ジャズとカクテルの空間
ボイスドラマ 。。。バー。。。ビーブラットにようこそ。
登場人物、tomy。バー。。。ビーブラットのマスターで、50代の男性。
渋く、落ち着いた声で、ジャズとカクテルに深い知識を持つ。
マリア。若い女性のバーテンダー。20代女性。
明るく、ハキハキした声で、tomyを尊敬している。
アキラ。30代の常連客。仕事帰りのサラリーマン。少し疲れた様子。
ミサキ。アキラのお同僚。30代の女性。しっかり者で、面倒見が良い。
ユウコ。初めて来店した20代の若い女性。少し緊張している。
コッコッコッと気温の伴うジャズピアノのウントロが流れている。
グラスを拭く音や、氷の触る音が聞こえる。
マスター、今夜もありがとうございます。
いや、どういたしまして。マリア、今日も良い音だろう。
ビル・エヴァンスのワルツ・フォー・デブ。スタンダードチューのスタンダードだ。
はい。聴いていると心が落ち着きますね。
どうだろう。この曲は、エヴァンスがめっこのデビューのために書いた曲なんだ。
静かで優しい。まるで大切な人を思う気持ちが音になったようだ。
カチャッと、バーの扉が開く音がする。
トミーさん、マリアさん、こんばんは。
あっ、アキラさん、いらっしゃい。今日も仕事帰りですか?
ああ、今日も遅くなっちまった。疲れたな。
ちょっと、アキラさん、愚痴ばっかり言わないの。せっかく良いバーに来たんだから。
トミーさん、マリアさん、こんばんは。
いらっしゃい、ミサキさん。
いつものように疲れた男としっかり者の女性の組み合わせだな。
アキラさん、いつものギムレットで良いですか?
ああ、頼む。今日の疲れをあのキレの良いカクテルで吹き飛ばしてくれ。
ギムレットか。良いチョイスだ。
シャッシャッシャッとセーカロを振る軽快な音が響く。
ギムレットはジンとライムジュースを合わせたシンプルなカクテルだが奥が深い。
シェイクする時の手の動き一つで味が変わる。
ライムの酸味とジンのキレが疲れた心に染み渡る。
コッコッコッとグラスに注ぐ音。グラスをテーブルに置く。
ああ、これだよ。最高だ。
今日の嫌なこと全部忘れそうだ。
私は、そうですね。
マスター、カクテル名が思い出せないんですけど、
映画007でジェームズボンドが飲んでたカクテルありますよね。
あれをください。
007か。
そうか、今日は少し刺激が欲しい気分なんだな。
マティーニドライで良いかい?それともベスパー?
ベスパー、それです。
ステアせずシェイクでって言うんですよね。
その通りだ。
ジン、ウォッカ、キナリレ。
本来はステアで作るのがセオリーなんだが、ボンドはシェイクを好んだ。
シェイクすることで氷が細かく砕けて、まろやかで少し口当たりが変わる。
シャッシャッシャッとシェイカーを振る音。
コッコッコッコッとグラスに注ぐ音。
ミサキさん、どうぞ。
今日の嫌なことはボンドのように華麗に吹き飛ばしてくれ。
わあ、本当に美味しい。なんだか強くなった気分です。
コッコッコッと再びジャズが流れる。
先ほどより少しアップテンポな曲。
客同士の会話が聞こえる。
タッチャッと扉が開く音がする。
いらっしゃいませ。
あの、一人で大丈夫ですか?
はい、もちろんです。どうぞカウンターへ。
いらっしゃい。お嬢さん、うちに来るのは初めてかな?
出会いとハーモニーの夜
はい、なんだかずっと来てみたかったんです。ジャズが好きで。
そうか、嬉しいね。
今日の曲はアートブレイキーのモーニング。
モーニング、この曲を聞くとなんだか元気が出ます。
ユウコさん、何かお飲み物はいかがですか?
えっと、カクテルって…
えっと、カクテルって全然詳しくなくて…
だったら、今日はサイドカーはどうだい?
サイドカー?
コニャック、ホワイトキュラソー、レモンジュースを合わせた女性に人気のカクテルだ。
シャシャシャ
昔、パリのバーでサイドカーに乗って現れた女性のために作られたと言われている。
ロマンチックな話だろ?
甘さの中にコニャックの芳醇な香りとレモンの爽やかさが調和してエレガントな味わいだ。
さあ、どうぞ。初めてのバーで初めてのカクテル。何か新しい扉が開くかもしれない。
お嬢さん、初めてか?ここは本当にいい店だよ。
マスタンもマリアさんも、そして流れるジャズも最高だ。
そうそう、疲れた時も楽しい時もいつもここに来るの。
そうなんですね。来てみてよかったです。
ジャズの音量が少し大きくなる。
音楽も酒も人と人との出会いもすべて一期一会だ。
このビーブラットという空間で素敵な夜を過ごしてほしい。
クレジットのような雰囲気で静かなジャズピアノの曲が流れる。
トミーとマリアの会話が聞こえる。
今夜もいい夜だったな。
はい、マスター。サイドカーのユウコさん、すごく嬉しそうでしたね。
人とカクテルとジャズの素敵なハーモニーが生まれた夜だった。
そういう夜が明日への活力になる。
うん、と小さく頷く。
さあ、もう一杯行こうか。
コッコッとグラスを置く音。
ジャズピアノの音が少し大きくなってフェードアウト。
あなたの心に寄り添うジャズとカクテルのバー、ビーブラット。
今夜も扉を開いてお待ちしています。