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2021-07-10 36:15

ぶたさん文庫【赤いカブトムシ】前編1〜6章

📻ながら聴きラジオキコアベ📻
Bさんの朗読コーナー「ぶたさん文庫」から
江戸川乱歩作「赤いカブトムシ」全12章の前編、1〜6章をまとめました。
📖朗読好きの方、小学生の読み聞かせ、暇つぶしにどうぞ❤️

楽曲提供:騒音のない世界、MusMus、OtoLogic
#キコアベ #ながら聴き #はじめまして #朗読 #まとめ聴き #読書 #ぶたさん文庫 #少年探偵団 #江戸川乱歩 #青空文庫
00:08
赤いカブトムシ 江戸川乱歩
ある日曜日の午後、
田毛さと子ちゃんと木村みどりちゃんと野崎さゆりちゃんの三人が、
友達のところへ遊びに行った帰りに、
世田谷区の寂しい街を手をつないで歩いていました。
三人とも小学校三年生の仲良しです。
あら、さと子ちゃんが何を見たのか、ぎょっとしたように立ち止まりました。
みどりちゃんもさゆりちゃんもびっくりして、
さと子ちゃんの見つめている方を眺めました。
すると、道の真ん中に妙なことが起こっていたのです。
向こうのマンホールの鉄の蓋が、
ジリリ、ジリリと持ち上がっているのです。
誰かマンホールの中にいるのでしょうか。
マンホールの蓋はすっかり開いていました。
そして、その下から黒いマントを着た男の人が、
ぬーっと現れたのです。
その人は、唾の広い真っ黒な帽子をかぶり、
大きな眼鏡をかけ、
口ひげがピンと両方に跳ね上がっていて、
黒い三角のあごひげを生やしていました。
西洋悪魔みたいな、気味の悪い人です。
その人はマンホールから這い出して、
地面にすっくと立ち上がると、
三人の方を見てにやりと笑いました。
そして、黒いマントをコウモリのようにひらひらさせながら、
向こうの方へ歩いていくのです。
怪しい人だわ。
ねえ、みんなであの人の後をつけてみましょうよ。
ミドリちゃんが小さい声で言いました。
ミドリちゃんの兄さんのトシオくんは、
少年探偵団員なので、
ミドリちゃんもそういう探偵みたいなことが好きなのです。
サトコちゃんもサエリちゃんも、
ミドリちゃんの言うことは何でも聞く癖なので、
そのまま三人で黒マントの男の後をつけていきました。
黒マントは広い原っぱを通って、
向こうの森の中へ入っていきます。
世田谷区の外れには畑もあれば森もあるのです。
03:00
昼間ですから森へ入るのも恐ろしくはありません。
三人は怖いもの見たさでどこまでも後をつけました。
森の中に一軒の古い西洋館が建っていました。
あら、あれはお化け屋敷よ。
まあ怖い。どうしましょう。
その西洋館は昔西洋人が住んでいたのですが、
今は空き家になっていて、その辺ではお化け屋敷と呼ばれています。
三人は近くに住んでいるのでそれをよく知っていました。
夜、西洋館の二階の窓から赤い人玉がスーッと出ていったのを見た人があるということでした。
また、誰もいない西洋館の中から、
気味の悪い女の泣き声が聞こえてくるという噂もありました。
三人の少女が逃げ出そうとしていますと、あっと驚くようなことが起こりました。
黒マントの男が西洋館の外側をスルスルと登っていくではありませんか。
はしごもないのにまるで蛇のように登っていくと、
二階の窓の中に姿を消してしまいました。
三人はゾッとしていきなり駆け出そうとしましたが、
その時、西洋館の方からけたたましい叫び声が聞こえてきました。
それを聞くと、三人とも思わず後ろを振り向きました。
二階の窓から白い顔が覗いていました。
その顔がキャーッと叫んでいるのです。
遠いのではっきりわかりませんが、
三人と同じくらいの年頃のオカッパの女の子です。
その女の子が今にも殺されそうに叫んでいるのです。
きっとあの黒マントの男がいじめているんだわ。
三人とも同じことを考えました。
窓の女の子は何者かの手から逃れようとしてもがいていましたが、
とうとうズルズルと後ろへ引っ張られて窓から消えてしまいました。
その時、鳴き声がぱったり止まったのは、
男に口を押さえられたからかもしれません。
三人は無我夢中で駆け出しました。
そして近くのめいめいの家へ帰ったのですが、
みどりちゃんはすぐにこのことをお父さんと兄さんの俊夫くんに知らせました。
惜しいことをしたな。
僕がそこにいればきっと手がかりをつかんだのに。
少年探偵団員の俊夫くんが残念そうに言いました。
みどりちゃんのお父さんが警察に電話をかけたので、
警官たちが森の中の西洋館に駆けつけて中を調べましたが、
全くの空き家で人の影さえ見えないのでした。
06:04
西洋悪魔のような黒マントの男は一体何者でしょうか。
そしてあのかわいそうな女の子はどうなったのでしょうか。
森の中の古い西洋館の窓から
小さい女の子が助けを求めて泣き叫んでいたその翌日のこと。
みどりちゃんの兄さんの木村俊夫くんは
早速このことを少年探偵団長の小林くんに知らせましたので、
小林団長が木村くんの家へやってきました。
そして二人で森の中の西洋館を探検することになりました。
真昼間ですから怖いことはありません。
でも二人とも探偵七つ道具の懐中電灯や
絹糸の縄端子や呼ぶ子の笛などはちゃんと用意していました。
小林団長と木村くんは薄暗い森の中を通って
お化け屋敷の西洋館の前に来ました。
入口のドアを押してみますとなんなく開きました。
鍵もかかっていないのです。
二人は中へ入り、広い廊下を足音を立てないようにして忍び込んでいきました。
懐中電灯を照らし長い間かかって
一階と二階の全部の部屋を調べましたが誰もいないことがわかりました。
全くの空き家です。
どうもこの部屋が怪しいよ。
なぜだかわからないがそんな気がするんだ。
一階の広い部屋に戻ったとき小林くんが独り言のように言いました。
するとちょうどその時どこからともなく
かすかに、かすかに
おじさん、歓迎して。
あ、こわい。
助けて。
という悲鳴が聞こえてきました。
小さい女の子の声のようです。
二人はぞっとして立ちすくんだまま顔を見合わせました。
床下から聞こえてきた。
ようだ。
小林くんが首をかしげながら言いました。
するとまた、
あの、いけない。
早く助けて。
と、かすかな声が。
どこかに隠しるがありにちがいない。
どこだ。
小林くんは懐中電灯を照らして部屋中を探し回りました。
その部屋には大きな暖炉がついていて、
その暖炉の下側に丸い墓地がずっと並んでいます。
飾りの彫刻です。
09:01
小林くんはその墓地をひとつひとつ指で押してみました。
すると、
右から七番目の墓地がちょうどベルの押しボタンのように動くことがわかったのです。
小林くんはそれをぐっと押してみました。
すると、
びっくりして振り向くと、
今までそこにいた木村くんの姿が消え失せていました。
小林くんはびっくりしてそこへ駆けつけました。
すると、
床板に四角い穴がポッカリと開いていることがわかりました。
地下室への落とし穴です。
小林くんが暖炉の墓地を押したので、
それが開いたのです。
穴の中へ懐中電灯を向けて呼んでみました。
木村くんが苦しそうに答えました。
見ると、
穴の下に滑り台のような板がずっと続いています。
小林くんは思い切ってそこへ飛び降りました。
すーっと滑りました。
そしてどしんと地下室の固い床に尻餅をつきました。
やっとのことで起き上がって懐中電灯を照らしてみますと、
そこは十畳ほどの広い地下室でした。
しかし、
悲鳴をあげた女の子の姿はどこにも見えません。
向こうの壁に真っ暗なホラー穴が開いています。
その向こうに別な地下室があるのでしょうか。
木村くんが怯えた声でそのホラー穴を指差しました。
二人の懐中電灯がパッとそこを照らしました。
真っ暗なホラー穴の奥で、
ギラギラ光った二つの丸いものが宙に浮いているのです。
そしてそれがだんだんこちらへ近づいてくるではありませんか。
怪物の目です。
何か恐ろしいものがこちらへやってくるのです。
まるでヤドカリが貝殻の中から顔を出すように、
それがニュッと首を出しました。
二人は思わず声を立ててお互いの体を抱き合いました。
その体は真っ赤でした。
真っ赤な長い大きな角。
その根元に不気味な尖がった口。
二つのギラギラ光る目。
折れ曲がった六本の長い足。
それは人間ほどの大きさの真っ赤なカブトムシだったのです。
ああ、二人はどうなるのでしょう。
さっき悲鳴をあげたかわいそうな女の子は一体どうしたのでしょうか。
小林君と団員の木村君が
12:09
お化け屋敷の西洋館の地下室で
人間ほどもある大きな真っ赤なカブトムシに出会いました。
二人は地下室の隅でその恐ろしい怪物を見つめていました。
怪物を照らしている二つの懐中電灯の輪がブルブル震えています。
何とも言えない鋭い音がしました。
大きなカブトムシの鳴き声です。
その度にあの尖がった口がパクパク開くのです。
大きなカブトムシは長い六本の足を気味悪くガクンガクンと動かしながら
地下室の中をぐるぐると歩き回りました。
しばらく歩き回った後でいよいよこちらに近づいてきました。
カブトムシの背中は真っ赤にテラテラと光っています。
時々大きな羽を開いてブルンと羽ばたきのようなことをします。
その度に恐ろしい風が起こるのです。
もう2メートルほどに近づいてきました。
飛び出した大きな目がぎょろりと二人を睨んでいます。
今にも飛びかかってくるかと二人は思わず身構えました。
カブトムシは後足を曲げ中の足とお尻で調子をとってぐーっと立ち上がり
前足をもがもがやっています。
気味悪いお腹がすぐ目の前に見えました。
あの前足でつかみかかってくるに違いないといよいよ身を固くしていますと
その時、実に驚くべきことが起こりました。
カブトムシのお腹の中にポカンと四角い穴が開いたのです。
四角い蓋のようなものが下の方へ開いて
その蓋が滑り台のように床に届いたのです。
すると、お腹の中から何かもごもごとうごめき出してきたではありませんか。
お腹の四角い穴から這い出してきたのは長さ50センチぐらいの真っ赤なカブトムシでした。
大カブトムシの腹から中カブトムシが出てきたのです。
まさか子供を産んだわけではないでしょう。
大カブトムシはプラスチックか何かでできている作り物かもしれません。
その腹から出てきた中カブトムシも50センチもあるのですからきっと作り物なのでしょう。
15:04
中カブトムシは床に垂れた蓋の滑り台を這い降りてその辺をぐるぐると歩き回りました。
大カブトムシの方はそのままゴロンと仰向けにひっくり返ってまるで死骸のようにじっとしています。
大きなセミの抜け殻みたいです。
中カブトムシは地下室をぐるぐると回った後で二人の前へ来るとぐっと立ち上がりました。
大カブトムシと同じことをするのです。
またお腹にポカンと穴が開きました。
そしてそこから今度は15センチぐらいのかわいいカブトムシが這い出してきました。
かわいいと言っても15センチですから本当のカブトムシの何倍もある体中真っ赤なおばけカブトムシです。
中カブトムシの方はまたセミの抜け殻のようにゴロンと転がっています。
15センチの小カブトムシはちょこちょことその辺を這い回っていましたがやがて二人の前に来るとまたしても後足でひょいと立ち上がりました。
そして同じことを繰り返したのです。
15センチのカブトムシのお腹に4センチほどの四角い穴が開いてそこから今度は本物と同じくらいの大きさの真っ赤なカブトムシが床の上に滑り出しました。
ところがこの小さいカブトムシは15センチのカブトムシが抜け殻になって転がってしまっても少しも動かないのです。
床に落ちたままじっとしています。
これは死んでいるのでしょうか。
それにしてもなんて可愛らしく美しいカブトムシなのでしょう。
今までの大カブトムシと違ってこれは真っ赤な色がルビーのようで体の中まで透き通っています。
可愛らしい二つの目はまるでダイヤのように輝いています。
キムラ君がびっくりするような声を立てました。
その時向こうのホラーの中から何か黒いものが這い出してきたからです。
それは穴から出るとすっくと立ち上がりました。
人間です。黒いマントを着た西洋悪魔のような恐ろしい人です。
「ふふふ…。小林君、久しぶりだな。わしを忘れたかね。ほら、いつか黄金の虎の虎子で知恵比べをした魔法博士だよ。」
18:02
小林君は思わず前に進みました。
ああ それじゃああの時の
ええええっ
今度も君たちはまんまとわしの計略にかかったねー
お化け屋敷の地下室に忍び込んだ小林 気村くんの前に黒いマントを着た
西洋悪魔のような恐ろしい人が現れました
わしはいつか君たち少年探偵団員と 知恵比べをした魔法博士だよ。
実はもう一度君たちの知恵を試すために ここへおびき寄せたのだ。
この前は黄金の虎だったが、 今度はこの赤いカブトムシだ。
これはルビーでできている。 二つの目はダイヤモンドだ。
わしの大事な宝物だよ。 これを君たちに渡すから。
この前のように知恵を絞って うまく隠してごらん。
わしはいつかの間にそれを探し出して 盗んでみせるよ。
盗まれたらこの知恵比べは 君たちの負けなのだ。
それを聞くと、 ああ、あのときの魔法博士だったのか、とやっと安心しましたが、
でもまだわからないことがあります。
きのう、この西洋館の外側をはしごもないのに するするとのぼって行ったのはおじさんだったの?
それから窓からのぞいていた女の子はどうしたのです? おじさんがいじめていたのでしょう?
うむ、うむ、うむ、うむ。 あれは君たちをここへおびき寄せる手なのだよ。
木村君の妹のみどりちゃんたちが見ているのを知っていて、 不思議なことをやってみせたのだ。
あのときはこのうちの屋根から細い丈夫な糸の縄梯子が下げてあって、 それを伝ってのぼったのさ。
夕方だから遠くからはその糸が見えなかったのだよ。 あのときの女の子は人形だよ。
ほら、これをごらん。 魔法博士はマントの下に隠していた大きな人形を出してみせました。
でも、きのうの女の子は悲しそうな叫び声を立てていたというじゃありませんか。
21:04
小林君が聞き返すと、博士はにやにや笑って横を向きました。
きゃー、助けてー。
女の子の恐ろしい叫び声が聞こえました。 二人はびっくりして人形の顔を見ましたが、別に口が動いているわけでもありません。
うわっはっはっは、ふくわ術だよ。 わしが口を動かさないで女の子の声を真似たのだ。
きのうの叫び声はこれだったのだよ。 このたなやかしを聞いて二人はすっかり安心しました。
そして魔法博士からルビーのカブトムシを受け取ると、 お化け屋敷を出て木村君の家に帰り、
お父さんやお母さんやみどりちゃんにそのことを話しました。 それから二人で明智探偵事務所へ急ぎました。
そして明智先生にも魔法博士のことを報告するのでした。 それからしばらくすると小林君が電話で呼び寄せた10人の少年探偵団員が
明智探偵事務所へ集まってきましたが、 その中に一人だけ女の子が混じっていました。
中学一年の宮田ゆう子ちゃんという、 ついこの頃仲間入りをしたたった一人の少女団員です。
年の割に体が大きく、いかにも勝ちきそうな女の子でした。
あたし、いいこと思いついたわ。 そのカブトムシ、あたしの家に隠すといいわ。
みんなで相談をしているうちに、ゆう子ちゃんがそんなことを言い出しました。 そして小林団長の耳に口を寄せて、何かひそひそとささやくのでした。
次々とささやき交わしてゆう子ちゃんの考えがわかると、 みんなは手を叩いて、それがいい、それがいい、と賛成しました。
ゆう子ちゃんは、ルビーのカブトムシをポケットに入れ、 その上を手でしっかり押さえて、少年たちに送られて家へ帰りました。
ゆう子ちゃんの家は、石膏の置物を作るのが商売で、 裏に小さな工場があるのです。
ゆう子ちゃんはその工場の中へ入っていきました。 工場には少年の首やビーナスや、
花かごをさげた女の子などの石膏の置物がたくさん並んでいます。 すっかり出来上がったものもあり、まだ出来上がらないで、これから継ぎ合わせるものもあります。
ゆう子ちゃんは、この石膏の中へカブトムシを隠そうというのでしょうか。 そんなことでうまく魔法博士の目をくらますことができるのでしょうか。
何かもっと深い考えがあるのかもしれません。 ゆう子ちゃんが石膏の置物の真ん中にしゃがんでいますと、ガラス窓の外に恐ろしい顔が現れました。
24:12
顔中ひげにうずまった汚い男が、そっと中を覗いているのです。 このひげの男は一体何者なのでしょう。
そして、少年たちが手を叩いて喜んだゆう子ちゃんの知恵というのは、どんなことだったのでしょう。
やがて、実に奇妙なことが起こるのです。 この顔中ひげにうずまった得体の知れない男が、
途方もないことをやり始めるのです。 少年探偵団員のたった一人の少女団員、
宮田ゆう子ちゃんは、ルビーでできた赤いカブトムシを持って、自分の家の石膏細工の工場に入って何かやっていました。
するとその時、窓の外から顔中ひげでうずまった汚い男が、そっと覗いていたのです。
そのあくる日の夕方、ゆう子ちゃんのお家のある渋谷区で次々と不思議なことが起こりました。
ある町の額縁屋さんへ、もじゃもじゃ頭の汚い男が入ってきて、ショーウィンドウに飾ってあった5、6歳の可愛い少年の首だけの石膏像を買っていきました。
男は店を出ると寂しい横丁に入り、あたりを見回してから紙包みを解いて、石膏の少年の首をいきなり地面に叩きつけ、
粉々に割ってしまいました。 せっかく買った石膏像をなぜ割ったのでしょう。
この男は気でも違ってしまったのでしょうか。 それから30分もすると、その男は別の町の美術ショーの店に現れました。
そしてそこでも、さっきと同じ少年の首の石膏像を買い、また寂しい横丁へ来ると粉みじんに割ってしまいました。
また30分ほど経った頃、今度は同じ渋谷区のあるお屋敷へ、あの男が忍び込んでいきました。
その家の大瀬妻にも同じ石膏の少年の首がありました。 男は窓から入り込んでその首を盗み取ると、近くの神社の森でまた粉々に壊してしまいました。
ダメだ、入っていない。 あの時、まだ継ぎ合わされていない石膏はこの3つだけだったのに。
男は途方に暮れたように立ち尽くしていました。 その時、不意に後ろから女の子の笑い声が聞こえてきました。
27:01
男がびっくりして振り向くと、大きな木の後ろから出てきたのは、ゆう子ちゃんです。
「ああ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、おじさん、いっぱい食ったわね。 このシェイクラヴィは少年団体団の勝ちよ。
おじさんは、あたしが石膏像の中へ赤いカブトムシを隠すのを窓から見ていたのでしょう? ところが、あれは隠すように見せかけただけなのよ。
本当は、もっと別のところに隠しちゃうのよ。 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。」
ゆう子ちゃんはそう言って、さもおもしろそうに笑うのでした。
そうか。 うまくやりやがったな。
俺はあれを盗もうと思ったが、いつも工場に人がいたので、盗み出すことができなかった。
仕方がないから、あの3つの子供の首が配達されるのを待って、 その先を1件ずつ回って壊してみたが、何にも出てこなかった。
まんまといっぱい食わされたな。
ヒエー、ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒッ。
男は別に怒る様子もなく、大笑いをして、 それからフッと真面目な顔になりました。
ところがねお嬢さん 魔法博士はもっと上手なんだぜ
俺は博士の弟子で君をホーボーを引っ張り回す役だったのさ 君が俺の後をつけている間に魔法博士が君の隠した赤いカブトムシを
ちゃんと盗み出してしまったのだよ
それを聞くとユウコちゃんはハッとして真っ青になってしまいました そして物も言わずいきなりどこかへ駆け出していくのでした
男は後を見送ってにやりと笑いました ユウコちゃんはバスに乗ってお家へ帰ると小さなシャベルを持って裏口の外の原っぱへ急ぎました
膝まで隠れる草をかき分けて原っぱの真ん中まで行くと目印の石を取り除けて その下をシャベルで掘り返し隠しておいたブリキ缶を取り出しました
まあよかった あの人嘘をついたのだわ
缶の中には赤いカブトムシがちゃんと入っていたではありませんか
今度は君の方でいっぱい食ったねー 突然後ろから声がしてさっきの男が立っていました
魔法博士が盗み出したというのは嘘さ 魔法博士は
30:03
このわしだよ あんなことを言って君を本当の隠し場所に来させたのさ
さあそのカブトムシを出しなさい 男はニュッと手を突き出しました
ユウコちゃんは魔法博士にうまく騙されて赤いカブトムシの隠し場所を見つけられてしまいました
そこは寂しい原っぱですし相手は大人の魔法博士 こちらは小さい子供ですからどうすることもできません
とうとうルビーのカブトムシを取り上げられてしまいました さあ今度は君たちが探す番だよ
わしがこのカブトムシを不思議な場所へ隠すからね うまく見つけ出してごらん
あははは かわいそうに泣きべそをかいているね
よしよしそれじゃあ隠し場所の秘密をきっと君に教えてあげるよ 待っているがいい
魔法博士はそう言ってどこかへ立ち去ってしまいました それから3日目のお昼過ぎのことです
ゆうこちゃんがうちの庭で遊んでいますと赤いゴム風船が空からふわふわと落ちてきました どこかの子供が風船の糸を離して空へ飛び上がったのが力が弱くなって落ちてきたのでしょう
ゆうこちゃんがそう思って赤い風船をじっと見ていますと やがてそれはすぐ目の前の地面に落ちました
風船には糸がついていてその糸の端に白いものがくくりつけてあります ゆうこちゃんは何だろうと思ってそれを拾って調べてみました
それは紙を細かく折りたたんだものでした 丁寧に伸ばしてみるとその紙にはこんな変なことが書いてあります
5月25日午後3時20分 一本杉のてっぺんから入れ恐ろしい万人に注意せよ
魔法博士 あらっ
魔法博士からの手紙だわ ゆうこちゃんは胸がドキドキしてきました
魔法博士はこの間の約束を守ってゆうこちゃんにカブトムシの隠し場所を教えてくれたのかもしれません
ゆうこちゃんはすぐにその紙を持って電車に乗って麹町の明智探偵事務所を訪ね 小林少年に相談しました
5月25日といえばあさってだね あさって一本杉のところへ行けばいいんだね
33:00
一本杉って何だか聞いたことがあるよ あっそうだ
木村敏夫君の家のそばの魔法博士の化け物屋敷の向こうに確か一本杉というのがあった 木村君に電話で聞いてみよう
電話をかけますとやっぱりそこに一本杉という高い杉の木があることがわかりました そして5月25日午後3時に小林君たち5人の団員が一本杉のある原っぱへやってきました
5人というのは小林団長とゆうこちゃんと木村敏夫君とそれから団員の中で一番力の強い 井上一郎君と野呂一平君でした
一平君は野呂ちゃんというあだ名で臆病者だけれども素晴らしくてよく気のつく子でした 一本杉のてっぺんから入れってどういう意味だろう
小林君が首をかしげていますと野呂ちゃんがとんきょうな声で きっとてっぺんに穴が開いてるんだよそこから入るんだよ
僕登ってみようか と言って腰に巻きつけていた長い縄をほどき始めました
野呂ちゃんは木登りの名人で今日は杉の木に登らなければならないだろうと思って その用意をしてきたのです
野呂ちゃんは投げ縄も上手でした その長い縄をくるくると回してパッと杉の木の高い枝に投げかけました
そして一方の端を自分の体に縛り付け 一方の端をみんなに引っ張ってもらうのです
綱引きみたいにみんなが縄を引っ張ると野呂ちゃんはそれを力にして太い杉の 幹をスルスルと登っていきました
そして下の枝まで登りつけばあとは枝から枝へと伝っていけばいいのです 野呂ちゃんはとうとう杉の木のてっぺんまでたどり着きました
そしてしばらくその辺を探していましたが
何にもないよ 穴なんてどこにも開いていないよ
と叫ぶ声が遥かに聞こえました これはどうしたわけでしょう
てっぺんから入れと言ったって穴がなければ入れないではありませんか 野呂ちゃんは5分ほども木のてっぺんでじっとしていましたが
やがて何を思ったのかトンキヨの声で わかったよあれだよあれをごらん
と叫んで原っぱの一方を指さして見せるのでした そこには太陽の光を受けて一本杉の影が長々と横たわっていました
みなさん 野呂ちゃんは一体何に気づいたのでしょうか
36:01
今度は少年探偵団がルビーのカブトムシを探す番です 続く
36:15

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