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2025-08-15 09:59

セロ弾きのゴーシュ②/宮沢賢治

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作品名:セロ弾きのゴーシュ
著者:宮沢賢治

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BGMタイトル: そりのこし
作者: もっぴーさうんど
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7・15・23・31日更新予定

#青空文庫 #朗読 #podcast

サマリー

ゴーシュは独り暮らしの小屋でセロを弾いていますが、突然現れた三毛猫との交流が始まります。猫との面白いやり取りを通じて、ゴーシュは音楽の楽しさを再発見します。

ゴーシュの一人暮らし
その晩、遅く、ゴーシュは何か大きな黒いものを背負って、自分の家へ帰ってきました。
家といっても、それは町外れの川端にある壊れた水車小屋で、ゴーシュはそこにたった一人で住んでいて、
午前は小屋の周りの小さな畑でトマトの枝を切ったり、キャベジの虫を拾ったりして、昼過ぎになるといつも出て行っていたのです。
ゴーシュが家へ入って明かりをつけると、さっきの黒い包みを開けました。
それは何でもない、あの夕方のごつごつしたセロでした。
ゴーシュはそれを床の上にそっと置くと、いきなり棚からコップを取って、バケツの水をごくごく飲みました。
それから頭を一つ振って、椅子へかけると、まるで虎みたいな勢いで昼の譜を弾き始めました。
譜をめくりながら弾いては考え、考えては弾き、一生懸命しまいまで行くと、また始めから、
何遍も何遍も、ゴーゴーゴーゴー弾き続けました。
夜中もとうに過ぎて、しまいはもう自分が弾いているのかもわからないようになって、
顔も真っ赤になり、目もまるで血走って、とてもものすごい顔つきになり、
今にも倒れるかと思うように見えました。 その時、誰か後ろの塔をトントンと叩くものがありました。
「ホーシュ君か?」 ゴーシュは寝ぼけたように叫びました。
ところが、すーっと塔を押して入ってきたのは、今まで五六遍見たことのある大きな三毛猫でした。
ゴーシュの畑から採った半分熟したトマトを、さも重そうに持ってきて、 ゴーシュの前に下ろして言いました。
「ああ、くたびれた。なかなか運搬はひどいやなぁ。」
「なんだと?」 ゴーシュが聞きました。
「これ、お宮です。食べてください。」 三毛猫が言いました。
ゴーシュは昼からのむしゃくしゃをいっぺんに怒鳴りつけました。
「誰が貴様にトマトなど持ってこいと言った。 第一、俺が貴様らの持ってきたものなど食うか。
それから、そのトマトだって俺の畑のやつだ。」
「なんだ、赤くもならないやつをむしって、 今までもトマトの茎をかじったり蹴散らしたりしたのはお前だろう。
行ってしまえ、猫め。」 すると猫は肩を丸くして目をすぼめてはいましたが、
口のあたりでニヤニヤ笑って言いました。
「先生、そうお怒りになっちゃお体にさわります。 それよりシューマンのとろめらいをひいてごらんなさい。
聞いてあげますから。」 「生意気なことを言うな、猫のくせに。」
セロヒキは尺にさわって、この猫のやつどうしてくれようとしばらく考えました。
「いや、ご遠慮はありません。どうぞ。 私はどうも先生の音楽を聞かないと眠られないんです。」
生意気だ、生意気だ、生意気だ。 ゴーシュはすっかり真っ赤になって、
昼間学長の下ように足踏みしてどなりましたが、 にわかに気を変えて言いました。
三毛猫との交流
「では、弾くよ。」 ゴーシュは何と思ったか戸に鍵を買って窓もみんな閉めてしまい、
それからセロを取り出して証を消しました。 すると外から20日過ぎの月の光が部屋の中へ半分ほど入ってきました。
何を弾けと? トロメライ
ロマチックシューマン作曲 猫は口を拭いて澄まして言いました。
そうか、 トロメライというのはこういうのか?
セロヒキは何と思ったか まずハンケチを引き裂いて自分の耳の穴へぎっしり詰めました。
それからまるで嵐のような勢いで インドの虎狩りという譜を弾き始めました。
すると猫はしばらく首を曲げて聞いていましたが、 いきなりパチパチパチと目をしたかと思うとパッと戸の方へ飛びのきました。
そしていきなりドンと戸へ体をぶっつけましたが、 戸は開きませんでした。
猫はさあこれはもう一世一代の失敗をしたというふうに慌て出して 目や額からパチパチ火花を出しました。
すると今度は口のヒゲからも鼻からも出ましたから 猫はくすぐったがってしばらくくしゃみをするような顔をして、
それからまたさあこうしてはいられないぞというように 馳せ歩き出しました。
ゴーシュはすっかり面白くなってますます勢いよくやり出しました。
先生、もうたくさんです。 たくさんですよ。
五章ですからやめてください。 これからもう先生のタクトなんかとりませんから。
黙れ。これから虎を捕まえるところだ。 猫は苦しがって跳ね上がって回ったり、
壁に体をくっつけたりしましたが壁についた後はしばらく青く光るのでした。
姉妹は猫はまるで風車のようにぐるぐるぐるぐる ゴーシュを回りました。
ゴーシュも少しぐるぐるしてきましたので さあこれで許してやるぞ
と言いながらようようやめました。 すると猫もけろりとして
先生、今夜の演奏はどうかしてますね。 と言いました。
セロ弾きはまたグッと尺に触りましたが何気ない風で薪煙草を一本出して 口に加えそれからマッチを一本取って
どうだい?具合を悪くしないかい? 舌を出してごらん。
猫は馬鹿にしたように尖った長い舌をベロリと出しました。
ははぁ、少し荒れたね。 セロ弾きは言いながらいきなりマッチを舌でシュッと吸って自分の煙草へつけました。
さあ猫は驚いたのなんの。 舌を風車のように振り回しながら入口の戸へ行って
頭でどんとぶっつかってはよろよろとしてまた戻ってきて どんとぶっつかってはよろよろまた戻ってきて
またぶっつかってはよろよろ逃げ道をこさえようとしました。 ゴーシュはしばらく面白そうに見ていましたが
出してやるよ。もう来るなよ、馬鹿。 セロ弾きは戸を開けて猫が風のように
蚊帳の中を走っていくのを見てちょっと笑いました。
それからやっとせいせいしたというようにぐっすり眠りました。
09:59

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