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スピーカー 1
これは非常に重要なテーマですね。日本の現状を正確に把握するために、まずは先ほどお話ししたエンジン、つまり個人の基礎能力のデータから見ていきましょうか。
スピーカー 2
はい、どんなデータがあるんですか?
スピーカー 1
OECDが実施しているPIAACという国際成人力調査というものがありまして
スピーカー 2
PIAACですね。大人のスキルを測るテスト
スピーカー 1
そうです。世界中の大人の基礎能力を測る非常に信頼性の高いテストなんですが、ここで日本の成人はなんと読解力で296点
スピーカー 2
296点!
スピーカー 1
そして数的思考力で288点と、3カ国の中でぶっちぎりの1位を記録しているんですよ。
スピーカー 2
圧倒的1位!いやそれだけで日本人としてはすごく誇らしい気持ちになりますよね。
スピーカー 1
なりますよね。でもデータの中身を見ると、さらにすごいことがわかるんです。
スピーカー 2
と言いますと?
スピーカー 1
トップ層が優秀なだけじゃないんですよ。あの、最も基礎的なレベル1に満たない層、これがですね、全体の10%未満しかいないんです。
スピーカー 2
えっと、10%未満ですか?
スピーカー 1
はい。これは読解力において日本だけの驚異的なデータなんです。
スピーカー 2
つまり、落ちこぼれが極端に少ないと。
スピーカー 1
そういうことです。国全体として底辺の底上げにこれほど成功している社会は他にないんですよ。
スピーカー 2
へー。全員が高い水準で文章を理解して計算もできる。これってどんなに高度なマニュアルを渡しても新しいシステムを導入してもですよ。
ええ。
スピーカー 2
全員がそれを読んで理解して使いこなせるだけのポテンシャルがあるってことじゃないですか。
まさにその通りです。
スピーカー 2
じゃあ、なんで現実のオフィスではこのエクセルどうやって保存するんだっけみたいな光景が未だにあちこちで繰り広げられているんですか。
ああ、そこですよね。そこが今回の最大の謎であり非常に面白いポイントなんです。
教えてください。
スピーカー 1
実はですね、このPIAACの調査にはITを活用した問題解決能力という項目も含まれていまして。
スピーカー 2
デジタルのスキルも測っているんですね。
ここで非常に興味深いのは、テストをコンピューターで受けた人たちの成績を見ると、これも日本は世界一位なんですよ。
ちょっと待ってください。紙のテストでも世界一位で、パソコンを使ったテストでも世界一位。
はい、そうです。
スピーカー 2
それなら完全にデジタル大局じゃないですか。どこにも資格がないように聞こえますけど、もしかしてそのデータ何か裏があるんですか。
鋭いですね。問題は成績そのものじゃないんです。誰がそのテストを受けたのかという前提の方に大きな罠がありまして。
スピーカー 2
誰が受けたか。
スピーカー 1
ええ、実は日本の成人のうちなんと36.8%もの人がパソコンでのテストを拒否して紙のテストを希望したんです。
スピーカー 2
36.8%も。えーっと3分の1以上ですよね。
スピーカー 1
そうなんですよ。さらにコンピューター調査そのものを辞退した人が15.9%に達しまして。
スピーカー 2
辞退ってもうテスト自体を受けないってことですか。
スピーカー 1
ええ、そういうことです。OECDの平均辞退率が24.4%なんですが、日本のこのパソコン拒否と辞退の合計の数字は異常な突出ぶりなんです。
スピーカー 2
なるほど、そういうからくりでしたか。つまりパソコンを使ってテストを受けた人たちは確かに世界一優秀だけど。
スピーカー 1
優秀なんです。そこは間違いない。
スピーカー 2
でもその背後にはそもそもマウスを握ることすら拒絶する強烈なPCアレルギーを持った巨大な層が隠れていたと。
スピーカー 1
そういうことです。文字を読んで計算する基礎能力は驚くほど均一で高いのに、いざデジタル機器を操作するって段階になった途端に極端な二極化が起きるんですよ。
スピーカー 2
極端な二極化。でもなんでそこまでパソコンを拒絶するんですかね。
スピーカー 1
心理学的な分析によればですね、日本の成人は間違えることに対する恐怖心が非常に強いと言われています。
スピーカー 2
ああ、失敗したくないんですね。
スピーカー 1
ええ、紙なら鉛筆で書いても消しゴミで消せますよね。でもコンピューターというブラックボックスに対しては、一つクリックを間違えたらすべてが壊れてしまうかもしれないという強い心理的障壁が働いているんです。
スピーカー 2
なるほど、失敗を極端に恐れる完璧主義が新しいツールへの恐怖にすり替わっているわけですね。
スピーカー 1
まさにその通りです。
スピーカー 2
リスナーの方の中には、いやいや、それって要するに定年目前のおじさんとかおばさんたちがパソコンを怖がっているだけでしょうって、そう思っている人も多いはずですよ。
スピーカー 1
ええ、よく言われることですね。
スピーカー 2
だって職場の20代の同僚とか見ると、みんな息をするようにスマホを使いこなしてますからね。
スピーカー 1
はい、でもそのデジタルネイティブ世代が会社を救ってくれるという神話こそが次の大きな罠なんですよ。
スピーカー 2
罠ですか?年齢の問題じゃないと。
スピーカー 1
ええ、スキルの二極化は決して年齢だけの問題じゃありません。
ここでアメリカの16歳から19歳を対象とした同じくPIAACのデータを引き合いに出しましょう。
スピーカー 2
アメリカの10代ですね。
スピーカー 1
はい、彼らはまさに生まれた時からスマートフォンやタブレットに囲まれて育った彗星のデジタルネイティブです。
スピーカー 2
ええ、もう画面をスワイプするのが当たり前の世代ですよね。
はい、ではそんな彼らの中で、復習のアプリケーションを横断して情報を統合し、論理的に推論するような、いわゆるレベル3の問題解決能力を持っていた若者はどれくらいいたと思いますか?
うーん、まあスマホの操作と仕事のITスキルは違うとはいえ、さすがにデジタルネイティブですから、20%か30%くらいはいるんじゃないですか?
スピーカー 1
わずか4%です。
スピーカー 2
えっと?4%?
スピーカー 1
はい、たったの4%です。一方でレベル1あるいはそれ以下の最低レベルの層が全体の65%を占めていました。
スピーカー 2
たった4%、それはちょっと衝撃的な数字ですね。みんなどんなアプリでも直感的に使いこなしているように見えるのに。
スピーカー 1
ここで重要なのは、消費するITと生産するITの違いなんですよ。
スピーカー 2
消費と生産ですか?
スピーカー 1
彼らはTikTokをスワイプしたり、SNSでフィルターをかけたりといった極限までユーザーインターフェースが洗練されたアプリを消費することにはものすごく長けています。
スピーカー 2
確かに直感的に使えるように作られてますからね。
スピーカー 1
そうなんです。でも仕事で求められるITスキルって違いますよね。
例えば顧客管理システムからデータをエクスポートして、それをExcelでクロス集計して、その結果をもとにメールの文面を作成するみたいな。
複数のツールをつなぎ合わせて自分で問題を解決する力ですね。
スピーカー 1
はい。この能力においては若年層であっても残酷なまでに二極化が進んでいるんです。
スピーカー 2
それはリスナーのあなたにとっても私にとっても耳が痛い話ですね。
スピーカー 1
そうかもしれません。
スピーカー 2
日常的にスマホを使い倒している私たちも実は便利なツールの消費者になっているだけで、ビジネスにおける問題解決者には慣れていないかもしれない。
スピーカー 1
ええ。ただの消費者になっている危険性があります。
スピーカー 2
年齢という言い訳は通用しないわけですね。
はい。
スピーカー 2
では、この優秀なトップ層とツールを拒絶したり消費するだけの層という二極化があるとしてですよ。
スピーカー 1
ええ。
スピーカー 2
日本の組織はその優秀なトップ層の才能をちゃんと活かせているんでしょうか。
スピーカー 1
それを探るためにですね、今度はオンライン学習プラットフォームコーセラの2024年から2025年のデータを見てみましょう。
スピーカー 2
コーセラ、有名な学習サイトですね。
スピーカー 1
はい。このデータによると、日本の個人のスキル習熟度はなんとグローバルで17位、アリア太平洋地域の中ではトップクラスに位置しているんです。
スピーカー 2
へえ。ということは、個人レベルで見れば学習意欲が高くて高度なテクノロジースキルを身につけている人は日本にもたくさんいるわけですよね。
スピーカー 1
そうなんです。非常に優秀な個人は多種多に存在しているんです。
これを全体像と結びつけて考えると、すごく興味深いというか構造的なパラドックスが見えてきまして。
と言いますと?
スピーカー 1
これほど優秀な個人がいるのに、スイスのビジネススクールIMDが発表した世界デジタル競争力ランキング2025を見ると、信じられない現象が起きています。
スピーカー 2
なんですか?
日本の総合順位は30位にとどまっています。
スピーカー 2
個人は17位なのに、国や企業としては差の順位に落ちるんですね。
スピーカー 1
さらに詳細な項目を見るともっと悲惨でして、企業の機敏性、つまりアジリティは60位。
スピーカー 2
60位。
スピーカー 1
そして上級管理職の国際経験に至っては、調査対象69カ国中で最下位の69位という壊滅的な数字なんです。
スピーカー 2
ちょっと待ってください。基礎能力は世界一位で、個人のIT学習意欲もアジアトップクラス。
なのに、会社という組織になった途端にスピード感が失われて、アジリティが60位。
管理職の経験値は最下位に転落してしまう。
スピーカー 1
そういうことです。
これなんというか。
スピーカー 2
例えるなら、最新のスマートフォンの超高性能プロセッサーを昭和のダイヤル式の黒電話のボディに無理やり詰め込んでいるような状態じゃないですか。
スピーカー 1
なるほど。
スピーカー 2
力のあるチップは凄まじいスピードで計算しているのに、外側のダイヤルがじーじーってゆっくり回っているから、全く世界と通信できないみたいな。
まさにその通りです。見事な比喩ですね。個人の優秀さが組織の力に全く変換されていないんです。
スピーカー 2
じゃあなぜその黒電話のボディはいつまで経ってもアップデートされないんですか。
スピーカー 1
そこにはいくつかの構造的な要因があります。最大の理由は日本企業がITを長年に渡って外部委託、つまりアウトソーシングに依存してきた歴史です。
スピーカー 2
外部の業者に丸投げする文化ですね。
スピーカー 1
アメリカなどの企業は自社内でエンジニアを雇って常にシステムを改善していきますが、日本企業は社内研修の実施率がアメリカの半分以下なんです。
スピーカー 2
半分以下ですか。
スピーカー 1
はい。システム開発を外部のSIerに丸投げし続けた結果、社内にどうテクノロジーを活用するかというノウハウも蓄積されず、それを適切に評価できる管理職も育ちませんでした。
スピーカー 2
なるほど。何か新しいツールを入れようとしても社内の人間が誰もその仕組みを理解していないから、いちいち外部の業者にこれできますかって見積もりを取らなきゃいけない。
その通りです。
スピーカー 2
そりゃ何か決めるのに何ヶ月もかかって、アジリティが抑重になるのも納得ですよ。
スピーカー 1
ええ。さらに深刻な要因として、スキルのアンダーユース、つまり過小利用の問題があります。特に女性人材の放置ですね。
スピーカー 2
女性のスキルが活かされていないと。
スピーカー 1
はい。先ほどのPIAAC調査では、実は日本は同じ学歴であれば、男女間で基礎スキルの差がほとんどない、世界でも珍しい国なんです。
スピーカー 2
つまり、男性も女性も同じくらい優秀なエンジンを持っているわけですね。
スピーカー 1
ええ。しかし、そのスキルを職場で使う機会というデータを見ると、女性の利用機会が一流しく低いんです。
スピーカー 2
もったいないですね。
スピーカー 1
せっかく高度な問題解決能力を持っていても、組織の古びた役割分担や年功序列の構造によって、単純作業しか任されていないケースが非常に多い。
スピーカー 2
優秀なエンジンを積んでいるのに、軽トラみたいな扱いをされているわけだ。
スピーカー 1
そういうことです。さらに、25歳以上の大学入学率なOECDで最低レベルというデータも示している通り、社会人になってからの学び直し、いわゆるリカレント教育のルートも実質的に立たれています。
なるほど。優秀な人材はいるのに、外務への丸投げ文化と硬直化した社内構造のせいで、その能力が完全に宝の持ち腐れになっているわけですね。
スピーカー 1
残念ながら、そういう構造になってしまっています。
スピーカー 2
さて、ここからが本当に面白いというか、今日一番恐ろしいところなんですが、こうしたITスキルの極端な二極化と黒デーマのような硬直した組織を抱えたまま、今、日本のビジネス界は生成AIという巨大な津波に直面していますよね?
スピーカー 1
ええ、まさに直面しています。
2026年の最新データでは、日本企業の生成AI利用率はなんと83.2%にまで急増しているそうです。これだけ見ると、ついに日本も思い越しを上げてデジタル化に成功したように思えますが。
スピーカー 1
そこなんですよ。その83.2%という数字の裏側を注意深く見る必要があります。
スピーカー 2
裏側ですか?
スピーカー 1
ええ。利用用途の75.5%が単なる文書や資料の作成、あるいは議事録の要約といった日常業務のほんの表面的な効率化にとどまっているんです。
まあ、議事録の要約も便利ですけど。
スピーカー 1
もちろん便利ですが、世界で起きているAIの進化や脅威はそんなレベルではありません。最も致命的で深刻なのは、サイバー攻撃者たちがすでに生成AIを完全に武器化しているという現実です。
武器化ですか?ただの便利ツールではなく、ハッカーの強力な相棒になっていると。
スピーカー 1
そうです。現在、フィッシングメールの実に83%がAIによって生成されています。
スピーカー 2
83%も?
スピーカー 1
ええ。ターゲットとなる企業の従業員のSNSや過去の漏洩データをAIが瞬時に分析して、いかにも上司が送りそうな完璧な文脈の業務メールを自動生成するんです。
うわあ、それは見破るのが難しいですね。
はい。その結果、フィッシングリンクのクリック率は従来の4倍に跳ね上がっています。さらに恐ろしいのがディープフェイクです。
スピーカー 2
偽の動画とか音声を作る技術ですよね?
スピーカー 1
ええ。ビデオ会議でCFO、最高財務責任者の顔と恋をリアルタイムで偽造する詐欺がありまして、これで一瞬に2560万ドル、2本目で約38億円が奪われるという事件も起きました。
スピーカー 2
38億円が一瞬で、映画の世界じゃないですか?
スピーカー 1
現実です。現在、AIを活用したランサムウェアの被害額は、世界で年間740億ドル規模に達していると言われています。
スピーカー 2
740億ドルってことは、10兆円超えですよね?これ、リスナーの皆さんも想像以上にヤバい状況だと思いませんか?
スピーカー 1
非常に危険な状態です。先ほどの私の比喩で言えばですよ、チェーンソーの安全講習も受けさせないまま、社員全員に強力な電動チェーンソーを配って、ほら、これで森の木を早く切れって言ってるようなものじゃないですか。
スピーカー 2
ふふ、完璧な例えですね。
スピーカー 1
ちょっとでも扱いを間違えれば、自分の足を切り落としちゃうし、悪意を持った人間がそのチェーンソーを持てば、もう会社全体が大惨事になりますよ。
全くその通りです。そして、データがまさにその大惨事のリスクを裏付けています。
どういうことですか?
スピーカー 1
生成AIを利用していると答えた組織のうち、なんと27.1%が特段のセキュリティ教育を全く実施していないんです。
スピーカー 2
えー、3割近くがノーガードですか?
はい。さらに、70%以上の組織がクラウドやAIを安全に運用するためのコア人材の不足に陥っているという実態が浮き彫りになっています。
スピーカー 2
つまり、チェーンソーの使い方も、暴走した時の止め方も誰も知らない組織が7割以上を占めていると。
スピーカー 1
ええ。そして、攻撃する側は現在、エージェンティックAIと呼ばれる自立型のAIを使い始めています。
エージェンティックAI?
スピーカー 1
はい。これは、人間がプロンプトを入力して指示を待つだけのAIではなくて、自ら目標を設定し、24時間365日休むことなく企業のファイアウォールの脆弱性を探し続けるAIなんです。
スピーカー 2
24時間攻撃し続けるんですか?
スピーカー 1
ええ。数秒単位でシステムを攻撃してくる自立型AIに対して、防御する側の日本企業が、えっと、これは外部のベンダーに見積もりを確認して来週の会議で倫理を通します、なんてやっていたらどうなるでしょうか?
スピーカー 2
いや、勝負にすらならないですよね。来週の会議どころか、一瞬で会社が吹き飛びますよ。
スピーカー 1
そうなんです。パソコンが苦手だからと逃げてきた相当の二極化、そして専門的なことは外部に丸投げすればいいと放置してきた組織の硬直化のツケが、ここに来てサイバーセキュリティという最も致命的な形で爆発しようとしているんです。