さて、今日も今日とて、 吉川英二さんの三国志「桃園の巻」の続きです。
十条寺という説からですね。 漢元十人からなる十条寺。
都の政治を欲しいままにしていたという十条寺が
東託にやられるでしたっけね。 家臣って言いましたね。
何っていう漢字に進むと書いて家臣、外籍の人。 帝に
帝が届いた嫁のお父さん。 元はお肉屋さんだったような記憶がしてますが。
今劉備は門の外で、 城の外であんなに戦、あんなに戦頑張ったのになぁ。
何も落とされたないなぁ、みたいな感じになってますね。 じゃあ続きを読んでいきますか。
どうかお付き合いください。 それでは参ります。
三国志 桃園の薪 十条寺
1 劉寺
もし、劉寺ではありませんか。 誰か呼びかける人があった。
その日、劉玄徳は朱雋の官邸を訪ねることがあって、 王城内の金門のあたりを歩いていた。
振り向いてみると、それは老中張勤であった。 張勤が今参大するところらしく、
従者に腰をかかつがせ、それに乗っていたが、 玄徳の姿を見かけたので、
靴をと従者に命じて、腰から見下ろしていた。
おお、どなたかと思うたら、張勤閣下でいらっしゃいましたか。 玄徳は敬礼を施した。
この人はかつて、盧植を貶し入れた、 鴎門、沙峰などと共に、官軍の直裏として、 西野へ巡札に来たことがある。
その折、玄徳とも知って、お互いに世辞を断じ、 崩壊を話し合ったりしたこともある間なので、
思いがけないところでお目にかかりましたな。 ご賢章の体で、何よりに存じます。 と、急滑を述べた。
老中張勤は、そういう玄徳の従者も連れていない。 しかも、かつて見た正義のまま、この寒空を、
小泉と歩いている様子を、いぶかしげに打ち眺めて、 貴公は今、どこに何をしておられるのですか。
少し、お安になっているようにも見えるが。 と、かえって玄徳の驚愕を反問した。
玄徳は、ありのままに、何分にも自分には感触がないし、 部下は士兵とみなされているので、
外征の後も外城より異竜を許されず、 また中世の兵たちにも、この風に向かって一枚の温かい軍衣、
一片の将録をも分け与えることができないので、 せめて外城の門営に立っていても、
志望しのぐに足る団衣と食料等を恵まれんことをこぐために、 今日、朱雋将軍の官邸まで元将を訪さえて出向いてきたところです。 と、話した。
「おお。」 張勤は驚いた顔をして、
「では、即家はまだ感触にもつかず、 また今度の温床にも預かっていないんですか。」 と、重ねてただした。
「はい。佐太を待てとのことに、外城の門にたむろしています。 けれども冬は来るし、部下が不備になるで、お訴えに出てきたわけです。」
「ああ、それは初めて知りました。 広穂須将軍は、皇によって益州の大衆に奉ぜられ、
朱雋は都へ凱旋すると、直ちに尺将軍となり、 カナンの院に奉ぜられている。
あの尊賢さえ、内縁あって別部芝に除せられたほどだ。 いかに皇がないといっても、貴君の皇は尊賢以下ではない。
いや、ある意味では、今度の廃秘征伐の戦で最も苦戦にあたって忠誠をあらわした軍は貴下の義軍であったといってもよいのに。」
玄徳の面にもうつうつたるものがあった。 ただ彼は朝廷の命なるがままに思うまいとしているふうだった。
そして部下の不備を身の不遇以上に哀れと思いしめて噛んでいた唇の手であった。
「いや、よろしい。」 やがて朝廷は強く言った。
「それもこれも思い当たることがある。 地方の相続を払っても、社職の訴訟を払わなかったら、司会の平安を長く保つことはできん。
懲罰の苦苦不公平な点ばかりでなく、長くべきことが実に多い。 貴君のことについては、特に御門へ相問しておこう。
そのうち、明朗な恩欲をこむることもあろうから、 まあ、気を腐らせずに待つがよい。」
老中、長勤はそう慰めて玄徳と別れ、 やがて三代して帝に配謁した。
2. 珍しく帝のおそばには誰もいなかった。 帝は玉座から言われた。
「長老中、今日は何か。 鎮に降り行って懇願あるということだから、近臣は皆遠ざけておいたぞ。 気兼ねなく思うことを申すがよい。」
長勤は快歌に拝起して、
「味方の御聡明を信じて、 臣長勤は今日こそあえてお気に入らぬことをも申し上げなければなりません。 少々として公明な御心をもて暫時お聞き下さいまし。」
「何じゃ。」
「他でもありませんが、君側の十常侍らのことについてです。」
十常侍と聞くと、 帝の御瞳はすぐ横へ向いた。
「御気色が悪い。」
長勤にはわかっていたが、ここを犯して真実の言を進めるのが中心の道だと信じた。
「臣が多くを申し上げないでも御聡明な味方には特にお気づきと存じますが、 天下も今、ようやく平静に帰ろうとして地方の乱賊も収束したところです。
今際、どうか君側の勘を払い、御粛正を上よりも示して、 人民たちに安天の憂えなからしめ、豪に案じ御徳勢を謳歌するように御賢慮仰ぎたく存じまする。」
長老中、何で今日に限って突然そんなことを言い出すのか。
「いや、十常侍らが祭りごとを見出して、 御方の恩徳を苦労し立て祀っていることは今日のことではありません。
私のみの憂いではありません。 天下万民の恨みとするところです。」
恨み?
「はい。例えば、今度の黄巾路乱でも、 その賞罰には十常侍らの私心がいろいろ働いていると聞いています。
参内を受けた者には功なき者へも官録を与え、 叱らざる者は罪なくても官を落とし、いやもうひどい沙汰です。」
御方の御職はよいよ曇って見えた。 けれど御方は何も言われなかった。
十常侍というのは住人の内官のことだった。 民間の者は彼らを官官と称した。
黄身側の剣を握り、高級にも勢力があった。
義郎長上、義郎長中、義郎団経、義郎下起、 などという十名が中心となって、
精密に結束を作っていた。 義郎とは賛義という意味の役である。
だからどんな精密な祭事にも預かった。 御方はまだお若く現れるし、
そういう骨の主みたいな老戒と癖者が揃っているので、 彼らが遂行しようと思うことはどんな悪性でもやって通した。
令亭はまだ五尺年なので、その悪変に気づかれていても、 いかんともする術を御存じない。
また張勤の苦感に感動されても何というお答えもできなかった。 ただ眼を宮中の庭へそらしておられた。
遊ばしませ。御断行なさいませ。 今がその時です。陛下、一重に御遠慮をお決しくださいませ。
張勤は口をすくし、我と我が忠誠の情熱に 眼尻に涙をたたえて還元した。
ついには玉座に迫って、 御方の御位にすがって急走した。
御方は遠惑そうに。
では長老中、珍にどうせというのか? と問われた。
ここぞと張勤は、
十条侍らを極に下してその首をはね、 難航にかけて諸人に財文と共に示し賜れば、
人心自ら平安となって天下は……
言いかけた時である。
黙れ。まず汝の首より先に極門にかけん。
と、帳の陰から怒った声がして、 それと共に十条侍十名の者が躍り出した。
皆、髪を逆立てて眼尻を挙げながら張勤に迫った。
張勤はあっと驚きのあまり昏倒してしまった。
手当されて後に天位から薬糖をもらったが、 それを飲むと眠ったまま死んでしまった。
張勤はその時そんな死に方をしなくても、 帝へ忠勘したことを十条侍に聞かれていたから、
必ずや後に命を全うすることはできなかったろう。
十条侍も依頼、
油断しておるととんでもない忠義ぶった奴が現れるぞ。
と気がついたか、忌め合って、
帝の衆議をもとより内外に勢に渡って 大いに警戒しているふうであった。
それもあるし、帝御自身も、
こうある者のうちに恩賞にも漏れて不遇を囲ち、
不平を抑えている者が少なくないのに気がつかれたか、
特に軍港の再調査と第二期の恩賞の実施等を悟された。
張勤のことがあったので十条侍も反対せず、
むしろ自分らの善政ぶりを示すように 本の形ばかりな事例を交付した。
その中に劉備玄徳の名もあった。
それによって玄徳は中山府、
下北省、帝県の安規県の尉という官職に就いた。
県尉といえば、
堅い中の一警察署長といったような官職に過ぎなかったが、
定名をもって除去されたことであるから、
それでも玄徳は深く恩を謝して、
関羽、張飛を従えて即座に任地へ出発した。
もちろん位置管理となったのであるから、
多くの手兵を連れて行くことは許されないし、
必要もないので五百余の手兵は、
これを王上の軍部に託して編入してもらい、
ほんの二十人ばかりの者を従者として連れて行ったに過ぎなかった。
その冬は任地で越えた。
わずか四ヶ月ばかりしか経たないうちに、
彼が役に就いてから県中の政治は大いに改まった。
豪闘悪逆の党は影を潜め、
領民は特性に服して平和な毎日を楽しんだ。
張飛も関羽も自己の器量に比べては、
今の将棋のするような仕事は不服だろうが、
しばらくは玄在に忠実であってもらいたい。
人説は焦っても求め難い。
玄徳は時より二人をそう言って慰めた。
それは彼自身を慰める言葉でもあった。
その代わり、権威の任に就いてからも玄徳は、
彼らを下役のようには使わなかった。
共に貧しき寄り、夜も床を同じようにして寝た。
するとやがて、下北の野に恵み出した春と共に、
天使の使いこの氏に来たると伝えられた。
直氏の氏名は、
この度、黄巾の賊を閉邸したりに、
軍功ありと偽りて性病の内縁など頼み、
未来に官職を受け、あるいは功ありと自称して、
衆都に恣意を振る舞う者多く聞え、
よくよく政治を正さるべし。
という見事の理を奉じて下校してきたものであった。
そういう沙汰が役所へ達してられてから間もなく、
この安城県へも督郵が下がってきた。
玄徳らは早速、関羽、張飛などを従えて、
督郵の行列を導いて迎えた。
何しろ使いは地方巡察の直を奉じてきた大官であるから、
玄徳たちは地に挿して最高の礼を取った。
すると馬上の督郵は、
ここか、安城県とは。ひどい田舎だな。
何、県城はないのか。
ああ、役所はどこだ。
県よ呼べ。
今夜の旅館はどこか。
案内させてひとまずそこで休息しよう。
と言いながら、呆然とそこらを見回した。
四
直し、督郵の人もなげな傲慢さを眺めて、
いやに役目を花にかけるやつだ。
と、関羽、張飛は肩腹痛く思ったが、
虫を押さえて一向の邪気に従い、県の薬館へ入った。
やがて、玄徳は衣服を正して彼の前に挨拶に出た。
督郵は左右に随員の礼を自立させ、
さながら自身が帝王のような顔をして、
口座に構え込んでいた。
お前は何だ。
知れ切っているくせに、督郵は上から玄徳らを見下ろした。
県尉、玄徳です。
春晩の御下公、御苦労に御座いました。
拝を施すと、
ああ、お前が当地の県の尉か。
みちみち我々の直しの一行が参ると、
不思議いたない住民どもが射気に近づいたり指差したりなど、
はなはだわいざつな手で見物しておったが、
かりさめにも直しを迎えるに何ということだ。
主に平常の取締りも手ぬるいと見える。
もうちっと大尉を知らしめねばいかぬよ。
はい。
旅館の方の準備は整っておるかな。
地方のこととて所持、おもてなしはできませんが。
我々は綺麗づきで飲食は贅沢である。
田舎のことだから仕方がないが、
桂羅が直しを偶遇するに、
どういう心をもって艦隊するか、その心持ちを見ようと思う。
意味ありげなことを言ったが、玄徳にはよく下しえなかった。
けれど、帝王の命をもって下ってきた直しであるから、
真心をもって応接した。
そしてひとまず下がろうとすると、徳雄はまた聞いた。
いい、玄徳。一体桂は当初の出身のものか。
他県から扶印してきたのか。
あ、さらば自分の豪家は他県で、
家系は中山西王の後院であります。
久しく土民の中に潜んでいましたが、
このたびようやく黄巾の乱に証拠をあって、
当県の位に受せられたものであります。
と言うと、
ごら、黙れ。
徳雄は突然口座から叱るように怒鳴った。
中山西王の後院であるとか言ったな。
けしからんことである。
そもそもこのたびに帝が我々進化に命じて、
各地を巡札せしめられたのは、
そういう大ぼらを吹いたり軍功のある者だと偽って、
自称豪傑や自認官職の輩が横行する余死をお聞き担えたからである。
汝のごときいやしき者が天子の宗族などと偽って
愚民に望んでおるのはけしからん不敬である。
直ちに帝に奏文したてばつって、
おってんの沙汰をいたすであろう。
下がれ。
下がれ。
玄徳は唇を動かして何かを言わんとする風だったが、
益なしと考えたか、
目前と礼をして去った。
怯かしい人だ。
彼は特有の随員にそっと一室で面会を求めた。
そして何で直師が御仏教なのであろうかと原因を聞いてみた。
随員の狩りは、
それあんた知りきってるじゃありませんか。
なぜ今日特有閣下の前に出るとき、
前内の金箔を自分の姿ほども積んでお見せしなかったんです。
そして我々随員にも、
それ相当のことをいち早く袖の下からすることが官権ですよ。
何よりの歓迎というもんですな。
ですから言ったでしょ、特有様も。
いかに愚するか心を見ておるぞよってね。
玄徳は唖然として士官へ帰って行った。
五
士官へ帰っても彼は大々と楽しまぬ顔色であった。
県の土民は皆貧しい者ばかりだ。
しかも一定の税は徴収して中央へ送らなければならん。
その上、何で巡札の直利や
大勢の随員に彼らの満足するような賄賂を送る余裕があろう。
賄賂も土民の汗油から出さねばならぬに、
よく他の権利にはそんなことができるもんだ。
玄徳は嘆息した。
次の日になっても、
玄徳の方から何の贈り物も来ないので特有は、
権利を呼べと他の利人を呼びつけ、
いい玄徳は不埒な男である。
天子の僧族などと戦勝しておるのみか、
ここの百姓どもからいろいろと冤査の声を耳にする。
すぐ味方へ奏文して御処罰を仰ぐから、
汝は権利を代表して訴状をしたためろと言った。
玄徳の徳に服してこそは得るが、
玄徳に何の大きさも考えられない権の利は、
恐れ罠なくのみで答えも知らなかった。
すると得有も重ねて、
ほら、訴状を書かんか。書かねば汝も同罪とみなすぞと脅した。
やむなく権の利は、
ありもしない罪状を得有の言うままに並べて訴状に書いた。
得有はそれを都へ急奏し、
帝の沙汰を待って玄徳を厳罰に処せんと称した。
その四五日。
いつの間にか春宵の秘語を楽しむ中になっているのを目撃して
関羽は非常な驚きと狼狽を覚えた
ああ平和は勇士を蝕む
彼は概嘆した
身まじき者を見たように関羽は慌てて
公園の梨畑から駆け戻ってきた
そして客間の食卓の部屋を覗くと
張飛はただ一人でまだそこに酒を飲んでいた
おい
やあどこ行っていたんだ
まだ飲んでいるのか
飲むより他に成すことがないじゃないか
いかに皮肉を嘆じたところで
地理あらず
風雲招かず
香料も淵に潜んでいるしかない
どうだ飛行も酒の淵に潜まんか
一杯もらおう
実は今
いっぺんに酒が冷めてしまったところだ
どうしたんだ
張飛
うん
俺は貴様のように
いたずらに現在の世帯や自設の子のことを
そう悲観はしないつもりだが
今夜はがっかりしてしまった
矢に隠れ
淵に潜むとも
いつか香料は風雲を捉えずにいないと信じていたが
ひどく失望の体だな
もう一杯くれ
珍しく飲むじゃねえか
飲んでから反省
なんだ
実は今
俺は人の秘密を見てしまった
ん?秘密を?
さらば
先頃から貴様が謎めいたことを言うので
今宵玄徳様が出て行った後からそっとつけて行ってみたんだ
するとどうだろう
ああ俺は語るに忍び
あんな柔弱な人物だとは思わなかった
何を見たんだ一体
あろうことかあるまいことか
当家の神僧に養われている扶養所とかいう霊人と
相引きをしているではないか
二人はいつの間にか恋愛に落ちておるのだ
我々義軍の名手ともある者が
一女性に心をとらわれているなどして何ができよう
ああそのことか
ん?貴様は前から知っていたのか
うすうすわ
なぜお足につけないんだ
うーん
でもできてしまっているものは仕方がないからな
張飛も腐った顔つきをして呟いた
その顔をほうぜんに乗せて片手で一人酒をついて煽りながら
永結寺もあまり平和な恩賞に長く置くと
カビが生え出してああいうことになるんだな
志を得ぬ鬱没をそういう方へ誤魔化し始めると
人間ももうおしまいだな
またあの女も女ではないか
あれは龍海の娘でもないし一体なんだ
ああ聞かれると面目ない
なぜなぜ貴様が面目ないのか
うーん実はそのあの扶養所は
拙者の旧宗後家の御息所なので
龍海殿も後家と朝からの関係があった人だから
守家後家の没落を
俺が扶養所をこの家へ連れてきて
囲まっておいてくれるように頼んでおいたお方なのだ
あれ
では貴様の旧宗の御息所なのか
まだ義名を結ばない数年前の話だが
その扶養所と玄徳様とは
後悲に覆われてお互いに危うい災難に見舞われていた頃
偶然ある地方の故郷の下で出会ったことがあるので
とっくに双方とも知り合っていた仲なんだ
そんなに古いのか
関羽が呆れ顔をしたとき
部屋の外に誰かの靴音が聞こえた
六
主の龍海であった
龍海は室内の様子を見て
お札使えないですか
と二人の許しを受けてから入ってきた
そしてゆうには困ったことができました
数日のうちに洛陽の巡察使と
帝州の大使がこの地方へ巡遊に来る
そしてわしの屋敷がその宿舎に充てられることになった
当然あなた方の潜伏していることが発覚する
一時どこかへ隠れ場所をお移しなさらぬと危ないが
という相談であった
折も折である
関羽も張飛も一時は途方に暮れた心地がしたが
むしろこれは天が自分らの乱打を忌むるものであると思って
いや後藤家にもだいぶ長い間の闘流となりました
そういうことがなくてもこの辺で位置転機する必要がありましょう
いずれ我々ども三名で相談の上ご返事申し上げます
ああ何ともお気の毒じゃが
なお落ち着く先にお心当たりもなければ
わしを信じる人物の安心のなるところへご紹介もしてあげますから
竜海はそう言って戻って行った
あとで二人は顔を見合わせて
玄徳様と扶養所の中を主も悟ってきて
これはいかんと急にあんな口実を言ってきたのではないか
さあどうとも知れん
しかしいい仕様だ
そうだ玄徳様のためにはすごくいいことだ
翌朝
二人は早速近々の分けて姿玄徳に主の旨を伝えて前後策を図った
すると玄徳は一時ははっとした顔色だったがすぐうつむいた眼差しをきっと上げて
たしのこ
門人の竜大人にご迷惑をかけてもならぬし
自分もいつまであんかんとここにいる気もなかったところだからと言った
そういう玄徳の面には深く現在の自身を反省しているらしい様子が見えた
そこで関羽は思い切ってこう言ってみた
ですがお名ご利用しくありませんかこの家の真相の家人に
玄徳は微笑のうちにも幾分か羞恥の色をたたえながら
港よ恋は路棒の花と答えたその一言に
さすがはと関羽も自分の虜し苦労を打ち消しすっかり眉を開いた
そういうお気持ちなら安心ですが実は我々の名手たりまた待望を抱いている英傑児が
一女性のために総称を蝕まれてしまうなどとは至極残念だと張飛とともに
密かに暗示していたところなのです
ではあなたはあくまで不要状と本気で恋などに落ちているわけではありますまいな
いや 玄徳は正直に言った
恋を囁いている間は恥ずかしいが私は本気で恋を囁いているよ
女を欺けないまた自分も欺けないただ恋あるのみだ
えっ
だが涼君香風休んじてくれたまえ玄徳はそれだけが全部にはなりきれない
恋の囁きも一時の間だすぐ我に帰る
中山西王の後衛劉備玄徳という我に帰る
寒村の伝府から身を起こし義気を翻してからすでに両三年
千夜の屍となりつるか洛陽の府にさまよえるか
と故郷には今なお我が子の我を待ち保う老母もいる
なんで大志を失おうや
涼君もそれは安心してかなりである玄徳を信じてくれい
後援
一
その翌日である
玄徳たち三名はにわかに御台山六の地
竜海の邸宅から一時身を去ることになった
別れに臨んで主の竜海は落伯の豪傑
玄徳らのために別離の荘園を開いて
さて夕には
また時を伺ってこの地へぜひ戻っておいでなさい
お連れになってきた二十名の兵や下辺たちは
それまで手前の屋敷に預かっておきましょう
そして今度お命になったときこそ
妻域のご準備におかかりなさい
黄巾の蘭は証拠を得ても
洛陽の王府そのものに
自戒の兆しが現れてきています
せっかく自重自愛してどうか
国家のために尽くしてください
ありがとう
四人は立って乾杯した
竜海の猶予に
ここへ来るとき連れてきた二十名ばかりの一族老党のみは
みな竜家に託しておいて
関羽張飛玄徳
思い思いに別れて一時身を隠すこととなった
が竜家の門を出るときは三人一緒に出た
世間の目もあるので竜海はわざと見送らなかった
けれど邸内の老大から
三名の姿が遠くなるまで一人見送っている美人があった
言うまでもなく不要状であった
張飛は知っていた
しかしわざと何も言わなかった
玄徳も黙々と歩いていた
もう五台山の影も後ろに遠く霞んでから
張飛がそっと玄徳へ行った
昨日お言葉を伺って
もう自分らもあなたの真実を疑うような気持ちはいられておりません
むしろ大丈夫の多情多恨のお心を推察しておりますよ
例えば私が酒を愛するようなもんですからな
彼は酒と恋を一つのものに考えているのだ
その程度だから玄徳の心に同情するといっても
およそ玄徳の感傷とは肌肌遠いものに違いなかった
だが長兄
と張飛はまた玄徳の顔を差し覗いていった
豪月は色に触るべからずという方はない
あなただって一生涯独身でいられるわけもない
本当に不要状がお好きならこの張飛が話してどんなことにでもします
聖者にとっては旧種の御息女ではあるし
ああいう頼りのない御身の上ですから
むしろあなたに願っても生涯を見ていただきたいくらいのものですよ
けど今はいけませんな
時でないでしょう
志を得た後のことにね
うんわかったよ
玄徳はうなずいた
それから修道の道しるべの下まで来ると
じゃあわしはここから一人別れて
まず郷里の宅邸へ行くからね
いずれまた一度この御台山下へ戻ってくるが
と言った
張飛も関羽も各々そこから別れて
ひとまず思い思いに落ちていくつもりであったが
片時の間も離れたことのない三人なのでさすがに寂しげに
今度はいつここで会おう
この秋
玄徳が言う
二人はなずいて
ではあなたはこれから
沢賢の母子のもとへおいでになるおつもりですか
うん
ご無事なお子をだけ生えしたら
またすぐ風雲の内へ帰ってくれ
両州の八月
再び三人して御台山の月を見よう
おさらば
うん気をつけて
お互いに
三名は三方の道へしばし別離の姿をかえりみあった
二
関羽と張飛の二人に別れてから
玄徳は姿を土民の風に変えてただ一人
故郷の沢賢ローソン村へそっと帰っていった
ああ桑の木も変わらずにある
何年ぶりかで我が家の門を見た玄徳は
そこに立つと一番先に
例の大きな桑の大樹を懐かしげに見上げていた
カタン
コトンカタン
すると蟲籠を織る旗の音が家の裏の方で聞こえた
玄徳ははっと心を打たれた
ここ両三年は馬場に長槍を取って忘れ果てていたが
幼少から移植してきたなりわいの蟲通りの旗は
今なおこの故郷の家でお休んでいなかった
その旗をその竿を
今も十年一日のごとく動かしている者は誰だろうか
遠までもない玄徳の母であった
聖夜に立った息子の後を一人
留守している老いたる母に違いなかった
いかにお淋しいことであったろう
またご不自由なことであったろう
家に入らぬうちに玄徳はもう瞼を涙でいっぱいにしていた
思えば幾年の間
転選また転選
故郷の母に移植の杖絵を送る意図もさえなかった
頼りすらいくどか数えるほどしかしていなかった
すみません
彼はまず公園の荒れたる門に心からあわびて
そして旗の音の聞こえる裏の方へ駆け込んでいった
ああそこに目前とむしろを追っている白髪の人
玄徳はめりなり後ろから駆け寄って
母の足元へ
母上
ひざまずいた
母上私です今帰ってまいりました
ん
老母は驚いた顔をして旗の手を休めた
そして玄徳の姿をじっと見て
アビーか
と言った
長い間お便りもろくにせず
定めし何かとご不自由でございましたろう
人中心に任せず
転選からまた転選と戦に暮れおりましたために
この言葉を遮るように
アビー
そしてお前は一体何時に帰ってきたんですか
はい
玄徳は地に面を伏せて
まだ心出しも達せず
晴れて母上にお目にかかる時期でもありませんが
先頃から官庁を去って野に潜んでおりますゆえ
役人たちの目を盗んで
そっと一目ご無事なお顔を見に戻ってまいりました
老母の母は明らかにうるんで見えた
髪もわずかなうちに
梨の花を持ったように雪白になっていた
目元の肉もやすれて見えるし
肌にかけている手はわらごみで荒れている
しかし以前に変わらないものは
子に対してじっと向ける瞳の大きな愛と
俊厳な強さであった
こぼれ落ちそうな涙をもこらえて
老母は静かにこう言うのだった
アビー
はい
それだけでその後はこの家へ帰っておいでなのかい
え
ええ
それだけで
母上
すがり寄る玄徳の手を
老母はわらごみとともにもっそから払って
たしなめるようにきつく言った
何です赤子のように
それでお前は夕刻の異常部ですか
帰ってきたものはぜひもないが
長いはなりませんぞ
今宵一晩休んだらすぐ出て行くがよ
サン
思いのほかな母の不機嫌な景色なのである
それも自分を励ましてくださるためと
劉玄徳はかえって大きな愛の下に泣き濡れてしまった
母はその子を大地に見ながらなお叱っていった
まだお前が郷土を出てから
わずか2年か3年ではないか
貧しい武器と訓練もない豪兵を集めて
この広い天下の騒乱の中へ打って出たお前が
たった3年やそこらで功を遂げ
名を挙げてもらって来ようなどと
そんな夢みたいなことを
母は考えて待っておりはしない
世の中というものはそんな単純ではありません
母上
玄徳の謝りでございました
どこへ行っても自分の正義は通らず
戦っても戦っても何のために戦ったのか
この頃ふと失意のあまり疑いを入れて
戦に勝つことは強い豪傑ならば誰でもすることです
そういう正しい道の妨げにも
自分自身を時折襲ってくる弱い心にも
打ち勝たなければ
所詮大事は成し遂げられるものであるまいが
そうです
よくお分かりであろう
もうその後も30に近い男児
それくらいなことは
はい
そこらの豪傑たちが乱世に生じて
一衆一軍を切り取るような小さい望みとは違うはずです
観の喪失の末孫
中山聖皇の英であるおまえが
万民のために剣を取ってたったのですよ
はい
戦欲の民の幸いを思いなさい
追い先のないこの母一人などが何であろう
その後の心が
せっかく奮い起こした大志が
この母一人のためににびるものならば
母は億民のために生命を縮めても
その後を励ましたいと思うほどですよ
母上
玄徳は驚いて
本当にそういう決心もしかれない
母の手元にすがって
悪いございました
もう決してめめしい心は持ちません
明日の朝は夜の明けぬうちに
故郷されますから
どうかただ一晩だけ
おそばにおいてくださいまし
老母も崩れるように地へ膝をついた
そして玄徳の体をそっと抱いて
白髪の瓶を震わせながらささやいた
阿弥陀
だが私はね
亡きお父さんの代わりにもなって言うんだよ
今のはお父様のお声だよ
お叱りだよ
明日の朝は近所の人の一目にかからないように
暗い家に立っておくれね
そう言うと老母は急いそと
おも屋の方へ立ち去った
間もなく栗屋の方から
湯気をかしぐ煙が張ってきた
失意のこのために母は何か
温かいものでも湯気にとも
荷だきしているらしいのであった
玄徳はその間に
蒸し炉場へ寄って
織り残していった
いく枚かの蒸し炉を織り上げていた
手元が暗くなってくる
白い雄星がもう上にあった
旗を離れて彼は一人
裏の桃林を招養していた
はや晩春なので
桃の花はみな散りつくして
黒い花のしべを小杖に見るだけであった
ああ 桃園は変わらない
玄徳は嘆じた
十日はまた春に若やぐが
母の白髪が再び黒く変える日はない
春中は人の身の上にのみ短い
しかも自分の思う望みは遠くまた大きく
いつの日彼の母が心の底から喜んでくれる時が来るだろうか
考えるといたずらに大きな歓声が出るばかりであった