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235吉川英治「三国志-桃園の巻」五(朗読)
2026-05-28 57:41

235吉川英治「三国志-桃園の巻」五(朗読)

【作品】三国志

【作者】吉川英治(1892-1962)

【あらすじ】後漢末期の荒廃した中国を舞台に、劉備・関羽・張飛の義兄弟が桃園の誓いを経て義兵を挙げ、曹操や孫策といった英雄たちと覇を競う壮大な歴史大衆小説。劉備の「徳」と関羽の「義」を軸に、中国の古典『三国志演義』を基にしながらも日本人好みの人間ドラマとして再構成され、累計2,000万部以上を誇る国民的ロングセラーです。


一回役人になるも賄賂拒否

今回も寝落ちしてくれたら幸いです


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お気に召しましたらどうかおひねりを。

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感想

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サマリー

このエピソードでは、吉川英治の「三国志-桃園の巻」の朗読が続きます。物語は、劉備が官職を得られず困窮している状況から始まります。朝廷の重臣である張勤は劉備の不遇を憂い、皇帝に訴えようとしますが、十常侍の陰謀により命を落としてしまいます。しかし、この出来事をきっかけに、皇帝は恩賞の見直しを命じ、劉備は県尉という官職を得ます。任地での善政も束の間、督郵という役人が巡察に訪れますが、賄賂を要求し、劉備を陥れようとします。これに激怒した張飛は督郵を打ち据え、劉備と関羽は官職を捨てて逃亡します。逃亡の末、彼らは豪族の劉大人にかくまわれますが、そこで劉備は劉大人の姪である扶養と恋に落ちます。この関係が張飛と関羽に知られ、三人は劉大人の屋敷を後にします。劉備は故郷の母を訪ねますが、母は彼の志を応援し、再び世に出るよう諭します。物語は、劉備、関羽、張飛がそれぞれの道を歩み始めるところで締めくくられます。

00:07
寝落ちの本ポッドキャスト。 こんばんは、Naotaroです。
このポッドキャストは、あなたの寝落ちのお手伝いをする番組です。 タイトルを聞いたことがあったり、実際に読んだこともあるような本、それから興味深そうな本などを淡々と読んでいきます。
作品はすべて青空文庫から選んでおります。 ご意見ご感想ご依頼は公式Xまでどうぞ。
寝落ちの本で検索してください。 また別途投稿フォームもご用意しました。
リクエストなどをお寄せください。 それからまだしてないよという方は、ぜひ番組のフォローをよろしくお願いいたします。
そして最後におひねりを投げてもいいよという方、概要欄のリンクよりご検討いただけますと幸いです。 どうぞよろしくお願いいたします。
劉備の不遇と張勤の訴え
さて、今日も今日とて、 吉川英二さんの三国志「桃園の巻」の続きです。
十条寺という説からですね。 漢元十人からなる十条寺。
都の政治を欲しいままにしていたという十条寺が
東託にやられるでしたっけね。 家臣って言いましたね。
何っていう漢字に進むと書いて家臣、外籍の人。 帝に
帝が届いた嫁のお父さん。 元はお肉屋さんだったような記憶がしてますが。
今劉備は門の外で、 城の外であんなに戦、あんなに戦頑張ったのになぁ。
何も落とされたないなぁ、みたいな感じになってますね。 じゃあ続きを読んでいきますか。
どうかお付き合いください。 それでは参ります。
三国志 桃園の薪 十条寺
1 劉寺
もし、劉寺ではありませんか。 誰か呼びかける人があった。
その日、劉玄徳は朱雋の官邸を訪ねることがあって、 王城内の金門のあたりを歩いていた。
振り向いてみると、それは老中張勤であった。 張勤が今参大するところらしく、
従者に腰をかかつがせ、それに乗っていたが、 玄徳の姿を見かけたので、
靴をと従者に命じて、腰から見下ろしていた。
おお、どなたかと思うたら、張勤閣下でいらっしゃいましたか。 玄徳は敬礼を施した。
この人はかつて、盧植を貶し入れた、 鴎門、沙峰などと共に、官軍の直裏として、 西野へ巡札に来たことがある。
その折、玄徳とも知って、お互いに世辞を断じ、 崩壊を話し合ったりしたこともある間なので、
思いがけないところでお目にかかりましたな。 ご賢章の体で、何よりに存じます。 と、急滑を述べた。
老中張勤は、そういう玄徳の従者も連れていない。 しかも、かつて見た正義のまま、この寒空を、
小泉と歩いている様子を、いぶかしげに打ち眺めて、 貴公は今、どこに何をしておられるのですか。
少し、お安になっているようにも見えるが。 と、かえって玄徳の驚愕を反問した。
玄徳は、ありのままに、何分にも自分には感触がないし、 部下は士兵とみなされているので、
外征の後も外城より異竜を許されず、 また中世の兵たちにも、この風に向かって一枚の温かい軍衣、
一片の将録をも分け与えることができないので、 せめて外城の門営に立っていても、
志望しのぐに足る団衣と食料等を恵まれんことをこぐために、 今日、朱雋将軍の官邸まで元将を訪さえて出向いてきたところです。 と、話した。
「おお。」 張勤は驚いた顔をして、
「では、即家はまだ感触にもつかず、 また今度の温床にも預かっていないんですか。」 と、重ねてただした。
「はい。佐太を待てとのことに、外城の門にたむろしています。 けれども冬は来るし、部下が不備になるで、お訴えに出てきたわけです。」
「ああ、それは初めて知りました。 広穂須将軍は、皇によって益州の大衆に奉ぜられ、
朱雋は都へ凱旋すると、直ちに尺将軍となり、 カナンの院に奉ぜられている。
あの尊賢さえ、内縁あって別部芝に除せられたほどだ。 いかに皇がないといっても、貴君の皇は尊賢以下ではない。
いや、ある意味では、今度の廃秘征伐の戦で最も苦戦にあたって忠誠をあらわした軍は貴下の義軍であったといってもよいのに。」
玄徳の面にもうつうつたるものがあった。 ただ彼は朝廷の命なるがままに思うまいとしているふうだった。
そして部下の不備を身の不遇以上に哀れと思いしめて噛んでいた唇の手であった。
「いや、よろしい。」 やがて朝廷は強く言った。
「それもこれも思い当たることがある。 地方の相続を払っても、社職の訴訟を払わなかったら、司会の平安を長く保つことはできん。
懲罰の苦苦不公平な点ばかりでなく、長くべきことが実に多い。 貴君のことについては、特に御門へ相問しておこう。
そのうち、明朗な恩欲をこむることもあろうから、 まあ、気を腐らせずに待つがよい。」
老中、長勤はそう慰めて玄徳と別れ、 やがて三代して帝に配謁した。
2. 珍しく帝のおそばには誰もいなかった。 帝は玉座から言われた。
「長老中、今日は何か。 鎮に降り行って懇願あるということだから、近臣は皆遠ざけておいたぞ。 気兼ねなく思うことを申すがよい。」
長勤は快歌に拝起して、
「味方の御聡明を信じて、 臣長勤は今日こそあえてお気に入らぬことをも申し上げなければなりません。 少々として公明な御心をもて暫時お聞き下さいまし。」
「何じゃ。」
「他でもありませんが、君側の十常侍らのことについてです。」
十常侍と聞くと、 帝の御瞳はすぐ横へ向いた。
「御気色が悪い。」
長勤にはわかっていたが、ここを犯して真実の言を進めるのが中心の道だと信じた。
「臣が多くを申し上げないでも御聡明な味方には特にお気づきと存じますが、 天下も今、ようやく平静に帰ろうとして地方の乱賊も収束したところです。
今際、どうか君側の勘を払い、御粛正を上よりも示して、 人民たちに安天の憂えなからしめ、豪に案じ御徳勢を謳歌するように御賢慮仰ぎたく存じまする。」
長老中、何で今日に限って突然そんなことを言い出すのか。
「いや、十常侍らが祭りごとを見出して、 御方の恩徳を苦労し立て祀っていることは今日のことではありません。
私のみの憂いではありません。 天下万民の恨みとするところです。」
恨み?
「はい。例えば、今度の黄巾路乱でも、 その賞罰には十常侍らの私心がいろいろ働いていると聞いています。
参内を受けた者には功なき者へも官録を与え、 叱らざる者は罪なくても官を落とし、いやもうひどい沙汰です。」
御方の御職はよいよ曇って見えた。 けれど御方は何も言われなかった。
十常侍というのは住人の内官のことだった。 民間の者は彼らを官官と称した。
県尉就任と督郵の横暴
黄身側の剣を握り、高級にも勢力があった。
義郎長上、義郎長中、義郎団経、義郎下起、 などという十名が中心となって、
精密に結束を作っていた。 義郎とは賛義という意味の役である。
だからどんな精密な祭事にも預かった。 御方はまだお若く現れるし、
そういう骨の主みたいな老戒と癖者が揃っているので、 彼らが遂行しようと思うことはどんな悪性でもやって通した。
令亭はまだ五尺年なので、その悪変に気づかれていても、 いかんともする術を御存じない。
また張勤の苦感に感動されても何というお答えもできなかった。 ただ眼を宮中の庭へそらしておられた。
遊ばしませ。御断行なさいませ。 今がその時です。陛下、一重に御遠慮をお決しくださいませ。
張勤は口をすくし、我と我が忠誠の情熱に 眼尻に涙をたたえて還元した。
ついには玉座に迫って、 御方の御位にすがって急走した。
御方は遠惑そうに。
では長老中、珍にどうせというのか? と問われた。
ここぞと張勤は、
十条侍らを極に下してその首をはね、 難航にかけて諸人に財文と共に示し賜れば、
人心自ら平安となって天下は……
言いかけた時である。
黙れ。まず汝の首より先に極門にかけん。
と、帳の陰から怒った声がして、 それと共に十条侍十名の者が躍り出した。
皆、髪を逆立てて眼尻を挙げながら張勤に迫った。
張勤はあっと驚きのあまり昏倒してしまった。
手当されて後に天位から薬糖をもらったが、 それを飲むと眠ったまま死んでしまった。
張勤はその時そんな死に方をしなくても、 帝へ忠勘したことを十条侍に聞かれていたから、
必ずや後に命を全うすることはできなかったろう。
十条侍も依頼、
油断しておるととんでもない忠義ぶった奴が現れるぞ。
と気がついたか、忌め合って、
帝の衆議をもとより内外に勢に渡って 大いに警戒しているふうであった。
それもあるし、帝御自身も、
こうある者のうちに恩賞にも漏れて不遇を囲ち、
不平を抑えている者が少なくないのに気がつかれたか、
特に軍港の再調査と第二期の恩賞の実施等を悟された。
張勤のことがあったので十条侍も反対せず、
むしろ自分らの善政ぶりを示すように 本の形ばかりな事例を交付した。
その中に劉備玄徳の名もあった。
それによって玄徳は中山府、
下北省、帝県の安規県の尉という官職に就いた。
県尉といえば、
堅い中の一警察署長といったような官職に過ぎなかったが、
定名をもって除去されたことであるから、
それでも玄徳は深く恩を謝して、
関羽、張飛を従えて即座に任地へ出発した。
もちろん位置管理となったのであるから、
多くの手兵を連れて行くことは許されないし、
必要もないので五百余の手兵は、
これを王上の軍部に託して編入してもらい、
ほんの二十人ばかりの者を従者として連れて行ったに過ぎなかった。
その冬は任地で越えた。
わずか四ヶ月ばかりしか経たないうちに、
彼が役に就いてから県中の政治は大いに改まった。
豪闘悪逆の党は影を潜め、
領民は特性に服して平和な毎日を楽しんだ。
張飛も関羽も自己の器量に比べては、
今の将棋のするような仕事は不服だろうが、
しばらくは玄在に忠実であってもらいたい。
人説は焦っても求め難い。
玄徳は時より二人をそう言って慰めた。
それは彼自身を慰める言葉でもあった。
その代わり、権威の任に就いてからも玄徳は、
彼らを下役のようには使わなかった。
共に貧しき寄り、夜も床を同じようにして寝た。
するとやがて、下北の野に恵み出した春と共に、
天使の使いこの氏に来たると伝えられた。
直氏の氏名は、
この度、黄巾の賊を閉邸したりに、
軍功ありと偽りて性病の内縁など頼み、
未来に官職を受け、あるいは功ありと自称して、
衆都に恣意を振る舞う者多く聞え、
よくよく政治を正さるべし。
という見事の理を奉じて下校してきたものであった。
そういう沙汰が役所へ達してられてから間もなく、
この安城県へも督郵が下がってきた。
玄徳らは早速、関羽、張飛などを従えて、
督郵の行列を導いて迎えた。
何しろ使いは地方巡察の直を奉じてきた大官であるから、
玄徳たちは地に挿して最高の礼を取った。
すると馬上の督郵は、
ここか、安城県とは。ひどい田舎だな。
何、県城はないのか。
ああ、役所はどこだ。
県よ呼べ。
今夜の旅館はどこか。
案内させてひとまずそこで休息しよう。
と言いながら、呆然とそこらを見回した。
直し、督郵の人もなげな傲慢さを眺めて、
いやに役目を花にかけるやつだ。
と、関羽、張飛は肩腹痛く思ったが、
虫を押さえて一向の邪気に従い、県の薬館へ入った。
やがて、玄徳は衣服を正して彼の前に挨拶に出た。
督郵は左右に随員の礼を自立させ、
さながら自身が帝王のような顔をして、
口座に構え込んでいた。
お前は何だ。
知れ切っているくせに、督郵は上から玄徳らを見下ろした。
県尉、玄徳です。
春晩の御下公、御苦労に御座いました。
拝を施すと、
ああ、お前が当地の県の尉か。
みちみち我々の直しの一行が参ると、
不思議いたない住民どもが射気に近づいたり指差したりなど、
はなはだわいざつな手で見物しておったが、
かりさめにも直しを迎えるに何ということだ。
主に平常の取締りも手ぬるいと見える。
もうちっと大尉を知らしめねばいかぬよ。
はい。
旅館の方の準備は整っておるかな。
地方のこととて所持、おもてなしはできませんが。
我々は綺麗づきで飲食は贅沢である。
田舎のことだから仕方がないが、
桂羅が直しを偶遇するに、
どういう心をもって艦隊するか、その心持ちを見ようと思う。
意味ありげなことを言ったが、玄徳にはよく下しえなかった。
けれど、帝王の命をもって下ってきた直しであるから、
真心をもって応接した。
そしてひとまず下がろうとすると、徳雄はまた聞いた。
いい、玄徳。一体桂は当初の出身のものか。
他県から扶印してきたのか。
あ、さらば自分の豪家は他県で、
家系は中山西王の後院であります。
久しく土民の中に潜んでいましたが、
このたびようやく黄巾の乱に証拠をあって、
当県の位に受せられたものであります。
と言うと、
ごら、黙れ。
徳雄は突然口座から叱るように怒鳴った。
中山西王の後院であるとか言ったな。
けしからんことである。
そもそもこのたびに帝が我々進化に命じて、
各地を巡札せしめられたのは、
そういう大ぼらを吹いたり軍功のある者だと偽って、
自称豪傑や自認官職の輩が横行する余死をお聞き担えたからである。
汝のごときいやしき者が天子の宗族などと偽って
愚民に望んでおるのはけしからん不敬である。
直ちに帝に奏文したてばつって、
おってんの沙汰をいたすであろう。
下がれ。
下がれ。
玄徳は唇を動かして何かを言わんとする風だったが、
益なしと考えたか、
目前と礼をして去った。
怯かしい人だ。
彼は特有の随員にそっと一室で面会を求めた。
そして何で直師が御仏教なのであろうかと原因を聞いてみた。
随員の狩りは、
それあんた知りきってるじゃありませんか。
なぜ今日特有閣下の前に出るとき、
前内の金箔を自分の姿ほども積んでお見せしなかったんです。
そして我々随員にも、
それ相当のことをいち早く袖の下からすることが官権ですよ。
何よりの歓迎というもんですな。
ですから言ったでしょ、特有様も。
いかに愚するか心を見ておるぞよってね。
玄徳は唖然として士官へ帰って行った。
士官へ帰っても彼は大々と楽しまぬ顔色であった。
県の土民は皆貧しい者ばかりだ。
しかも一定の税は徴収して中央へ送らなければならん。
その上、何で巡札の直利や
大勢の随員に彼らの満足するような賄賂を送る余裕があろう。
賄賂も土民の汗油から出さねばならぬに、
よく他の権利にはそんなことができるもんだ。
玄徳は嘆息した。
次の日になっても、
玄徳の方から何の贈り物も来ないので特有は、
権利を呼べと他の利人を呼びつけ、
いい玄徳は不埒な男である。
天子の僧族などと戦勝しておるのみか、
ここの百姓どもからいろいろと冤査の声を耳にする。
すぐ味方へ奏文して御処罰を仰ぐから、
汝は権利を代表して訴状をしたためろと言った。
玄徳の徳に服してこそは得るが、
玄徳に何の大きさも考えられない権の利は、
恐れ罠なくのみで答えも知らなかった。
すると得有も重ねて、
ほら、訴状を書かんか。書かねば汝も同罪とみなすぞと脅した。
やむなく権の利は、
ありもしない罪状を得有の言うままに並べて訴状に書いた。
得有はそれを都へ急奏し、
帝の沙汰を待って玄徳を厳罰に処せんと称した。
その四五日。
張飛の怒りと逃亡
どうも面白くねえ。
張飛は酒ばかり飲んでいた。
そう飲んでばかりいるのを玄徳や関羽に知れると意見されるし、
またこの数日、
玄徳の顔色も関羽の顔色も、
肌肌憂鬱なので彼は一人、
どうも面白くねえ。
を繰り返してどこで飲むのか姿を見せず飲んでいた。
その張飛が熟子のような顔をして、
炉に乗って歩いていた。
町中の者は県の役人なので、
炉と行き違うと丁寧に礼をしたが、
張飛は炉の上から落ちそうな格好をして居眠っていた。
やい、どこまで行く気だ。
目を覚ますと張飛は乗っている炉に尋ねた。
炉はてこてこと軽い蹄をただ運んでいた。
おや、なんだ。
役所の門前を眺めると、
七八十名の百姓や町の者が土下座して、
何かを見えたり、頭を地へすりつけたりしていた。
張飛は炉を降りて、
みんな、どうしたんだ。
お前ら何を役所へ急走しておるんだ。
と怒鳴った。
張飛の姿を見ると百姓たちは声を揃えて言った。
旦那はまだ何も御存じないんですか。
直司様は県の理事に訴状を書かせて、
都へ差し送ったと申しますに。
何の訴状だ。
日頃、わしらがお慕い申している伊野玄徳様が、
百姓をいじめなさるとか、
課税を絞り取って私服を悔やしなすっているとか、
何でも二十箇条の罪を書き並べて、
都へその訴状が差し回され、
おさたかき次第罰られるという噂を聞きましたで、
わしら百姓どもは玄徳様を親のように思っているので、
みんなの衆と討ち揃って、
直司様へおすがりに来たところ、
した役たちに叩き出され、この通り、
役所の門まで閉められてしまったので、
是非なくこうしているところでございまする。
聞くと張飛は、
煙草のような眉をあげて、
閉め切っている薬缶の門を張ったと睨みつけた。
だふー乱竜
1
おい。
張飛は言った。
大地に座っている大勢の百姓を町民へ向かって。
お前たちは退散しろ。
これから俺がやることに後で掛かり合いになるといけないぞ。
しかし百姓たちは、
泥酔しているらしい張飛が何をやり出すのかと、
そこを立ってもまだ付近から眺めていた。
張飛は門を打ち叩いて、
番人ども開けろ。
開けなければぶち壊すぞ。と怒鳴り出した。
薬缶の番卒は何者だと中から覗き合っていたが、
町僧のごとき表に小銭を逆立て、
いかれる行僧にマッシュを注いだ大男がそこを揺り動かしているので、
誰だ?誰だ?と騒ぎ立ち、
県尉玄徳の部下だと聞くと特有の家来たちは、
開けてはならんぞ。と厳命した。
そして人数を固めて門の内へさらにまた幾重にも人垣を立ててひしめき合っていた。
その気配に張飛はいよいよ怒りを浸透に発して、
よし、その分ならば。
門の柱へ両手を掛けたと思うと、
苗のようにミリミリとそれは揺れ出して、
あれよと人々の驚くうちに凄まじい物音を立てて内側へ倒れた。
中にいた晩卒や特有の家来たちは逃げ遅れて、
幾人かその下敷きになった。
張飛は標のごとくその上を躍り越えて、
特有はどこにいるか、特有に合わん!と咆哮した。
晩卒たちはそれと見て、
やるな!捕らえろ!とさやぎったが、
ええ、いいじゃんわな!とばかり張飛は投げ飛ばす、
踏みつぶす、殴り倒す。
あたかも一陣の扇風が塵を巻いて欠けるように、
若干の奥へと躍り込んでいった。
折から直至特有は、
昼日中というのに帳を垂れて、
この田舎町のひなびた歌い目などを相手に酒を飲んでいたところだった。
身だらな呼吸の音を聞きつけて、
張飛がその部屋を伺うと、
果たして正面の塔に美人を酔うして酔いしれている好感がある。
紛れもない特有だ。
張飛は帳を払って、
やい!寝入り!腐る役人!
よくも我が義家、玄徳に汚名を塗りつけ、
義罪の訴状を作って都へ昇すたな。
先頃からの傲慢無礼といい、
直視たるみがこの手たらくといい、
もはや官人はならん。
天に代わって汝を懲らしめてやるからそう思え。
目は百連の鏡にもに、
髭は逆島に立って丹のごとき口を裂いた。
きゃっと呼吸や言を放り出して、
女たちは塔の下へ逃げ込んだ。
特有も縮み上がって、
な、なんじゃ?待て!乱暴なことはするな!
と震え声で逃げかかるのを張飛は飛びかかって、
どこへ行く?
軽く一つぶったが、
特有は顎でも外したようにぐわっと歯を剥いたまま踏んぞった。
じたばたするな。
張飛はその体を軽々と横に引っかかえると、
また疾風のように外へ出て行った。
2
門外へ出てくると、
犬にでも喰われろ。
と張飛は引っかかえてきた特有の体を大地へ叩きつけて罵った。
汝のような腐敗した値入りがいるから天下が見られるんだ。
乱賊は討つも値入りを懲らす者はない。
人の名刺への制御を成し、
人の行使への権力に行す。
それを騎士とする義軍の張飛を知らずや。
やえ。
特有の顔を踏んづけて張飛が言うと、
特有は手足をばたばたさせて、
ものども、この狼藉よ、この乱暴者を絡めとれ。
誰かいないか。
悲鳴に似た声で喚いた。
やがましい。
門取りを掴んで引き回した上、
張飛は門前の大きな柳の木に目をつけて、
あ、そうだ。見せしめのために。
と特有の両手をありあう縄で縛り上げ、
その縄尻を柳の枝に投げて吊るし上げた。
柳から鳴った人間のように特有の足は宙に浮いた。
張飛は彼が暴れても落ちないように、
縄の端を幹に巻いて、
どうだ。やえ。
と一本の柳の枝を折って、
まずぴしりと一つぶった。
痛い。
当たり前だ。
とまた一つ打ち。
あくりの虐生に苦しむ人民の痛みはこんなもんじゃないぞ。
汝も病草の一匹だろう。
かの十常侍などという冥心の端くれだろう。
その醜い面を晒せよ。
その癒やしい鼻の穴を天秤に向けて投げ。
こうか。こうか。
こうしてやる。
柳の枝はすぐ粉々になった。
また新しい柳の枝を折って殴りつけるのだった。
三十、四十、五十、
二百以上も打ち据えた。
特有は見えもなく、
ひいひいひいと声を上げて、
許せ。
と泣き出し。
待て。
待ってくれ。
何でも言うとおりにするから。
と遂には涙さえこぼして哀れっぽく叫んだが、
だめだ。その手は食わん。
と張飛は乱打をやめなかった。
その日も玄徳は支度に閉じこもって、
おおおと優れない一日を過ごしていたが、
だれやら慌ただしく門を叩く者があるので、
自身出てみると四五名の百姓が、
大変です。
今、張飛様がお酒に酔って薬所の門をぶち壊し、
直裏の高官を柳の木に吊るし上げて打ち据えております。
と告げて去った。
玄徳は驚いてそのまま駆け出して行った。
折節言い合わせた関羽も、
「ちっ、張飛のやつまた寿命を起こしたか。」
と下打ちしながら玄徳の後から駆けつけた。
見ると柳につづされている督郵は衣装も破れ、
萩は血を流し顔面は紫色に膨れていた。
もう少し遅かったら寸手のこと、
殴り殺されていたであろう。
仰天して玄徳は、
「これ、何をする。」
と張飛の腕首をつかんでしっかりつけた。
張飛は大息つきながら、
「いや、止めないでください。
民を害する逆賊とはこいつのことです。
息の根を止めないでは俺の虫が治まらん。」
と玄徳のさえぎりなどはものともせず、
さらに流弁を唸らせて、
督郵の体を所嫌わず打ち続けた。
悲鳴を放って張飛の無知にもがいていた督郵は、
屋根木の梢から玄徳の姿を見つけて、
「おお、それへ来たのは賢意玄徳ではないか。
公の部下の張飛が先に寄って、
わしをこの格のごとく殺そうとしている。
どうか早く止めてくれ。
もしわしを助けてくれたなら、
このまま張飛の罪も不問にし、
恩美には帝に急使を立てて前の訴状をとどめ、
代わりに十分な恩職を持って報えるであろう。」
と叫んでまた、
「早く助けてくれ。」
と何度も悲鳴を繰り返した。
そのいやしい言葉を聞くと、
張飛の棒を制止かけていた玄徳も、
かえって止める意思を妨げられた。
けれど彼はいかに集合な人間であろうとも、
直命を受けて下った天主の使いである。
玄徳は嫉妬して、
「やめぬか、張飛。」
と彼の手から柳の枝を奪い、
その枝を持って張飛の肩を一つ打った。
玄徳に打たれたことは初めてである。
さすがの張飛も、
はっと顔色を覚まして棒立ちになった。
もちろん不平満々たる色を表してではあったが。
玄徳は柳の幹の縄を解いて、
特有の体を大地へ下ろしてやった。
すると、それまで是とも非とも言わず黙って見ていた関羽が、
つと駆け寄ってきて、
「張飛、お持ちなさい。」
「なぜ。」
「そんな人間を助けてやったところで、
所詮無駄なことです。」
「何を言う。」
「私はこの人間から利を得るために助けようとするのではない。
ただ天使の皆を恐れるのみだ。」
「わかっております。
しかし、そういうお気持ちも、
一体どこに通じましょうか。
前には神明をとして大功を立てておられながら、
わずか一見の意に仰ぜられたのみか、
今また特有のごとき腐敗した中央の利に最大の侮辱を受け、
黙っていれば罪もなき罪に
落とし入れられようとしているではありませんか。」
「是非もない。」
「是非もないことはありません。
こんな不法は蹴飛ばすべきです。
先頃からそれがしもつらつら思うに、
貴極双虫乱蜂の棲むところにあらず。」
と昔から言います。
「茨や殻立ちのような棘の木の中には
良い鳥は自然棲んでいない。」
というのです。
我々は棲むところを謝りました。
しかず一度身を引いて、
別に円台の計を測り直そうではありませんか。
関羽には時々教えられることが多い。
やはり学問においては彼が一日の帳を持っていた。
玄徳はいつも聞くべき言はよく聞く人であったが、
今も彼の言をじっと聞いているうちに大きくうなずいて、
「そうだ。いいことを言ってくれた。
我、棲むところを謝てり。」
と胸にかけていた権威の印象といって徳雄に言った。
「家は民を害する俗利。
今その神戸を切ってこれにかけるはいと易いことながら、
恥を思わぬ悲鳴を聞けば畜類にも不便は生じる。
哀れ犬猫と思うて助けて取らせる。
そしてこの印象は家に託しておく。
我今関羽を捨てて去る。
中央へよろしくこの趣を取り継ぎ給え。」
そして張飛関羽の二人を帰りみて、
「さあ行こう。」
と風の如くそこを去った。
ひひと散りしいた柳場の地上に徳雄はまだ何か苦しげに喚いていたが、
玄徳らの姿が遠くなるまで前に懲りて近づいていたわり助ける者もなかった。
楽難の佳人
劉大人との出会いと恋
1.
一惨にかけた玄徳らはひとまず主宅に帰って、
詩詩や文書の保護などを皆焼き捨て、
その夜のうちにこの地を退去すべく、
慌ただしい身支度にかかった。
漢を捨てて野に去ろうとなると、
これは張飛も大賛成で、
僅かの手兵や召使いを集め、
ご主人には今度にほかに思うことがあって、
県の至る官職をやめ、
しばらく野に下って悠々自敵になさることになった。
しかし、実は俺が直視、
優徳を半殺しの目に合わせたのが元だ。
次は身の落ち着きの目当てのある者は家に帰れ。
当てのない者は病人たりとも捨ててはいかん。
暗くを共にする気でご主人に従って参れ。
と言い渡した。
もらう者をもらって自由にどこかへ去る者もあり、
どこまでも玄徳様に従ってと残る者もあった。
かくて夜にいるのを待ち、
手回りの家財を路や車に積み、
同勢二十人ばかりでついに官地暗鬼圏を後に
闇に紛れて落ちていった。
一方の優徳は、
あの後間もなく狩りの者が寄ってきて
薬師の中へ抱え入れ手当を加えたが、
後代の傷は日のように痛むし、
大熱を発して逝く国家はまるで人事不祥であった。
だが、やがて少し落ち着くと、
「権威の玄徳はどうした?」
と上言みたいにどなった。
その玄徳は官の隠事を解いてあなたの首へかけると
捨て台詞を言って駆け走りましたが、
今宵一族を連れてよ逃げしてしまったという噂ですと
側の者が告げると。
何逃げ落ちたと
ではあの張飛というやつもか
そうです
おのれこのままオムヨムと無事に逃がしてなおうか
使いをすぐ
救出をやれ
都へですか
馬鹿、都へなど使いを立てていた日には間に合うもんか
ここの定州の大州へだ
は、何としてやれますか
玄徳、常に民を虐し
今度直首の巡察にその罪状の発覚を恐るるや
帰って直首に暴行加え
領民を先導して乱をたくめど
そのこといち早く官の知るところとなり
一族を連れて夜に紛れ
無断官庁を捨てて逃げ去ると
は、わかりました
ああ、待て、それだけではいかん
すぐさま人兵を差し向けて
玄徳らを召し捕らえ
都へ御完走下さるべしと促すのだ
あ、心得ました
早馬は定州の府へ飛んだ
定州の大州は巣は大事と直首の名に恐れ
また特有の機弁にもうまく乗せられて
八方へ物見を走らせ
玄徳たちの落ちていった先を探させた
数日の後
何者とも知れず
安喜家の方から大州の方を向かって
路車に火材を積み十数名の従者を連れ
そのうち三名は路に乗った浪人風の人物で
北へ北へと指していったということでありますが
との報告があった
ああ、それこそ玄徳であろう
からめとって都へ差し立てろ
定州の大州の命を受けて
即座に鉄鋼の人兵約二百
二手に分かれて玄徳らの一行を追いかけた
北へ北へ
車馬と落ちゆく人々の影はいつおりだ
幾度か他州の兵に襲われ
幾度か御手の危険に落ちかかり
百難を越えようやくにして
大州の御財山下までたどり着いた
張飛
御身の指図でここまではやってきたが
何か落ち着く先の目当はあるのか
ここはもう御財山の麓だが
関羽も言うし玄徳も実は暗示していたらしく
一体これからどこへ落ち着こうという考えか
と共々に尋ねた
御安心なさればよい
張飛は大飲み込みで行った
そして学録の平和そうな村へ行き着くと
しばらく御一堂は
その辺に車馬を休めて待っていてください
と一人でどこかへ立ち去ったが
ほどなく立ち返ってきて
劉大人が承知してくれました
もう大舟に乗った気でおいでなさい
と告げた
劉大人とはどこの何をしておる人物かね
この土地の王子主です
まあ大きな豪主といったような家柄と思えば
間違いありません
常に百人や五十人の食客は
平気で屋敷に置いているんですから
我々二十人やそこらの者が厄介になっても
お先は平気です
またこの地方の人房家でもありますから
しばらく身を囲まっておいてもらうには
何よりな場所でしょうが
それは願ってもないことだが
御身との相手だからはどういう仲なんだ
劉大人も今こそこんな田舎に隠れて
学難の因子などと気取っていますが
以前は拙者の旧宗皇家とは血縁もあって
軍労兵馬の相談役もなされ
何かと旧宗皇家とは往来しておったのでおります
その頃自分も皇家の一家臣として
御懇意を願っていたので
皇家が滅亡の後も
実は拙者の飲み代だの
維新の始末などにも
随便御厄介になったもので
ああそうか
その縁にまた同勢二十年も
触覚を連れ込んでは
劉大人も眉を潜めておいてだろう
ああそんなことはありません
非常に浪人を愛する人ですし
玄徳様の御須情と
我々義軍が官地を捨てて去ったことなど
つぶさにお話ししたところ
苦浪人ですから非常によくあってくれて
二年でも三年でもいるがいいというわけなので
張飛の言葉に
そういう人物の養子なら身を寄せてもよかろう
と玄徳も安心して
彼の案内について言った
すると学六の祖輪のほとりに
一角の高層な童兵衛が見えた
玄徳らを誘いながら張飛が
あの屋敷ですどうです
まるで豪族の家のようでしょう
と自分の住居ででもあるように誇って言った
玄徳がふと路を止めてみていると
その屋敷の並びの杏の並木道を今
雛には稀な麗人が白馬に乗って通っていくのが見えた
美人の路の後ろからは
一人の同志が孤島になって眠そうにともをしていった
さん
はてどこかで見たような
玄徳はふとそんな気がした
遠目ではあったが妙に印象付けられた
もっとも殺伐な戦場生活さの
壁地から荒野を流浪してきた身なので
余計に彼方の女性が美しく見えたのかもしれない
麗人はすぐ広い土塀に囲まれた
豪華な門の内へ入ってしまった
そこが劉大人の屋敷だ
とたった今張飛に教えられたばかりなので
さては劉家の息女かなどと
玄徳は一人想像していた
ほどなく
玄徳らの一行もそこの門前に着いた
一度は車を止め
路から降りて埃まみれな旅の姿をかえりみた
ここの主は老人を愛し
常に多くの触覚を養っているという
どんな人物であろうか
玄徳や関羽は会わないうちは色々に想像された
けれど張飛に案内されて南苑の客館に通ってみると
全く世の風雲も知らぬげなのどけさで
老人を愛するよりはむしろ風流を愛すことの
はなはなしい気持ちの逸人ではないかと思われた
やがてのこと
はい手前が当家の主の劉家です
ようお越しなされました
お身の上は最前張飛殿から聞きましたが
どうぞお気兼ねなく
一年でも二年でも遊んでいてください
その代わりこんな田舎ですから
何もお構いはできませんよ
豊かにあるのは酒ぐらいなもんで
こう主の劉家が出てきての挨拶に張飛は
ありがたい酒さえあれば何年だっていられますよ
ともう贅沢を言う
玄徳は因言に
何分
としばらくの頭流を頼み
関羽も姓名や境地を名乗って将来の功績を仰いだ
劉大人はいかにも大人らしい加減な人で
やがて召使いを呼び
三名の部屋としてこの南苑の客館を提供し
何かのことなどを言い付け
ほどなく奥へ隠れてしまった
どうです落ち着くでしょう
張飛は手柄顔に言う
落ち着きすぎるぐらいだ
と関羽は笑って
暴露を出さぬようにしてくれよ
と庵に張飛の酒癖をとしなめた
年を越えた
春になった
五大山下の部落は誠に平和なものだった
ここには劉家が土豪として
村長の役目をも兼ねているせいか
悪りも済まず
貴族の害もなかった
しかし張飛や関羽は
その余りにも無事なのにむしろ苦しんだ
酒にも平和にも産んだ
それとは違って
玄徳は近頃ひどく無口であった
常に物思わしい風が見える
長兄も
この頃はようやく再び千夜が恋しくなってきているのではないかな
不運自止に元気がないが
ある時関羽が言うと
いやいや千夜が恋しいのじゃないさ
と張飛は首を振った
あ、では
きょうりの母のことでも案じておられるのかな
うーん
それもあろうが
原因はもっと別のほうにある
俺はそう悟っているが
わざと合わせないんだ
うーん
原因があるのか
うん、ある
苦々しげに張飛は言った
その顔つきで思い出した
近頃南苑に梨花が咲いて
夜は春月がそれに霞んでまたなく潤わしい
時折その梨園をさまよう月よりも美しい花陣が見かけられる
そうするといつのまにか
この客館から玄徳の姿が見えなくなるのだった
4
張飛の話を聞いて関羽にも思い当たる節があった
関羽はそれから特に玄徳の様子に注目していた
するとそれから数日後の宵であった
その夜は朧月が麗しかった
五台山の半身をぼかした夜霞が野にかけ銀を吐いたような朧をひいていた
おや、いつのまにか
気がついて関羽は呟いた
三名して食卓を囲んでいたのである
張飛は霊によっていつまでも酒を飲んでいるし
自分も灰を持って相手になっていたが
玄徳は部屋を去ったと見えて
彼の空席の宅には皿や手算しか残っていない
そうだ
今宵こそ彼の行動を突き止めてみよう
関羽はそう考えたので張飛にも黙って急に部屋から出て行った
そして南苑の白い梨花の小道を忍びながら歩いてはみました
もう奥の南苑に近い
主の隆海にいる棟やその家族らの住む棟の塔下は
隣線を通して彼方に見えるのであった
はて、これから先へ行くはずもないし
関羽が佇んでいると
頃近い木の間を誰かそそっと通る人があった
見ると隆海の姪とかいうこの家の妙麗な礼人であった
はは
関羽は自分の予感が当たって帰って肌寒い心地がした
物事の裏とか人の秘密とかにはむしろ表を横にして
無関心で痛い彼であったがつい後ろから忍んで行った
隆海の姪という佳人はやがて鮮やかに月の下に立った
辺りには木陰もなく物の影もなく
ただ広い芝生に夜露が宝石を撒いたように光っていた
すると梨の花の小道からまた一人の人影が突然と立ち上がった
それは花の中に隠れていた若い男性であった
おう玄徳さんは
扶養殿
二人は顔を見合わせてニコと笑み交わした
扶養の歯が実に美しかった
あいよって
よく出られましたね
玄徳が言う
ええ扶養はさしうつむく
そして梨畑の方へ二人は背を擁しあいながら歩み出して
隆海はあれでとても厳格な人ですからね
触覚や豪傑たちには優しい恩情を示す人ですけれど
家庭の者には恐ろしくやかましい人なんです
ですからこうして庭へ出てくるにもずいぶん苦心してくるんですの
そうでしょう
何しろ我々のような触覚が常に何十人もいるそうですからね
私もカウナの調皮などという腹心の者が同じ部屋にいて
目を光らしているので
彼らに隠れて出てくるのもなかなか容易ではありません
なぜでしょうね
何がですか
そんなにお互いに苦労しながらでも
夜になるとどうしてもここへ出てきたいのは
私もそうです
自分の気持ちが不思議でなりません
美しい月ですこと
夏や秋の冴えた頃よりも今頃がいいですね
夢見ているようで
梨の花から梨の花の道をさまよって
二人は飽くことを知らぬけであった
夢見ようと意識しながら
あえて夢を追っているふうであった
5
この家の神僧の家人と玄徳徳は
母との再会と決意
いつの間にか春宵の秘語を楽しむ中になっているのを目撃して
関羽は非常な驚きと狼狽を覚えた
ああ平和は勇士を蝕む
彼は概嘆した
身まじき者を見たように関羽は慌てて
公園の梨畑から駆け戻ってきた
そして客間の食卓の部屋を覗くと
張飛はただ一人でまだそこに酒を飲んでいた
おい
やあどこ行っていたんだ
まだ飲んでいるのか
飲むより他に成すことがないじゃないか
いかに皮肉を嘆じたところで
地理あらず
風雲招かず
香料も淵に潜んでいるしかない
どうだ飛行も酒の淵に潜まんか
一杯もらおう
実は今
いっぺんに酒が冷めてしまったところだ
どうしたんだ
張飛
うん
俺は貴様のように
いたずらに現在の世帯や自設の子のことを
そう悲観はしないつもりだが
今夜はがっかりしてしまった
矢に隠れ
淵に潜むとも
いつか香料は風雲を捉えずにいないと信じていたが
ひどく失望の体だな
もう一杯くれ
珍しく飲むじゃねえか
飲んでから反省
なんだ
実は今
俺は人の秘密を見てしまった
ん?秘密を?
さらば
先頃から貴様が謎めいたことを言うので
今宵玄徳様が出て行った後からそっとつけて行ってみたんだ
するとどうだろう
ああ俺は語るに忍び
あんな柔弱な人物だとは思わなかった
何を見たんだ一体
あろうことかあるまいことか
当家の神僧に養われている扶養所とかいう霊人と
相引きをしているではないか
二人はいつの間にか恋愛に落ちておるのだ
我々義軍の名手ともある者が
一女性に心をとらわれているなどして何ができよう
ああそのことか
ん?貴様は前から知っていたのか
うすうすわ
なぜお足につけないんだ
うーん
でもできてしまっているものは仕方がないからな
張飛も腐った顔つきをして呟いた
その顔をほうぜんに乗せて片手で一人酒をついて煽りながら
永結寺もあまり平和な恩賞に長く置くと
カビが生え出してああいうことになるんだな
志を得ぬ鬱没をそういう方へ誤魔化し始めると
人間ももうおしまいだな
またあの女も女ではないか
あれは龍海の娘でもないし一体なんだ
ああ聞かれると面目ない
なぜなぜ貴様が面目ないのか
うーん実はそのあの扶養所は
拙者の旧宗後家の御息所なので
龍海殿も後家と朝からの関係があった人だから
守家後家の没落を
俺が扶養所をこの家へ連れてきて
囲まっておいてくれるように頼んでおいたお方なのだ
あれ
では貴様の旧宗の御息所なのか
まだ義名を結ばない数年前の話だが
その扶養所と玄徳様とは
後悲に覆われてお互いに危うい災難に見舞われていた頃
偶然ある地方の故郷の下で出会ったことがあるので
とっくに双方とも知り合っていた仲なんだ
そんなに古いのか
関羽が呆れ顔をしたとき
部屋の外に誰かの靴音が聞こえた
主の龍海であった
龍海は室内の様子を見て
お札使えないですか
と二人の許しを受けてから入ってきた
そしてゆうには困ったことができました
数日のうちに洛陽の巡察使と
帝州の大使がこの地方へ巡遊に来る
そしてわしの屋敷がその宿舎に充てられることになった
当然あなた方の潜伏していることが発覚する
一時どこかへ隠れ場所をお移しなさらぬと危ないが
という相談であった
折も折である
関羽も張飛も一時は途方に暮れた心地がしたが
むしろこれは天が自分らの乱打を忌むるものであると思って
いや後藤家にもだいぶ長い間の闘流となりました
そういうことがなくてもこの辺で位置転機する必要がありましょう
いずれ我々ども三名で相談の上ご返事申し上げます
ああ何ともお気の毒じゃが
なお落ち着く先にお心当たりもなければ
わしを信じる人物の安心のなるところへご紹介もしてあげますから
竜海はそう言って戻って行った
あとで二人は顔を見合わせて
玄徳様と扶養所の中を主も悟ってきて
これはいかんと急にあんな口実を言ってきたのではないか
さあどうとも知れん
しかしいい仕様だ
そうだ玄徳様のためにはすごくいいことだ
翌朝
二人は早速近々の分けて姿玄徳に主の旨を伝えて前後策を図った
すると玄徳は一時ははっとした顔色だったがすぐうつむいた眼差しをきっと上げて
たしのこ
門人の竜大人にご迷惑をかけてもならぬし
自分もいつまであんかんとここにいる気もなかったところだからと言った
そういう玄徳の面には深く現在の自身を反省しているらしい様子が見えた
そこで関羽は思い切ってこう言ってみた
ですがお名ご利用しくありませんかこの家の真相の家人に
玄徳は微笑のうちにも幾分か羞恥の色をたたえながら
港よ恋は路棒の花と答えたその一言に
さすがはと関羽も自分の虜し苦労を打ち消しすっかり眉を開いた
そういうお気持ちなら安心ですが実は我々の名手たりまた待望を抱いている英傑児が
一女性のために総称を蝕まれてしまうなどとは至極残念だと張飛とともに
密かに暗示していたところなのです
ではあなたはあくまで不要状と本気で恋などに落ちているわけではありますまいな
いや 玄徳は正直に言った
恋を囁いている間は恥ずかしいが私は本気で恋を囁いているよ
女を欺けないまた自分も欺けないただ恋あるのみだ
えっ
だが涼君香風休んじてくれたまえ玄徳はそれだけが全部にはなりきれない
恋の囁きも一時の間だすぐ我に帰る
中山西王の後衛劉備玄徳という我に帰る
寒村の伝府から身を起こし義気を翻してからすでに両三年
千夜の屍となりつるか洛陽の府にさまよえるか
と故郷には今なお我が子の我を待ち保う老母もいる
なんで大志を失おうや
涼君もそれは安心してかなりである玄徳を信じてくれい
後援
その翌日である
玄徳たち三名はにわかに御台山六の地
竜海の邸宅から一時身を去ることになった
別れに臨んで主の竜海は落伯の豪傑
玄徳らのために別離の荘園を開いて
さて夕には
また時を伺ってこの地へぜひ戻っておいでなさい
お連れになってきた二十名の兵や下辺たちは
それまで手前の屋敷に預かっておきましょう
そして今度お命になったときこそ
妻域のご準備におかかりなさい
黄巾の蘭は証拠を得ても
洛陽の王府そのものに
自戒の兆しが現れてきています
せっかく自重自愛してどうか
国家のために尽くしてください
ありがとう
四人は立って乾杯した
竜海の猶予に
ここへ来るとき連れてきた二十名ばかりの一族老党のみは
みな竜家に託しておいて
関羽張飛玄徳
思い思いに別れて一時身を隠すこととなった
が竜家の門を出るときは三人一緒に出た
世間の目もあるので竜海はわざと見送らなかった
けれど邸内の老大から
三名の姿が遠くなるまで一人見送っている美人があった
言うまでもなく不要状であった
張飛は知っていた
しかしわざと何も言わなかった
玄徳も黙々と歩いていた
もう五台山の影も後ろに遠く霞んでから
張飛がそっと玄徳へ行った
昨日お言葉を伺って
もう自分らもあなたの真実を疑うような気持ちはいられておりません
むしろ大丈夫の多情多恨のお心を推察しておりますよ
例えば私が酒を愛するようなもんですからな
彼は酒と恋を一つのものに考えているのだ
その程度だから玄徳の心に同情するといっても
およそ玄徳の感傷とは肌肌遠いものに違いなかった
だが長兄
と張飛はまた玄徳の顔を差し覗いていった
豪月は色に触るべからずという方はない
あなただって一生涯独身でいられるわけもない
本当に不要状がお好きならこの張飛が話してどんなことにでもします
聖者にとっては旧種の御息女ではあるし
ああいう頼りのない御身の上ですから
むしろあなたに願っても生涯を見ていただきたいくらいのものですよ
けど今はいけませんな
時でないでしょう
志を得た後のことにね
うんわかったよ
玄徳はうなずいた
それから修道の道しるべの下まで来ると
じゃあわしはここから一人別れて
まず郷里の宅邸へ行くからね
いずれまた一度この御台山下へ戻ってくるが
と言った
張飛も関羽も各々そこから別れて
ひとまず思い思いに落ちていくつもりであったが
片時の間も離れたことのない三人なのでさすがに寂しげに
今度はいつここで会おう
この秋
玄徳が言う
二人はなずいて
ではあなたはこれから
沢賢の母子のもとへおいでになるおつもりですか
うん
ご無事なお子をだけ生えしたら
またすぐ風雲の内へ帰ってくれ
両州の八月
再び三人して御台山の月を見よう
おさらば
うん気をつけて
お互いに
三名は三方の道へしばし別離の姿をかえりみあった
関羽と張飛の二人に別れてから
玄徳は姿を土民の風に変えてただ一人
故郷の沢賢ローソン村へそっと帰っていった
ああ桑の木も変わらずにある
何年ぶりかで我が家の門を見た玄徳は
そこに立つと一番先に
例の大きな桑の大樹を懐かしげに見上げていた
カタン
コトンカタン
すると蟲籠を織る旗の音が家の裏の方で聞こえた
玄徳ははっと心を打たれた
ここ両三年は馬場に長槍を取って忘れ果てていたが
幼少から移植してきたなりわいの蟲通りの旗は
今なおこの故郷の家でお休んでいなかった
その旗をその竿を
今も十年一日のごとく動かしている者は誰だろうか
遠までもない玄徳の母であった
聖夜に立った息子の後を一人
留守している老いたる母に違いなかった
いかにお淋しいことであったろう
またご不自由なことであったろう
家に入らぬうちに玄徳はもう瞼を涙でいっぱいにしていた
思えば幾年の間
転選また転選
故郷の母に移植の杖絵を送る意図もさえなかった
頼りすらいくどか数えるほどしかしていなかった
すみません
彼はまず公園の荒れたる門に心からあわびて
そして旗の音の聞こえる裏の方へ駆け込んでいった
ああそこに目前とむしろを追っている白髪の人
玄徳はめりなり後ろから駆け寄って
母の足元へ
母上
ひざまずいた
母上私です今帰ってまいりました
老母は驚いた顔をして旗の手を休めた
そして玄徳の姿をじっと見て
アビーか
と言った
長い間お便りもろくにせず
定めし何かとご不自由でございましたろう
人中心に任せず
転選からまた転選と戦に暮れおりましたために
この言葉を遮るように
アビー
そしてお前は一体何時に帰ってきたんですか
はい
玄徳は地に面を伏せて
まだ心出しも達せず
晴れて母上にお目にかかる時期でもありませんが
先頃から官庁を去って野に潜んでおりますゆえ
役人たちの目を盗んで
そっと一目ご無事なお顔を見に戻ってまいりました
老母の母は明らかにうるんで見えた
髪もわずかなうちに
梨の花を持ったように雪白になっていた
目元の肉もやすれて見えるし
肌にかけている手はわらごみで荒れている
しかし以前に変わらないものは
子に対してじっと向ける瞳の大きな愛と
俊厳な強さであった
こぼれ落ちそうな涙をもこらえて
老母は静かにこう言うのだった
アビー
はい
それだけでその後はこの家へ帰っておいでなのかい
ええ
それだけで
母上
すがり寄る玄徳の手を
老母はわらごみとともにもっそから払って
たしなめるようにきつく言った
何です赤子のように
それでお前は夕刻の異常部ですか
帰ってきたものはぜひもないが
長いはなりませんぞ
今宵一晩休んだらすぐ出て行くがよ
サン
思いのほかな母の不機嫌な景色なのである
それも自分を励ましてくださるためと
劉玄徳はかえって大きな愛の下に泣き濡れてしまった
母はその子を大地に見ながらなお叱っていった
まだお前が郷土を出てから
わずか2年か3年ではないか
貧しい武器と訓練もない豪兵を集めて
この広い天下の騒乱の中へ打って出たお前が
たった3年やそこらで功を遂げ
名を挙げてもらって来ようなどと
そんな夢みたいなことを
母は考えて待っておりはしない
世の中というものはそんな単純ではありません
母上
玄徳の謝りでございました
どこへ行っても自分の正義は通らず
戦っても戦っても何のために戦ったのか
この頃ふと失意のあまり疑いを入れて
戦に勝つことは強い豪傑ならば誰でもすることです
そういう正しい道の妨げにも
自分自身を時折襲ってくる弱い心にも
打ち勝たなければ
所詮大事は成し遂げられるものであるまいが
そうです
よくお分かりであろう
もうその後も30に近い男児
それくらいなことは
はい
そこらの豪傑たちが乱世に生じて
一衆一軍を切り取るような小さい望みとは違うはずです
観の喪失の末孫
中山聖皇の英であるおまえが
万民のために剣を取ってたったのですよ
はい
戦欲の民の幸いを思いなさい
追い先のないこの母一人などが何であろう
その後の心が
せっかく奮い起こした大志が
この母一人のためににびるものならば
母は億民のために生命を縮めても
その後を励ましたいと思うほどですよ
母上
玄徳は驚いて
本当にそういう決心もしかれない
母の手元にすがって
悪いございました
もう決してめめしい心は持ちません
明日の朝は夜の明けぬうちに
故郷されますから
どうかただ一晩だけ
おそばにおいてくださいまし
老母も崩れるように地へ膝をついた
そして玄徳の体をそっと抱いて
白髪の瓶を震わせながらささやいた
阿弥陀
だが私はね
亡きお父さんの代わりにもなって言うんだよ
今のはお父様のお声だよ
お叱りだよ
明日の朝は近所の人の一目にかからないように
暗い家に立っておくれね
そう言うと老母は急いそと
おも屋の方へ立ち去った
間もなく栗屋の方から
湯気をかしぐ煙が張ってきた
失意のこのために母は何か
温かいものでも湯気にとも
荷だきしているらしいのであった
玄徳はその間に
蒸し炉場へ寄って
織り残していった
いく枚かの蒸し炉を織り上げていた
手元が暗くなってくる
白い雄星がもう上にあった
旗を離れて彼は一人
裏の桃林を招養していた
はや晩春なので
桃の花はみな散りつくして
黒い花のしべを小杖に見るだけであった
ああ 桃園は変わらない
玄徳は嘆じた
十日はまた春に若やぐが
母の白髪が再び黒く変える日はない
春中は人の身の上にのみ短い
しかも自分の思う望みは遠くまた大きく
いつの日彼の母が心の底から喜んでくれる時が来るだろうか
考えるといたずらに大きな歓声が出るばかりであった
別れと新たな旅立ち
アビア アビア
もう暗い御屋の方では
母が遊芸のできたことを告げで呼んでいる
玄徳は何の悩みもなかった少年の頃を思い出して
少年のように遠くから高く応えながら駆け出した
1989年発行
高段社 吉川英二歴史時代文庫
三国志Ⅰ
より一部独領読み終わりです
はい
もうちょっとで1時間みたいなところに来ましたので
ここで終わりにしましょうかね
あと2回分くらいでこの
桃園の巻が終わるかな
1回で終わるかなどうだろうな
後半を少しさらっと見たら
リョフとかトータクとか出てきてますね
なるほど
トータクが宮中を欲しいままにする
ところまでぐらいが入るのかなこの巻で
リュービア今後どうなっていくのでしょうか
今3人バラバラですね
よし終わりにしていきますか
無事に寝落ちできた方も最後までお付き合いいただけ
言えた?
無事に
無事に寝落ちできた方も最後までお付き合いいただけ
た方も大変にお疲れ様でした
といったところで今日のところはこの辺で
また次回お会いしましょう
おやすみなさい
57:41

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