00:01
サンドロ・ボッティチェリの春、プリマヴェーラ。
春の光が差し込む、ある美術館の午後。
トミーとマリアは、ルネサンスの巨匠、サンドロ・ボッティチェリの春、プリマヴェーラの前に立っています。
トミーは静かに、マリアの言葉に耳を傾けています。
トミー、準備はいい?
今から、この春の世界を言葉で旅しようね。
目の前には、まるで神話の世界が広がっているの。
うん、ボッティチェリの春、どんな人たちが描かれているんだろう?
この絵はね、まるで一枚の巨大なタペストリーのように、たくさんの人や花や木々が横に広がる一枚の画面いっぱいに描かれているの。
絵の向かって、右から左へと、物語が進んでいくような構成になっているのよ。
舞台は、一面に花が咲き乱れるオレンジの木立ち。
背景には、暗く茂る木々が描かれていますが、その暗さが、人物たちの肌の白さや、鮮やかな衣装の色を際立てています。
足元には、数え切れないほどの小さな花々が、まるで刺繍のように緑色の草の上に敷き詰められています。
その種類は、スミレやヒナギクやワスレナグサなど、500種類以上とも言われているほどです。
絵の向かって一番右には、少し青みがかった顔をした男性、風の神ゼフィロスが、女性を追いかけている姿が見えるの。
ゼフィロスは、膨らんだ毛布で息を吹きかけるような表情をしているわ。
追いかけられているのは、花の妖精クローリス。
彼女の口から小さな花々がこぼれ落ちているのよ。
そして、ゼフィロスに触れられたクローリスは、その隣にいる華やかな花の女神フローラに変わるの。
花の妖精が花の女神になるんだ。不思議な物語だね。
そうなの。フローラは花が咲き乱れた白いドレスを着て、髪にもたくさんの花を飾っているわ。
彼女の衣装は、まるで一面に花が咲いた野原をそのまま身につけたみたい。
そして、その視線は、私たちの方ではなく、絵の中の次の人物へと向けられているの。
画面の中央には、ひときわ大きく光を浴びた女神が描かれています。
それが、愛と美の女神ウエヌス、ビーナスです。
彼女は赤い布で体を覆い、まるで祝福するかのように右手で私たちを指さしています。
03:04
彼女の頭上には、目隠しをした愛の神キューピットが弓を構えています。
キューピットの視線は、ウエヌスの左側にいる三人の女性たちに向けられています。
ウエヌスの左にいるのは、賛美神よ。
左から、愛欲、純潔、美を司る女神たち。
彼女たちは、透き通るような薄いベールを身につけ、手をつないで、まるで優雅なステップを踏んでいるかのように見えるのよ。
三人の肌は透きのように白く、髪は編み込まれていて、真珠や花で飾られている。
それぞれが違った方向を見ていて、視線が交差しているのがとても印象的よ。
賛美神が、どんな表情をしているんだろう。
みんな、少し憂いを帯びたような、静かで穏やかな表情をしているわ。
でも、それぞれが自家の美を講じするように、凛と立つ姿をしているの。
彼女たちの足元には、三人の姿が映る小さな水たまりが描かれているの。
そして、絵の向かって一番左には、剣を腰にさえた若い男性、伝令の神、メルキリオス、ヘルメスが描かれています。
彼は、右手を高く挙げ、まるで雲を払い、春の光を呼び込んでいるようです。
彼の視線は、この絵の登場人物ではなく、画面の外、つまり、私たち観客に向けられています。
メルキリオスは、春の到来を告げる使者なのかもしれないわね。
彼の呼び咲く先には、私たちが見てきた花の女神や賛美神、そして愛の女神たちが描かれているの。
この絵は、ただ美的なだけでなく、命の誕生や春の喜びを私たちに伝えてくれているのよ。
たくさんの神々が、それぞれの物語を語っているんだね。
君の説明で、春の香りがしてくるようだ。
ありがとう、マリア。
どういたしまして。言葉で一緒に見ることができて、私もすごく嬉しい。
この絵の命の躍動を、トミーにも感じてもらえてよかった。また別の絵も一緒に見ようね。