絵の概要と構図
ボイスドラマ ジェリコーのメデューズ号の筏
マリアとトミーは美術館のベンチに座っている。 トミーはヘッドホンをつけている。
ラレーターが静かに語りかける。 美術館の一室
そこはまるで別世界のように静か。 マリアとトミーは19世紀フランスの画家
テオドール・ジェリコーの傑作 メデューズ号の筏の前にいる。
トミーはこの絵に描かれた絶望と希望のドラマをその耳で感じようとしている。
マリア、この絵、ずいぶん大きいんだってね。 どんな感じの絵なんだろう?
うん。 すごく大きくて圧倒されるよ。
幅が7メートルくらい、高さが5メートルくらいもあるかな。 目の前にあるだけでその迫力に息を飲む。
じゃあ、絵の全体的な構図から説明するね。 絵は大きく2つのピラミッドに分けられる。
まず一つ目のピラミッドは絵の右側。 嵐の中、荒れ狂うイカタとその上に乗るボロボロのイカタが描かれているんだ。
そのイカタの上でたくさんの男たちが必死に手を伸ばしているんだ。 これが最初のピラミッド。
ナレーターは2つ目のピラミッドについて説明を始める。 そして2つ目のピラミッドはイカタの上の人たちで作られている。
画面の左下から右上のマストの先端へと向かう大きな三角形の構図だね。
マストの先端に立って布を振っている男がこのピラミッドの頂点になっている。 このピラミッドが
絶望から希望へと向かう彼らの強い思いを表しているんだ。 なるほど
絶望と希望の2つのピラミッドか。 絵の色はどう?どんな色で描かれているの?
絵全体はまるで嵐の夜のような暗くて重い色調で描かれている。 特に暗い茶色や灰色、
土のような色が中心だね。 海の色も暗い青や黒、そして緑が混じり合っていてものすごく荒々しい。
でもその暗さの中に画面の左上から差し込む少しだけ明るい光があるんだ。 その光が波に反射して一瞬だけ白く光る。
人物たちの描写
ナレーターは次にマリアが絵の左側の説明を始める。 絵の左側には雲に覆われた空が広がっている。
雲は重苦しい灰色で今にも雨が降り出しそうだ。 その雲の下、水平線には彼らが希望を託す船が小さく描かれているんだ。
マリアはゆっくりと絵の中の人物たちに目を移す。 イカタの上で生きるために必死にもがく男たちの姿を
ポミーの心に届けようと言葉を選ぶ。 ではイカタの上にいる人たちについて話すね。
たくさんの人がいるけど大きく2つのグループに分けられる。 手前には死んでしまったり死にかけた人たちがいる。
彼らの肌は土色ですでに生気を失っている。 裸だったりボロボロになった布を身につけていたり、
髪の毛は海に濡れて顔にへばりついている。 その目は光を失い焦点が定まっていない。
見るからに弱々しくてもう動く気力もないように見える。 彼らの側には絶望して俯いている人もいる。
その顔には深いシワが刻まれていて長い苦しみを物語っている。 その服はまるで海で何年も漂流したような感じでボロボロだ。
でもその中でも一際目を引く人がいる。 左手前の白い布をまとった背中の筋肉が隆起した男性だね。
彼は死んだ息子を抱きかかえ深く悲しんでいる。 その顔は横向きで見えないけどその体から深い悲しみが伝わってくる。
ナレーターはマリアの声が希望を求めて立ち上がる人々に向けられる。 そこには絶望だけではない人間の強い意志が描かれている。
そしてもう一つのグループは絵の右側。 彼らはまだ希望を捨てていない人たちだ。
その肌は暗い色調の絵の中で少しだけ生き生きと見える。 彼らは力強く立ち上がって遠くの船に向かって手を振っている。
その腕の筋肉ははっきりと描かれていて彼らの強い意志を感じさせる。 彼らの服は破れているけどまだ形を保っている。
その目にはまだ微かに光が宿っていて遠くの船をじっと見つめている。 ナレーターはマストの上にいる人物の紹介を始める。
そして絵の頂点にいるマストの先端に立っている男性。 彼は力強い背中を見せて希望の船に手を振っている。
その黒い髪は風になびき彼の体は光を浴びている。 彼はこのイカタにいる全員の希望を背負っているようだ。
まるでその場にいるみたいだ。 絶望とそれでも諦めない人たちの姿が目に浮かぶようだ。
この絵は悲しいだけじゃないんだね。
そうだよ。 この絵は絶望の淵にいても希望を捨てずに生きようとする人間の強さを描いているんだ。
この絵の前に立つと生きるってどういうことなんだろうかって改めて考えさせられるんだ。 私にはそう聞こえるよ。
マリアの声にトミーは静かにうなずく。 二人の間には言葉はいらない。
メデュース号のイカタが描く絶望と希望の物語が二人の心をつないでいた。 美術館の静けさの中、ただ彼らの息遣いだけが聞こえていた。