ファム・ファタルの特徴
ストーリーとしての思想哲学
思想染色がお送りします。今回はファム・ファタルがテーマです。
ファム・ファタルは、宿命の女とか運命の女とか訳される、男の運命を狂わせる女というステレオタイプです。
英語で言うと、ファムは femme あるいは female
ファタルは fatal だから、そのまま運命の女です。
文学や絵画のモチーフとしてもよく登場する、男を振り回す魔性の女みたいな意味ですね。
一般的には、カルメンやツバキ姫、サロメなどがその代表とされます。
もうちょっと有名な文学だと、カラマゾフの兄弟に出てくるグルーシェニカとか、
ナツメソウセキのサンシロウに出てくるミネコなんかもファム・ファタルっぽいです。
ただ、文学だと例としてちょっとわかりづらいと思うので、もっと身近なところで言えば、シーナリンゴもキャラクターとしてファム・ファタルだよね。
めちゃめちゃ魅力的な魔性の女って感じの。
で、ファム・ファタルってあらゆるフィクション作品に出てくるキャラクターなんだけど、共通する特徴を挙げてみます。
まず、抗いがたい魅力、ミステリアスな美しさ。
例えば、上流階級ってわけじゃないのにファッションや仕草が洗練されているとかで、
なぜ彼女は上流階級でもないのに強要ある振る舞いができるのだろうみたいな感じで、
男性の知りたいという欲求をかきたてて、女性もさらに何か思わせぶりな言動をすることで男性をさらに夢中にさせるみたいなミステリアスな美しさ。
次に、自立心が高く行動的。
伝統的な女性像、つまり助けを待つか弱い女性ではなく、自分の意思で行動する。
自らの目的達成が第一だから、時に他者を利用したり裏切ったりすることもあるため、非常な人間にさえ見えます。
伝統的な助けを待つか弱い女性っていうのがイノセントな存在であり聖なる女性だとすれば、
ファムファタルはその逆、罪を背負っているということになります。
聖女はイノセントだから色で言えば純白の真っ白なんだけど、ファムファタルは色で言えば黒がイメージカラーでしょうか。
あるいは悪役カラーみたいな赤と黒がイメージカラーかもしれません。
最後に破滅や死をもたらす。
運命の女というくらいだから、何らかの運命をもたらすわけですが、ファムファタルに関わる男性は社会的地位、財産、人間関係など致命的なものを失うなど破滅的な運命を辿ることになります。
なんだけど、それでも抗いがたく魅力を感じるのがファムファタルであり、
個人的に連想するのがスピッツの日曜日っていう曲で、色白女神の慰めの歌よりもフラ吹きカラスの話に惹かれたからって歌詞があるんだけど、それを思い出します。
破滅の美学
はい、ここまではファムファタルって有名な概念だから知ってる人も多いと思うんだけど、ここからは僕の読解です。
破滅させる女というものが存在するためには、破滅させられる男というものが必要になります。
破滅させられる男。言葉の定義からして、彼は破滅させられる前は、社会的地位、財産、人間関係などを持っている、持っている側の人間ということになります。
破滅する、つまり落ちぶれるという行為には、ある程度の肯定さが存在することで初めて可能になるからです。
文学などの物語であれば、おそらく若い男と若い女の恋愛、破滅を描く方向になりがちだと思うんで、
ティピカルな、典型的な破滅させられる男というのは、家柄がよく努力して、何かパリの大学に入学することができた秀才の男の子みたいな感じになると思います。
日本なら東京帝国大学に通っている書生みたいな感じでしょうか。
何が言いたいかというと、ファム・ファタルの本質って、破滅させられる側の男にあるって話です。
将来有望で両親の期待を一心に受けた男の子が、魅力的な女性によって破滅させられる美しさ、破滅の美学、あるいはデカダン的な大敗主義が実は本体だよねっていう話です。
一応補足すると、デカダンっていうのはデカダンスのことをよくデカダンデカダンって言うんだけど、大敗的な生活態度を気取り、
短美主義にふけり、時に社会規範を逸脱するみたいなことです。
実のところ、将来有望な男性がデカダン趣味に浸るための舞台装置がファム・ファタルであり、男性の自己愛がファム・ファタルの本質だよねと読むことができます。
こういう、ある概念があった時、その本質は反対側にあるみたいな読み方、個人的に好きなんですよね。
ただ、あんまりやりすぎると現実から有利した起承論になっちゃうけど、
まあこういう読み方もあるよというわけで、今回はここまでです。
次回もよろしくお願いします。