1. 泣けるラジオドラマ~泣くドラ~
  2. エクセレントボーイ(前編)
2021-03-03 20:10

エクセレントボーイ(前編)

看護師の愛は夫の由治と2人の子供を育てながら、3人目を妊娠中。
ある日、職場に息子の通う学校から、
「息子が、友達に暴力を振るった」という連絡があった。
息子である秀人には人とは違うところが1つあったのだ。

●脚本: ゆきえ/●演出:内田岳志 
●出演:愛: 杉山さくら/由治: 宅間 脩起/秀人: 松見ひな子/真奈: 小谷野莉奈/看護師: 椿 祐里佳/担任教師: 吉田大輝/校長: 溝端亮/さえ: 中川奈緒
●編集・効果:昆 優太/●スタジオ協力:専門学校東京アナウンス学院/
●プロデューサー:富山真明/●制作:株式会社PitPa

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00:00
301と302の点滴交換は終了と。次は…
愛さん、外線入ってるよ。
え、私に?
そう。なんか小学校って言ってるけど。
またヒデトだ。
私は城崎愛。看護師として働いている。
もう10年目のナースだから、なかなかのベテラン。
この10年間に、子供を2人出産。
それでもブランクなく働けるのは、看護師という女性が多い仕事ゆえ、
職場環境が整っているおかげだと思う。
3級もしっかりもらえる。
その3級に、再び入る日もそう遠くない。
というのも、現在3人目がお腹に育っている。
7ヶ月。
かなりお腹も目立ってきているが、まだ働ける。
はい。お電話変わりました。城崎です。
はい。はい。ヒデトが?
本当に申し訳ありません。すぐに向かいますので。
はい。失礼します。
またヒデト君?
そう。嫌になっちゃう。
ここに来た時は、元気でいい子なのにね。
ありがとう。ちょっと師匠のところ行ってくる。
うん。あとの仕事は引き継いでおくから、心配しないで。
ごめんね。
私は師匠の許可をもらって、
息子のヒデトの通う小学校へとやってきた。
駐車場には夫、ヨシハルの車がすでにある。
私の車に気づくと、すぐに手を振って車から降りてくる。
俺がちょうど買い物してる最中に電話来たみたいで、
病院に電話行っちゃった。ごめんな。
全然気にしないで。
言葉通りに、買い物の最中だったらしく。
夫の車の後部座席には、袋に詰まった野菜やらお菓子やらが載っている。
ヨシハルはエンジニアとして働いていて、在宅での仕事が多い。
その上、家事が大好きなので、
かなり優秀な主婦として働いてもらっている。
アイスとか買ってないよね?
大丈夫。肉とか魚は念のため、
店でドライアイス分けてもらって袋詰めしてあるから。
相変わらずに完璧な主婦。
ありがとう。
それにしてもヒデト、友達に怪我させたって。
子供同士の遊びでのことだろう。恋にやったとは思えない。
俺たちはヒデトを信じてやらないと。
そうね。冷静に話せるかな。
03:00
俺に任しとけ。
お待たせして申し訳ありません。
シロザキです。
いえ、お忙しい中を産み立てしまして。
こちらへどうぞ。
私たち夫婦は現役の学生の時にさえ縁のなかった校長室に通されていた。
そこにはヒデトを横に座らせた担任の先生と、
明らかに立腹した顔のタカシ君のお母さんの姿があった。
タカシ君は額に絆創膏を貼っているが、
それほど大きな怪我ではなさそうで内心ほっとする。
場の空気にそぐわない、
はしゃいだ様子のヒデトの声。
案の定タカシ君のお母さんの表情が険しくなる。
ソファに座りながらヒデトに、
静かにしなさい、と言って先生とタカシ君のお母さんに頭を下げる。
今回はうちのヒデトが申し訳ありませんでした。
タカシ君もごめんね。
怪我痛かったよね。
本当に申し訳ありませんでした。
タカシ君は逆に謝られたことにびっくりした顔をしただけで、
ヒデトと二人で顔を見合わせてニヤニヤと笑っている。
だがタカシ君のお母さんは、
とんでもないという顔で割って入ってきた。
ヒデトはとんでもない子であると。
クラスの女の子たちも泣き出すほどの凶暴さで、
暴れまわった挙句、タカシ君を殴り続けたというのだ。
まあお母さん、少し冷静に。
私の方から起こった出来事の全体像をお話ししますので。
先生の話によると、
休み時間にヒデトとタカシ君は、
教室で海賊ごっこを始めたらしい。
次第にそれに熱が入り、
船長役だったヒデトがタカシ君を剣に見立てた宝器で殴り続け、
机はひっくり返し、
泊めに入った他の子をしのけて転ばせた。
一時は教室内が騒然としたらしい。
女の子は泣き出し、
手をつけられないヒデトに先生を呼びに行く児童たち。
我が子がその嵐の中心の目であったのだと思うと、
顔を痛くなる話だった。
ヒデト、ちゃんとタカシ君に謝ったのか?
なんで?
俺たち楽しかったよな。
楽しかったら何やってもいいのか?
え?
ダメなの?
もしパパとプロレスごっこをして楽しいからって
パパがヒデトを窓から放り投げたら
ヒデトはどうするんだ?
パパ、うち3階だよ?
06:01
そうだよ。
窓からヒデトが真っ逆さまだ。
それでもパパもヒデトも楽しいなって遊んでるだけ。
怪我したヒデトに楽しかったな
だから別に謝らなくていいよなって言ったらどう思うんだ?
俺、痛いのにって怒る。
ママも怒る。
そうだろう?
タカシ君も今は怒ってないかもしれないけど
叩かれて怪我をしたんだから痛かったんだぞ。
それには謝ったのか?
周りで心配した人にはごめんなさいしたのか?
ヨシハルの言葉に下唇を突き出した不満げな顔だったヒデトも
納得したのか席から立ち上がると
タカシ君の前まで行って頭を下げる。
タカシ君、ごめんなさい。
おばちゃん、ごめんなさい。
謝ったヒデトにタカシ君は
全然平気と答え
タカシ君のお母さんももうやらないって約束して
と言ってヒデトと指切りをしていた。
うん、僕やらない。
しかしヒデトの運は残念ながら信じることはできない。
その場は本気で答えていてもほんの数秒で忘れてしまう。
ヒデトは多動性障害ADHDだ。
それもかなり重度。
だからこうして呼び出しを受けることも初めてではない。
平均的な人間なら常に周囲の目
常識というものに照らして行動することができる。
小学生でもそうだ。
だがヒデトにはできない。
我を忘れるという言葉があるが
ヒデトの場合は我しかなくなる。
周囲という現実を忘れてしまう。
ヒデトは完全に船長として戦っていただけ。
そう、悪気はないのよ。
あの子は海も船も見えるくらいに入り込んでる。
だから止めに入った子なんて邪魔なだけ。
兵器で突き飛ばすし、物も投げ飛ばす。
どうやって教えてやったらいいんだろうな。
俺たちも考えないと。
そうね。
私は帰りがけに先生に渡されたパンフレットを開いた。
そこにはフリースクールの文字。
ヒデトには寄生の形の教育は負担なのかもしれない。
そういうこのための教育場所があると言って渡されたパンフレット。
そこには野山を駆け巡る子供たちや
09:01
稲刈りをする様子を写した写真があった。
今度見に行ってみる?
そうだな。
型にはめた教育だけがベストってことはないし。
個性はあって当たり前。
それを伸ばしてあげよう。
そう思うのは立派だけど、本音としては
みんなと同じで会ってくれたならどんなに楽なんだろうと思う。
人と違う。
それは人の2倍素敵な素質があることを意味するならば
逆に人の2倍苦労するという意味でもあるのだと思う。
人生は誰にとっても平等なのだ。
随分とのどかなところだな。
待ってヒデト!
フリースクールに着くや否やヒデトが大きなブランコを見つけて走り出す。
大丈夫ですよ。私が見てますから。
ありがとうございます。よろしくお願いします。
Tシャツ姿の若い女性のスタッフが元気にヒデトの後を追いかけていく。
それに気づいたヒデトも叫び声を上げて逃げ回っている。
相変わらず人見知りはしないよな。
調子いいなと思っちゃうくらいに人のことは好きなのよね。
そこへ木造の校舎から一人の中年の男性が出てくるのが見えた。
パンフレットに載っていた校長先生だ。
城崎さんでいらっしゃいますか?
はい。今日見学をお願いしています城崎です。
伺っております。案内しながらお話しましょう。
そこは学校というよりも山裾の広い土地の中にある別荘と自然公園という雰囲気だった。
あまり人工の手が入りきっていないデコボコした庭のいたるところに
思い思いの遊びをする子どもたちがいる。
縄跳びをしている子もいれば木の陰で本を読んでいる子もいる。
ヒデトはすっかりブランコが気に入ったらしく
スタッフの女性に背中を押してもらってはしゃいだ笑い声を上げている。
ここにはカリキュラムというものはないんです。
やりたいことを子どもたちが自ら見つけて取り組む。
自分の知りたいことだからこそ本当の知識となって身につく
という理念のもとに運営されています。
例えばこの花壇。
木造の建物の前に広がる花壇を前に校長先生が立ち止まる。
12:07
この花壇も3ヶ月前にはなかったんですよ。
でも生徒の一人が花壇を作りたいと言い出して
スタッフと子どもたちでレンガを積み上げるところから初めて作り上げたんです。
みんなでセメントを練ったり
山から枯葉を運んできたり
もう大騒ぎでした。
でも本当に楽しかった。
この花壇子どもの手作りとは思えない出来でしょう。
それは普通の学校ではできない貴重な体験ですね。
ええ。
それとちょっとここをご覧になってください。
あれ、これほうれん草?
そうです。
ここではお昼も自由なんです。
お弁当の子もいるし
ここの台所を使って自分で調理して食べる子もいる。
その子たちが野菜も植えたいって
花壇の一角で作ってるんですよ。
ここでは大人はサポートするだけの黒子役です。
主役は子どもたち。
自分たちで決めて、調べて、実行する。
その知識と行動力を身につける場所なんです。
教室の中は自由に見ていただいて結構ですので
ご夫婦でゆっくり回ってみてください。
ありがとうございます。
仕切りのあまりない建物の中では
床に座ってテーブルで勉強している子もいるし
寝転がって漫画を読んでいる子もいる。
本当に自分のしたいことをしている場所なんだ。
秀途には嬉しい場所だろうな。
好きなことなら何時間だってできるやつだから。
そうね。
でも勉強もちゃんとするのかな。
授業も宿題もなかったら周りについていけるの?
そこへ走ってきた秀途が抱きついてくる。
ママ、ここ楽しい!また来たい!
秀途君、足早いね。
お姉さんも昔はリレーの選手だったけど
全然追いつけないや。
ありがとうございます。
本当に私たちではこの運動量についていけなくて。
わかります。
私ももう体力では子供たちに負けっぱなしで。
秀途君にお母さんは妊娠中だって聞きました。
僕お兄ちゃんになるんだって。
はい、今7ヶ月で。
でしたら無理なさらないで私たちに任せてください。
それに看護師さんもされているんですよね。
15:00
秀途すっかり懐いちゃったのかしら。
いろいろお話して。
いえ、秀途君もお母さんのこと頼りにしていると思います。
やっぱり資格がある方が生涯の理解とか違いますもんね。
え?
ああ、ADHDのこととかですか?
純粋に尊敬するキラキラと輝く目に見つめられ
私は複雑な気持ちになった。
確かに看護師の資格はある。
でも、だから障害を抱える子供や家族の気持ちが分かったり
最良の行動が取れるわけではない。
それは大いなる誤解だ。
毎日わからないことだらけで
不安でたまらなくなることばかりだ。
鞘ちゃん、ここはもういいよ。
はい。
秀途君、また来てね。
手を振るスタッフさんに
秀途も私に抱きつきながら
元気に手を振っている。
失礼しました。
どうかお気を悪くなさらないでください。
鞘ちゃんはここの卒業生で
ボランティアで時々来てくれているんです。
今看護学生として学校に通っているので
看護師として働いている方に憧れがあるんです。
でも分かっています。
看護師さんだからといって
病気の時は同じように不安になるし
子供の障害には頭を悩ませる。
職業なんて関係ないんです。
みんな同じように
お父さん、お母さんとして不安なんです。
だから一緒に手を取り合って
支え合っていきたい。
私はそう思っています。
ありがとうございます。
家族でよく検討させていただきます。
ゆっくりお考えください。
すごく素敵な場所で
信頼できる校長先生だな。
それが私たち夫婦の出した結論だった。
秀人もすごく気に入っている。
でも同時に私の中に
曇りを生じさせたのも事実。
あのスタッフの若い女性に
言われたからというよりも
秀人がADHDと診断された時から
自分の胸の内に宿っていた感情が
急激に成長して
表面に顔を出したという感じなのだろう。
私は看護師なのに
なぜ息子がADHDであると
もっと早く気づいてあげられなかったのだろう。
どうしてもっと
上手に息子をしつけることができないのだろう。
18:00
気持ちをきちんと理解してあげられないのだろう。
周囲からも
自分の内側からも
そう責める声が聞こえ始める。
ダメ。
そう思っても
気がつけばそのことを考えてしまう自分がいる。
こんな風に気持ちが弱った時には
寝てしまうのが一番。
吉原と話し合った後
秀人を真ん中に挟んで眠る夜。
そっと布団の中の秀人の手を握る。
柔らかくて暖かい手。
寝顔は生まれたての頃とほとんど変わっていない。
愛おしい我が子。
この子のために頑張らないと。
すっとあだかまりが消える気がして
私は眠りについた。
そして後日
秀人の行くべき場所が見つかったのかもしれないという
安心を感じたのも束の間。
再び秀人が問題を起こした。
学校から連絡が来たのだ。
秀人が学校から消えたと。
出演
杉山さくら
拓磨尚雪
松見ひな子
吉田大輝
溝畑涼
中川尚
椿ゆりか
脚本
ゆきえ
演出
内田たけし
編集
甲賀
根優太
協力
専門学校東京アナウンス学院
プロデューサー
富山正明
制作
株式会社ピトパ
20:10

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