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S3E10 プラスチックを分解する病原菌
2025-07-24 16:53

S3E10 プラスチックを分解する病原菌

治療のために体に埋め込まれる医療用インプラントにはプラスチックが使われています。そのようなプラスチックを分解できる病原菌が見つかった話です。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211124725004218?via%3Dihub


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医療現場では、よくプラスチックが使われます。
使い捨ての医療機器なんかはもちろんそうなんですが、
医療用インプラントといって、体に外科的に埋め込まれるデバイスもそうです。
合成ポリエステルであるポリカプロラクトン、PCLは、加工性が良く、生体吸収性を備えているために、幅広い用途で使われています。
例えば、傷を縫う糸、縫合紙として使われるんですが、生体に吸収されるので、抜刺の必要がありません。
他にも、骨の組織をサポートしたり、薬をゆっくり放出するデバイスとして使用したり、様々なインプラントとしての使用があります。
だから、PCLは分解はゆっくりなんだけど、長期間待てばいずれ分解されるので、このような使用に耐えるわけです。
さて、プラスチックは環境中ではなかなか分解されず、海洋ゴミやマイクロプラスチックが問題になっているわけなんですが、プラスチックを分解する細菌というのも見つかっています。
植物の口蔵を分解するような酵素が存在するんですが、このような酵素にはPCLなどのプラスチックを分解できるものもあって、プラスチックを分解する菌はこのような酵素を持っています。
今のところ、プラスチックを分解する細菌は土壌とか水の中から見つかっている環境細菌が多くて、病院の中にいる病原菌、人に住みつく菌にプラスチックを分解するものがいるのかよくわかっていませんでした。
インプラントに細菌が付着して感染が起きることがあって、すでに医療上の問題になっているみたいなんですね。
もし、病原菌によって医療用インプラントが分解されるのであれば、インプラントの強度が損なわれますし、分解した深い隙間に細菌が住みついて、感染の治療が難しくなります。
しかし、今のところはそういったことが起きているのかもよくわかっていないわけです。
今日は、プラスチックを分解する病原菌を発見した研究を紹介します。
オートサイエンティストへようこそ。サトシです。
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今日紹介するのは、ブルーネル大学のソフィーハワードラによる研究で、2025年5月のセルリポートに発表されたものです。
この論文では、プラスチックを分解する病原菌を探していくんですが、菌を採取するような実験を行うわけではなくて、遺伝子配列のデータベースからコンピューター上で探索する方法で探していきます。
PCLなどプラスチックを分解する環境細菌が存在するという話をしたんですが、すでにどの酵素がプラスチックを分解するのかがわかっています。
そのような酵素23個については、タンパク質の配列情報があるんですね。
また、それとは別に非常にたくさんの病原菌の遺伝子情報がデータベースに登録されています。
この研究では、こういったデータベースから、プラスチックを分解する酵素と同じような配列のタンパク質を持っている病原菌を探しました。
要するに、プラスチック分解酵素と似ている酵素を病原菌の遺伝子情報から探すということになるんですが、どれくらい似ているのかの基準によってヒットしてくる数が変わってくるわけなんですね。
35%同じ配列というそこそこの基準をまず設けたんですが、これだと40個見つかりました。
ここにはいろいろな種類の病原菌が含まれていて、病原菌にもプラスチックを分解しそうなものがいるということがわかったわけです。
さらに厳しい基準を設けて60%同じものというふうにすると、3個見つかりました。
2つは肺炎球菌で、1つは緑脳菌です。
この研究グループは特に緑脳菌に注目して、この先の実験はこの緑脳菌だけで行っています。
緑脳菌シュードモナスアルギノウザは、健康な人にはあまり害を及ぼさないんですが、免疫力が低下した入院患者などでは感染症を起こします。
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このように普段は問題にならない菌が、免疫力の落ちた人に感染を起こすことをヒオリミ感染と言います。
緑脳菌は院内感染を起こす代表的な菌で、人工呼吸器関連の肺炎やカテーテル関連の血流感染などに関与することも知られています。
それからバイオフィルムといって、物の表面に付着してヌルヌルした菌の層を作ることができます。
ですから、プラスチックと関係がありそうなので、この菌に注目したということになります。
ここから、プラスチックを分解する能力があるのかを実験的に調べていっています。
緑脳菌が持つこの酵素、パップワンと呼んでいるんですけれども、パップワンの遺伝子を大腸菌に入れて、大腸菌にこの酵素を作らせています。
大腸菌の方が実験がやりやすいので、こういったことがよく行われるんですね。
このパップワンを作る大腸菌を、プラスチック、PCLを含んだ寒天配置で培養しました。
通常、菌は寒天に栄養素を入れた寒天配置というので培養するんですね。
そうすると、パップワンを作る大腸菌の周りでは、PCLが分解されているということが分かりました。
通常の大腸菌ではPCLは分解されないので、パップワンがプラスチックを分解するということが分かったんです。
あと一つポイントとして、このパップワンという酵素は菌の外に出てくるということがあるんですね。
細菌の中にいても、外にあるプラスチックは分解できないわけなんですが、分解が見られているということは、外に出てくる性質を持っているということが分かります。
次の実験では、実際に緑濃菌を使っています。
最初のデータベースで見つかったのは、一つの特定の緑濃菌の株で、W23という株だったんですね。
すべての緑濃菌がパップワンを持っているわけではなくて、このW23だけがパップワンを持っているものとしてここでは見つかってきたわけです。
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このW23株を入手して、大腸菌でやったのと同じ実験をしています。
そうしたら、W23株の周りのPCLが分解されていました。
パップワンを持っていない緑濃菌株も調べているんですが、こちらではPCLの分解はほぼ見られなかったということでした。
ですから、パップワンを持っているW23株はPCLを分解できるということになります。
プラスチックというのは炭素を含む有機物なんですね。
プラスチックは燃やすことができるということからもわかるように、炭水化物とかタンパク質と同じようにエネルギー源になり得るはずです。
ほとんどの生物はプラスチックを分解することができないので、エネルギーを取り出すことができないわけなんですが、
この緑濃菌は分解をしているので、エネルギーとして使うことができるのかもしれません。
それを調べるために、栄養素が全くない溶液にPCLと緑濃菌だけを入れて、緑濃菌が増えるのかを調べています。
そうすると、この緑濃菌W23株は時間とともに増えていったんです。
PCLなしで同じことをしたら全く増えなかったので、PCLを使って増えているということがわかりました。
他に遺伝子発現解析などもしているんですが、PCLの利用には脂質代謝経路が関わっていそうだということも示しています。
最後に、PCLと緑濃菌によるバイオフィルムの形成との関係を調べています。
プラスチックの上に菌がバイオフィルムを作って貼り付くことで、菌は表現性を発揮すると考えられているんですね。
まずやった実験は、緑濃菌をプラスチックのシャーレで培養するんですが、そこにPCLを入れてバイオフィルムの形成がどうなっているかを調べるというものでした。
ここでバイオフィルムはPCL状にできるのではなくて、シャーレの壁にできるんですけれども、PCLを入れるとバイオフィルム形成が増えるという結果でした。
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さらに、PCLは分解されると6OHHAというより小さな分子になるんですが、この分子がバイオフィルムの中に取り込まれているということも示しています。
先ほど話したように、バイオフィルムは表現性を高めるということなので、PCLで緑濃菌の表現性が高まるかもしれないということになります。
緑濃菌の表現性を調べる簡便なテストというのがあって、昆虫に緑濃菌を感染させるというものなんですね。
緑濃菌は昆虫にも感染するので、感染させた時にどれだけ昆虫が生きているのかを測定するというものになります。
PCLを埋め込んで、緑濃菌W23を感染させるということをするんですけど、そうするとW23だけの時よりも早く死ぬという結果だったので、PCLで緑濃菌の毒性が増すということがわかりました。
PCLを分解できない普通の緑濃菌では、PCLがあってもなくても昆虫が死ぬスピードが変わらなかったので、PCLで毒性が増すのはPCLを分解する能力に依存するというところまでわかりました。
今回の研究の結果をまとめると、まずプラスチックを分解する酵素を持っていそうな病原菌を探して、緑濃菌株W23を見つけました。
実際にシャーレの上ではPCLを分解すること、それと同時にバイオフィルム形成が増えることを示したわけです。
ですから、実際に患者さんのインプラントで感染が起きている時に、こういった菌が働いているかは調べていないわけです。
なので、実際にプラスチックを分解する菌が病院で何か悪さをしているのかはわからないんですが、ちょっと変わった着眼点の面白い研究だったと思います。
また、この研究では、緑濃菌のPAP1以外にもプラスチック分解酵素と似ている酵素を持つ病原菌は他にもあるということを示していました。
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さらに論文では最後に、W23株以外にもPCLを分解する緑濃菌株が存在するということを実験的に示しています。
まだ、こういったプラスチック分解病原菌がどれだけ広範に存在していて、被害が実際にあるものなのかわからない段階ですが、
病院っていうプラスチックがたくさん使われていて、それ以外はかなり清潔で栄養がなさそうな環境ですので、プラスチックを栄養にする菌がいてもおかしくないなと思ったりもしました。
ちょっとお知らせなんですが、今年は夏休みとして8月中に何週間かエピソードの公開をお休みする予定です。
まだこの録音の段階では何日からにするか決めてないんですが、また直前にご連絡したいと思っています。
一応早めのお知らせでした。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後までお付き合いありがとうございました。
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