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S3E16 肥満治療薬をめぐるパラドックス
2025-10-02 20:53

S3E16 肥満治療薬をめぐるパラドックス

新しい肥満治療薬マンジャロはGLP-1作動薬であるとともにGIP作動薬でもあります。でも、最近、GIP遮断薬も肥満治療効果があることが報告されています。このパラドックスに迫る研究の話です。

https://www.nature.com/articles/s42255-025-01294-x

https://www.nature.com/articles/s42255-025-01295-w


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ここ数年で最も注目を集めている薬が、GLP-1作動薬です。
リベルサスとかオゼンピックっていう名前は、聞いたことがある人も多いんではないでしょうか。
薬物の名前としてはセマグルチドというんですが、
もともとは糖尿病治療薬で血糖値をコントロールする作用があります。
でもそれだけではなくて、食欲を抑えて体重を減らす効果が非常に大きいことが分かって、
肥満治療薬としても承認されました。
肥満というのは重大な健康問題ですし、美容目的としての使用も流行しています。
GLP-1作動薬と言ったんですが、
GLP-1はホルモンの一種で腸から分泌されて、水蔵からのインスリン分泌を増やす作用があるものです。
インスリンは血糖値を下げるので、糖尿病への治療効果があるわけです。
GLP-1は他にも脳に作用して食欲を抑える効果があるというわけなんですね。
つまり、水蔵にも脳にもGLP-1が作用する分子があるんです。
これを受容体と言うんですが、GLP-1受容体にGLPが結合すると、
この受容体が働き出して、インスリンが放出したり、神経の活動が起きたりするわけです。
このように受容体を働かせる分子を受容体の作動薬と言います。
だから、GLP-1はGLP-1受容体の作動薬ですし、セマグルチドもそうなんです。
ちなみに受容体の働きを抑える薬のことは遮断薬と言います。
さて、セマグルチドが大ヒットしているわけなんですが、
次の世代の肥満治療薬が既に承認・販売されています。
これがチルゼパチド、製品名マンジャロウです。
セマグルチドと同じようにGLP-1受容体に作用するんですが、
それに加えて別のホルモンの受容体、GIP受容体も活性化します。
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グルコース依存性インスリン分泌ペプチド、GIPは、
GLP-1と同じようにインスリンの放出を促すホルモンで、
こちらも血糖値を下げる作用があります。
そしてGIPも脳への作用があって、GLP-1作動薬と同じように、
食べる量を減らすことで減量効果があるということで、
このような薬が開発されたわけなんです。
だからGIPの受容体も水蔵と脳と両方にあるということなんです。
チルゼパチドは、GLP-1受容体とGIP受容体両方を刺激しますから、
GLP-1受容体だけを刺激するセマグルチドよりも、
優れた減量効果を示すことが報告されています。
それでこのセルゼパチドも大流行の兆しがあります。
しかし最近の研究で驚くべき結果が報告されています。
GIP受容体を刺激するGIP作動薬だけでなくて、
GIP受容体の働きを抑制するGIP遮断薬も体重を減らす効果を示すんです。
マウスやサルを用いた研究で、GLP-1作動薬とGIP遮断薬を組み合わせると、
体重減少効果が著しく増大することが明らかになっています。
すでにこの仕組みの肥満治療薬の開発も行われていて、
臨床試験では人でもGIP遮断薬の減量効果が確認されてきています。
つまり、GLP-1作動薬と併用すると、
GIP受容体の働きを強くしても弱くしても減量が起きるっていう、
一見すると不可思議な現象が起きているわけなんです。
今日はこのパラドックスを解き明かした研究を紹介します。
ポッドサイエンティストへようこそ。サトシです。
今日紹介するのは、ドイツ糖尿病研究センターのロバート・グートゲゼルラニオル研究で、
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2025年4月のネイチャーメタボリズムに発表されたものです。
ちょっと今回の話なんですが、文字を読むとそうでもないんですが、
聞いてだと混乱しやすいものになっています。
似た単語が何度も出てくるんですね。
それが、GLP-1作動薬、GIP作動薬、GIP遮断薬です。
GLP-1作動薬は現行の肥満治療薬の仲間のことで、
GIP作動薬、GIP遮断薬というのは、別のホルモンのGIPの需要帯を活性化するものと抑制するものになります。
単語を見ながらの方が分かりがいいと思うので、
簡単な概念図を今回のエピソードのカバーアートに記してありますので、
分かりにくいと思ったらそちらを見ながら聞いてみてください。
今回の研究では、マウスに対してGIP作動薬、もしくは遮断薬をGLP-1作動薬と併用するとどうなるかを系統的に比較しています。
まず、過去の研究でGIP作動薬、つまりGIP需要帯を刺激する薬は脳の中の神経細胞に作用して食べる量を減らすということが分かっていました。
脳の中でも特にギャバという神経伝達物質を作る神経細胞のGIP需要帯に働くということが分かっていました。
どうしたらこれが分かるのかというと、遺伝子を操作してこのタイプの神経、ギャバ神経だけでGIP需要帯が作れないマウスを作成するんです。
このマウスにGIP作動薬を投与しても効果がないということが分かったので、通常GIP作動薬はギャバ神経のGIP需要帯に作用して体重を減らしているということが分かったわけです。
今回の研究ではGIP遮断薬の方もGIP作動薬と同じようにギャバ神経に作用するのかをまず調べました。
だから先ほどのGIP需要帯がギャバ神経にだけ存在しないマウスにGIP遮断薬を投与して食べる量が減るか、そして体重が減るかを調べたわけです。
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具体的には、GLP-1作動薬とGIP遮断薬を併用するわけです。
普通のマウスだと、この2つを同時に投与すると、GLP-1作動薬単独の時よりも大きな減量効果が見られるわけです。
これをギャバ神経にはGIP需要帯がないマウスでやってみた結果なんですが、このマウスでもGIP遮断薬によってGLP-1作動薬単独よりも大きな減量効果が見られました。
つまり、ギャバ神経にGIP需要帯がなくても、GIP遮断薬の効果は見られたということになります。
ということは、GIP遮断薬の効果はギャバ神経のGIP需要帯とは関係ないということになりますから、GIP遮断薬はギャバ神経ではない別の場所に働いているということになります。
さっき話したように、GIP作動薬の方はギャバ神経に働いているということですから、GIP作動薬とGIP遮断薬は働いている場所が違うということがこの実験から明らかになりました。
次にこの研究では、GLP-1とGIP作動薬、遮断薬の関係を調べています。
やった実験としては、GLP-1需要帯を欠損させたマウス、つまりGLP-1需要帯を持たないマウスを使って、GIP作動薬の投与、もしくはGIPの遮断をするということをしています。
つまり、GLP-1需要帯がなければ、GLP-1は働かないわけですね。
GLP-1が働かない時でも、GIP作動薬とか遮断薬に効果があるのかを調べたわけです。
これを調べると、GIP作動薬、遮断薬とGLP-1の関係性がわかります。
ちなみにこの実験では、低分子のGIP遮断薬ではなくて、抗体を使ってGIPの作用を遮断するということをしています。
この理由の説明は論文の中にはなくて、ちょっと不思議なんですが、臨床試験では抗体の方が使われています。
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では結果です。
GLP-1需要帯がない時にGIP作動薬を投与すると減量効果はあったんです。
ということは、GLP-1が働かなくてもGIP作動薬は働くということなので、
GIP作動薬はGLP-1とは独立して減量効果があるということがわかりました。
GIP遮断の方なんですが、GLP-1需要帯がない時にはGIP遮断には効果がありませんでした。
ということは、GIP遮断の効果はGLP-1に依存するということになります。
ここからどんなモデルが考えられるかというと、GIPは普段GLP-1の働きを少し抑制しているというものなんです。
この状態でGIP遮断の薬を投与すると、GIPによるGLP-1の抑制が弱まります。
そうすると、GLP-1の働きが強くなるわけですね。
その結果、減量が起きるという形になります。
このモデルでいけば、先ほどの実験みたいに、GLP-1がなくなれば、それを抑制するGIPには何の意味もなくなりますから、
GIP遮断しても何の変化がないというのとも一致しています。
GIP作動薬の方は、GLP-1とは関係なくて、別の仕組みで減量を起こしているので、
GLP-1作動薬があってもなくても、GIP作動薬で減量が起きるということになります。
ちょっとややこしかったので、もう一回まとめておくと、
GIP需要帯を刺激するGIP作動薬の方は、GLP-1とは関係なく独立に働いて体重を減らします。
GIP需要帯を遮断するGIP遮断薬の方は、GLP-1と同じ経路で体重を減らすということが、ここまでの実験でわかったわけです。
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この研究では、最後に遺伝子レベルでの変化を調べています。
具体的には、DVC、ドーサルベイガルコンプレックスという食欲の調節に重要な領域での遺伝子の発現が、
GLP-1作動薬とかGIP作動薬、GIP遮断薬を投与したときにどうなっているかを調べています。
すべての遺伝子の発現の変化を調べるという解析なので、大きなデータになるのですが、
それぞれの条件のときに似ていたかどうかを計算することができるのです。
それで見てみると、GLP-1作動薬を投与したときと、GIP遮断薬を投与したときは、結構似ていたという結果でした。
でも、GIP作動薬を投与したときは、他の2つとは似ていないという結果だったのです。
1個前の実験の結果を思い出してみると、GIP遮断薬の方は、GLP-1の働きを強くすることで減量効果を発揮するということでした。
このモデルでは、GIP遮断薬とGLP-1作動薬では同じことが起きるということになりますから、
食欲を調節する脳の領域での遺伝子発現への効果が2つが似ているというのは納得がいきます。
一方で、GIP作動薬はGLP-1とは独立して作用するということでしたから、遺伝子発現レベルの効果も違うというのも不思議ではないということになります。
以上の結果から、GIP作動薬はGLP-1経路とは独立した神経回路を介して食べる量を減らすのに対して、GIP遮断薬はGLP-1に依存して作用しているということを示す結果でした。
ですから、この研究はGIP受容体の作動薬、遮断薬、いずれでも体重減少が得られるというパラドックスに1つの答えを提供したということになります。
ただし、この研究にも限界はあります。
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1つは、主にオスのマウスを用いた実験なので、メスでも同じか不明ですし、やはりマウスということで、人で同じかは検証が必要です。
また、投与してすぐの短期的効果を検証した結果なので、長期投与における持続的な効果についても、今後の検討課題ということになります。
それでも、GLP-1とGIP、両経路の複合的な制御が今後も肥満治療での中心となる可能性が高いので、その作用の基本的な仕組みを明らかにしたというのが、この研究の意義になります。
実際に、GLP-1作動薬にGIP遮断効果のある抗体をつなげた複合薬、AMG-133という薬についての臨床試験が進行中で、数週間で10%以上の体重減少があったと報告されています。
今後もさらに、このような多様な作用基準を組み合わせた肥満治療薬が登場することが期待されます。
ちょっと補足なんですが、今回はグートゲゼルらの論文について話してきましたが、この論文と同じゴーのネイチャーメタボリズムに、同じくGIPについての論文が掲載されていました。
キャリッサリューラによるもので、こちらではGLP-1作動薬とGIP抗体をつないだ臨床試験で使われているものとよく似た複合薬を使っていました。
そしてこちらでも同じように、GIP遮断の効果はGLP-1需要体に依存するということが示されていました。
今日はこの辺で終わりにしたいと思います。最後までお付き合いありがとうございました。
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