一方、日本にも強みがあります。
その1つが身体の健康です。
子どもの死亡率はOCED、経済協力開発機構加盟国の中でも最も低い国となっており、
つまりは医療制度が整っていることと生活習慣の良さが影響していることが伺います。
2つ目は学力です。
読解力と数学力で高水準を保っているのが日本です。
OECD、経済協力開発機構生徒の学習調達度調査によると、
読解力と数学力の基礎スキルを満たしている15歳の割合を国別に見たところ、
日本は76%で第3位。
ちなみに1位は韓国で79%。
2位はアイルランドで78%です。
ほとんどの国において、この学力が2018年度調査時より大幅に下がっているのに対し、
コロナの影響を感じさせず2018年度調査時よりも学力が上がっているのが、
日本、ルーマニア、イスラエル、イギリスなどの少数国となっています。
しかし、課題も深刻です。
まず、生活満足度においては、満足度5点未満の割合が最も高い国となっており、
OECD経済開発協力加盟国の最下位クラスとなっています。
次に、自殺率では、15歳から19歳の自殺率が上昇傾向にあります。
そして最後に、親子国間の会話の頻度が少なく、回答が得られた国の中で最下位クラスとなっています。
この背景には、受験戦争による過度なプレッシャーに加えて、
子どもを評価代償とする文化、そして親の長時間労働などに加え、
子どもの習い事、塾通いによる家庭内での対話が少ないことが考えられます。
では、オランダと日本の違いはどこにあるのか。
オランダの生活の中でその違いを感じる3つの点についてお話ししたいと思います。
それは、受験戦争による過度なプレッシャーに加え、子どもを評価代償とする文化が、オランダとは大きく異なる点だと思います。
オランダでは、流年という概念が、実は小学校からあるのです。
子どもの進級時には、もちろんその学年の学力が身についているか否かという問題もありますが、
子どもが次の学年に行ける精神年齢が備わっているかということも注視されます。
これは、根底に子ども一人一人が異なり、成長するスピードも異なるといった大前提が、広く保護者と学校側の共通認識として成り立っているからだと思うんですね。
じゃあ、学力はその学年の学力がついているのに、精神年齢が少し幼い、発言をするのをためらいがち、
友達との関係づくりが難しいとなれば、そのまま翌年も同じ学年で過ごすことはよくあることなんです。
そこで、「それじゃあ勉強が遅れちゃうじゃないか!」なんていう親御さんは、オランダではほとんどいないと思います。
なぜなら、自分の子どもが安心して、安全だと感じるクラス環境の中にいることこそが、学力の定着、自己肯定感につながるとみんな信じているからです。
オランダ語の表現の中に、「つま先立ちして歩く」っていうのがあるんですね。
これは、緊張して体がこわばるがゆえに、つま先立ちして歩いてしまう。
要するに、自分のレベルに合ってない、頑張りすぎて体が疲れてしまうということを意味しています。
オランダ人の親たちは、よく、「自分の子どもをつま先立ちして歩かせたくない!」といった表現を使います。
同じ学年の勉強をもう一度やったら、他の同い年の子に遅れをとる、なんていうことはオランダ人は考えません。
子どもが精神的に安心、安全と感じる環境の中で、もう一度同じ学年の勉強をし、
先生がその子どもの学習態度を見て、つまらなそうだと本人が感じているとみれば、
もう少しチャレンジングな課題を提供する、といったやり方などが普通なんです。
学習内容は一度も行っているので、子どもも学力と精神の成長の両輪を同じ集中力で保つ必要はなく、
自らの意思を発言できるとか、友達との関係づくりができる、といった社会スキル、
精神年齢の成長をもう一年同じ学年で過ごすことによって促す、といった方法をとる留年、ということに何の劣等感もありません。
2番目に個人的に気になったのは、生活満足度調査の中にある家庭内でのコミュニケーション、といった項目です。
報告書の中では、親が週に1,2回以上子どもと話す割合が棒グラフで示されているのですが、
オランダが84%に対し、日本は53%で最下位でした。
この結果は、家庭内での親子の会話の頻度が日本では相対的に少ないことを示しています。
では、親との会話は少ないけど、友達との関係はどうか、と見ていくと、
今回のユニセフの報告書では、学校で友達を作るのが簡単だと思う、という15歳の割合を指標しているデータがありました。
ここでも、海東国全41カ国中、オランダは3位の83%ほど、友達を作るのが簡単だと思う、という結果で、一方の日本は30位の75%でした。
こうした指標は、いずれも生活満足度と強く関連しています。
特にユニセフの報告書では、家庭内コミュニケーションの質と量が子どもの幸福感に影響を与えている、との言及もありました。
もう一つ、オランダと日本の子どもの幸福度の違いに、長くオランダで支持されている育児論、休息、清潔、規則性、この3点が根底にあるのでは、と思いました。
これは、子どもが健やかに成長するために、親が提供すべき環境の3つの柱を指しています。
そこで、十分な睡眠時間、バランスが取れた生活環境を讃えられているオランダのこの休息といった分野にフォーカスしていきたいと思います。
ここで、日本の子どもたちとオランダの子どもたちの休眠時間をぺっと調べてみましたところ、大きな違いがあることがわかりました。
日本の子どもたちの休眠時間は、白宝堂教育財団子ども調査2023など他を参考にしたのですが、よく聞いていてくださいね。
幼稚園児5歳の就寝時間が9時、小学校1年生になると9時15分、小学校3年生が9時半、そして小学校6年生になると10時でした。
一方、オランダの子どもにおいては、オランダ社会文化計画局の時間使用調査及びオランダ児童調査にて次の結果が出ています。
幼稚園児5歳が7時に就寝、小学校1年生が7時15分、小学校3年生になると8時、小学校6年生が8時45分でした。
すごいですよね。オランダの小学校6年生は、日本の幼稚園児よりも早く寝ているということがわかります。
確かにうちの児女も、今小学校5年生で10歳なんですけれども、理想として8時15分に就寝の準備を整え、9時には必ずベッドに入るといった感じです。
昔から寝る子がよく育つとか、最近は睡眠がパフォーマンスに与える影響などが強く論じられているので、早く長く寝ることは子どもの成長にとっても重要だと考えられます。
休息、清潔、規則性の3本柱である最後の規則性も重要な項目です。
食事、睡眠、遊びなどの時間を毎日大体同じ時間帯にするように心がけることです。
ルーティーンがあることで、子どもは何が次に起こるのかを予測できるようになり、不安が軽減されます。
これにより、子どもは見通しをもって行動できるようになり、安心感が得られます。
オランダの夕食は6時、幼稚園児などがいる家庭では5時半から6時の間といった感覚です。
家族で夕食を取ることが一般的で、これが家庭内のコミュニケーションにもつながり、この早めの夕食が早めの就寝につながります。
子どもたちの就寝後は、大人たちがそれぞれの大人の時間を楽しむ時間でもあります。
オランダが子どものウェルビーンを包括的に捉え、休息、清潔、規則性といった育児論の基盤が具体的な成果として現れていることが示唆されていると思います。