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ボイスドラマ サルバドール・ダリ 記憶の固執
美術館の静かな一室。マリアとトミーは一枚の絵の前に立っています。
トミーは静かに絵の方向を向きながら、マリアの言葉を手がかりに、その絵の世界を心に描こうとしています。
「ね、マリア。ここにあるのは、ダリの記憶の固執なんだね。どんな絵なんだろう?」
マリアがトミーの腕をそっと取り、絵の方へ導きながら、「うん、そうだよ。トミーの心にも、この絵が描く世界がちゃんと浮かぶように、私が一つずつ丁寧に伝えるからね。」
マリアはゆっくりと話し始めます。その声はトミーの心に、絵の輪郭を少しずつ描き出していくようでした。
全体の構図と風景
この絵はね、とても不思議な風景画なの。画面全体に広がっているのは、まるで乾いた砂漠のような黄土の砂浜で、その奥には静かで穏やかな青い海が広がっているの。
空は薄い水色で、遠くの地平線からは金色の光が差し込んでいるの。
「砂浜に、海…。」
そう、でも少し奇妙なの。この砂浜は右側が切り立った崖のようになっていて、そこには何も生えていないただの岩花が見えるの。
風景はどこまでも静かで、人の気配は全くない。まるで時間が止まってしまったかのような夢の中の景色みたい。
溶ける時計の描写
この絵で一番印象的なのは、主役である3つの溶けた時計。まるでバターのようにぐにゃりと柔らかく変形しているの。
まず、画面中央に横たわる不思議な白い塊があるでしょう?
これはダリの自画像だと言われているんだけど、眠っているように見えるの。
その背中には白い文字盤の時計が、まるで布のようにだらりと垂れ下がっているの。
「眠っている人の上に時計が…。」
うん。次に、その白い塊の左側にあるオレンジ色の固いテーブル。
その端にもう一つ同じように溶けた時計が置いてあるの。
この時計の文字盤にはたくさんの黒いアリが群がっている。まるで時間の終わりを象徴しているみたいに。
そしてテーブルの左側にある細く枯れた木の枝。
たった1本だけ生えているこの枝にも3つ目の時計がぶら下がっているの。
これは銀色の時計で光を反射して輝いているけど、やはり文字盤はぐにゃりと溶けてしまっているの。
「3つの溶けた時計。それぞれ違う場所に、違う様子で…。」
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そう、この時計たちは時間というものが決して固定されたものではなく、
曖昧で流動的なものだということを語りかけているように思えるわ。
再起色とディティール
絵全体の色彩は黄土の砂浜と青い海のコントラストが鮮やかな、
薄い水色の空が夢のような雰囲気をより一層引き立てているの。
溶けた時計の白い文字盤や金色の縁、オレンジ色のケーブルは、
この不思議な風景の中ではっきりと存在感を放っているわ。
あのね、トミー。実はね、この絵は誰が当時食べていたチーズが熱さで溶けているのを見て思いついたそうよ。
チーズが…。そうなんだ。
うん。日常の些細な出来事からこんなにも壮大げ、深い意味を持つ世界を描き出したんだね。
たぶん、トミーはこの絵は…と心の中にある記憶や時間は、
いつでも柔らかく形を変えていくものだと教えてくれているんじゃないかしら。
トミーは静かに深くうなずみながら、
うん、マリア。僕の心の中にも、今、溶けた時計が、ゆらゆらと、ゆらゆらと、揺らいでいるよ。ありがとう、マリア。
二人の間に再び静けさが戻ります。絵はそこに変わらず存在し、
そして二人の心の中に新たな記憶を刻んでいくのでした。