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2025-09-15 06:42

セロ弾きのゴーシュ⑥/宮沢賢治

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作品名:セロ弾きのゴーシュ
著者:宮沢賢治

図書カード:https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/card470.html

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BGMタイトル: そりのこし
作者: もっぴーさうんど
作者ページ: https://dova-s.jp/_mobile/_contents/author/profile060.html
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7・15・23・31日更新予定

#青空文庫 #朗読 #podcast

サマリー

ゴーシュさんは音楽団の演奏会で急遽舞台に出ることになり、緊張しながらも見事に演奏をこなしている。演奏後、彼は仲間たちからの称賛を受け、自身の成長を実感している。

緊張の舞台デビュー
それから6日目の晩でした。 近世音楽団の人たちは、町の公会堂のホールの裏にある控室へ、みんなパッと顔をほてらして、
めいめい楽器を持って、 ぞろぞろホールの舞台から引き上げてきました。
首尾よく第6公共曲を仕上げたのです。 ホールでは拍手の音がまだ嵐のようになっております。
楽長はポケットへ手を突っ込んで、 拍手なんかどうでもいい、というようにのそのそみんなの間を歩き回っていましたが、
実はどうして嬉しさでいっぱいなのでした。 みんなは煙草をくわえてマッチを吸ったり、楽器をケースへ入れたりしました。
ホールはまだパチパチ手が鳴っています。 それどころではなく、いよいよそれが高くなって、なんだか怖いような手がつけられないような音になりました。
大きな白いリボンを胸につけた司会者が入ってきました。 アンコールをやっていますが、何か短いものでも聞かせてやってくださいませんか。
すると楽長がキッとなって答えました。 いけませんなぁ、こういう大物の後で何を出したって、こっちの気の済むようにはいくもんでないんです。
では楽長さん、出てちょっと挨拶してください。 ダメだ。
おい、ゴーシュ君、何か出て弾いてやってくれ。
私がですか。 ゴーシュはあっけに取られました。
君だ君だ。 バイオリンの一番の人がいきなり顔を上げて言いました。
さあ、出て行きたまえ。
楽長が言いました。 みんなもセロを無理にゴーシュに持たせて扉を開けると、いきなり舞台へゴーシュを押し出してしまいました。
ゴーシュがその穴の開いたセロを持って実に困ってしまって舞台へ出ると、 みんなは空見ろというように一層ひどく手を叩きました。
わぁ、と叫んだ者もあるようでした。 どこまで人をバカにするんだ。
よし、見ていろ。 インドの虎狩りを引いてやるから。
ゴーシュはすっかり落ち着いて舞台の真ん中へ出ました。
それからあの猫の来た時のようにまるで怒った象のような勢いで虎狩りを引きました。
ところが長州は死因となって一生懸命聞いています。 ゴーシュはどんどん引きました。
猫が切ながってパチパチ火花を出したところも過ぎました。 とえ体を何遍もぶっつけたところも過ぎました。
曲が終わるとゴーシュはもうみんなの方などは見もせず、 ちょうどその猫のように素早くセロを持って楽屋へ逃げ込みました。
称賛と成長の実感
すると楽屋では楽長はじめ仲間がみんな火事にでもあった後のように目をじっとして ひっそりと座り込んでいます。
ゴーシュは破れかぶれだと思ってみんなの間をさっさと歩いていって 向こうの長い椅子へどっかりと体を下ろして足を組んで座りました。
するとみんながいっぺんに顔をこっちへ向けてゴーシュを見ましたが、 やはり真面目で別に笑っているようでもありませんでした。
今夜は変な晩だなぁ。 ゴーシュは思いました。
ところが楽長は立って言いました。
ゴーシュ君、よかったぞ。 あんな曲だけれどもここではみんなかなり本気になって聞いてたぞ。
一週間か十日の間にずいぶん仕上げたなぁ。 十日前と比べたらまるで赤ん坊と兵隊だ。
やろうと思えばいつでもやれたんじゃないか、君。 仲間もみんな立ってきて
よかったぜ、とゴーシュに言いました。 いや、体が丈夫だからこんなこともできるよ。
普通の人なら死んでしまうからなぁ。 楽長が向こうで言っていました。
その晩遅くゴーシュは自分の家へ帰ってきました。 そしてまた水をガブガブ飲みました。
それから窓を開けていつかカッコウの飛んでいったと思った遠くの空を眺めながら
ああ、カッコウ あの時はすまなかったなぁ。
俺は怒ったんじゃなかったんだ。 と言いました。
06:42

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