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この番組は、本が好きな人たちが集まり、本から始まる様々な思い、広がりを記録して繋いでいく番組です。
図書館小話その① 〈一年に数回、必ず訪れる辛い瞬間〉
話の本題に入る前に、これはあくまでも昔の記憶を元にして、個人的な思いを振り返っているというだけの話です。
当時、もう15年以上も昔ですけれど、とある大学の図書館で働いていた頃、年に何回もこの悲しい瞬間が必ず起こりました。
それは何かと言いますと、大抵、大学の授業のない夏とか春の長い休みが終わったタイミングで、よくその悲しい辛いお知らせが来ました。
パソコンの画面に向かって、普段の業務連絡のメールを、まあよくある感じで、面倒くさいのないといいなぁなんて思いながらチェックしていくわけですけれど、
それぞれのメール、例えば〇〇研究室〇〇どことこの論文副写記簿とか、いろんな業務連絡があるたくさんのメールの中に、普通にそれは紛れ込んでいるんです。
他のメールと同じように無機質なタイトルがあって、それをポチッと開くと、学籍番号、学部、氏名、それが数人分ずらずらずらっと並んで、以上の生徒が死亡しましたので、学部署手続きをお願いしますとあるんです。
細かい文言は忘れましたけれど、事務的なとても簡潔なメールでした。
よく考えれば生徒数は2万人ほどいましたので、どんな原因なのかわかりませんけれど、残念ながら一定数がなくなられていくというのは、時計上でもまあ当然なんです。生き物ですから。
けれども、普段接している学生たち、ちょっとした会話を交わしたり、表情のやりとりをしたり、この図書館の中に無数にいる若い人たちの誰かであったのだなと思うと、とても悲しくてつらいお知らせでした。
同じ空間で過ごして、学内の図書館だけではなく、学職とかバスとかでも一緒に利用していたし、少なからず情を感じていたので、何とも言えない気持ちになりました。
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そのメールが届いた後の業務は、学籍番号が図書館の利用番号を兼ねていたので、そこから調べて、その生徒が借りていた本を返却してもらう手続きをするわけですけれど、
画面上にある情報、生徒の住所や寄生先、借りている本の一覧などを見ながら、実家に電話をしたり、通じなかったら手紙を出したりするわけですけれど、
この電話も、なるべく感情を押し殺して淡々とした事務的な対応をしていましたけれど、やはり内心は穏やかではいられないわけです。
しかも電話に出てくれる親御さんは、大抵はものすごく丁寧なんです。
息子が、娘が、生前大変お世話になりました。
などと言われてから、何と返せばいいのか、よく悩みました。
この声が、また耳に残るんです。
後日返却されてくる本の包みにも手紙が添えてあったりして、その手紙をささっと無表情でシュレッダーしている自分の気持ちは、何て言っていいものか。
そうして帰ってきた本は、他のたくさんの本と同じように表面を拭いたりして、何事もなかったかのように、
通常その本があった場所、本棚書家に戻すわけですけれど、
またその本を違う学生が、その前に一体誰が借りていたかなんて、知るよしもなく、また借りられて読まれていくわけです。
大学図書館だと、もう昔の戦前の本なども普通に並んで置いてあるのですけれど、
私たちの知らないいろんな時代の人の手を渡ってきて、回って読み継がれて、そこに無数に並んでいるのだなあと思うと、
悲しいだけではなくて、感情を超えて、図書館という存在そのものが良いものだなあなんて、よく思いました。
地下にあった薄暗くて静かなひんやりした書庫や、ずらーっと並んだ本の背拍子、
いろいろな景色を思い出すのですが、きっと今でも変わらずたくさんの学生たちが、あの場所にいるのだなあって思うと懐かしくなります。
残念ながら若くして亡くなられてしまった学生たち、彼らの存在を間接的にでも少しでも感じていただけたらなあと、このお話をしました。
今回のお話は以上です。
他にもいろいろと図書館にまつわる思い出があるので、そのうち話そうかなあって思います。