匂いと記憶を結ぶプルースト効果
こんにちは。 こんにちは。 今回の深掘りのミッションなんですけど、送ってくださった方の資料をもとに、匂いと記憶の不思議な繋がりを紐解くということなんですが。
はい、とても興味深いテーマですよね。 資料の中にピリジンという強烈な悪臭の話もあったんですけど、私としては今回はそれは一旦保留にしておいて、
特定の香りで過去がなんていうか、ブワーッと蘇る現象、そっちにフォーカスしたいなと思っています。
ああ、誰もが一度は経験するあれですね。ある匂いを嗅いだ瞬間に忘れていた記憶が突然蘇るっていう体験。一般的にはプルースト効果って呼ばれています。
はい、よく聞きますよね。なんかロマンチックな響きがあります。
でもこれ、ただの文学的なロマンとかではなくて、実は進化の過程で培われた私たちの脳の生存戦略の名残なんですよ。
生存戦略ですか?匂いが?
ええ。私たちの脳のネットワークって、よく空港のシステムに例えられるんですが、視覚とか聴覚の情報って、まず視障っていう厳格な手荷物検査ゲートを通るんです。
手荷物検査、なるほど。
そこで、論理的に処理されてから意識に届くんですけど、嗅覚だけは別覚なんですよ。
え、別覚っていうのは、違うルートを通るってことですか?
そうなんです。手荷物検査を完全にスルーして、感情とか記憶の保管庫である大脳変遠系に直行できる、いわばVIP専用の直通トンネルを持っているんです。
へえ、じゃあ、論理的な思考を通さずに、ダイレクトに感情を揺さぶるルートが出来上がってるんですね?
そういうことです。進化の過程で腐った食べ物とか天敵の匂いを察知するときに、一瞬でも判断が遅れると命取りになりますよね。
ああ、確かに。悠長に考えてる暇はないというか。
だからこそ、理屈抜きで瞬時に過去の記憶と照らし合わせる直通回路が発達したって考えられているんです。
マドレーヌと金木犀に結びつく記憶
生き残るためのVIPトンネルだったんですね。あ、でもここですごく面白い矛盾に気づいたんですけど。
矛盾ですか?
ブルースト効果の語源になったフランスの小説って、紅茶に浸したマドレーヌのシーンが代表的じゃないですか。
はい。失われた時を求めてですね。
それって、匂いっていうか味の記憶なんじゃないかなって。
ああ、そこは非常に鋭いご指摘です。でも、実は私たちが味とか風味として認識しているものの約8割って匂いなんですよ。
え、8割もですか?
ええ。喉の奥から鼻腔へ抜ける風味の嗅覚によるものなんです。鼻をつまんで食べ物を食べると味がしなくなるのはそのためで。
なるほど。なんか完全に風に落ちました。マドレーヌの風味も結局は匂いだったんですね。
そういうことになりますね。
あとロマンといえば、送ってくださった方の資料にあったエピソードも最高で、金木犀の香りを嗅ぐとトイレを思い出すって書いてあったんですよ。
ああ、昔のトイレの咆哮剤の定番でしたからね、金木犀は。
ロマンチック度ゼロすぎて笑っちゃったんですけど、私もすごく共感します。
強烈な匂いが自伝的な記憶に直結するっていう見事な具体例ですよね。
日本作品に描かれた匂いの記憶
ちなみに、人類が昔から経験してきたこの現象にプルースト効果っていう名前がついたのって、実はかなり最近で2000年頃なんですよ。
えー、そうなんですか。私もっと昔からある有意所正しい用語だと思ってました。
意外ですよね。
はい。だって、名前がつくずっと前から日本のポップカルチャーなんかはこの現象を完璧に描いてましたよ。
1988年のおいしんぼで料理を食べて過去を思い出すシーンとか。
あー、確かにありましたね。
そうですそうです。あと2001年のクレヨンしんちゃんで、ひろしが自分の靴下の強烈な悪臭を嗅いで家族の記憶を取り戻して現実に戻るシーンとか。
悪臭で正気を取り戻すっていうのも、まさに嗅覚が論理を飛び越えて感情中枢をダイレクトに刺激している証拠と言えますね。
名前が体験を共有可能にする
そうですよね。もし当時この現象に名前がつけられていたら、プルースト効果じゃなくて、ひろしの靴下効果になってたかもしれないって考えるとたまらないです。
そう考えると、嗅覚が持つ過去でタイムスリップさせる力を先取りしていた作家たちの直感には驚かされます。
本当ですね。
科学がメカニズムを解明して名前をつける遥か昔、1965年に描かれた篤井康隆さんの時をかける少女では、すでにラベンダーの香りがタイムリープの柿として描かれていましたし。
あー、だからラベンダーなんですね。匂いが記憶のビップトンネルを通る仕組みを知ると、本当に理にかなった設定だなーって。
えー、見事な設定です。
しかも、送ってくださった方の資料には完璧なオチがついてて、当時その方はラベンダーの香りを知らなくて、その後に出回ったトイレの芳香剤で初めて嗅いだ時に、あ、これがタイムリープする香りかってひどく感動したらしいんですよ。
ロマンチックな時間旅行の香りがまさかのトイレだったと。
そうなんですよ。ここでも芳香剤が大火薬っていうか。
脳科学の精巧なメカニズムと、そういう日常の泥臭い体験とのギャップが素晴らしいですよね。
はい、本当に。
現象そのものは普遍的でも、プルースト効果っていう名前とか枠組みが与えられることで、私たちは初めてその体験を意味のあるものとして共有できるようになるわけですし。
本当にそう思います。名前がつくことで初めて、あー私もあるって共感が目に見える形になりますよね。
ね、おっしゃる通りです。
そこで送ってくださった方に一つ問いかけてみたいんです。
身の回りにも誰もが日常的に経験しているのに、まだ名前がついていない現象が隠れているんじゃないでしょうかって。
日常の中にまだ言語化されていない脳のビップトンネルが見つかるかもしれないですね。
少し視点を変えてぜひ探してみてください。
次回の配信もお楽しみに。さよなら。