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ポッドサイエンティストへようこそ、佐藤です。
今日は、当番組のアーカイブから、僕のお気に入りのエピソードをお届けしたいと思います。
でも、その前にちょっとお知らせがあって、
12月14日土曜日の20時から、QTwitterXのスペースという機能を使ってライブ配信、公開収録を行う予定でいます。
もし、時間があるようであれば、聞きに来ていただけると嬉しく思います。
それから、この番組にはホームページというのが一応あって、こういったお知らせをそこでも掲示しています。
それから、メールマガジンというのもあって、ごく稀になんですけれども、お知らせするような内容があるときにはメールを送っています。
ホームページの方で登録することが可能ですので、興味がある方はチェックしてみてください。
このホームページのアドレスなんですけれども、当番組の詳細情報のところにありますので、ぜひ見てみてください。
では、この後今日の本編が始まります。ぜひお聞きください。
ヘンリエッタ・ラックスの紹介
こんなニュースがあったんですよ。
バージニア州ロアノークという都市での話なんですけれども、以前ロバート・E・リーの銅像が建っていた場所にヘンリエッタ・ラックスの像が建てられたという、そういう見出しだったんです。
この一見よくわからない話もですね、実は科学も関係ある深い話で、今日はちょっとこの話をしていこうと思うんです。
特にヘンリエッタ・ラックスという人なんですけど、おそらくですね、科学者以外で科学に最も貢献した人だと思います。
でも彼女自身は、科学とは関係ないし、そういう貢献をしたいと望んでたわけでもないという、そんな数奇な話なんです。
バイオ細胞というものがあるんですね。これというのは動物とか植物の細胞なんですけれども、それを取り出してきてですね、バイオ液という人工的に作ったものの中で、シャーレの中、皿の中で買うという、そういうものなんですよ。
動物を使った実験というのもあるんですけど、バイオ細胞を使う実験というのも、いろいろ実験がしやすくていいんです。
動物だとなかなか遺伝子を入れたりとか薬物を入れたりするの結構めんどくさいんだけど、バイオ細胞は簡単にできるし、均一なサンプルが手に入るというのがすごくいいんですね。
ただ、例えば動物の体から細胞を取ってきて、そういうシャーレの上でバイオしててもですね、そんなに長くは生きてないし、あんまり増えないんですよ。
生き物の細胞というのは分裂できる回数というのに限界が決まっているんですよ。
だから、うまく増えてくれる細胞でも、しばらく飼っていると増えなくなって、もう細胞が死んでしまうということになるんですよ。
ただですね、そうじゃない細胞というのがあるんですね。ずっと増え続ける細胞というのがあって、それが癌化した細胞なんです。
癌という病気は、体の中で変な細胞が増えていくという、そういう病気なんですよね。
本来、細胞が増えるべきじゃない場所で、細胞が増えて腫瘍というのができて、症状が出るという、そういうものなんです。
生き物から取ってきた細胞をしばらく飼っていると、たまたま癌化してずっと増え続けるということが起きることがあって、
それだとずっと飼っておくことができるわけなんだけど、そういう細胞ってかなり長い間、人間の細胞ではできてなかったんです。
でもやっぱり病気に興味がありますから、そういう研究を行うためには人間の細胞というのが必要で、そういう細胞株が樹立されるのがずっと長らく期待されてたんです。
そうしているうちに、1951年にヒーラ細胞というのが生み出されたんです。
ヒーラ細胞の影響
このヒーラって、H.E.L.A.と書くんですけれども、このヒーラというのがヘンリエッタラックスという人の名前から来ている細胞の名前なんです。
この細胞は、ヘンリエッタラックスという人がいて、この人が子宮頸癌を患っていたんですね。
そこから、整検というんですけれども、細胞を取り出して調べるというのをやってたんだけれども、それを培養してみたら増えて細胞株として樹立されたという、そういうものなんです。
だから、まさに癌から取られた細胞なんですよ。
シャーレの上に置いて、培養液に入れておくと、どんどん増えていってくれたんですね。
というわけで、子宮頸癌というのから細胞株が樹立されて、それがヒーラ細胞というものだったんです。
こんなふうに、非常に培養に適した細胞が取れてきて、これがその後の研究にすごく大きな貢献をしたんですよ。
よく例に挙げられるのが、ポリオワクチンの開発なんですね。
ポリオワクチンというのは、ポリオウイルスによって起きる病気なんですけれども、
ポリオウイルスがヒーラ細胞に感染することができるし、感染するとヒーラ細胞が死ぬんですね。
だから、人間を使って実験ってできないわけじゃないですか。
でも、バイオ細胞だけ使ってポリオウイルスが働いているところを研究できるようになったんですよ。
それがポリオワクチンの開発につながったんです。
よく例として挙げられるのはこれなんですけど、他にも本当に無数に、たくさんの研究にヒーラ細胞は使われているんですね。
バイオ細胞を使う研究室ってものすごい数あるんですけれども、だいたいどの研究室でもヒーラ細胞ぐらいは持っているんです。
ちょっと試しにヒーラで論文検索をしたら、10万本以上の論文が出てきたんです。
それもたぶん全部じゃなくて、ヒーラを使うのはあまりにも当たり前なんで、あんまり検索に引っかかる場所にヒーラって書いてない論文っていうのもあるんですね。
だからたぶん数十万の論文がヒーラを使ってやられた研究なんだと思うんです。
不公平な歴史
普通の研究者ってキャリアの間に数十本ぐらいの論文しか書かないんですよね。
非常に高名な教授とかだと数百本ぐらい書くこともあるんですけれども、千本超える人ってかなり少ないんですよ。
今話したように、ヒーラ細胞っていうのはヘンリエッタラックスっていう人から来てるんですね。
だからヘンリエッタラックスっていう人は直接10万本以上の論文に関わってるっていうことなんですよ。
研究者でそんな数の論文に関わってる人なんていないんですよ。
ましてや彼女は科学者ではなくて、だから科学者じゃない人でもっとも科学に貢献した人はこの人じゃないかなと僕は思ってるんです。
このヘンリエッタラックスさんなんですけれども、子宮頸がんで亡くなってるんですね。
でも彼女が亡くなってからも、彼女の一部であったヒーラ細胞っていうのは生き残って、世界中の研究室で今なお培養されているんです。
それが多くの研究に貢献し続けているんですよね。
でもこれってあんまり美談みたいな話じゃなくて、むしろ不公平、理不尽の歴史の話なんです。
ヘンリエッタラックスさんは1920年にアメリカで生まれた黒人女性なんですね。
タバコ農家をしていたそうで、子供も何人かいたんです。
なんですけど、1951年、彼女が31歳だった時に子宮頸癌になります。
治療が行われたんですけれども、まだ彼女が生きている時に子宮頸癌の細胞が採取されたんです。
それに関わったのがジョージ・オットゲーという研究者なんですね。
ヘンリエッタ・ラックスの影響
この人がその細胞を培養して、それがヒーラ細胞と呼ばれる細胞になったんです。
この人は積極的にこれを研究に使っていって、それで世界中に広まったということなんです。
このことに関して、ヘンリエッタラックスさんには何の説明もなかったし、同意も得ていないんです。
でも当時っていうのは、その辺はかなりいい加減で、当時の基準でいけばそれは問題のない行為だったということになるんですよ。
なんですけど、今の基準でいけばこんなのは絶対許されることではなくて、しかも結果として世界中に広まってますから、その辺は問題視されているところなんです。
ラックスさんはその1年以内に亡くなっているんですね。
異族に対しても、この細胞のことは当初説明が全然なかったんです。
なんですけど、その後になって、このバイオ細胞と異族の遺伝子を比べるという目的で、異族にサンプルを求めたりしてたんですね。
その時の説明なんかもかなりいい加減で、異族たちはあまりいい扱いを受けていなかったというふうに言われています。
さらに言うと、ヒイラ細胞を使って多くの技術が開発されたんですね。たくさんの特許が登録されて利益も出ているんです。
でもヘンリエッタさんもその異族も何の利益も得ていないんですよ。
これに関しては裁判所の判断というのは出ていて、法律上はそれで問題ないということになっているんだけれども、ちょっと不公平だなという感じはするわけなんです。
だからヘンリエッタさんも家族もあまりいい扱いされていないんですよね。
これに関しては黒人だったからという面もあるかもしれないんです。
ちょっと違う話になるんですけれども、ヒイラ細胞が使われ始めたのと同時期にタスキギ梅毒実験というのがあったんです。
これは政府の機関が主導で行っていた研究なんですけれども、タスキギという町の黒人の人に梅毒の経過を調べるという。
だから梅毒治療しなければ死に至りますから、相当ひどい人体実験なんですよね。
1900年代に入った後でも黒人への扱いってそんな感じだったんですよね。
こういう事件があったから今でもかなりの不信感を持っているというのがあるんです。
このヒイラ細胞というのも黒人の人に何の説明も合意もなく細胞を取って、それが当時主に白人の研究者によって自由に使われていたという構図なんです。
ロバートE.D.の方なんですけれども、この人は南北戦争の南部側の将軍なんです。
南北戦争で色々功績があって、南部の州では今でも称えられているという感じなんですね。
そこら中にこのロバートE.D.の銅像とか名前を付けた道とか建物があるんです。
ご存知だと思うんですけれども、南北戦争というのは基本的に黒人の奴隷制度をめぐる戦いで、
北部は奴隷解放、南部は奴隷制度の維持という立場だったんですよね。
だからロバートE.D.というのは黒人を奴隷にし続けるために戦った人なわけなんですよ。
それを未だに英雄視しているというのは、少なくとも黒人の人はよく思っていないわけなんですよ。
それで2020年、ブラックライブスマター運動というのがあったんですけれども、各地でデモが行われて、こういった像が倒されるなんていうことがあったんです。
このヘンリエッタ・ラックスさんの出身地、バージニア州ロアノークというところにもリーの銅像が建っていたんです。
これもブラックライブスマターのデモの時に倒されたんですよ。
しばらくそのままになっていたんですけれども、2022年の12月にその場所にラックスさんの像ができたんです。
彼女自身が望んだわけではないんですけれども、医療分野なんかで大きな貢献があったんですよね。
でも長い間無視されていた、そんな黒人女性のヘンリエッタ・ラックスさんを讃える像っていうのが、ロバート・E・リーの像っていう黒人差別の象徴みたいなものと置き換わるっていう。
まだまだ色々問題はあるわけなんですけれども、その不公平が少し正されたっていう象徴みたいな出来事があったという、そんなニュースだったんです。
歴史的な不公平
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。