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ボイスドラマ、「カスパー・ダーヴィド・フリードリヒの氷の海」。晴れの日、マリアは美術館で友人のトミーと落ち会った。
トミーは視覚に障害があるため、マリアが絵画について言葉で説明することになっている。
二人は、カスパー・ダーヴィド・フリードリヒの氷の海の前に立った。
トミー、ついに来たね、マリア。この絵の前に立つと、なんだか肌寒く感じるよ。どんな絵なんだろう?
うん、すごく迫力のある絵だよ。まず、全体の構図から説明するね。
この絵は画面いっぱいに広がる広範囲が描かれていて、まるで嵐の跡のようだ。積み重なった氷の塊が大きな山のようにそびえ立っている。
そのてっぺん、真ん中あたりに木造の船の残骸が描かれているんだ。
船の残骸が、それはどういう状態なの?
氷の塊に押しつぶされてボロボロになっている。船首だけがわずかに見えるかな。船体はバラバラになってもう形をなしていない。
氷の力強さや自然の圧倒的な破壊力が伝わってくるよ。
なるほど、それはすごいな。色はどう?白や青が中心?
そうだね。氷の塊は光の当たり方によって様々な色に見える。
基本的には透き通るような白や深みのある青、それに鈍い灰色が使われている。
特に光が当たっている部分は真っ白で、影の部分は濃い青やほとんど黒に近いような暗い色だ。
空の色も特徴的で、鈍い黄色や灰色がかった白が混じり合っていて、まるで凍てつくような寒さが伝わってくるよ。
そうか、ただの青や白じゃないんだね。
うん。そしてね、この絵はただ寒さむしいだけじゃなくて、希望を感じさせる部分もあるんだ。
右上の空を見てみて、クムの切れ間から淡いピンク色やオレンジ色の光が差し込んでいる。
まるで夜が明けていくような静かで美しい光だよ。
自然の脅威と、それでも訪れる夜明けの光、なんだか僕たちの人生みたいだね。
辛いことがあっても光が射す瞬間がある。
トミーの言葉にマリアは深くうなずいた。
二人はしばらくの間、絵の前に立ち尽くしていた。
マリアはトミーの手にそっと触れ、二人は言葉を交わさなくても静かに心を通わせているようだった。
トミー、この絵の前にいると僕にも見える気がするよ。
船を押しつぶす氷の力、夜明けの美しい光が。
ありがとう、マリア。
どういたしまして、トミー。
これからも一緒にたくさんのものを見つけていこうね。
二人は再び歩き出した。
マリアはトミーの腕を取り、次の絵と向かう。
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言葉の力で二人の世界はさらに広がり、心は豊かになっていった。