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おはようございます。英語の歴史を研究しています。慶応義塾大学の堀田隆一です。
このチャンネルでは、英語の先生もネイティブスピーカーも、辞書も答えてくれなかった英語に関する素朴な疑問に、英語史の観点からお答えしていきます。
毎朝6時更新です。ぜひフォローして、新しい英語の見方を養っていただければと思います。
今回取り上げる素朴な疑問は、forget, forgive の for- とは何、という疑問です。
このforget, forgive、これ、接頭字forというのが付いていますね。その残りの部分は、極めて簡単な単語で、動詞でget, giveということですよね。
このforというのは何なんだ、ということになりますよね。これは同型の独立した前置詞、何のためののforとはどうも意味的には合わない感じですよね。
語源的にもやはり違うんですね。じゃあ何なのか、ということになります。
これは実に古いゲルマン語の接頭字で、ネガティブな、否定的な、どっちかというと悪い意味を表す接頭字なんです。
何々のために、あのforとは全く別ということですね。この意味としては、全体としてネガティブ、否定的ということなんですが、その後ろに来る単語ですね。
動詞であることが多いんですが、形容詞であることもあります。
だいたいですね、こんな感じの意味というか機能なんですね。まず禁止から拒絶、避難、排除、無視、不正、偽り、
違反、差し控え、省略、失敗、悪影響、そして悪いものに対する全体的な強調というような、一言で言えばネガティブな接頭字としてまとめるしかない感じなんですけれどもね。
例えばですね、冒頭に挙げたforgetというのも、getは手に入れるですよね。forgetはどちらかというと手に入れるというよりは、それを手放して忘れてしまうということですから、記憶からなくなってしまう。
自分の元から去ってしまうということで、getの反対という言い方も変なんですけれども、何か否定版であることは何となくわかりますよね。
forgiveというのは許す、許し与えるということで、必ずしもマイナスの意味ではないかもしれませんが、単体のgiveですと単に本当に与えるという意味なんですが、forgiveというと罪に対して何かを許してあげるとかいう形で、
悪いものに対して許しを与えるというような、周辺に何か悪いものというかマイナスイメージのものがオーラが漂っているという、そんな感じはするわけですよね。
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この2語だけでは物足りないので、あまり多くないんですけれども、一応現代英語でもいくつかあります。
例えばforbearというのがありますね。bear単体ですと耐えるという意味ですが、これは耐えるというのもネガティブな感じですよね。
それを強く耐えるということで、しかも自ら耐えるということで、自粛するとか自制するというような意味でforbearという意味で使われます。forbearanceという名詞形もあります。
それからforbidというのもありますね。これは禁止するです。bidというのは命令する、つまり何々せよというふうに命令するわけなんですが、forbidは何々するなというふうに命令する。
つまり否定の命令なんですよね。やはりここでもこのforの部分は否定的な方向に意味を変化させているということになります。
それからあまり使われない単語は続きますがfordoですね。doにforを付けてfordoで、これは何々なしで済ませる。do away withみたいな意味です。
ちょっと否定的ですよね。それからforgoというのも同じような意味で使われます。
それからforsake、これ捨てる、打ち捨てるということですね。それからforsay、sayです、言うです。これ何々に対して反対のことを言うということで、これ禁止するという意味になりますね。
それからforswear、誓う。何々することを誓うというよりは何々しないことを誓う。つまり何々を諦める、何々を捨てることを宣言するというような意味ですね。
このように動詞が続くことが多い。結果としても動詞となることが多いんですが、形容詞という例もいくつかありますね。
例えばforlorn、これ打ち捨てられたという意味で捨てられたということ、これ寂しい、裏寂しいということでforlornとなりますね。
それからforpined、これは疲れ切った、やつれ果てたという意味です。同じようにforspentなんてもありますね。これも疲れ果てた、使い古されたという感じですね。
それからforwearyというのはweary単独でも疲れたという意味がありますが、forでもともとマイナスの意味のものにつくと、それを強める働きをしますね。
なのでforwearyですと疲れ果てたということになります。同じようにforwornというのもそうですね。これもwornだけでもすり減った、疲れたという意味になりますが、forwornで疲れ果てたということですね。
このようなものが非常に多いということですね。
ドイツ語などやっている人は、この英語のforに相当するものは、fairですね。verと発音される瀬戸字で、全く同じ語源で大体悪いものにつくと思います。英語よりももっとたくさんありますね。
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英語でも、実は今減ってしまったんですけれども、小英語、中英語だと現役で、もっともっとたくさんの動詞であるとか形容詞について、このような否定的な悪い意味を表すのによく使われたんですね。
小英語でもいくつかありましたが、面白いことに、古くからあるのであれば小英語でさぞかしがたくさんあって、それから減ってきたのかなと思うかもしれませんが、実は中英語でどんと増えているんですね。
どうもこのforという否定的なネガティブな意味を表すこの瀬戸字forというのが、どうもブレイクしたと、爆発したのが中英語期ということなんですね。小英語にもそこそこあった。それが中英語で爆発した。
ところがその後ですね、一気に衰えて、現代語では本当に先に挙げたですね、いくつかのものしか事実上なくなってしまったということなんですね。
これが何でかっていうのは、なかなか難しい話なんですけれども、中英語でとにかくたくさん出たっていうこと、これは結構面白いなと思うんですね。
例えば中英語後期のジェフリ調査という英詩の父、英語の詩の父と呼ばれるジェフリ調査でも対応されていまして、例えばですね、for bruisedなんていう表現がありますね。
これの括弧名詞ですかね、for bruised、これはbruisedというのは打撲させる、叩く、叩いて怪我を負わせるという意味なんですが、これにforを付けると、叩くというのはもともと怪我を負わせるというのはマイナスイメージの単語ですから、
これを強めるということで、叩くというよりぶっ叩くという感じですかね。非常に強く叩く、で怪我を負わせるということです。それからですね、for songenなんていう単語がありまして、これsongenっていうのは、実はsing sang songのsong、過去分詞です。
これ歌いすぎて疲れるっていう変な意味なんですよ。forが付いて、つまりマイナスになるまで歌い続けると、疲れ果てるまで歌い続けるなんていう表現もあります。それからwrapこれwrapですね、wrapです。
これにforを付けて、さらに過去分詞にしてfor wrappedとすると、覆われるということなんですが、覆われてひどい目に遭ってしまうということですかね。とにかくマイナスイメージが付随するということなんですね。
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それからfor drunkなんてのもあります。ただ酔っ払ったんではなくてですね、酔っ払ってぶっ潰れるっていうような感じでしょうかね。語感としてはですね、この日本語のぶん殴る、ぶっ殺す、ぶっ飛ばすの、ぶんとかぶという瀬戸字ですね、勢いをつける瀬戸字で、江戸弁として非常に勢いがあってありますが、
ちょっと下品ですよね。否定的な意味があるというような、実はこの感覚にこの中英語記のこのforっていうのは爆発して増加したんですが、このニュアンスに割と近いんではないかなと私はなんとなく思っています。
現代に残っているのは本当に一握りの単語だけですけれども、この否定的な意味を表すfor、覚えておいていただければと思います。
それではまた。