列車の中の思い出
タイトル 霧の列車
濃い霧が線路沿いの森を覆い、窓の外は白い色に沈んでいた。
列車の車内には、冷えた金属の匂いと古い布地の香りが漂い、
カズヒサは膝に置いたICレコーダーをじっと見つめた。
再生ボタンを押すと、かすかなノイズの後、柔らかな女性の声が流れた。
霧の日って、世界が内側に閉じるみたいで好きだった。
何も見えない分、思い出が近く感じられるの。
スミエの声。
泣き妻の最後の録音だ。
再生するたび、カズヒサはいつも同じ席に座り、彼女の面影をこの列車の中に探す。
今日、定年から一年、再びのろっこ号に乗ったのは、ただ彼女の言葉に合うためだった。
列車はカーブを曲がり、わずかな遠心力が体を押す。
向かいの席に、一人の少女が座っていた。
制服姿で、手には古びたフィルムカメラ。
曇った窓の向こうに向けて、静かにシャッターを切っていた。
霧って、不思議ですね。
少女がつぶやく。
全部が隠れてるのに、全部が近くなる気がして。
カズヒサはゆっくりとうなずいた。
若いのに、いい感性だね。
少女は笑い、鞄から一枚の白黒写真を取り出した。
そこには、若い女性が幼い少女に話しかけている姿。
背景には、この列車の窓と、今日と同じ濃い霧。
祖母のアルバムにあった写真なんです。
彼女が昔、落ち込んでいたとき、この列車で見知らぬ女性に励まされたって。
いつも、その人の話をしてくれた。
優しくて、霧の中の光みたいだったって。
カズヒサは写真を見つめた。
柔らかく笑うその女性は、スミ絵だった。
目元、指先の角度、あの時のコート。
記憶が深く揺れる。
きっと、いい出会いだったんだろうね。
少女はカメラを胸に抱えた。
私、その人にお礼が言いたくて、もう会えないってわかってるけど、
何か伝えたくて来たんです。
カズヒサはゆっくりとICレコーダーを差し出した。
再生してみるかい。
たぶん、君のおばあちゃんが聞いた声と同じだよ。
再生ボタンが押される。
列車の揺れと車輪の音に重なるように、スミ絵の声が響く。
もしこの声が誰かに届くなら、ありがとうを伝えたい。
あなたがいたから、私はきっと今日を好きでいられたの。
少女は霧の向こうに何かを見つめるように、じっと耳をすませた。
列車が終点に近づく。
少女は立ち上がり、深く一礼して降りていく。
その姿はすぐに霧に包まれ、見えなくなった。
カズヒサは目を閉じ、音の残響に耳をすませた。
遠くで汽笛が鳴る。
その音はどこか、スミ絵の笑い声に似ていた。
以上、本日の小説は霧の列車でした。
この小説はAIによって生成しています。
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