ロートレックとムーラン・ルージュ
ボイスドラマ、ロートレック、ムーラン・ルージュのラ・グリュ、ロートレックが描いた1890年代のパリ、モンマルトルの競争、その中心にあるのがキャバレームーラン・ルージュです。
これからご覧いただく、お聞きいただくのは、その華やかな看板スター、ラ・グリュを描いたポスター、ムーラン・ルージュのラ・グリュです。
ロートレックのポスターか。彼の独特な線の動きや、当時のパリの雰囲気が、音としても伝わってくるような気がするな。マリア、これはどんな絵なんだい?
うん、トミー、これはね、ロートレックの初期の代表作で、彼が一躍有名になったポスターだよ。原寸大で見ると、横幅が約1メートル、縦がなんと1.9メートルもある、とっても大きなポスターなの。
まず、絵の全体像からね。このポスターは、手前にいる一人の女性ダンサー、ラ・グリュと、奥にいる一人の男性ダンサー、バランタン・デ・ゾッセという、二人の人物が中心に描かれているの。
構図は非常に大胆で、日本の浮世絵の影響を強く受けています。画面の手前を鋭い角度の斜めの線で区切る、対角線的な構図が使われています。
特に目を引くのは、ラ・グリュが画面の左側、そしてやや下側に大きく描かれていること。彼女の体がまるで画面から飛び出してくるように、斜めに切り取られているんだ。
その奥、画面の右上には、黒いシルエットのようなバランタンの姿。手前と奥で、人物の扱いが極端に違っていて、それが強烈なリズム感を生んでいるの。
ラ・グリュか。彼女はどんな格好をして、どんな表情をしているんだい?
ラ・グリュは、カンカンのダンスの最中なんだと思う。画面の左手前、彼女は私たちに背中を向けて立っていて、顔は左斜め後ろを向いて、観客、つまり私たちの方を見ているの。
洋服。彼女はフリルのついた白いスカートと、明るいピンク色のペチコートのようなものを履いている。
ダンスで激しく蹴り上げられたスカートのフリルが、画面の左下で波打つように広がっていて、その動きが強調されているよ。
ラ・グリュの描写
上着は黒いタイトなコルセットみたいで、肩を大きく露出し、手には黒い手袋をしている。
髪と肌。彼女の髪は明るい金髪で、小さなリボンか飾りで結ばれているみたい。肌は舞台の照明を受けているからか非常に白く、対照的な黒いコルセットと手袋が、彼女のしらしの白さを際立たせている。
視線。彼女の顔は横顔に近いんだけど、観客を向いた挑発的で自信に満ちた視線が印象的だよ。
彼女の存在感とこのポスターの主役であることを示しているね。
なるほど。手前に白とピンク、奥に黒。そのコントラストがポスターとしてのインパクトを生んでいるんだな。背景や使われている色は他にどんなものがあるんだい?
ロートレックはポスターという特性上、限定された色数で最大限の視覚効果を狙いました。この絵に使われている主要な色は黒、白、赤、黄色、そしてピンク、ラグルンのペチコートです。
背景。舞台や壁を示す背景はほとんどが鮮錬な黄色や少し濁ったような土の赤で埋めつぐされている。ロートレックらしい少しざらついた、まるで夜の寒陸街のほこりっぽい空気を閉じ込めたような色合いだよ。
文字。画面の下部には大きくムーランルージュの文字が装飾的なフォントで鮮錬な赤で書かれている。これがポスターであることを明確にしているね。
うん、とてもよく分かったよ。ロートレックの人物の内面まで描き出すような強い線と少ない色で空間を表現するグラフィックな才能が結実した作品なんだな。この黒いシルエットのようなバランタンと挑発的なラグリュー、目に焼き付くようだ。
そう、これはただのポスターじゃなくて、当時のパリのエネルギーとロートレック自身の熱情が詰まったまさに動く絵なんだよ。ロートレックのムーランルージュのラ・クリュー。それは、世紀末パリの凶落と芸術が交差した瞬間の鮮烈な記録です。