パーマカルチャーの基本原則
ストーリーとしての思想哲学
思想染色がお送りします。
引き続きパーマカルチャーの話です。
デビッド・ホルムグレンさんの本の中に書かれていることなんだけど、前提として、パーマカルチャーはトップダウン型じゃなくて、ボトムアップ型、いわゆる草の根運動です。
したがって、パーマカルチャーを教える人がたくさんいて、教える人によって少しずつ言っている内容が異なっています。
その人その人によってパーマカルチャーの定義が異なるということですが、カウンターカルチャーにはよくあることです。
その上で共通しているのが、パーマカルチャーは3つの基本原則を持つ点です。
1つ目が地球への配慮。
2つ目が人々への配慮。
3つ目が余剰の分かち合いです。
日本語より英語の方がわかりやすいです。
英語で言うと、Earth care, people care, and fair shareと言います。
いや、これなんですよ。
本当に上手いと思うんだけど、極限までキャッチコピーを短くしている上、さらに陰まで踏んでいるんです。
Earth care, people care, and fair share。
careが2回続いて、最後のshareもcareと韻を踏んでいます。
ここから僕たちが学べるのは、コピーライティングの威力は凄まじいということです。
こういうの、本当に欧米人は上手だなと思うんだけど、
例えばアメリカのオバマ大統領が、チェンジとか、イエス・ウィー・キャンという極限まで短いコピーを掲げたことが大統領選に勝利した要因の1つであるみたいな話は有名だし、
トランプ大統領もMake America Great Againというシンプルですごく語呂のいいコピーを戦略的に掲げています。
こういうプレゼンテーションの上手さは真似した方がいいよね。
話が逸れたけど、パーマカルチャーのEarth care, people care, and fair shareというプリンシプルは非常に優れているという話でした。
で、この思想がどう組み立てられているかというと、
大量生産・大量消費型の産業文化と持続可能な文化との対比という形で組み立てられているようです。
例えばエネルギーは使い切りから再生可能なものにしよう。
自然資源は消費してしまう形から蓄積していく形にしよう。
組織は一極集中的なものから分散型ネットワークにしよう。
生活における動きは速い、ファーストから遅い、スローにしよう、みたいな。
現代社会の問題をまず並べて、それらを軒並み転倒させていくという形を軸として構築されています。
こういう記述方法、表現方法もアート的です。
デザインとアートの重要性
アートも既存の秩序を転倒させるみたいなコンテクストを好んで使うよね。
そして前回も言ったけど、美しい田園風景の中で家族と共に生き生きと暮らしている写真を撮影して、
ビジュアル化をして概念的なものを見える化してあげると、とても魅力的なパッケージになるというわけ。
概念的、コンセプチュアルなものをビジュアルで見えるようにしてあげることで、
見る人に考えさせることができるわけだから、この辺も現代アート的なものを感じます。
少し前にビジネスマンの間でデザインシンキングやアートシンキングが流行りましたけど、
パーマカルチャーこそ良いお手本になるんじゃないでしょうか。
他に特筆すべきこととしては、パーマカルチャーはデザインの重要性を強調します。
パーマカルチャーにおける農業は家庭菜園のような小規模なものだから、効率よりも美しさを優先できるんです。
その中で面白いと思ったのが、スパイラルガーデンと言って、渦巻きのように石を置いて畑を区切って、
その渦巻きに沿って多様な植物を植えるというものです。
これは確かに美しいです。作物の収穫効率は悪いけど美しい。
この辺りは近接領域に庭園論というジャンルがあるんだけど、
いわゆるイギリス式庭園とかフランス式庭園とかを構築するための理論です。
これは1777年に出版された風景構成論という本で示された思想です。
パーマカルチャーが風景構成論を参照しているかはわからないけど、庭園論は参照していそうです。
また庭園論の近接領域にランドアートというのがあります。
ランドアートとは風景を素材とする彫刻で、
砂漠の砂や公園の芝生をキャンバスに見立てて巨大な作品を描きます。
スパイラルガーデンにすごくよく似ているんだけど、
ランドアートでは渦巻き、螺旋をよく使うんですよ。
ランドアートの有名な作品にスパイラルジェティというのがあって、
湖の中に石と土を使って巨大な渦巻き型の堤防を作ったのがあります。
ランドアートが始まったのが1960年代で、スパイラルジェティが1970年の作品、
そんでパーマカルチャー1の出版が1978年だから、
多分スパイラルガーデンはランドアートから着想したものなんじゃないかと僕は見てます。
これ、実に見事だなと思うんです。
パーマカルチャーのスパイラルガーデンは確かに美しいんだけど、
それはランドアートを参照しているからなんだろうと。
まさにアートシンキングのお手本ですよね。
パーマカルチャー理論の構築も、既存の秩序を転倒させるっていうアート的なコンテクストを感じるし、
今のランドアートのことも合わせて考えてみると、
アートシンキングのお手本的な成功事例と言ってよいかと思います。
アートシンキングといえば、ビジネスマン向けのアートシンキングを推奨するビジネス書ってあるじゃないですか。
コンセプトはすごくいいと思うんで、いいねーと思って何冊も読んだんだけど、
あんまり内容はいいと思いませんでした。
なんか、感性を鍛えるために美術館に行こうとか、
アート作品を安いのでもいいから買ってみようとかね、
そういうことじゃないんじゃないかなーって思った。
それより、ビジネスマンはパーマカルチャーにアートシンキングを学んだらいいんじゃないかっていう話でした。
やっぱりこういうカウンターカルチャー型の思想はいいですね。
現代の社会に何の不満もない人にはカウンターカルチャーは必要ないけど、
もっと違うオルタナティブな生き方を欲している人に、
新たな人生哲学を与えてくれるわけだから、
それは素晴らしいことだと思います。
思想に基づいて農園を作るっていうのは、
空想的社会主義の回でもありましたよね。
シャルル・フーリエのユートピア思想に基づいて、
ファランジュと呼ばれる巨獣共同体が作られたという話はすでにしました。
戦争と平和を描いたトルストイも似たようなことをしていたし、
だから結構再現性のある普遍的な現象なんだと考えられます。
というわけで今回はここまでです。
また次回もよろしくお願いします。