フェルメールの作品紹介
こんにちは、ザ・ディープダイブへようこそ。さて、今日、あなたと一緒に深く掘り下げていきたいのは、えーっと、一枚の絵画なんです。
お、絵画ですか。
ええ、ヨハネス・フェルメールのあの普及の名作、デルフトの長顔、です。
あー、デルフトの長顔。これはまたすごい作品を選びましたね。
そうなんです。しかも今回、僕たちが手がかりにする資料が、これがまたすごく面白くて。
ふん。
もともとですね、視覚に頼らなくても、こう作品のイメージが伝わるようにって書かれた、言葉だけのすごく詳細なガイドなんですよ。
なるほど。つまり、色や形をただ説明するだけじゃなくて、その場の空気感とか、そういうものまで伝えようとするテキストってことですね。
まさに。
それは面白い。我々にとっても、ちょっと新しい挑戦になりますね。
ですよね。だから今回は、この言葉の地図を頼りに、あなたと一緒に、まるで本当に絵の前に立っているかのように、この作品をじっくり味わってみたいんです。
そして、なぜこの一枚が、美術史上の最高傑作とまで言われるのか、その確信に迫っていこうかなと。
ぜひ行きましょう。単に絵を解説するんじゃなくて、描かれた時代の精神とか、フェルメールという画家の目を通して、17世紀のデルフ島を旅するような、そんな時間にしたいですね。
光の描写と構図
いいですね。では早速、この言葉のガイドに従って、心の中で絵の前に立ってみましょうか。
はい。
まず目に飛び込んでくるのは、どこまでも広がる穏やかな風景です。手前には静かな川、その向こうに街が広がっている。
この解説文を読んでいると、まず安定感という言葉が浮かんできますね。すべてが完璧な場所に収まっているような。
その安定感、すごく的確な表現だと思います。というのも、この絵の構図って、実は水平線が3分割されているんですよ。
3分割ですか。
一番下に水面、真ん中に街並み、そして一番上に空。このなんというか古典的で落ち着いた構図が、まず見る人の心を穏やかにさせるんです。
それで、視線が手前の岸辺から中央の城門を通って、奥の教会の先頭へと、まるで道を歩くように自然に導かれていく。
ああ、なるほど。ただ景色を切り取ったんじゃなくて、僕たちの視線をエスコートしてくれているわけですね。
そういうことです。
この解説によると、手前には数隻の船が停泊してて、水面は鏡のように空とか街を映しているとありますね。
こうやって言葉で覆うだけでもなんだか心が静かになりますね、この風景。
そしてその静けさから、視線は街の中心、活気のある場所へと誘われる。フェルメールは観賞者にデルフトという街を体験させるための、まあ見事な導入部を用意しているわけです。
これは単なる風景画じゃなくて、街への招待状みたいなものかもしれないですね。
招待状ですか?面白い見方だな。そしてフェルメールといえば、やっぱり光ですよね。
はい。
光の魔術師なんて異名もありますけど、この絵はその本領がもう遺憾なく発揮されている。
この解説文を読んでて特に面白いなと思ったのが、空の描写なんですけど。
ほう、空ですか。
白を基調とした明るい灰色と青が広がり、雲の切れ目から太陽の光が差し込んでいる、と。
まさにそこがこの絵の心臓部と言ってもいいかもしれない。
心臓部。
驚くべきことに、この絵、強烈な太陽そのものは描かれてないんですよ。
あ、言われてみればそうですね。
描かれているのは、雲を通過して大気に拡散した柔らかくて、でも輝かしい光。
特に地平線に近い辺りは、ちょっと専門的になりますけど、水白とか臨測黄色っていう、当時すごく高価だった顔料を惜しげもなく使ってですね。
へー。
まるで内側から発光してるみたいに描いてるんです。
内側から発光。だからあんなに印象的なんだ。
その光が街のあちこちに当たって、ある部分は明るく照らされて、ある部分は影になってる。
へー。
この解説文だと、教会の塔や家々の屋根がまだらに光を浴びているっていう表現がされてますね。
この光のまだお模様が、街全体にこう、生き生きとした表情を与えてるように感じます。
おっしゃる通りです。
彼の光の使い方は、単にものをリアルに見せるためだけじゃない、光と影の巧みなコントラストで、街並みに驚くほどの奥行きと立体感を生み出してるんです。
うんうんうん。
光が当たったレンガの壁は、そのざらついた質感まで伝わってくるようですし、影になった部分は、こうしっとりと湿った空気を感じさせる。
あー、なるほど。
彼は光を描くことで、目には見えない雰囲気そのものを描き出してる。まさに魔術師の仕事ですよ。
雰囲気そのものを描くか。でもこれだけ穏やかで、黄金色の光に満ちた雰囲気って、やっぱりこの絵が描かれた時代と無関係じゃないですよね。
素晴らしい問いですね。
どんな時代だったからこそ、こんな作品が生まれたのかなと。
まさにその通りで、この絵は時代の産物なんです。描かれたのは1660年頃、17世紀オランダ、いわゆる黄金時代の絶頂期です。
芸術家の視点と理想
黄金時代。
世界貿易で莫大な富を築いて、科学も芸術も市民文化が花開いた、ヨーロッパで最も豊かで自由な国でした。
なるほど。フェルメールが生まれ育ったデルフとも、その繁栄の中心地だったわけですね。
そうですそうです。
この絵に描かれている健康な城壁とか、行き交う船は、その豊かさと平和の象徴でもあると。
ですから、この絵の穏やかで安平した空気っていうのは、そのままオランダ黄金時代の精神を映し出していると言えます。
戦争とか宗教的な対立といった激しいドラマじゃなくて、市民が築き上げた秩序と繁栄への静かな誇り。
そう考えると、これは単なる街の肖像画を超えて、一つの時代の理想と自信を描いた時代の肖像画とも言えるんじゃないでしょうか。
時代の肖像画ですか。
確かにそうかもしれませんが、一方でこれって、ただ彼が自分の大好きな故郷を一番美しく見せたいっていう純粋な気持ちの表れとも考えられませんか。
もちろん。
愛する街へのラブレターみたいな。
それももちろん大きな動機でしょうね。しかしですね、ここで非常に興味深い事実が明らかになるんですよ。
と言いますと。
実はこの絵、現実のデルフと100%忠実に描いたものじゃないんです。
え、そうなんですか。あれだけ写実的に見えるのに。この解説文にも建物のディテールまで細かく描写されてるって書いてありますけど。
ええ、ディテールは驚くほど写実的です。でも、近年の研究でフェルメールがいくつかの建物の位置を現実とは微妙にずらしたり、大きさを変えたりしてるってことが分かってるんです。
待ってください、それって少し驚きです。あれだけリアルに描ける技術を持った人が、わざわざ嘘を描いたってことですよね。
うんうん。
それって当時の画家としては当たり前のことだったんですか。それともフェルメールが特別だったんでしょうか。
いや、非常に鋭い指摘です。これは当時の芸術に対する考え方を理解する上で、ものすごく重要なポイントになりますね。
当時の画家にとって、必ずしも見たままを写すことが最高の目的ではなかった。
あ、そうなんですか。
ええ。むしろ現実の要素を突射全卓して、再構成して、より美しく、より調和の取れた理想の世界を画面の中に作り出すことこそが、芸術家の腕の見せ所だったんです。
なるほど。じゃあ彼は記録者じゃなくて、編集者、あるいは監督みたいな視点を持っていたと。
まさしく。
現実のデルフトを素材として、最高の構図になるように建物を再配置したわけだ。
そういうことです。彼は現実のデルフトへの深い愛情を持ちつつも、それを超える芸術的なビジョン、つまり完璧なデルフトのイメージを頭の中に持っていた。
うーん。
その理想を実現するためなら、現実を曲げることも祈わなかった。ここに彼の芸術家としての強い意志が見て取れます。
うーん、面白いな。その理想を実現するために何か特別な道具を使っていた、なんていう話はありますか?
彼の絵って、どこか写真みたいな、人間の目とは少し違う光の捉え方をしているように感じることがあるんですけど。
よくぞ聞いてくれました。
フェルメールの技法
あ、やっぱり何か。
ええ。古くからフェルメールはカメラオブスクラを使っていたんじゃないか、という説が有力されています。
カメラオブスクラ、聞いたことあります。
いわばピンホールカメラの原型ですね。レンズを通して見た光景を暗い箱の中に投影する装置です。
それを使うとどういう効果があるんですか?
レンズを通すことで、まず遠近法は機械的に正確になります。
それから光のハイライトが滲んで、丸い光の粒のように見える桜園という現象が起きるんです。
ああ。
フェルメールの絵によく見られるあのキラキラした光の点の表現、あれはまさにこのカメラオブスクラで見た光景にそっくりだと言われています。
なるほど。
ただこれについては論争もあって。
論争というと。
もし彼が道具に頼っていたとしたら、それは彼の天才性を損なうものじゃないのかという意見ですね。
うーん。
しかし私はそうは思いません。
カメラオブスクラはあくまで補助的な道具。
それが見せる光景をどう解釈して、どう絵画として再構築するかは完全に画家の感性と技術に委ねられているわけですから。
ええ。
むしろ彼は最新の学的知見を自分の芸術に貪欲に取り入れた革新的な画家だったと考えるべきでしょうね。
デルフトの眺望の評価
なるほど。道具を使ったから評価が下がるなんてことは全くないと。
はい。
むしろ最高の作品を作るために使えるものは何でも使うというクリエイター魂の現れだったのかもしれないですね。
まさに。
いやー一枚の絵の裏にこれだけの計算と哲学があったとは。
ではこれら全てを踏まえてこのデルフトの長坊という作品は今日どのように評価されているんでしょうか。
それはもう言うまでもなくフェルメールの最高傑作の一つです。
そして17世紀オランダ絵画、日では西洋美術史全体を見ても風景画の頂点に立つ作品として不動の評価を得ていますね。
はい。
現在はオランダのハーグにあるマウリッツハイス美術館が所蔵していて文字通り司法として扱われています。
そして何よりフェルメールの作品自体がものすごく希少なんですよね。
そうなんです。
生涯に描いた作品数が少なくて現存が確認されているのはわずか30数点。
その中でも純粋な風景画ってなるとこのデルフトの長坊ともう一点コロジという作品のたった2点だけ。
そうなんですよ。だからこそこの作品は奇跡的な存在なんです。
改めてその評価の理由をまとめると3つの要素が奇跡的なレベルで融合しているからだと言えます。
3つの要素。
1つは建物のレンガ1枚1枚まで描き分けるような驚異的な写実描写の技術。
1つは先ほどから話している光と空気を描き出すというもはや魔術の域に達した表現力。
そして最後の1つが現実さえも再構成して作り上げた完璧なまでに調和した構図の美しさ。
これらが一体となって描かれた時代や場所を超えた普遍的な感動を私たちに与え続けてるんです。
いやー今回の探求は本当に発見の連続でした。
穏やかな風景画だと思ってた1枚の絵が実は巧みの視線誘導計算され尽くした光の演出
そして現実を超えた理想の追求っていう画家の情熱と知性の結晶だったとは。
この解説文がなければここまで深く味わうことはできなかったかもしれないです。
言葉を手がかりに絵を旅するっていうのも面白い体験でしたね。
最後にですねあなたに一つ思考を巡らせてみていただきたいことがあるんです。
何でしょう。
今回の私たちの出発点になったのは視覚に頼らずとも絵画を鑑賞できるように書かれた言葉によるガイドでしたよね。
はい。
これを踏まえて少し想像してみてください。
もしあなたがこのデルフトの眺望あるいはご自身の好きな他の芸術作品を
言葉だけで誰かに伝えなければならないとしたらどの部分をどのように表現しますか。
その作品の見た目つまり形や色といった客観的な情報だけじゃなく
作品全体が持つ空気感とか見る人の心に呼び起こす感情までを伝えるために
あなたにとってどのディテールが最も重要だと感じますか。
言葉で絵を描くとしたらあなたの筆はまずどこから動き出すでしょうか。