを止めることができるのに、
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その手を止めるための脳の領域に異常があって本人の考えとは関係なく止められない人、それが虐待を行う人であるということです。
さらに、その人がそうであるのも自身が虐待を受け、しかもそれが脳の異常として残った運の悪い一部の人であるからかもしれないということなんです。
次に紹介するのは、犠牲を払って他人を助ける人とそうでない人の違いは何かを調べた研究で、
オランダ王立芸術科学アカデミーのカリオピ・イウム・パ・ラによる2024年5月のサイエンティフィックリポートの論文です。
シナスタジア、共感覚と呼ばれる現象があるんですね。
これは何か一つの刺激があった時に、通常の感覚だけではなくて別の感覚が起きるっていうものです。
有名なものとしては文字と色の共感覚で、特定の文字に特定の色が見える。
例えばAって書かれていたら、それが黒の字であっても赤く見えるみたいな感覚で、一部の人はこういうのを強く感じるということです。
この共感覚の一つとされるもので、ミラーペイン共感覚というものがあります。
ミラーは鏡、ペインは痛みのことで、誰か他人が痛がっているのを見ると自分も同じ痛みを感じるっていう現象です。
だからミラー共感覚のある人は、例えば手の怪我をした人を見て気の毒だな痛そうだなって思うだけではなくて、自分も同じその痛みを感じるっていうことになります。
つまり他人の痛みが本当にわかるっていうことなので、こういう人は普通の人よりも他人に対してより思いやりがあるんではないかっていう考えのもと、この研究は進められています。
で、実験としてはミラーペイン共感覚があるという人とそうでない人を実験参加者として集めてきて、その違いを調べていくわけです。
でも人にあなたは思いやりがある人間ですかってただ聞いても、みんなまあそうだって言うんで意味のあるデータは取れないんです。
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そこで実験をすることで実際に自己犠牲を払って他人を助けるようなことをするかどうかを調べています。
その内容ですが、実験参加者には2人組のチームを組むと説明します。
でも実際はその一人は研究者が準備した演者です。
で、この演者の人は別室に連れて行かれて、その別室の様子を実験参加者がモニター越しに見ているっていう状態になります。
で、研究者が準備した演者の方には手に電気刺激が与えられるんですね。
で、これが痛くてこの演者は苦しそうな表情を見せるわけですが、この様子を実験参加者は見ているということになります。
で、実験参加者の方には役割があることが説明されて、まずお金が与えられます。
これは本当に価値があるお金で、実験が終了した後に持ち帰ることのできるものです。
でもこのお金を使うっていうこともできて、お金を払えば金額に応じて演者に与えられている電気刺激を弱くすることができると説明されます。
だから実験参加者はお金を払うっていう自己犠牲をして、赤の他人が痛がっているのを助けるかどうかっていう選択をするということになります。
で、これを実験参加者としてミラーペイン共感覚のある人とそうでない人で行って、共感覚の人はより自己犠牲を行うかを調べるわけです。
さらにこの一連の流れをしているときに、実験参加者はMRIの中に入ります。
それで参加者の脳の活動を測りながら行うということになります。
ちなみにこの痛みを感じる演者の方なんですけれども、実はすべて事前に録画をされたビデオで、同じビデオを見た上で個人ごとにそれに対する反応が違うかを比較するというわけです。
で、結果ですが、まずミラーペイン共感覚があるという人は、よりたくさんのお金を払ったということでした。
だから痛みから他人を助けようとする度合いが強いっていうことで、ミラーペイン共感覚の人はより人助けをするということのようです。
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さらに脳の活動についてですが、ミラーペイン共感覚の人と普通の人では違いがあったということです。
他人が痛がっているのを見たときに、ミラーペイン共感覚の人では体制感覚やっていう領域で活動がより強く見られたということです。
で、この領域は通常は自分の体が触れられた時とか痛みがあった時だけに活動する領域だということで、ミラーペイン共感覚の人は他人が痛がっているのを見ただけで、まるで自分が刺激を受けているかのような脳の反応を示していたということです。
主な研究は以上で、ミラーペイン共感覚の人は普通の人よりも自己犠牲を払って痛がっている他人を助けるということが分かりました。
これは実際に脳の中で他人の痛みを自分の痛みのように感じているからだろうということです。
自らを犠牲にしてでも他人を助けるような人は世間から称賛されるわけですが、その人が清い心を持っているとかそういうことよりは脳の中に他の人とは少し違いがあって、他人の痛みも感じるのでそのような行動をとってしまうっていう風に、
少なくともミラーペイン共感覚の人については理解することができます。
今日は子どもの虐待と自己犠牲についての論文でした。
自らの欲望とか衝動を抑えられずに他人に危害を加える人間は軽蔑の対象になりますし、それを抑えて社会的に善であるとされるものを優先する意思のある人は称賛されるというわけで、これが当たり前であるっていうのは一般的な感覚であると思います。
そしてそう感じるのは当事者が良い行い悪い行いを選んでやっている、意思を持ってやっているからと考えられるからではないでしょうか。
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しかし、この本人が選んでやっているっていう考えに異を唱える人もいます。
特に有名なのがスタンフォード大学の神経科学者ロバート・サポルスキーで、彼はそもそも人間に自由意思はない、人間は選択などしていないと主張しています。
もちろん誰でも主観的には意識があって何か行動する時には自分で選択してその行動を行っているように感じるわけですし、他にもそうだろうと感じますから直感的には全く受け入れられない考えだと思います。
でも神経科学の研究から、実際には無意識の部分が行動を決定していて、意識している部分はその行動に後付けで理由をつけているだけだという側面があることがわかっています。
さらに今の自分が何をしたいと思うかは当たり前ですが、今の自分がどんな人間であるかで決まるわけです。そしてそういった欲望、衝動に対してどのような判断を下すのかっていうのも今の自分がどんな人間であるかによって決まるわけです。
でもって今の自分っていうのはそれまでの経験とか生まれ持った遺伝子で決まっています。だからその人の行動っていうのは自分では今となってはどうしようもないものと運で決まっているんです。
つまり犯罪者と成人のような人では脳自体が少し違っていて、意思と思っているものもすでに決まっていて選択の余地もなくそれぞれの行動をとっているっていう主張です。
その筋は通っている主張であると思うんですけど、なかなか直感的には受け入れにくい考えだと思います。
でもこの考えを支持する研究はいくつもあって、例えば凶悪犯罪で刑務所に収監されている人と一般人の脳のスキャン画像を比べると、衝動を抑えるのに重要な領域に目に見える異常がある人が犯罪者の方が遥かに多いっていうことが示されています。
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そういった研究があるからこそこのような主張が存在するわけです。
今日紹介したこの2つの新しい研究もこの考えを支持するものであったのではないかと思います。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。