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おはようございます、Chikaraです。
今日もスタイフを撮らせていただきたいと思います。よろしくお願いします。
今日のスタイフは、ちょっとあの、ラジオ的にというか、なんだろう、だらーっと長い時間のラジオをちょっと聞きたいと、聞き流したいと思っている方向けに
お試し放送として、ちょっとやらせていただきたいと思ったので、この企画を考えてみました。
何かというと、僕が書いている小説My Cool HEROES。
実はね、週に1回で、今、朗読をさせていただいていますけれども、その朗読をした後に、さらに手直しっていうのをガンガン入れてます。
だから半分くらい、その朗読をしたところから削除したりっていう回もあるし、いろいろ変えたりしていることもあるので、
ちょっとね、振り返り、ちょうどフレアの第1章が終わったっていう振り返りも含めて、自分の記録という意味も含めて、
最初のプロローグのところから、フレアの第1章の最後のところまで、お母さんと笑顔で締められた、締まったあのシーンまで、ちょっと朗読をしてみようかなと思いました。
ちょっとね、でもやってみて、途中で長すぎたら切るかもしれませんけど、ちょっとやってみようと思います。
今の最新版、またここから手直しが入るかもしれませんけども、ちょっと読んでみたいなと思いますので、ぜひ聞き流しのお楽しみ回としていただければと思います。
それでは行きます。
小説 マイクールヒーローズ プロローグ
人間たちが住むこの世界で、あって当たり前だけど、なかったら困るものを想像してみるとしたら、皆さんはどんなものを思い浮かべるだろうか。
空を見上げればそこには、人間をいつでも優しく強く温かく照らしてくれる太陽や、この星に目を向けてみると、そこにはあらゆる生命の源である母なる海、また豊穣な実りを届けてくれる緑豊かな大地など、
思い当たるものはきっとまだまだいくらでもあるだろう。
太陽の光が届かない残りの半分の世界を、人間は闇だったり夜などと呼んだりもするが、その闇ですら人間にとってはなくてはならないものの一つだと言える。
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その夜の世界にも実際に海があり、大地もあり、人間のような生命もちゃんとそこで生活している。
ゆっくり休んで、次の日のためのエネルギーをしっかり体に取り戻すことも、この夜の世界の大切な役目の一つだ。
そして夜は、しばらくぶりに顔を出してきた太陽の光を受け取ると、それまで謳歌していた主役の座を素直に明け渡し、その夜明けをまた受け入れていく。
太陽もまた同様に、自分の役目を主張しすぎることなく、時がくればしっかりそれに応じて自分の役目を夜へと再び引き渡していくのである。
この世界ではこのように、太陽、闇、海、そして大地や生命そのものが、それぞれバランスを保って自立しつつ、しっかり共存して循環している。
ここはそんな世界だと言えるだろう。
このような人間の世界では、当たり前となっている常識や自然の営みとは全く異なる世界が、かつての時代に存在していたことを皆さんはご存知だろうか。
これは人間が生まれる遥か昔、全く別のとある世界で、ヒーローと呼ばれた青年が活躍する物語である。
冒険はその青年がまだヒーローになるずっと前、まだ幼い子供だった頃のある日。
ちょうど家に帰ってきたばかりの父親との無邪気な日常会話から始まる。
父ちゃん、今日はどうだった?
まるで三日三晩待ちに待った獲物をやっと仕掛けた罠に捕らえた時のように、家の二階から今まさに標的をめがけて駆け下りようとしている少年の、それがこの物語の第一声であった。
今にも階段から転がり落ちそうになるのを何とか堪えながら駆けつけて、いつものようにこの質問を繰り返すのがこの少年の日課のようである。
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この少年が絵画を見下ろすと、そこにはいつもの見慣れた大男が立っていた。
その男はおよそ2メートルには届きそうなほどの背丈の尺で、この世界の住人の中でも確かにだいぶ大男の部類に入るようだ。
体つきも随分な屈強で、彼が今羽織っているフード付きのローブの上からでも、そのリュウリュウとした筋肉は一目でわかるほど際立っていた。
どっしりと深みがある真原色をしたそのローブは、やや厚手の珍しい布で織られたもので、少し大きめのマガタマが上下に連なったような不思議な模様が、縁に一周ぐるりと刺繍されていた。
少年は前に一度、その不思議な模様について尋ねてみたことがあったが、「貰い物だからよくわからん。」と笑いながら一言言われただけで、それ以上のことは全く何もわからなかった。
そのローブは、少年が物心ついた時にはすでにその男が身にまとっていたものだった。しかし、周りを見渡しても、他にこのローブというものを身にまとっている大人を少年はこれまで一人も見かけたことがなかった。
他の大人は誰も来ていない。あれは僕の父ちゃんだけのものなんだ。自分の父親がいつも身にまとっていたものが、何やら随分特別なものらしいと気づき始めた近頃。
近所の遊び相手にそんなことを自慢して回った出来事も、少年がこの大男に対する尊敬の思いをさらに深めるきっかけになっていたことはもちろん言うまでもない。
特に小さな少年にとって自分の父親を自慢したい気持ちは大抵当てはまるものだったとしても、この少年が抱くその感情は憧れと異形の念を織り混ぜて、さらに一一倍大きなものだったと言えるだろう。
少年が一足飛びで階段を駆け下りながら、開花の様子を捉え始めた時、大男は今回の日課を終え、少しふるぼけた赤レンガの家にちょうど帰宅したところだった。
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外では少し強めの風が舞っているのか、その大きな体には村の大地を一面に覆う赤茶色の土ぼこりがびっしりとまとわりついていた。
彼は一息つきつつ、それを払おうと右手に携えていた長刀をそっと玄関の脇に立てかけようとしている。
その彼の大きな手には、これまでの日課や戦いで受け入れてきた大傷にわたる古傷がしっかりと刻み込まれていた。
それらの無数の傷たちは、彼がこれまでどれほどの困難に立ち向かってきたのかをよく物語っていた。
そして、今立てかけられた長刀もまた同様に、これまでの長い歴史の中でずいぶんと使い古されてきた年月を感じさせている。
それでいて、その刀の黒い鞘は、周りの景色を淀むことなく映し込み、魅力的な光を放っていた。
それを見れば、その抜き身の刃にも日々の繊細な手入れが存分に施されていることは決して想像に堅くない。
確かに、刀のことなど全く知らない幼い子供にも、そのことが一目でわかるほど、その漆黒の長刀は存在感をしっかりそこに示している。
実に大男は、普段からその哀悼をいつも肌に離さず持ち歩いていたわけだから、それを毎日見ていた少年はいつからか、それが何やらよほど大切なものらしいとよくよく理解するようになっていた。
親が持つものは子供にとっては未知の魅力がある。特にそれがとても大事なものであればなおさらだ。しかもこの村で。
他に刀を持ち歩いている大人が皆無なのだから、その魅力といえば計り知れない。少しくらいは触ってみたくなったとしても、当然それは誰もが頷けるところだろう。
実際にこの少年もその例外に漏れず、幼い頃から幾度となくそっと手を伸ばしてみては、「今日こそ必ず!」といたずら心も覗かせて、常にチャンスをうかがい続けてきた。
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しかしその度に男はすぐにひょいっとそれを遠ざけてしまうので、少年は未だに一度もその刀に触れさせてもらえたことがなかった。
「ちびすけのお前が触るにはまだちょっと早いよな。」彼はその手のひらで我が子のボサボサ頭をもみくちゃにしながら、優しく笑ってそう告げる。
「ちびすけじゃないし!」と少年はすかさずツッコミを入れることは忘れずに、「ちょっとくらい触らせてくれたっていいのに。」と文句の一つを言ってみたところで、
実はそんな父とのやりとりや頭に感じるその手のぬくもりをとても心地よく感じていたものだから、結局最後は、「まあいいか。」と笑ってあきらめる。
これもまたこの父とこの日常風景になっていた。
とはいえ、「いつか絶対にあの刀を触ってやるんだ!」と毎日飽きもせず腰たんたんとその挑戦を続けてこれた背景には、この少年の生まれ持った負けん気が強く影響していたことは言うまでもないだろう。
ちなみにこの少年の長年かけた願いは、ある日突然不意な形で叶うことになるのだが、それはまだもう少しだけ先の話である。
今日もまたまさにその哀悼をめがけて、「今にも飛びかからん!」とする勢いで、小回りよくせわしい足音が目の前のすぐそこに迫ってきていた。
ウォッハッハッハッハー!大男はどっしりと腹の底から響くその特徴ある笑い声で、まずは勢いよく駆け下りてきた小さな狩人の木先を見事に制した。
どんなに遠くにいても村の誰もが彼だとわかる。その大きな笑い声が家全体を震わせるほどに響き渡っている。
その笑い声は初めて耳にしたものを一瞬で驚かせるほどの迫力があった。
それでいて、少年はその笑い声を聞くと、いつも安心して心地よい気持ちになれるのがとても不思議だった。
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その大男はそれまで頭にかぶっていたローブのフードを両手でゆっくりとめくり上げながら、淡い赤緑色に光る大きな瞳をその影から覗かせた。
そして少年に父ちゃんと呼ばれるにふさわしい愛情たっぷりな笑顔で彼を見つめると、こう続けた。
おお、フレア!今日も相変わらず元気なボサボサ頭を従えて。そんな頭じゃせっかく捕まえた大物もびっくりして罠から逃げちまうぞ!
フレアというのはまさに今ボサボサ頭を振り乱してここに駆けつけてきたその勇敢なチビスケハンターの名前らしい。
いい加減、いつになったらお前の髪も俺みたいにしっとり大人渋い楕円の色に成長するのかね。
大人渋い楕円の色というのはその特徴をよくぞ言い表したものである。
確かに大男のその髪の毛は髪色も髪質もフレアのそれとは全く異なるものだった。
夜の静まり返った山奥で火花だけがパチパチと飛び散る音が鳴り響く。
そんな静寂の中激しすぎずも静かすぎず、ただひっそりと燃え盛る焚火の炎にじっと見入ってしまった経験はないだろうか。
彼の髪は静寂に燃え盛る焚火のように、見る人を自然と魅了する不思議な色合いを持っていた。
そしてがっしりとした顎の下に、程よく短めで無性に生やしただけのあごひげも、彼の髪と全く同じ楕円の色を持っていた。
そんな楕円色のあごひげを、父は左の人差し指にくるくる巻きつけながら、フレアを見つめてにやりと微笑んでいる。
そんな彼の笑顔には、彼が発した言葉以上に、どこか優しく遊び心を感じさせるものがあった。
いいんだよ。どうせ僕はまだ幼い髪色の子供なんだからさ。
フレアが少し口を尖らせながら、頬を膨らませるその仕草は、まさに小さな子供がからかわれた時によく見せる素振りそのものだった。
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確かにフレアは、人間の世界で言うところの五、六歳の背恰好で、年齢もまさにそのくらいの年頃である。
それを考えれば、この子供らしい反応は、どの時代でも当たり前に繰り返されてきた、ごく自然なものだったと言えるだろう。
確かにお前の髪はまさに幼げの真っ最中。しばらくはまだそこから成長しなそうだもんな。
我が子を見つめながら、にやにやしながらそういう父の顔を見ていると、どうやらただただフレアをからかって遊んでいるだけのように見える。
当たり前だよ。だって父ちゃんみたいな髪色になるのはさ、もっと大人になってからなんだからさ。
フレアは父をじろりと見上げると、相変わらず口を尖らせながらそう言った。
どうやら父が言う幼げというのは、この世界の住人たちの特殊な性質のことを指しているらしい。
これはフレアたちの世界では、成長の一環として知られている生理現象の一つで、人間の世界でいうところの、いわゆる猛虎犯に近いようなものだと言えるだろう。
幼い髪色の幼げが、成人するなどの精神的な成長を経験して、やっと大人渋い髪色に変色する、というのがその特徴である。
村のどこにも大人色の髪の子供なんて、一度も見たこともないもんね。
確かにフレアの幼い赤茶色の髪は、彼が住む炎の村では、そこら中で見かける子供たちと全く同じものだった。
フレアの年頃の子供であれば、まだ幼げなのは当然だったと言えるだろう。
いやいや、決してそうと決まったわけじゃないんだぞ。
昔々あるところに、お前くらいの小さい子供が、突然大人色の髪に変色したっていう話を、どこかで聞いた覚えがある。
父は一見真面目な口調ながら、相変わらずニヤニヤ顔が止まってない。
何それ、そんなことあるわけないでしょ。
フレアは思わず吹き出しながら、そう言葉を返した。
こうして見てみると、この親子の一連のやりとりは、いわば我が子の未熟さ、その青さをからかって遊ぶ、
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父と息子の会話遊びのようなものだったことがよくわかる。
ちなみに成長の一環を通じて変化するのは、その髪色だけではないらしい。
フレアとその父のそれを見比べてみると、どうやらその髪質も合わせて成長するようだった。
父のそれとは似ても似つかず、くるくるんと特に毛先に強いフレアのくせっ毛は、
確かにそのまま放っておいたら、父がからかって遊んでいるように、
まさに捕らえた獲物も驚いて逃げ出すほどに大変なことになりそうな予感がする。
そんなことよりさ、早く今回の冒険の話を聞かせてよ。
今回は一体どんなところに行ってきたの?
フレアはまさにその話を聞くためにここまで駆け下りてきたことを改めて思い出すと、
冒頭の第一声と同じこの質問を繰り返した。
今回はな、水の村まで行ってきたんだ。
父は玄関脇の壁掛けに脱ぎ途中だったローブを無造作に引っ掛けると、
ゆっくりフレアに向かってそう答えた。
水の村、それはフレアたちが住む炎の村の隣村の名前だった。
まあ隣村と言っても、実際には物理的に隣接していたわけではなく、
そこに行くにはタイガをいくつも越えていかなきゃたどり着くことはできない。
そこはこの屈強なフレアの父をもってしても、行き来するだけで実際に3日はかかってしまうほどの場所だった。
普通の大人ならたどり着くだけでも数ヶ月はかかるような場所で、
まずそもそも水の村に行こうと考えることすら普通はしない。
そんな場所にある村だ。
当然フレアはこれまでその名前を耳にしたことはあったが、
今まで一度も行ったことがない場所だった。
今回はな、水の村にどうやらとても優秀な芝居がいるっていう話があってな。
いつもの炎の種火の確認ついでに、一体どんなものか様子を伺いに行ってきたんだ。
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えー、それでどうだったの?
フレアが興奮気味に先を急かすと、父はさらに話を続けた。
いやー、それがな、その姉妹は実に評判通りでなかなか優秀な子達だったんだ。
あれはまさに将来の有望株に違いない。
きっといい水のヒーローに育つと思うぞ。
将来の若いヒーロー候補についてとても嬉しそうに話す父の顔を見ていると、
フレアはまるで自分が褒められているかのように嬉しい気持ちになってくるのを感じた。
しかもな、前評判によれば姉が相当優秀だっていう話だったんだが、
いやいや、どうして?
あの妹の方もなかなかなものを秘めている感じがしたぞ。
妹の方は背括弧もお前と同じくらいだったし、
もしかしたら将来はお前のいいライバルになったりするかもしれないな。
自分の話に息子の興味を引きたい父親が、
多少の作り話を盛り込むことはたまにはあるだろうが、
この父の話しぶりはまんざら冗談ではなさそうだった。
え、いいな。それだったらさ、僕にもお兄ちゃんが欲しかったな。
そしたらさ、炎の村に優秀な兄弟ありって噂になったりしてさ。
しかも実は弟の方が優秀らしいぞ。
なんて話が広まっちゃったりしたらさ、それはもうたまらないよな。
フレアは口元を緩ませながら興奮気味にそんな妄想にふけり始めていた。
いやいやフレア、今さらそんなないものねだりをしても仕方ないんじゃないのかな。
突然自分の空想世界にふけり始めた小さな若子に少しだけ苦笑いをしながらも、
いつものあごひげをくるくるやりながら優しい笑顔でこう続けた。
お前にはお前にしかできない役割がきっと必ずあるはずだ。
まずはそれをちゃんと見つけてしっかり全うしていくんだぞ。
僕にしかできない役割?
そんなことはもう決まっているよ。
勢いよくそう唇を切ると、フレアは熱のこもった口ぶりでこう続けた。
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僕も大きくなったらさ、父ちゃんみたいにめちゃくちゃ強い炎のヒーローになってさ、
そしてあのヴィランズたちをたくさんやっつけてやるんだ。
この幼い妄想ヒーローはまさに今、目の前の父の姿に思いを重ねて、
そこに未来の自分を思い浮かべている真っ最中のようである。
きっと遠くを見つめるその瞳には、どうやら将来の屈強なヒーロー像がしっかりと映し出されているのがよくわかる。
大きくなったら、僕はあのヴィランズたちを倒すんだ。
このフレアの言葉には子供ながらの負けん気と無垢な正義感を織り混ぜて、
自分の正義を信じて疑わない。
そんな彼の幼くも揺るぎない信念がしっかりとにじみ出ていた。
フレアのその熱い思いがこの部屋中に満ちていく。
どの時代でも幼い我が子が未来を見据えて力強く成長していく。
そんな姿を目の当たりにして喜ばない親はいないだろう。
フレアの父ももちろんその例外ではない。
彼もその瞬間を心地よい気持ちで眺めていた。
ただその一方で、しっかり時間をかけて導いてあげたいな、
と父はそんな風にも感じるのであった。
幼い純粋さからくるまっすぐな正義感というものは、
時に自分を立する力強さを持ちつつも、
もしそれが行き過ぎれば人を惑わせたり道を誤らせたりすることもある。
父はフレアの正義感に潜むそんな幼い純粋さを合わせて感じ取っていたからだ。
我が子の成長に一喜一憂しながらもしっかりと見守り導いていく。
それが親の大切な務めの一つであろう。
そして父はそう自分に言い聞かせるかのように、
ほんの一瞬だけ間を置くと、先ほどのフレアの誓いに対して、
優しく悟すようにいつものこの言葉を返してやるのだった。
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真の敵は自分自身。
ビランズばかりを追いかけて、その本質を決して見失うんじゃねえぞ。
あ、出た。またいつものやつだ。
フレアはその視線を父に戻すと、少し茶化し気味に反応した。
おいおいフレア、これは冗談で言ってるわけじゃないんだぞ。
そんな息子に父は少し苦笑いを浮かべながらそう返す。
でもそうは言ったってさ、ビランズは悪いことばっかりしてる奴らなんでしょ。
村を襲ってきたり、みんなを怪我させたりしてさ。
そんな奴らはやっぱりみんなの敵で間違いないんだし、
それをやっつけるのがヒーローの役割でしょ。
それに村長さんもいつも言ってるよ。
フレア君のお父さんはそのためにこの村で唯一選ばれたヒーローなんだよってさ。
フレアは村での自慢の父の話題を目の前の本人を見上げながら、少し興奮気味にそう告げた。
実際に昔からこの世の中がビランズの脅威に晒された時、
それぞれの村から一人ずつその危機を救うべく選ばれるヒーローと呼ばれる特別な存在がいた。
そしてフレアの父はこの炎の村で今の時代に唯一選ばれた炎のヒーローだったというわけだ。
将来のヒーローを夢見るフレアが、そんな父に尊敬と憧れの念を強く抱いていたのは当然だったと言えるだろう。
確かにそれもヒーローの大事な役割の一つなのは間違いないんだけどな、フレア。
決してそれはビランズを倒すことばかりじゃないんだぞ。
父はあごひげをクルクルしながらも真剣な表情で言葉を進めていく。
この村ではどこでも見かける炎だが、
これはここの住人だけが特別持っている属性術だってことはお前も知っているだろう?
うん、知ってるよ。ただ僕はまだうまく使えないんだけどね。
今度はフレアが少し苦笑いをしながらそう答えた。
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まあ幼気のチビスケが属性術を使いこなすにはまだちょっと早いかもしれないよな。
父はにっこり笑って冗談を交えながらもフレアをまっすぐ見つめて言葉を進める。
だがそんな属性術もヒーローにもなればとてつもなく大きな力になるものさ。
そんな超大な力は自分のためやビランズに向けるばかりじゃなくて、
少しでも周りに分け与えながらみんなが安心して暮らせるように手助けしていくべきだ。
これもその時代に選ばれたヒーローが果たすべき大切な使命の一つだろう。
実際に今回水の村にあの姉妹を見に行ってきたのだって、
もともとはあそこに置いてある炎の種火の様子を確認するついでだったってわけだしな。
フレアは真剣な面持ちでじっと父の言葉に耳を傾けている。
それになフレア、そもそもビランズのことだって、もしも戦わないで済むとしたらやっぱり俺はそれが一番いいと思うんだ。
古傷だらけの大きな手でフレアの頭をポンと撫でながら話す父の言葉には、
彼の実体験からの重厚感がたっぷりと刻み込まれている。
もしかしたらいつかお前も炎のヒーローとして村を守る日が来るかもしれない。
その時にはきっとこのことを思い出してくれたら嬉しいな。
父はそこに将来の我が子の成長した姿を思い浮かべつつ、今はまだ幼いフレアをじっと見つめながらそう言った。
憧れのヒーローである父の言葉を真剣に聞いていたフレアの表情は、そんな父の期待を満面に受け止めて、少し照れくさくも嬉しい興奮を織り混ぜたそんな笑顔を見せている。
まあ、ちびすけのお前にはまだちょっと早いかもしれないけどな。
実際にあの村長の紙芝居からだけじゃわからないこともまだまだあるっていうことさ。
真剣な思いとは裏腹に、少し照れくさくなったらしい父は、
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いつものように人差し指であごひげをくるくるやりながら、最後はにやりと笑って冗談まじりにこうつけ加えた。
どうやらこれはこの父の性格からくるものらしい。
あ、村長さんの紙芝居はさ、本当に面白いんだよ。
行きます行きまーすとか言いながら始まってさ、そこには父ちゃんも出てくるし、僕の友達もみんな大好きでさ。
いつもみんなで広場に集まって一緒に見るのが楽しいんだよね。
それまで真剣に父の言葉に耳を傾けていたフレアは、急に思い出したように毎週末の楽しみを父に嬉しそうに報告した。
お、あの村長の紙芝居に最近は俺も登場しているのか?それは知らなかったな。
父は少し照れたように笑いながら息子に向かって言葉を返した。
うん、父ちゃんの子供の頃の話に今でも少しずつ書き足して言ってるみたい。
この間なんてさ、「わしは1万枚まで書くぞー!」とか言っちゃってたからさ、
さすがにそんなにあったら全然話が終わらなくなっちゃうじゃーんってみんなで突っ込んできたとこ。
それでもさ、村長さんの紙芝居はとにかく面白いからずっと聞いていられちゃうんだよね。
笑いながら楽しげに話すフレアの表情を見ていると、この村長が子供たちにどれほど愛されているのかがよくわかる。
そんなある日、ナルフの雫が首元からフワッと浮き上がり真紅の光を解き放つ。
そうだ!それこそまさに新しいヒーローの誕生したまさにその瞬間さ!
行け!炎のヒーローラルフ!
飛べ!僕らのヒーローラルフ!
フレアは高く掲げた右手の握り拳を仰ぎ見るように天井を見上げてポーズを決めた。
決まった!
満面の笑みで見事にそのラストシーンを再現しきったフレアは興奮気味にさらに言葉を続けた。
父ちゃんのこの最後のシーンがめちゃくちゃかっこよくってさ。
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いつも最後は村長さんの掛け声に合わせてみんなでこのポーズを決めて大合唱するんだよ。
おーい!村長よー!
あなたは子供たちを集めてなんてことをやらせているんだ!
いや、そもそも飛べって言われたところで実際に俺は空を飛べないしな。
突然神芝居の出演者に抜擢されたラルフ本人は思わず吹き出しながら小さくツッコミを入れる。
え?父ちゃん空飛べないの?ずっと空飛べるんだと思ってた!
笑いながらフレアは父の顔を覗き込む。
まさに村長の創作の賜物である。
まあでもお前たちが楽しんでくれているんだったらそれでもいいか。
少しだけ間を置いたラルフは結局笑ってそう言葉を返した。
うん、確かにね。
フレアもまた満面の笑みでそう返す。
ただまあ実際に俺が空を飛べるようになるかどうかは全くわからないけれどな。
え?いつかは飛んでみせてよね。
細かいことはまあいいか。
父は笑いながらいつものようにあごひげをくるくるやっている。
この父にしてこの子ありとはよく言ったもので、
フレアは生まれ持ったこの能天気さと明るさはやはりまさにこの父親譲りだったことがよくわかる。
あ、その時ふとぽんやり赤い光をまとった輝きがフレアの視界に飛び込んできた。
ああ、やっぱり父ちゃんの雫はかっこいいよな。
父の胸元で淡く輝く紅色の明かりに吸い寄せられながら思わずフレアは言葉を漏らした。
父ちゃんの雫はさ、母ちゃんのやつとも全然違くてさ、
やっぱりこの光っているところがすごくかっこいいんだよな。
だからずっと眺めていたくなっちゃうんだよね。
フレアは父の雫に手を伸ばし、そっと指先で触れながらそう言った。
フレアが雫と呼んだのは、まがたまのような形をしていて、父の首にかけられている宝石のことである。
僕の雫も父ちゃんのみたいに早く光り始めてくれたらいいのにな。
42:04
自分の胸元のそれと見比べてフレアは少し寂しそうな表情を浮かべた。
なーに、お前はそんなに焦る必要はないんだぞ。
その雫が俺のように光を放つ日が来るとしたらな、
それはそいつがお前のことをヒーローと認めた時だ。
それはお前も知っているだろう。
うん、それは村長さんも紙芝居でも言ってたけどさ。
それでももし光るんだったら早い方がいいでしょ。
フレアは父を見上げて迫ってくる。
いやいや、雫にヒーローとして選ばれるのはそんなに簡単なことじゃない。
ましてお前みたいなチビスケがそんな簡単に雫を光らせちまったらよ、
この俺がここにいる必要がなくなっちまうだろ。
父は笑いながら言葉を続ける。
それになフレア、同じ時代に同じ村からヒーローに選ばれるのはいつも一人だけなんだぞ。
あ、それも紙芝居で見たよ。
どうやら村長の紙芝居は子供たちにいろんなことを教えてくれているようだ。
だからお前の雫が光る日が来るとしたらな、
それはきっと俺があの世に行っちまった後になるんじゃねえのかな。
父は冗談まじりに笑いながらそう言った。
え?そんなに待っていたらさ、僕もすっかりおじいちゃんになっちゃうよ。
フレアは少し口を尖らせながらそう返す。
父はそんなフレアの頭をそっと撫でるとゆっくりと悟すようにこう続けた。
安心しろよフレア。
お前も大きくなっていつか自分の雫に認められる日がやってきたら、
その時はきっと俺の雫のようにしっかりと紅色の光を放ってくれるようになるからな。
父は未来の息子の立派に育った姿を信じて疑わない。
そんな表情でフレアの目をじっと見つめ返した。
チクチューチクチューチクチューチューチクチューチクチューチクチューチュー。
45:05
その時、父の背中越しに外から随分と陽気な歌声が聞こえてきた。
今日も運ぶよ。青が運ぶよ。
手紙を運べばあなたの幸せ。青郵便。
ぽうぽう!ラルフさんにお届けでーす!
元気な歌声を追いかけて父を呼ぶ声が聞こえてくる。
おー!青!いつも助かるなー!
ラルフは振り向きざまにドアを開けると、その来訪者に向けて声を返した。
ねえ!なーにー!今のヘンテコな歌ー!
フレアは笑いをこらえきれずに思わず吹き出しながら父に向かってそう尋ねた。
おー!フレア!こいつは青だ!
こいつはな、ヒーローじゃないんだけどな。
とにかく足が速くてな。
手紙の配達だったり、ちょっとした村の伝達役をしてくれているんだよ。
えー!すごーい!村のみんなが遠い村を行き来するのはなかなか難しいし、
かといってヒーローの俺が毎回動くわけにもいかないからな。
えー!知らなかった。
それで青さんはさ、誰でもお願いしたら手紙をどこにでも運んでくれちゃうの?
父の脇から顔を覗かせて、フレアが興味津々に目を輝かせて青に尋ねた。
はい、もちろんです。初めてのお客様でも安心ですよ。
どんな場所へも超絶しっかり手紙をお届けします。
初めての方にも超絶優しい。それが青郵便です。
青は幼いフレアに対してもしっかり丁寧な口調である。
えー!本当?そしたら僕もさ、今度青さんに手紙を運んでもらいたいな。
ねえ、お願いしてもいいでしょう?
おいおい、フレア。いくら青で遊んでみたいからってな。
お前は他の村に知り合いなんていないだろう?
お前が手紙を届けたい相手なんて、せいぜいここの村長ぐらいなもんじゃないのか?
父は笑いながら、青に興味津々のフレアをからかって遊んでいる。
48:03
フレアさん、僕で遊ぶなんてことはいけませんよ。
でも、ちゃんと手紙を届けたい相手ができた時には、またいつでも声をかけてくださいね。
青は元気いっぱいなにっこり笑顔でフレアに向かってそう告げた。
やった!青さん約束だよ!
フレアは青にますます興味を募らせていく。
フレア、こいつはな、普段は手紙ばかりを運んでいるんだけれど、
その気になれば、お前くらいの荷物ならひょいっと抱えて運んじまうんだぜ。
え、すごい!
そうしたらさ、今度僕を水の村まで運んでいってよ。
僕、一度行ってみたかったんだ。
ねえ、青さん、いいでしょ?
フレアはますます興奮した声をあげながら、
父の脇をすり抜けて、玄関外の青に勢いよく駆け寄った。
やりまーてん!
青はそんなフレアにほんの少しだけ間を置くと、幼い瞳を見つめ返してそう答えた。
いやいや、フレアさん、それは勘弁してください。
僕が運びたいのはあくまで情報で、決して荷物の運び屋じゃないんですよ。
まして、子供の遊びに付き合って人運びだなんてまっぴらごめんです。
興奮がまだまだ収まらないフレアと、少し困り顔の青を交互に見ながら、
ラルフはいたずら顔でさらにこう加えた。
いや、青、そうは言ってもな、たまには人運びもいいかもしれねえぞ。
ラルフは終始ニヤニヤしながら、彼の左の人差し指は無性なあごひげを絡ませて、ずっとくるくる回っている。
あ、そうだ、それでしたらフレアさんにはこれを差し上げますよ。
青はラルフのにやけ顔を横目で見ながら、肩にかけていたカバンの中からバッジを一つ取り出してフレアに手を出した。
え、青さん、これは何?
はい、これは青郵便のお客さんの証です。
51:01
このバッジを身につけていれば、フレアさんがどこにいても駆けつけて、お手紙を受け取りに伺いますよ。
しかも、使ってくれた回数に合わせてバッジの色が変わるグレードアップサービスも始めたので、今がチャンスです。
え、かっこいい。
じっと話を聞いていたフレアの目が、ますます大きくなっていくのがよくわかる。
まずは、その青色のバッジから始まって、ブロンズ、シルバー、ゴールド色へと、全部で4段階のグレードを用意しています。
ぜひ、ゴールドバッジを目指して、青郵便をたくさん使ってくださいね。
ぽうぽう!
青は指を閉じたVサインで、青郵便の決めポーズをバッチリ決める。
す、すごーい!
僕、絶対にゴールドバッジを目指したーい!
フレアはその青バッジをぎゅっと握りしめ、すっかり大興奮顔である。
ぜひ、ご引きぽうぽう!
こんなところでも、しっかり未来のお客さんを見事に獲得していく。
青はどうやら根っからの商売人のようである。
お!そういえば、青。そんなことよりも、今日は俺に何かの届け物があったんだろう?
ラルフは思い出したように、青に今日の本題を促した。
あ、そうでした。はい、こちらです。
青はカバンから一通の手紙を取り出した。
おー、やっと来たか。
差出人を確認したラルフは、さっそく封を開けて手紙を読み始めた。
ね、む?
幼いフレアには、その手紙の差出人が誰なのかは、はっきりとは読み取れない。
ただ、父の興奮気味な顔を見ていると、何やらいい知らせだったらしいことは一目でよくわかる。
よしよし、やっと出来上がったみたいだな。
受け取った手紙を読み終えたラルフは、そのまま青を見返すと、やつぎばやに言葉を続けた。
よし、それじゃあ行くぞ、青。
え?僕も一緒に行くんですか?
まあいいだろう。お前もどうせ物のついでだ。
こういう時のラルフは、随分と少年のような笑顔をするものである。
54:06
行きまーしょう!
そして青もどうやら、なかなかノリで動けるタイプのようだ。
でも、ラルフさんは走るのが速すぎるんですよ。
だから今回は、ちゃんと僕の走りに合わせてくれますよね?
もちろんだ!
よし、それなら決まりだな。
それじゃあフレア、またちょっと出かけてくるからな。
ラルフはフレアの頭をポンとひと撫ですると、後は任せたと息子に告げる。
え?父ちゃんさっき帰ってきたばかりなのに、また出かけちゃうの?
ラルフはさっき立てかけたばかりのアイトーとローブを既に手に取って、今にも家を飛び出そうとしている。
まあ、これも父ちゃんのいつものことか。
フレアが幼いながらに周りの子供よりも随分と切り替えが早かったのは、こんな父を見て育ったからかもしれない。
わかった父ちゃん!
でも、帰ってきたらまた今度の冒険の話をちゃんと聞かせてよね。
おお、もちろんだ!
それじゃあアティカのこともよろしく頼んだぞ。
あ、フレアさん!僕の分もぜひアティカさんによろしくお伝えくださいね。
もちろん!アオさんもバッチありがとね!またね!
フレアはもらった青いバッチをアオに見せながら、満面の笑顔を二人に返した。
よし、それじゃあ行ってくる!
はい、行ってらっしゃーい!
フレアは大きく手を振りながら、ラルフとアオの背中を見送った。
風を切るように一足跳びで走っていく二人の姿はどんどん小さくなっていった。
ちなみに、アオよ!ちょっとでいいから俺のことを担いで行ってくれないか?
猛スピードで走りながら、ラルフは早速少年顔でアオに甘えていた。
いや、ですから、ラルフさん!僕は人運び屋じゃないんですってば!
まして、ラルフさんはデカすぎるからそもそも担ぐなんて無理ですよ!
え?だったら俺もあの青いバッジが欲しいな!
57:02
いや、ですから、ラルフさん!あのバッジは青郵便のお客さん用なんですよ!
でもラルフさんはお客さんじゃないんですから、バッジはあげられませんよ!
え?硬いな!硬い!そんなにお堅くされちゃっちゃちっとも面白くないじゃないかよ!
二人はかなりのスピードで走りながらも、そんな会話遊びを楽しんでいく。
もちろん、すでに遠く見えなくなったフレアは、チチとアオのこんな会話を知る余地もない。
ただいま!その時、手を振りながらいつもの聞き慣れた声が聞こえてきた。
あ、母ちゃんおかえり!フレア、今日もしっかりお留守番してた?
うん、もちろん!フレアはいつもの満面の笑顔である。
あ、あのね、ちょうどさっきね、父ちゃんが帰ってきてたんだよ。
あら、ラルフ帰ってたの?
アティカはラルフを探しに家の中を覗き込む。
で、たったいままた出かけていったとこ。
フレアはラルフが走っていった方角を指差した。
あら、なんてこった!
アティカは少し大げさに驚いてみせると、
母ちゃん何それ?
フレアと一緒に声を上げて笑っている。
それにしてもラルフさん、せっかくなんだし、
もう少し一休みくらいしていったらよかったのに。
でもまあ、それが彼の仕事なんだから仕方ないか。
しっかり働いてきてもらわないとね。
アティカはラルフが走っていった方角に一人大きくうなずいた。
あと、そういえば、青さんがね、母ちゃんによろしくって言ってたよ。
あら、青さんも来てたの?
うん、ほらこれ、いいでしょ。
フレアはさっき青からもらったばかりのバッジを自慢げに母に差し出した。
あら、これはなーに?
これはね、青郵便のお客さんの証だよ。
青さんがね、これを持っていたらどこにいても伺えますよって。
えー、どこにいてもはちょっと言いすぎじゃないの?
でもまあ、なかなかすごそうね。
今度私も青さんにそのバッジを一ついただこうかしら。
1:00:01
それはいいかも。
そしたらさ、僕と母ちゃんで手紙を送りあったりしてさ、なんだか色々楽しくなりそうだよね。
どうやら青のやりまーせんがどこからか聞こえてきそうな会話である。
それはそうとフレア、あなたのそのボサボサ頭は一体誰に似たのかしらね。
太めについた息子の頭をアティカは笑いながら眺めている。
確かにアティカを見てみると、肩まできれいに揃った髪の毛がさらさらと風になびいていた。
えー、母ちゃんだって小さい頃は同じだったんでしょ?
みんなそうだし、これが普通のはずだよ。
あら、そうだったかしらね。
少し口を尖らせるフレアをアティカはとぼけた顔で笑ってみている。
ラルフに劣らず、どうやらアティカも我が子をいじって遊ぶのが大好きらしい。
なんとも微笑ましい親子である。
それにしても、まあとにかくそろそろちゃんと切ってあげた方が良さそうね。
フレアの幼い癖っ毛をツンツンつまみながら、アティカはその切り時を見定めている。
本当?やったー!
実は僕もさ、本当はそろそろ髪の毛切って欲しかったんだよね。
フレアの顔にはすでに笑顔が戻っていた。
本当になんとも愛くるしい我が子だな。
アティカはいっつもこの笑顔を見るのが一番の幸せだった。
よし、それじゃあ始めようかフレア。こっちに座ってみて。
アティカはフレアを庭先の椅子に座らせて、その体にクロスを羽織らせた。
どうせ切るならかっこよく切ってよね。
もちろん任せておいて。
アティカはにっこり笑顔を返すと、そのままそっと目を閉じた。
それから頬の近くで逆さピースの印を結ぶと、
ノア、静かに発した呪文に酵押し、印を結んだ指先から小さな赤い炎がほとばしる。
アティカがさらに意識を集中させると、その赤い炎は少しずつ形を変えて黄色く輝き、
1:03:05
カミソリの刃のようにその鋭さを増していった。
よし、それじゃあ行くよ。
アティカはそう言うと、手馴れた手つきでフレアの幼毛をどんどんきれいに切りそろえていった。
あ、そうだ。
こーら、振り返っちゃだめよ。
髪を切られながら後ろを振り返ろうとしたフレアをアティカが遮る。
そういえば母ちゃん、こないだゼーダがさ、村の引け死体に入りたいって言ってたよ。
今度は顔はしっかり前を向きながら、目だけで後ろを見上げるようにフレアはアティカに話を続けた。
あら、ゼーダくんが?ほんとに?
アティカは手を休めることなくフレアとの会話を続けていく。
うん、こないだなんてさ、
俺は炎、めらめらと激しく燃え盛る炎なんだぜ。
だから俺は炎の気持ちがわかるんだぜ。
とかなんかすごく変なことを言ってたよ。
え?何それ?
アティカはフレアのモノマネに思わず吹き出しそうになっている。
ゼーダはさ、普段はすっごくヘンテコなのにさ、たまーに急に大人みたいなことを言ったりするからびっくりするんだよね。
フレアは一人でうんうんうなずいている。
ゼーダはさ、きっと母ちゃんの役に立つんじゃない?
だから今度ゼーダを村の火化死体に入れてあげたら?
確かにそれは良さそうね。
よーし、そしたらフレア、今度ゼーダくんに会った時にでも伝えておいてあげてよ。
炎の村の火化死隊長アティカが、ゼーダくんが大きくなったらぜひ火化死隊で待ってるよって言ってたよってね。
アティカはここに一人、将来の有望な火化死の担い手を無事に確保できて大満足の笑顔である。
よーし、はい、出来上がり。
アティカはそんな話をしながらもしっかり髪を仕上げ終わると、フレアにかけていたクロスを外した。
1:06:01
やったー、これでまたきれいさっぱり。
父ちゃんが帰ってきても次はバカにされたりしないもんね。
もう見えるはずもないラルフに向かってフレアはにっこり笑顔で大きくうなずく。
今日も明るい青空の下で遠い地平線までとても見晴らしが良い。
それにしてもさすがは母ちゃんだね。
フレアはまともになった自分の髪の毛を両手でわしゃわしゃやりながら満足げにアティカを振り返る。
当然でしょ。私はあなたの髪をもう何年切っていると思っているのかしら。
満面の笑みを浮かべる息子にアティカはまんざらでもない表情である。
よし、それじゃあフレア。
今日はせっかくだから久しぶりにあの話をしてあげようかしら。
アティカがフレアの顔を覗き込むと。
えっ、それってもしかして。
アティカはフレアのそんな反応が嬉しくてたまらない。
母ちゃんのあの話はさ、いつも嘘でしょって思うんだけどさ。
でももしかしたらありえそうだし。
えーどっちなんだろうって聞いていていつもワクワクしちゃうんだよね。
よし決まり。そしたら今日はどのお話にしようかな。
嬉しそうにレパートリーを思い浮かべるアティカを。
えーもう待ちきれないよ。
フレアは興味津々に待ち構えている。
よし、それじゃあ今日は今までまだ話したことがないお話にしてあげようかな。
やったー!
今日は一体どんな村伝説なの?
早く聞かせてよ。
フレアは待ってましたと言わんばかりに目を大きく輝かせてアティカを見上げる。
こーら、また村伝説なんてからかって呼ぶんじゃないのよ。
これはちゃんとしたお話なんだからね。
アティカはそんなセリフとは裏腹にフレアの名付けのセンスにニヤニヤしている。
フレアも負けじとにやけ顔でアティカの顔にすり寄ると
1:09:04
でも信じるか信じないかはあなた次第ですって
おい、だからからかうんじゃない。
フレアの誘いに乗ってアティカは笑いながら決めゼリフを決める。
ほらやっぱりあなた次第ですって言うんなら本当かどうかはわからないんじゃないか。
だったらさ、やっぱり母ちゃんのお話の呼び名はもう村伝説で決まりでいいでしょ。
フレアはお腹を抱えて笑っている。
まったくもう。
まあでも呼び名に伝説がつくんだったらなかなか悪くはないかもね。
アティカも笑いながらまんざらでもない顔をしている。
まあいいか。
よし、それじゃあ行くよ。
アティカはにっこり微笑むとしっかりといつものマイ向上を読み上げ始めた。
さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
今日もアティカの村伝説の回がやってきましたよ。
これは本当かどうかはわからないけれど、あながち嘘でもなさそうな、
それでもちゃんと根拠もあるお話なんだからびっくり業点。
なんてこったなお話ばかり。
さあ今日はどんな村伝説が飛び出すのかしっかり最後まで聞いていってくださいね。
どうやらアティカはこの呼び名がたいそう気に入ったようである。
それじゃあ今日はこのお空の村伝説始まり始まり。
アティカがそう言うとフレアは目の前の青空を仰ぎ見た。
え?お空?
そうこのお空の話。
この世界はさずっとどこまでもこうして明るいお空が続いているでしょ。
うん今見ている通りでしょ。
フレアは笑いながらうなずくとそのまま言葉を続けた。
村長さんも紙芝居で一番最初にこう言ってるよ。
ここは大きな大樹。
生命の木を真ん中に置いた光の世界。
生命の木はすべての源。
その光を中心にみんな仲良く暮らしていたよってね。
フレアは村長の紙芝居の最初の一節を一気に読み上げた。
1:12:02
そうよね本当にあの紙芝居の通りここはお空がいつも明るくて
まさに光の世界って言葉がぴったりくるのよね。
アティカは自分が小さい頃の記憶を思い返しながらフレアとにっこり笑顔をかわす。
でもねフレア、ここからが今日のお空の村伝説になるんだけれど
アティカは急に真顔で一呼吸を置くとゆっくりと次の言葉を続けていった。
昔、昔のその昔。
今は明るいこの光の世界が、実はずっと真っ暗だった時代があったんじゃないかっていう説があってね。
えーなんてこったー!
お約束通りの決まり文句で笑いながら大げさに驚くフレアの反応を
アティカは微笑みながら楽しんで眺めている。
驚くのはまだ早いでしょ!
アティカはにっこり笑ってフレアを突っ込むと、またすぐに少し真顔で話を続けていく。
ねえフレア、浦山の洞窟深くに暗闇の中だけで生活している大きな闇熊がいるって聞いたことがあるでしょ?
うん、村長さんが危ないから絶対に近づいちゃダメだって。
でも洞窟の中に入らなければあいつらは外には出てこないから大丈夫だって言ってたよ。
そうなのよ。あの熊たちは昔から洞窟の外には出てこようとしないのよね。
外の光に当たると急に大人しくなったり眠っちゃったりするからって言われているよね。
うん、だから外に出てきたところは一度も見たことがないよ。
でしょ?
でもね、昔々にそんな闇熊が洞窟の中でもなんでもない水辺でしばらく暮らしていた跡が見つかったっていう話があってね。
え?どういうこと?
だから光を遮るものが何もないはずの場所なのに闇熊たちが生活していたってことは
1:15:05
実は昔々のその昔、この光あふれるお空がずっと真っ暗な時代があったんじゃないかって話。
これが今日のアティカのお空の村伝説でした。
アティカはフレアの手を取り呼吸を合わせると、この話を信じるか信じないかはあなた次第です。
二人で一緒に最後の決め台詞をバッチリ決めた。
母ちゃんすごーい!
おかげでフレアは大満足の笑顔である。
まあでもそうは言ってもさ、このお空が全部真っ暗だったっていうのはちょっと大げさな気がするけどね。
フレアは笑いながら目の前の青空を見上げると。
だってさ、もしこの光の空を全部真っ暗にするならさ、
それってこの世界を全部すっぽり洞窟の中に入れちゃうとか、窓がないお部屋で覆っちゃうってことでしょ?
そんなの無理無理!
フレアは声を上げて笑っている。
あら、あなたもやっぱりそう思う?
アティカも一緒に笑いながら。
まあでもこれがアティカの村伝説っていうことでね。
うん、やっぱり母ちゃんの話は村伝説だったっていうことだね。
フレアは自分の命名センスにちょっとだけいい気分。
あ、ねえねえ母ちゃん、アティカの村伝説は他にはもうないの?
フレアはおかわりと言わんばかりにアティカにぐいぐい迫っていく。
もちろんあるわよ!
実はね、私たちがみんな持っているこの雫がね、
実はたった一人のおじいさんが作っているんじゃないかっていう話があってね。
えー何それ!
さっきの話よりもさらにヘンテコな話!
さすがは母ちゃんの村伝説だね!
思わず吹き出すフレアと一緒に、
そりゃあそうよね!とアティカも腹を抱えて笑い出す。
1:18:04
今日もいっぱい笑ったなあ!
この光あふれる空の下、まんめん笑顔のフレアを見つめて、
今日もアティカは幸せな気持ちでいっぱいになった。
以上になります。
少年フレアの第一章、ここまで。
全部の回で22回に分かれて書かせていただいたお話になりましたが、
全部通して読んだら1時間20分くらいかかりましたね。
ここまでで全部で何文字かというと、
大体2万3000文字くらいかな。
2万文字くらいですかね。
そのくらいになりましたが、いかがだったでしょうか。
これまでずっとぶつ切りに1週間に1回、1週間に1回で読ませていただいてましたが、
こうして通しで聞いていただくとまた違う雰囲気が出たりするんじゃないかなと思いましたので、
こういう記録として残させていただきました。
ぜひ気が向いた時とか、じっくりラジオを聞き流したいなみたいな長い放送がないかなと思った時に、
ぜひ聞き返していただけると嬉しいです。
概要欄にノートのリンクも貼っておきますので、
第1回のところから読み進めていっていただくと、
順々に第2話、第3話と続いて文字でも読んでいただけますので、
ぜひお楽しみいただけたら嬉しいです。
この後、あの2人の姉妹のお話が出ていったり、
さらにフレアが青年になっていって最後どうなっていくかというお話が続いていきますが、
まだまだ物語は長く続いていく予定でありますので、
ぜひ引き続き小説マイクールヒーローズをお楽しみいただけると嬉しいです。
併せてこの登場するキャラクターがNFTになっていく予定でございます。
ぜひ既に発行しているフレアのNFTや、
マイクールヒーローズジェネシスの悪魔のNFTや、
今後新しく登場してくる新キャラのNFTなども含め、
末長くマイクールヒーローズを一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
それではここまで聞いていただきありがとうございました。
それでは行きます。
チカラチャーンジ!
1:21:00
今日も力あふれる一日を!