クリニックでの尿検査のミス
小島ちひりのプリズム劇場
この番組は、小島ちひり脚本によるラジオドラマです。
プリズムを通した光のように、様々な人がいることをテーマにお送りいたします。
亀井さん、こんにちは。
今日は、いつものお薬ですかね?
はい、そうです。
じゃあ、いつも通り、尿検査お願いしますね。
はい、はい。
尿検査の紙コップを渡すと、亀井さんは一礼してお手洗いへ向かった。
今日もお疲れ様でした。沢田さん、もう上がって大丈夫ですよ。
最後の患者さんがお帰りになった後、大沢先生が診察室から出てきた。
ありがとうございます。先生はいつも遅くまで残っているんですか?
事務作業とか、診察中はできないことをやらなくちゃいけないので。
大変ですね。
自分で選んだことですからね。
大沢先生はそう言って笑った。
そうは言っても、週5日はここのクリニックで患者さんを見て、週に1回は大学病院へ行っている。
患者さんが多くて、診察時間が何時間も延びることもあるし、昼休みも15分ぐらいしか取っていない。
その時間も食べながら調べ物をしたりしている。
お医者さんは本当に重労働だ。
それを毎日涼しい顔でこなすなんて、同じ人間だとは思えない。
夫の名古屋転勤と家族の選択
名古屋事業所の所長になることになった。
子供たちが寝た後、夫が突然そんなことを言い出した。
名古屋?なんで?
なんでって、会社の命令だからだよ。
そんなこと言われても、家族全員に関係のあることだよ。
名古屋の売り上げが今調子いいんだ。
ここを安定させて、さらに会社を大きくさせなきゃいけないんだ。
どうするの?一人で行くの?
家族は一緒にいたほうがいい。
ついてこいって言ってるの?
そんな言い方はしていない。
ハルトは来年中学なのよ。
向こうの中学に入ればいい。
高校は?
ずっと名古屋にいるならいいけど、そのうち戻ってくることになるんじゃないの?
そんなの、その時になってみないとわからない。
そんなんじゃ困るわよ。
高校生になってからまた東京ってなっても、
編入がどれだけ大変だと思ってるの?
その時考えればいい。
それに、私の仕事はどうなるの?
医療事務なんてどこでもできる仕事だろ?
とにかく、来月から俺は先に名古屋に行くから、
お前たちは後からついてこい。
夫はそう言うと、不機嫌になって寝室に入っていった。
大橋への再検査の依頼
沢田さん、大橋さんに尿検査お願いしてないですか?
受付で、昨日夫に言われたことを考えていたら、
看護師の小出さんからそんなことを言われた。
あ、すみません。失念していました。
そうなの?珍しい。
すみません。大橋さんの診察後回しになっちゃいますよね。
大丈夫、大丈夫。大橋さんどうせ暇だから。
いや、でも申し訳ないです。私のせいで。
大丈夫、大丈夫。
小出さんはそう言うと、待合室の大橋さんに声をかけた。
大橋さん、ごめんなさい。
今日、尿検査必要だったんで、行ってきてもらってもいいですかね?
えー、なんでだよ。そっちのミスだろ。
さっきトイレ行っちまったから、もう出ねえよ。
そうですよね。いやー、申し訳ありません。
そこをなんとかお願いできないですかね。
だから、そっちのミスじゃねえか。
大橋さん、お願いしますよ。
私は二人のやりとりを少し離れた受付で見守っていた。
だんだんいたたまれない気持ちになってきた。
次はないからな。
大橋さんはそう言って、トイレへ入っていった。
沢田の無力感と職場への思い
今日は申し訳ありませんでした。
就業後、大沢先生と小出さんに頭を下げた。
別に全然大したことじゃないですよ。ねえ、先生。
そうですよ。診察室に入った時にはいつも通りでしたよ。
二人はそう言ってくれたけど、私は気持ちが沈んでいくように感じた。
どうかしましたか?
小出さんがそう言った。
いえ、私、なんて無力なんだろうと思って。
そんなことありませんよ。
沢田さんのおかげでこのクリニックは回っているんですから。
ありがとうございます。
確かに私は夫は転勤があり得ることも分かっていたし、
そのために医療事務の資格を取った。
そうすれば転勤先でも働けると思ったからだ。
それでもこの職場を離れるのは嫌だと思ってしまった。
子どもたちに伝える転勤
パパがね、転勤することになったの。
その日の夜、夕飯を食べながらハルトとアミにそう伝えた。
俺たちはどうなるの?
ハルトは言った。
転勤って何?
アミが不安そうな顔をしている。
転勤っていうのはパパのお仕事をする場所か、
とっても遠くになってしまうこと。
朝が早くなるの?
それどころか、お引越しするの。
え?
アミはようやく理解できたようだ。
俺はここがいい。中学でみんなとサッカー部に入るんだ。
パパはついてきてほしいって。
え?知らないよ。一人で行けばいいじゃん。
そんな言い方しなくても。
今だってほとんど家にいないんだから、
いてもいなくても同じじゃん。
ハルトがそんな風に思っているなんて知らなかった。
夫に直接そんなこと言ったら、
一体どんな怒り方をするんだろう。
俺は来月にはもう先に名古屋へ行くけど、
お前たちはいろいろ片付けてからでいいからな。
お前も仕事辞めるの大変だろ。
家族の感情をめぐる対立
子供たちが寝た後、仕事から帰ってきた夫がそう言った。
夫は自分のことを家族思いの優しい夫だと思っているのだろう。
ハルトは名古屋に行きたくないって。
だからなんだよ。もう決まったことなんだ。
ガタガタ言っても仕方ないだろ。
なんでそんな言い方するの?
ハルトにも私にも感情ってものがあるのよ。
そんなの俺には関係ないだろ。
え?
お前たちの感情はお前たちがどうにかすることであって、
俺には関係ない。
本気で言ってる?
もちろん。
そう、そうなの。
夫は風呂場へ向かって行った。
夫を名古屋へ見送った後、
このままここに座ったら、
一体どうなるんだろう。
エンディング
いかがでしたでしょうか。
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それでは、あなたの一日が素敵なものでありますように。
小島千尋でした。