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おはようございます。英語の歴史を研究しています、慶應義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
ケニングの紹介
今回取り上げる話題は、「太陽は世界のろうそく、目は頭部の宝石」という話題です。
これは何のことかと言いますと、実は古英語のですね、詩の技法でケニングと呼ばれるですね、非常にこう
史上豊かな複合語なんですね。今日はこのケニングをいくつか紹介したいと思います。
このラジオですね、英語の語源が身につくラジオでは、英語史の話題をお届けしているわけなんですけれども、一番古い時代、古英語ですね。
およそ1000年ぐらい前っていうイメージなんですけれども、これを直接ですね、話に出すっていうのはなかなか難しいんですね。
というのは、現代英語と古英語というのは非常に異なった言語だからなんです。
なので、古英語についてですね、全く知らない状況で、古英語の話であるとか単語の形っていうのをズバッと出してもですね、全く想像できない。
ネイティブスピーカーでも想像できないっていうぐらい大きく異なった言語です。
それくらい、1000年ぐらいの間にですね、英語は変化を遂げてきたっていうことなんですね。
これは日本語の1000年間の変化に比べると、もう何倍も激しい変化を英語は遂げてきました。
なので、現代の英語の知識ではですね、古英語というのはほとんど読めないと言っていいと思うんですね。
なので、直接古英語について深く語るということは、このラジオではなかなかしにくいんですけれども、それでもですね、多少説明するとですね、これは面白いというような話題はたくさんあります。
その代表的なものがですね、この先ほどケニングと呼んだ陰影的な複合語ですね。
これは遠極表現、ズバリそのものを指す意味として指すのではなくて、回りくどくですね、複合語で表現するようなタイプなんですね。
これは詩であるとかレトリックとしては非常に美しかったり技巧が込められたりして映えるわけですよね。
ということで、英語の詩、古英語の詩にはですね、この手のケニングというのが非常に多く含まれていたんですね。
しかも、古英語だけではなくてですね、英語が属するゲルマン語はですね、この手の複合語を作るというのが比較的得意な言語なんですね。
なので、こうしたケニングというのも数多く見られるということなんですね。
特に、古アイスランド語のものが有名ですが、古英語でもですね、いろいろとあります。
いくつか紹介してみますね。
古英語の詩には英雄詩というジャンルがありまして、最も有名な、よく知られているのがベオウウルフというものですね。
詩における表現
そこでは怪物が出てきたりですね、王が、勇者が出てきて戦ったりというような、そういったシーンが多いということなんですけれども、
この刀、剣ですね、これはしょっちゅう現れる単語です。
ソードということなんですが、詩ですし、同じソードというのを何回も使うっていうのは、これは芸がないですね。
詩人としては、別の言い方でソードを指す言い方、表現というのをたくさん編み出して、聞き手を飽きさせないようにするわけですね。
例えば一つなんですけれども、ベアドゥレオマなんていう表現があります。
これ聞いても全くわからないっていうのが、この古英語なんですが、一応二つの部分からなっていまして、ベアドゥというのとレオマという部分というよりは、
二つの単語を組み合わせてソードの意味にしているんですね。
これもともとどういう意味かというと、ベアドゥはバトルのことです。
戦いのレオマっていうのはライト、光です。
つまり戦いの時に光るものということですね。
これでソードの意味にするわけです。
それからですね、よく出てくるのがですね、シップ、船ですね。
船というのは、これもよく出るので、いろんな言い方が詩人としては必要なわけですね。
例えばこんなのがありますね。メレヘンゲスト。
これメレっていうのは海、seaのことです。
ヘンゲストっていうのは馬、horseのことです。
なので、海の馬ということで船の意味になるわけですね。
これまあまあわかりやすいでしょうか。
それから同じ船を意味するのにサーウッド、サーウッドです。
これは考え良ければですね、sea woodに相当するっていうことはわかります。
海に浮かぶウッド、木ということですよね。
他にもうちょっと見入ったものとしてはファーミングヘルフフローター。
ファーミングヘルフフローターなんて言いますね。
これどういうことかっていうと、泡、ファーミングの最初のところ、ファームの部分がフォームなんですが、泡ですね。
泡の首を持つフローターっていうのは今でいうフローター、浮かぶものっていうことですね。
浮遊物っていうんですかね。
波の泡に現れる浮遊物みたいな言い方ですね。
非常に史上豊かです。
他にはですね、船があるんであればこれ海っていうのも言い方たくさんあったりしますね。
もちろんサーとかメレット、先ほど述べた海を表す単語、一つの単語っていくらでもあるんですけれども、同じようにですね、2語を使ってケニングで言う方法っていうのがあって、
例えば、スワンラード、スワンラード、これスワンロードっていうことです。
白鳥が越えていく道という言い方ですね。
他にはですね、こんなのどうでしょう。
フェオルフフース、フェオルフフース、これはフェオルフの部分がソウル、心、魂です。
フースっていうのがハウスのことです。
ソウルハウス。
さあ何のことだと思いますかね。
これは魂、心を宿す容器、家ということで、魂を運ぶその体っていうことになりますね。
他には王であるとか主君という意味でゴールドギエバー、ゴールドギエバーなんていうのがありますね。
これはゴールドギバーっていうことです。
つまり武君のあったものに対して金を与えるものと金でもって報酬を与えるものっていうことで主君、王ということになります。
このように非常に史上豊かな詩人の感性でですね、2つあるいは3つぐらいの単語を組み合わせて指すものは実はよくあるものが多いわけですね。
剣であるとか船であるとか体であるとか海であるとかですね。
こういったものがケニングとして知られているっていうことです。
ケニングの意義
さあ最後に表題に挙げたものなんですけれども、太陽ですね。
これは一言で言えばサンっていうことなわけですが、これをケニングで言うとどうなるか。
world candleとなります。
これは差しがつくと思いますね。
world candle、この世を照らす光で照らすロウソクという美しい表現になっています。
そして最後に
Hell for the gem
これはhead gem
頭、頭部に浮かぶ宝石ということになります。
このように小英語の詩はケニングと言われる非常に史上豊かなそして感性豊かな表現によって彩られていたということなんですね。
これは本来の英語が複合語を作るのが得意だったということと、芸術的そして言葉遊びですね。
言葉による遊び心があってこその一つのレトリック表現だったということになります。
さあこの後の時代、中英語の時代になりますとレトリックと言えばですね、むしろ大陸から入ってきたようなものが主流となっていきまして、この小英語にあったケニングっていうのは廃れていきます。
残念な気もします。今ではあまり残っていないんですが、ケニング味わうことができたでしょうか。それではまた。