00:11
始まりました、志賀十五の壺。みなさんいかがお過ごしでしょうか。奈良県立歴史民俗博物館です。
今回はお便りをいただいておりますので、そちらに沿ってお話ししていきます。
ケイリンさんからいただきました。ありがとうございます。
志賀さん、こんにちは。先日息子が「〇〇できるくない?〇〇するくない?」という言い方を続けて使うのを聞きました。
私なら、できるんじゃない?するんじゃない?というところだと思います。
今までも若者言葉として聞いたことはありましたが、文法的に考えるとしたらどうなるでしょうか。
できる、するは終始と形の区別がないとはいえ、連体形の体現としての用法で、そこに語尾がついて形容詞化しているのかなという辺りまでは考えてみたのですが、
内容ともなって、汎語的にしか使われなさそうなところなどすっきりしないこともあり、志賀さんの解説が聞いてみたいです。どうぞよろしくお願いします。
ということで、ケイリンさんお便りどうもありがとうございます。
実はこの〇〇くない?という言い方は過去に取り上げたことがあるんですね。
シャープ105、随分前ですけどね。
いけるくない?という表現の違和感というエピソードがございます。
2020年6月8日に配信してますね。
そちらもリンク、概要欄に貼っておきますので、合わせて聞いていただけたらと思います。
今回の話はそのシャープ105とをかぶるところは多いと思うんですけど、
この〇〇くない?っていうのは、僕の考えだと一つのまとまった形式になっていると思いますね。
くとないを切って考える、分けて考えるようなことはできなくて、
くない?っていうのが、どうしなりなんなりの修飾形にくっつくモダリティ的な意味を表す形式だということができると思います。
モダリティっていうのは、和者の主観的な態度とか判断とかそういったものを表すものをモダリティと言うんですけど、
例えばできるっていう命題に対して、それにくないっていうのがくっついているということですね。
日本語において、このモダリティ、和者の主観的態度を表す形式っていうのは、文末に表れるんですよね。
例えば、できるにはずだっていうのがくっついて、できるはずだとかね、できるかもしれない、できるつもりだ、できるのだとか、
03:07
こういうふうに、ある意味言い切りの形っていうかな、あるいは修飾形にこのモダリティ要素がくっつくっていうのが日本語においてよくあることで、
くない?っていうのもそういったモダリティ形式として機能していると言っていいと思います。
ただ、このくないっていうのは一つのまとまった形式ですけど、活用はするんじゃないかなと思うんですけどね。
できるくないに対してできるくなかったとか、くないに対してくなかったっていう過去形はあるんじゃないかなと思うんですけどね。
できたくないっていうふうに、できたの方を過去形にすることもできるので、この辺どっちかなっていう感じはするんですけど、
いずれにせよくないっていうのは、くとないに分けられるようなものじゃなくて、それ全体で一つのモダリティ形式として機能しているということができると思います。
このくないっていうのが何をやっているかというと、ケイリンさんのお便りにあったように、
汎語的にしか使われないっていうのはなかなか鋭くてですね、
このくないがやっているのは同意要求ということができると思います。
同意を要求するということですけど、できるっていう命題について聞き手に同意を要求するということですね。
同じことを何遍も言ってますけど。
なので、このくないっていうのは聞き手がいるような状況じゃないと出てきづらいんじゃないかなと思いますね。
一人ごとでできるくないとか言えなくはないでしょうけど、その機能としてはやっぱり同意を要求するようなものなので、聞き手がいるような状況で出てくると思います。
ないっていうのが入ってますので、なんとなく否定の意味を持ってそうですけど、否定の意味はもうないんじゃないかなと思いますね。
歴史的に見れば当然、否定の形式から派生したんでしょうけど、できるくないといった場合にはそこに否定の機能はなくて、
同意を要求する機能としてくないがね、全体で機能しているということです。
このくないっていうのは、西日本あるいは関西の方の方言から派生したんじゃないかっていう風に考えられております。
06:01
というのが、西日本だと否定っていうのはんっていうのを使うんですよね。
いかないじゃなくていかんっていう風にんっていうのが出てきます。
その過去形っていうのは、いかなんだっていうのが伝統的な否定の過去なんですよね。いかなんだ。
ただ、これはね、標準語、いわゆる標準語からの類推で、いかんかったっていうような言い方が定着しつつあると思います。
いかんの過去はいかなんだよりもいかんかった。
さらにそこからいかんくないみたいな、くないっていう形式が生まれて、
くないっていうのが同意要求の機能を果たすようになり、できるくないみたいな言い方がこちらも定着しつつあるということでございます。
ただ繰り返しですけど、くないっていうのはないは入ってますけど、否定というよりはその機能は同意要求であるということでございます。
今回けいりんさんのお便りにあったのは、できるくないとするくないということで、
動詞の終始形にくないがついてるわけですけど、
多分ね、結構いろんなものにつけるんだと思うんですけどね。
へんくないとか言えるんじゃないのかな。
へんだだから、これは形容動詞ですけど、へんくないとか、
でもやっぱり動詞が一番つきやすいですかね、このくないっていうのはね。
それとこれはね、シャープ105の方でも言ってるんですけど、形容詞にもくないっていうのがつくことがあって、
だから厚いくないみたいな言い方があるんですよね。
形容詞だったら厚くないっていう言い方でいいところを厚いくないという言い方があるんですね、これがね。
Twitterで検索とかしたらバンバン出てくるんですけど。
なのでこのくないっていうのは形容詞にもつくことができるぐらい、形容詞の終始形にも接続するぐらい、
それだけ一つの同意要求のモダリティ形式になっているということができると思います。
これも繰り返しですけどね、日本語においてモダリティ形式っていうのは文末に現れるもので、
それも言い切りの形に接続するものなんですよね。
ですので厚いくないっていう言い方ができるっていうことは、やっぱりこのくないっていうのが文末に接続される形式と認識されているということだと思います。
09:06
というわけで今回はくないについて考えていきましたが、
シャープ105もね、たぶん似たような話をしてるんじゃないかなと思うのでね、繰り返しですけどね、そちらも併せて聞いていただけたらと思います。
このくないっていうのはケイリンさんのお便りにもあったように、若者言葉的なところはあると思うんですよね。
あとは地域差もあるんじゃないかなと思うんですけど、これがどれだけ定着しているのかとかね、そういったことも気になるところではあります。
まあ形だけ見たらおかしいっちゃおかしいんですよね。形容詞でもないのにくっていうのが出てきているので、
まあかなりギョッとするようなところはあるんですけど、ただまあくないっていうのを一つのまとまりと考えれば、それ全体でモダリティ形式なんだと考えれば、そこまで変でもないかもしれません。
というわけで今回はここまでということで、また次回のエピソードでお会いいたしましょう。お便りも随時募集中でございます。
それではお相手はシガー15でした。
またねー!