そして証拠と結論を結ぶ妥当な推論過程が必ず入っているという前提のもと、
論文はどこまで短くなれるのか、このエピソードでは探っていきたいと思います。
論文の長さ、こちらはですね、僕の経験上、
和文でも英文でも、つまり日本語でも英語でも、
6ページ未満というのはなかなかお目にかかることはないと感じるんですね。
多くの論文師が最低限のページ数ということを決めているという事情もあります。
しかし従来の科学をひっくり返すような紙論文が信じられないくらい短かったということが歴史上あるんですね。
そんな論文の一つをご紹介します。
イギリスの著名論文師ネイチャーが、新聞屋を開いたネイチャー論文10選という記事の中で、
一本目に選んだのが、DNAの構造を明らかにした、
ジェームス・ワトソンとフランシス・クリックの論文でした。
DNAが二重螺旋構造をしているということを報告した論文ですね。
1953年4月25日に掲載されたこのワトソン・クリック論文は、わずか2ページの長さでした。
これ原文を見ていただくと、うまくレイアウトすると1ページにも収まりそうな長さなんですね。
この論文は当時知られていなかったDNAの立体構造を明らかにする画期的なものでした。
DNAが遺伝物質であると突き止められたのは、この論文の1年前の1952年のことで、
その当時は遺伝物質はタンパク質だろうという考えが、生物学者の間で一般的だったそうです。
しかし論文強調者のクリック、そしてこの発見に決定的な役割を果たしたモーリス・ウィルキンス、
そしてロザリンド・フランクリンは、生物学ではなく物理学出身でした。
生物学の常識にとらわれなかったことが大発見につながったのかもしれません。
物理学者リチャード・ファインマンは、ワトソン・クリック論文に触発されて、
1955年の全米科学アカデミーでの講演で、無視することの大切さということを説いています。
たった2ページというより、ほぼ1ページで世界を変えてしまった論文、恐るべしですね。
ワトソン・クリック・ウィルキンスは、1962年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。
これは個人的な感想なのですが、ロザリンド・フランクリンこそノーベル賞にふさわしかったのではないかなという感想を持っています。
ここはですね、メールでお送りしているニュースレター、スティームニュースの第23号シュレディンガー博士の異常な愛情という号にですね、少し詳しく書かせていただいています。
STEAM.fmのエピソード67がその音声版になりますので、もしご興味があれば再生してみていただければなと思います。
さて話を論文の短さに戻しましょう。
ブログカラーレスグリーンアイディアズに最短の学術論文という記事があります。
この記事で紹介されている論文はどれも面白いのですが、その中から2編の短い学術論文をご紹介したいと思います。
まずは1本目です。
ランダー・パーキンによる1966年の論文。
等しい累乗の和に関するオイラーの予想に対する反例。
というですね、これは数学の論文なのですが、どういうことかご説明したいと思いますね。
この論文のタイトルをもう一度繰り返すと、等しい累乗の和に関するオイラーの予想に対する反例という風になっています。
タイトルはちょっと長く感じますね。
この等しい累乗の和に関するオイラーの予想というのは、現代ではオイラー予想という風に短く呼ぶことも多いです。
オイラー予想というのはいくつかあるのですが、そのうちの一つに関する論文なんですね。
どんなオイラー予想を扱った論文かというと、
Aの5乗足すBの5乗足すCの5乗足すDの5乗イコールEの5乗となるような自然数ABCDEは存在しないという予想でした。
ABCDEって5つも変数が出てきて、3つのバージョンもあるんです。
Aの3乗足すBの3乗イコールCの3乗となるような自然数ABCは存在しないというのも、これもオイラーの予想の一つです。
このオイラーの予想はフェルマーの最終定理の特殊な場合で、これは証明されています。
このようなABCという自然数は存在しないということが証明されています。
では、Aの5乗足すBの5乗足すCの5乗足すDの5乗イコールEの5乗となるような自然数ABCDEは存在しないのかということが問題になるんですが、
ランダーとパーキンはこの論文でこんな式を紹介しています。
27の5乗足す84の5乗足す110の5乗足す133の5乗は144の5乗。
これつまり半例になっているわけですね。
この論文はたったの2文でこの半例を示しています。
多分なのですが、著者のランダーとパーキン、どやーっていう感じでたった2文にまとめたんじゃないかなと思います。
本論文の明確な結論はオイラー予想の否定で、適切な証拠は本文に掲載されているこの5乗の式ですね。
証拠と結論を結ぶ妥当な推論過程ですが、
何々は存在しないというテーマを否定するためには何々の一例を示せば十分なので、
適切な証拠がそのまま結論を指し示す妥当な推論過程になっています。
では2本目に行きましょう。
2本目の論文はデニス・アッパーによる1974年の、これは医学論文ですね。こんなタイトルです。
執筆の行き詰まり症例に対する自己治療の失敗。
本文はなんと空白です。
本当になんかこう執筆に行き詰まってしまった人が書いた、書いたというか書けなかった論文なんですね。
この論文なんですが、ジャーナルオブアプライドビヘイビアアナリシスという論文誌に本当に掲載されているんです。
つまり空白が掲載されているんです。タイトルが書いてあって、著者名が書いてあって、その後が空白になっているんです。
そしてですね、その空白の下に御丁寧に1973年10月25日、
修正なく掲載とも書かれています。
本論文には、さどくしゃ、先ほどね、ご説明させていただいた論文を掲載するに値するかどうかを判定するさどくしゃからのコメントも添えられているんですが、それがまた古っているんです。