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琴音の音cafe
今夜の朗読 タイトル
十五夜の小さなお客様 作者は琴音です。月明かりがまるでセピア色の古い写真のように、静かに鈴木の方を揺らす晩のことでした。
夜空を見上げれば、そこには息をのむほどにまるく、白く輝く十五夜の満月、どこか遠くの国から聞こえてくるような、虫たちのかすかな合唱が、夜の帳を優しく包み込んでいます。
その美しく輝くお月様の中に、小さな影が映っているのを見たことがありますか?
そう、お持ちをついている、あの愛らしいうさぎの姿です。
月のうさぎは、きょうもきょうとて、とんとんぺったん、とんぺったん、
黄金色の稲穂が頭をたれる美しい月の世界で、休むことなくキレを動かしていました。
ふう、きょうもいいお月見日和だね。
うさぎは額の汗をぬぐいながら、ふと眼下に広がる青く美しい星、地球を見下ろしていました。
そこには、ちょうど秋の収穫を祝い、家族が笑顔で集まる温かな十五夜の光景が広がっていたのです。
ふわりと甘い香りが月の風にのって鼻をくすぐりました。
それは、地球の人間たちが月へのお供物として作っている真っ白でまあるいお団子の香りでした。
お団子いいなあ、みんなで囲んでおいしそうだなあ、うさぎはつぶやきました。
月の世界にあるものは、いつも自分でついているお餅ばかり。
もちろんそれもおいしいのですが、地球の人が作るあのまあるくて甘いお団子を一度でいいからお腹いっぱい食べてみたかったのです。
その時でした。
お月さまの淵でいつもより少しだけ強く不思議な銀色の風が吹きました。
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うわあ、バランスをくずしたうさぎはキネを取り落してしまいました。
キネはころころところがり光の階段のようにつるつるすべって行きます。
それをあわてて追いかけたうさぎはあろうことか月の輪郭を踏みはずしてしまったのです。
スー、まるで夜空のすべり台をすべり降りるようにうさぎのからだはふわふわと宙を舞い星の海を通り抜け青く輝く地球の方へと落ちて行きました。
だ、大変だ迷子になっちゃった。
ぴょんぴょんと空中で足をバタバタさせてみても足元にあるのは頼りない雲ばかり。
雲の切れ間から見えたのはすずきがゆれるとある日本の小さな村の原っぱでした。
ドスンとは落ちません。
ふわりふわりと綿毛のように柔らかくうさぎはその原っぱの真ん中に着地しました。
ここはどこだろう。
大きな耳をぴくぴくと動かしてうさぎはあたりを見まわします。
目の前には見慣れない景色が広がっていました。
すずきの野原のあちこちに竹の台が置かれ、その上には白いお皿に積み上げられた丸いお団子がお供えされています。
そしてその脇には秋の夜風に揺れるおいしそうな栗や里芋が並んでいました。
わあ、本物のお団子だ。
うさぎの目が星のようにきらっきらと輝きました。
誰もいないことを確かめるとうさぎはぴょんとはねてお団子のすぐそばまで近づきました。
くんくんと鼻をならします。
甘くて香ばしくて心がとろけそうなほどにいい匂い。
我慢できなくなったうさぎは小さく失礼しますと頭を下げて一番上のお団子をそーっとお口に頬張りました。
うーん、おいしい。
もっちりとしていて噛むほどに優しい甘さが口いっぱいに広がります。
月のお餅とはまた違う地球のぬくもりを含んだようなその味にうさぎは思わず幸せのため息をつきました。
06:05
はあ、おや、こんなところにかわいいお客さんだね。
ふいに聞こえた声にうさぎはピクッと耳をピンと立てました。
振り返ると縁側からこちらを見つめるおじいさんとおばあさんが優しい笑顔で立っていました。
その手には温かいお茶の入った湯のみが握られています。
うさぎはしまった怒られるかなとぶるぶると体をふるわせました。
けれどおじいさんは優しく首を横に振りおばあさんはにこにこしながらお皿からもう一つ大きなお団子をそっところがしてくれたのです。
ちゅうごやの晩に月からの死者会?
それともただの食いしん坊の迷子さんかな?
さあ遠慮せずにもっとお食べ。
うさぎは驚きそして胸がいっぱいになりました。
人間は怖い生き物だと思っていたのにこんなにも優しく自分を受け入れてくれるなんて。
うさぎはうれしそうにそのお団子をほおばりながらおじいさんとおばあさんの足もとにぴょんと飛びのり甘えるように体をすりよせました。
やがて月の位置が高くなり夜が少しずつ深まっていきました。
たのしい時間はあっという間に過ぎ去りうさぎの背中がふわりとあたたかな光に包まれチリンと優しい鈴の音が聞こえました。
それはお月様からの帰っておいでという合図の鈴の音と光でした。
そろそろ帰らなくちゃ。
うさぎは名残惜しそうにおじいさんとおばあさんを見上げました。
二人はまるで最初からわかっていたかのように優しくうなずき手を握ってくれました。
また来年の十五夜にもお団子を用意して待ってるよ。
気をつけてお月様にお帰り。
うんありがとう。
うさぎは大きくうなずくと再び夜空へとふわりと体を浮かべました。
また下界の景色がだんだんと小さくなり秋の虫たちの声が遠ざかっていくのを感じながらうさぎは光の階段を駆け上がって行きます。
目の前にはぽつんと取り残されたキネが今か今かとうさぎの帰りを待っていました。
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うさぎはひょいと月に降り立つとふーとため息をつきもう一度だけ地球の方角を振り返りました。
お腹はいっぱい心もじんわりと温かいもので乱されています。
また来年絶対にお団子を食べに来よう。
うさぎはそう心に誓い再び笑顔でキネを持ち上げました。
とんとんぺったんとんぺったん今夜も月の上では優しいうさぎが地球の平和と人々の幸せを祈りながらお餅をつき続けています。
もし今年の十五夜お月さまを見上げてふとうさぎの姿がいつもより少しだけ満足そうに見えたなら
それはきっと地球のどこかで食べたあの甘くておいしいお団子の夢を今でも思い出しているからに違いありません。
おしまい。ありがとうございました。