#029|楽器の中の大聖堂|チャールズ・ブルックス|チェロ内部の建築|Architecture in Music|アデレード展|列車に轢かれたチェロ
2026-11-02 11:01

#029|楽器の中の大聖堂|チャールズ・ブルックス|チェロ内部の建築|Architecture in Music|アデレード展|列車に轢かれたチェロ

おたよりを送る

今夜のMeeFM(ミーエフエム)カルチャー編は、楽器の「内側」に広がる建築の世界へ。元プロ・チェリストの写真家、チャールズ・ブルックス。20年もの演奏人生で、自分のチェロの内部を見たのは、たった2回だけだったといいます。パンデミックでコンサートが止まった日々、彼は医療用レンズを手に、楽器の中を撮り始めました。数ミリの空間は、数千枚の合成で大聖堂のような姿を現します。1780年製、製作者が馬泥棒で処刑されたチェロ。約1万1000点の部品が織りなすファツィオーリの内部。そして1929年、列車に轢かれて粉々になったのに、世界恐慌の時代に職人たちの手で蘇り、修理した全員が内部に署名を残したチェロの物語を、再現ドラマでお届けします(ドラマの直前には音楽が入ります)。展覧会『Architecture in Music』は2026年11月12日から12月5日まで、アデレードのILA(Immersive Light and Art)でオーストラリア初公開。1717年製ストラディバリウスの内部を世界で初めて撮影した挑戦についても語ります。【目次】・20年で2回だけ見た、チェロの内側・医療用レンズと数千枚の合成——大聖堂が生まれる技術・ファツィオーリと、処刑された製作者のチェロ・再現ドラマ「列車に轢かれたチェロ」(1929年、ニュージーランド)・2,000万ドルのストラディバリウスを撮る緊張感・アデレード展と、歩ける写真の世界ソース:Charles Brooks Photography公式、Immersive Light and Art公式、Australian Geographic、Archipanicほか(一次・公式情報を中心に構成)#MeeFM #カルチャー #音楽 #写真 #建築 #チェロ #ストラディバリウス

感想

まだ感想はありません。最初の1件を書きましょう!

00:00
こんばんは、MeeFM。カルチャー編です。突然ですが、あなたは毎日使っている道具の内側をじっくり見たことがありますか?
内側ですか?カバーを外すくらいはあっても、中の構造までは、なかなか見ませんね。
そうですよね。今夜は、私たちが美しい音色として楽しんでいる楽器の内部に広がる建築の世界へご案内します。
楽器の中の建築。
今夜の主人公は、写真家のチャールズ・ブルックスさんです。ニュージーランド生まれで、今はオーストラリアのメルボルンを拠点に活動しています。
彼が続けているプロジェクトの名前が、アーキテクチャインミュージック。音楽の中の建築、です。
シェロやバイオリンの内部を撮影すると、数ミリの空間が大聖堂のような巨大建築に見える、というあの写真ですよね。
そうなんです。まず、ブルックスさんの経歴からお話しさせてください。
彼、もともとカメラマンを目指していたわけではないんです。
11歳でシェロと出会って、そこから約20年間、プロのチェリストとして世界を渡り歩いてきました。
中国のシンセンやキヨウ、チリ、そしてブラジルのオーケストラで、主席奏者を務めたほどのトッププレイヤーだったんですよね。
はい。写真が本業になったのは2016年からです。
ここが今夜、最初の驚きなんですけど、彼は20年間、毎日何時間もチェロに触れて、体の一部のように扱ってきたのに、
自分自身のチェロの内部を見たのは、20年でたったの2回だけだったというんです。
たった2回ですか。
大修理が必要になって、職人さんに開けてもらった時だけだったそうです。
なるほど。
弦楽器の内部は、ルシアと呼ばれる製作者や、修理の職人だけの生意気みたいなものですからね。
例えるなら、20年住み続けた愛着のある家なのに、水道管が破裂した時の2回しか、壁の裏側を見たことがないようなものです。
一番身近な相棒なのに、完全な未知の世界だったわけですね。
では、そんな彼が、なぜカメラを持って楽器の内部を撮り始めたのか。
そのきっかけは、あのパンデミックでした。
コンサートが全て止まってしまった時期、彼は弦楽器の空房に、修理やメンテナンス待ちの楽器が溢れているのを目にします。
そこで職人たちと協力して、エンドピンの穴のような既存の開口部から、医療用の内視鏡やプローブレンズを入れて、内部の撮影を始めたんです。
医療用レンズですか。面白いアプローチですね。
そして生まれた写真が、本当に驚異的なんです。
バイオリンやチェロの中が、まるで中世の巨大な大聖堂みたいに見える。
でも、なぜ数ミリの空間が、そんな巨大な建築に見えるんでしょう。
普通に拙者しただけでは、ああはならないですよね。
そこが、ブルックスさんの技術のすごいところです。
小さなものを近くで撮ると、普通はピントの合う範囲が浅くなって、背景が大きくぼけます。
03:01
脳はそれを見ると、これは小さなものだと判断してしまう。
だから彼は、手前から奥まで全てにピントの合った画像を作る必要がありました。
使ったのが、フォーカススタッキング。
ピントを少しずつ奥へずらしながら、一枚の作品のために数百枚、時には数千枚もの写真を撮るんです。
数千枚の写真を重ね合わせて、全てにピントの合った一枚に使い上げるんです。
ただ、楽器の中は真っ暗です。
強い光を当てれば、熱が出る。
何十億円もする古い名機に、熱を持ったライトを入れるのは、木が割れるリスクがあります。
だから彼は、楽器の表面のニスを絶対に28度以上にしない、という厳しいルールを自分に課しました。
温度を監視しながら、8秒に1回というペースで、何千回もシャッターを切っていく。
撮影というより、精密な手術みたいですよね。
市販のプローブレンズがバイオリンの穴には太すぎて入らなくて、ヒートガンでレンズの防水ケースを溶かして小型化した、という話もありましたね。
レンズを溶かしてまで、中を見たい。
でも、そうして見えてきた空間に映っていたのは、ただの美しい空洞ではありませんでした。
そこには、その楽器が辿ってきた、人生そのものが刻まれていたんです。
人生、ですか。
例えば、ファツヨーリのグランドピアノの内部。
約1万千点もの手作りの部品が規則正しく並んで、まるで精密な巨大工場か、近未来の神殿のようでした。
一方で、弦楽器の内部には、もっと生々しい人間の歴史があるんです。
例えば、1780年製のロッキーヒルのチェロ。
製作者のロッキーヒルは、1790年にバレボーの罪で処刑されてしまった人です。
でも、残されたヒル家は、後にイギリスで最も有名な弦楽器製作者の一族として名を残すんですよね。
外側は完璧に磨き上げられていても、内部には、処刑された男がのみをふるった生々しい工具の跡や、修理の跡がそのまま残っている。
外側が完璧な美しさなら、内側は嘘のない日記なんですね。
内部こそ、その楽器の歴史が見える場所だ、というブルックスさんの考えは、まさにそこから来ています。
さて、ここで少しだけ物語の時間にお付き合いください。
修理の跡が人生を物語る、という考え方が一番よくわかる、あるチェロの物語を再現ドラマでお届けします。
時は、1929年、ニュージーランドでの出来事です。
あるチェリストが、大切なチェロを車の屋根にしっかりと縛り付けて移動していました。
06:05
ところが運悪く、車は踏切のど真ん中で立ち往生してしまいます。
そこへ列車が突っ込んできたんです。
車は粉々に砕け、屋根のチェロも列車に引かれて、切っ端にじんに散ってしまいました。
普通に考えたら、それはもう楽器の死ですよね。
現代なら、保険で新しいものを買うでしょう。
でも、1929年は世界恐慌の時代です。
チェロのような高価な楽器は、壊れたからといって簡単に買い直せるものじゃなかった。
だから、持ち主と当時の職人たちは諦めなかったんです。
粉々に砕けた木の破片を拾い集め、必死の思いでパッチを当て、繋ぎ合わせて、このチェロは奇跡的に息を吹き返しました。
そして、ここからが本当にすごいところなんです。
ブルックさんが、このチェロの内部にレンズを入れた時、信じられない光景が広がっていたんです。
内部の木材に、1911年から1988年に至るまで、このチェロの修理に携わった職人の全員が、自分の署名を残していたんです。
全員が、ですか。修理の職人は普通は裏方に徹するものですよね。
でも、彼らは残したんです。
まるで、俺たちがこの命を繋いだんだぞと誇るみたいに。
列車に引かれて、一度は死んだはずの楽器が、100年近くに渡り、何人もの名もなき職人の手で、リレーのように命を吹き込まれ続けてきたんです。
外側の美しさだけを追っていたら、この無名の職人たちのプライドと愛情のリレーには、絶対に気づけなかったでしょうね。
表面のニスを塗り直せば、蒼滝は隠せるかもしれない。でも内側には、確かな人間の温かい痕跡が残っているんです。
さて、今度は全く別の意味で、とてつもないプレッシャーのかかる挑戦のお話です。
もし、あなたがレンズを入れようとしている楽器が、完璧な状態で、しかも2000万ドル、日本円で数十億円の価値があるものだったら、どうしますか?
1717年製のストラディバリウスですね。ブルックスさんは、このバイオリンの内部を世界で初めて撮影したんですよね。
えー、あの狭い穴からレンズを入れるとき、ほんの少しでも傷をつければ、数億円の価値が一瞬で吹き飛ぶかもしれない。
実際、ブルックスさん自身、撮影の1ヶ月前から、最悪の事態を延々とシミュレーションし続けて、神経をすり減らしていたそうです。
想像しただけで胃が痛くなりますね。
でも、その極限の緊張感を乗り越えたからこそ、300年の時を越えて、天才ストラディバリの工具の痕跡を私たちに見せてくれたわけです。
そして、私たちがこの奇跡の写真を実際に体験できる機会がやってきます。展覧会のお知らせです。
オーストラリア初公開となる展覧会、アーキテクチャインミュージックが、アデレードで開催されます。
09:00
会場は、イマーシブライト&アート、通称ILA、会期は、2026年11月12日から12月5日までです。
今回は、写真のパネルを飾るだけじゃないんですよね?
そうなんです。巨大なLEDスクリーンを使った没入型のインスタレーションが、初めて披露されます。
つまり、写真の中の巨大建築の中に、私たちが入り込んで歩き回るような体験ができるわけです。
さらに、11月29日には、一夜限りの特別なイベントも、
ギターのスラバ・グリゴリアンと、チェロのシャロン・グリゴリアンによるライブ演奏が行われます。
巨大なスクリーンに映し出されたストラディバリウスの内側を歩きながら、生演奏を聴く圧倒的な体験になりそうですね。
さて、今夜の深掘りもそろそろ終わりの時間です。
今日は、楽器の外側の美しさや音色だけじゃなく、その内側に息づき、刻まれてきた数百年の時間に思いを馳せることができました。
楽器はただの道具じゃなくて、何世代もの職人や演奏家たちの人生が重なり合うタイムカプセルなんだということが、よくわかりました。
最後に、あなたに一つ想像の種をお渡しします。
次に、音楽を聴くとき、少しだけ想像してみてください。
その美しい音は、あなたの耳に届く直前まで、誰かの残したのみの跡や修理の跡が残る小さな大聖堂の壁に反響していたのだ、ということを。
私たちが聴いているのは、ただの音ではなく、空間が記憶した歴史そのものなのかもしれませんね。
素晴らしい視点ですね。音楽の聴き方が変わりそうです。
というわけで、ME-FM カルチャー編、本日はここまでです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回もまた、あなたの好奇心を揺さぶる未知の世界でお会いしましょう。
それでは、おやすみなさい。
11:01

コメント

スクロール