#028|MeeFM(ミーエフエム)朝回「しまい込まれていた宝物」+ラジオドラマ『下にもう一枚』
2026-11-02 32:23

#028|MeeFM(ミーエフエム)朝回「しまい込まれていた宝物」+ラジオドラマ『下にもう一枚』

MeeFM(ミーエフエム)朝回。テーマは「しまい込まれていた宝物」。長く閉ざされていたものが、この数日でいっせいに光の当たる場所へ出てきました。🎙 パーソナリティ:アレックス × ジョーダン1. ポンペイ、79年に閉ざされた収納棚ポンペイ考古学公園が、紀元79年の噴火の日に置き去りにされた木製収納棚の中身を復元したと発表。子どものお守り「クレプンディア」24点以上、化粧道具、青銅貨38枚。お守りは音で子どもの居場所を知らせる"古代のベビーモニター"であり、大人になっても思い出として布袋に入れてしまわれていました。持ち主が二度と取りに戻らなかった「最後の普通の朝」をたどります。2. レオノーラ・キャリントン《Fil d'Or》、70年ぶりの登場シュルレアリスムの画家キャリントンが1953年に描いた《Fil d'Or(金の糸)》が、一家のもとに眠り続けた70年を経て、11月10日の Heritage Auctions のセールに登場します。絵具の層を引っ掻く「グラッタージュ」という珍しい技法、元恋人マックス・エルンストとの関係、そして「Kim」とだけ署名したキム・ファンギの再発見作と並ぶ「再発見のセール」の背景を掘り下げます。3. 皇居三の丸尚蔵館、グランドオープン11月3日、皇居三の丸尚蔵館が全面開館します。開幕展「皇室の至宝」では、正倉院宝物が皇居の中で初めて一般公開されます。「大切に保管する」ことが名前の由来というこの館で、皇室に代々受け継がれてきた宝物が、誰の目にも触れる場所へ出てくる転換点を見つめます。関連トピックとして、国立新美術館で開幕した「少女漫画・インフィニティ」も紹介します。萩尾望都、山岸凉子、大和和紀 ― 作家のもとにしまわれていた原画800点以上が大規模に公開されました。📻 ラジオドラマ『下にもう一枚』(本編終了後)夜の美術館。修復士のサクラが風景画のエックス線検査で見つけた「下に眠るもう一枚の絵」と、絵の裏に書かれた百年前の願いをめぐる物語。前編・後編の二部構成です。■参照サイトポンペイ:https://artnewsjapan.com/article/91434https://www.japantimes.co.jp/news/2026/11/01/world/pompeii-cupboard-life-vesuvius/https://arkeonews.net/2000-year-old-cupboard-in-pompeii-reveals-24-protective-amulets-and-38-coins/https://archaeology.org/news/2026/10/30/household-cupboard-excavated-in-pompeii/https://archaeologymag.com/2026/10/pompeii-wardrobe-found-untouched-since-79-ce/https://www.pompeionline.net/en/news/865-pompeii-a-roman-cupboard-reveals-a-forgotten-life-childhood-amulets-and-38-coins-unearthedhttps://www.anatolianarchaeology.net/pompeii-cupboard-holds-24-childhood-charms-alongside-38-bronze-coins/https://www.techtimes.com/articles/329712/20261030/pompeii-wardrobe-sealed-since-ad-79-opens-childhood-amulets-left-behind-ash.htmhttps://www.labrujulaverde.com/en/2026/10/a-pompeii-wardrobe-left-behind-in-the-eruption-held-a-childhood-charm-necklace-and-38-coins/https://artnewsjapan.com/article/73849キャリントン:https://news.artnet.com/market/rediscovered-leonora-carrington-fil-dor-heritage-2830414https://collectiblesnews.com/2026/11/01/rediscovered-leonora-carrington-painting-heads-to-heritage-auctions/https://patronmagazine.com/rediscovered-leonora-carrington-painting-leads-heritage-auctions-november-sale/https://artdaily.cc/news/201735/Rediscovered-Leonora-Carrington-painting-leads-Heritage-s-Nov--10-Modern---Contemporary-Art-Auctionhttps://fineart.ha.com/c/auction-home.zx?saleNo=8277&ic=Items-OpenAuctions-Open-BrowseAuctionInfo-071713https://www.sothebys.com/en/artists/leonora-carringtonhttps://www.art.salon/artist/leonora-carrington?page=2https://www.theartnewspaper.com/keywords/leonora-carringtonhttps://www.theartnewspaper.com/2026/05/28/newly-discovered-leonora-carrington-painting-to-go-on-show-at-londons-freud-museum皇居三の丸尚蔵館:https://shozokan.nich.go.jp/feature/grand-opening/https://www.museum.or.jp/news/126749https://www.museum.or.jp/event/126940https://www.sankei.com/article/20261030-HVVSMRTBUVICXBWGQCEZXKXSQU/?outputType=asyndhttps://news.yahoo.co.jp/articles/bdee99dc1065eff5ca69963de9b963995382e65dhttps://news.infoseek.co.jp/article/yomiuri_20261030_gyt1t00236/https://news.infoseek.co.jp/article/sankein__life_imperial_HVVSMRTBUVICXBWGQCEZXKXSQU/https://article.yahoo.co.jp/detail/9ca51a322db2b1733b21a164a94268e6618e0eebhttps://news.yahoo.co.jp/articles/184a6f76be95d9c9b58ee1f79a2d7e5f783cc59chttps://artexhibition.jp/topics/news/20260904-AEJ2986526/https://artexhibition.jp/topics/news/20260910-AEJ2992100/少女漫画・インフィニティ(関連):https://www.nact.jp/exhibition_special/2026/shojomanga/https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/33255https://www.museum.or.jp/news/127534https://manga.watch.impress.co.jp/docs/news/2151793.htmlhttps://artexhibition.jp/topics/news/20261027-AEJ3029352/https://news.mynavi.jp/article/20261028-5209577/■音声:本番組用に生成したDJナレーション音声/ラジオドラマも生成音声による制作です

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00:00
おはようございます。MeeFM。朝のアートニュースの時間です。
おはようございます。アレックスです。
ジョーダンです。
今日のテーマは、「しまい込まれていた宝物」です。
キーワードは、「しまう」という行為そのものかもしれません。
大切にしまう。でも、しまわれたままでは、誰の目にも触れない。
火山灰の下で眠っていた収納棚。一家の下で70年しまわれていた絵。そして、工室の蔵。
この数日、長く閉ざされていたものが、一斉に表へ出てきました。
しまう側の事情も、それぞれ違いました。
災害で置き去りにされたもの。代替わりで眠っていたもの。門外不出だったもの。
偶然とは思えない重なりですよね。まずは、約2000年前のイタリアからいきましょう。
ポンペイ考古学公園が、10月29日に組みました興味深い発表をしました。
ポンペイといえば、紀元79年の噴火でおもれた古代都市ですね。
その噴火の日に置き去りにされた木製の収納棚の中身が復元されたんです。
どこの家で見つかったんですか。
アッポンダンザ通りという大通りに面したコルネリウスマクシムスの家です。
木の棚ですか。灰の中に残っていたんですか。
棚そのものは朽ちてしまったんですが、火山灰に型が残っていました。
研究者たちは灰に空いた空間に石膏を流し込み、朽ちた木の形を取り出しました。
犠牲者の石膏像で知られる手法ですね。
はい。おかげで棚の大きさや物の納め方まで再現できたそうです。
何が入っていたんですか。
子供のお守りクレプンディアが24点以上も出てきました。
クレプンディア。初めて聞く名前です。
ファイアンスや骨、ガラス、水帳でできた小さなお守りです。
神様や手足、松傘やブドウの形をしています。
神様の形というのはどんな神様でしょう。
子供を守るベス神や高居の神メルクリウスなどがいます。
名前の由来が面白いんですよね。
カラカラ鳴るという意味なんです。
お守りであると同時に音で子供の居場所を知らせる。
古代のベビーモニターですね。
まさに。しかも大人になっても幼い頃の思い出として布の袋に入れて棚にしまっていた人がいたそうです。
それはちょっと泣ける話です。
子供の成長を見守る道具がそのまま家族の記憶になっていたんですね。
他にも化粧道具や香油の瓶、食べないの文童、それに精銅の硬貨が38枚。
硬貨まで残っていたんですね。
編んだ容器に入っていました。
多くはネロ帝の時代、65年に重藏されたものだそうです。
38枚でどれくらいの価値でしょう。
当時のワイン、14杯分ほどという換算もあるそうです。
文童もありましたし、収買をしていた家なんでしょうね。
03:01
通りに面した家ですから、暮らしと儚いが一緒になった家だったようです。
つまり持ち主は硬貨も思い出も置いて逃げるしかなかった。
園長の言葉が印象的です。
ポンペイは優れた美術作品だけの場所ではない。
この発見は発掘の記録を伝える学術史に論文としても発表されました。
日用品をしまった棚が論文になるんです。
それだけ貴重な記録なんですね。
名品ではなく日用品から最後の普通の朝が浮かび上がる。
本当にそうですね。
次は70年ぶりに姿を表した絵の話です。
シュルレアリズムの画家、レオノーラ・キャリントンの作品ですね。
1953年にメキシコで描かれたフィルドール、金の糸という商品です。
キャリントンはイギリス生まれでメキシコに渡った画家でしたね。
シュルレアリズムの中心にいながら、独自の神秘的な世界を描き続けました。
どれくらいの大きさなんですか?
33センチ×21センチほど。手のひらに乗るような小さな絵です。
それが70年も行方知れずだった。
制作された年に、メキシコシティの画廊でカリフォルニアの収集家一家が購入しました。
それ以来、ずっとその一家のもとに。
はい。相続した今の持ち主が今回初めて手放すことにしたそうです。
行き先は決まってるんですか?
11月10日、ダラスのイリテージオークションズのセールに出ます。予想価格は25万ドルから35万ドル。
商品でも存在感がありますね。技法にも特徴があるとか。
グラッタージュという技法です。濡れた絵具の層をひっかいて、模様を浮かび上がらせる。
交わる2本の金の線の間から、斧長い謎の生き物がこちらを見つめている絵ですよね。
よく知ってますね。
この技法を生み出したのは、かつての恋人、マックス・エルンスト。
キャリントンの作品に使われるのは、とても珍しいことなんです。
裏面の記名や作品の来歴も、オークション会社の調査で詳しく確認されています。
70年一化にあったからこそ、来歴がきれいにたどれるんですね。
なるほど。だから市場の注目も集まる。
同じセールには、韓国の画家、キム・ファンギが、
キムとだけ署名した再発見の作品も2点出ます。
キム・ファンギは、韓国の近代美術を代表する画家ですよね。
ニューヨークで活動していた時代の作品で、署名がキムとだけあるのが特徴です。
セール全体が再発見をテーマにしているんですね。
今年は、キャリントンの埋もれていた別の作品が、ロンドンで初公開されるなど、再発見が続く年でもあります。
キャリントン自体の評価も上がっていますよね。
06:00
2024年には、代表作が2850万ドルで落札されました。
日本円で40億円を超える額です。
埋もれていた作品が表に出るたび、評価が塗り替わっていく。そんな時期に来ています。
最後は、日本の蔵が開く話です。
皇居三の丸肖像館が建て替え工事を経て、明日、11月3日に全面開館します。
10月30日には、記念式典も行われましたね。
開幕の特別展、皇室の四方では、約190件の作品が並びます。
顔ぶれも豪華ですよね。
法隆寺から兼納された宝物、江戸絵画、近代美術まで並びます。
家納丹雄也、伊藤寂中の作品もあります。
目玉は何でしょう?
西武天皇ゆかりの聖クライン宝物が、皇居の中で初めて一般公開されることです。
名品ラデンシュタンのびわもその一つです。
聖クライン宝物といえば、普段は奈良で、年に数日しか見られません。
皇居で聖クラインという組み合わせ自体が、史上初めてなんです。
それは大きな転換点ですね。
そもそも、納象という言葉は、天皇に関わる器物を管理する役所の長官に由来します。
意味としては、大切に保管する、ということでしたね。
館の名前そのものが、その役割を表しているんです。
皇室に代々受け継がれ、1989年に国へ寄贈されるまで、門外不出だったコレクションです。
寄贈から30年以上かけて、少しずつ公開の準備が進んできたそうです。
それが東京駅から歩いて15分、皇居の中で誰でも見られるようになる。
運営は宮内町から国立文化財機構へ移っています。
続く展示では、国宝の銅色入れ全30拍が、約10年ぶりに一斉展示される予定です。
開幕展自体も、前、中、後期で全作品が入れ替わり、
2027年1月24日まで続きます。
場所は皇居東御苑の中ですね。
はい、東京駅からも歩いていける都心のど真ん中なんです。
しまわれていたものといえば、もう一つありましたね。
国立新美術館の少女漫画インフィニティです。
萩尾本さん、山岸涼子さん、山戸脇さん、3人の原画、800点以上が公開されています。
作家の元にしまわれていた原画が、初めて大規模に表へ出た展示です。
国立の美術館で少女漫画の大規模展は初めてだそうですね。
会期は2027年2月8日まで。息の長い展示です。
灰の下の棚、一家の壁にかかっていた絵、工室の蔵、そして作家の仕事場。
今日の話に共通しているのは、誰かが大切にしまっていた、という点です。
09:02
しまう人がいて、時を経て開ける人がいる。その受け渡しが文化をつないでいくんですね。
どれも大切だからしまわれていたものばかりです。
しまわれていた時間も含めて宝物なんですね。
本当にそう思います。今日もどこかで眠っていた宝物が目を覚ましているかもしれませんね。
本編はここまでです。最後にラジオドラマをお送りします。
タイトルは下にもう一枚、修復師の桜と警備員の後藤、二人の小さな物語です。
朝の光って不思議です。
昨日の夜あんなに悩んでいたのに、この丘の緑を見ていると答えはもう出ていた気がします。
おはようございます桜さん。まさか、昨夜はあの後ずっとここに?
いいえ、さすがに帰りましたよ。でも5時に雨が覚めてしまって、開館前の美術館って空気が澄んでいて好きなんです。
私はこの仕事を30年やっていますが、朝一番の展示室が一番好きです。絵たちがまだ人の声を知らない顔をしている。
絵の顔ですか?
昼間は大勢の人に見られて、夕方には少し疲れた顔になる気がするだけですけどね。
後藤さん実は昨日の帰り際決めたんです。
今朝、館長に企画書を出してきました。
ほう、あの風景画家の?
はい、この絵をX線の画像と並べて展示するんです。
タイトルは、2つの絵、1枚のキャンバス。
下に眠る横顔を光でそっと見せる。剥がさない、壊さない。でも、なかったことにもしない。
館長は、なんて?
面白いじゃないか、って2週間後の小企画展に入れてもらえることになりました。
それは良かった。画家が100年かけて隠したものを出すのは勇気がいりますよ。
隠したというより、しまい込んだ、です。
後藤さん、大切なものをしまうとき、人は捨てたいわけじゃない。ただ、今の暮らしの手前には置いておけない。それだけなんだと思います。
私の女房もそうでした。亡くなる前に、若い頃の手紙の束を、処分して、と言いながら、最後までタンスの引き出しに戻していました。
後藤さん。
いや、締めっぽい話はやめましょう。で、その企画、準備は間に合うんですか?
展示の文章を書いて、X線画像の大きなパネルを作って、あとは裏側の調査です。
実はまだわからないことがあるんです。絵の裏に鉛筆の文字が残っていて、板の隅に薄く書かれているんです。
12:08
何て書いてあるんです?
返す、と読める二文字だけです。あとは日付の数字らしいもの。昨夜は暗くて、そこまでしか読めませんでした。
返す。借りたものを返す、の返す、ですかね?
キャンバスを借りたんでしょうか。画材店に返す約束だったのか、それとも誰かにこの絵を返す約束だったのか。
今朝の光なら、もう少し読めるかもしれません。
桜さんが修復の仕事に就いたのは、そういうところですか?
そうかもしれません。祖母が育した古いタンスを直した時、引き出しの裏に祖母の若い頃のメモが貼ってあって、
このタンスは、刑入りの日に母がくれたもの。
ものって、人の時間を運ぶんです。絵も、タンスも。
物は時間を運ぶ、か。警備の仕事は物が盗まれないように見張るだけだと思っていました。
でも三十年、夜の静けさの中で絵と二人きりでいると、だんだん絵の方が私を見張っている気がしてくる。
素敵な言い方です。
本当ですよ。
いたずらな気持ちが起きても、あの大きな宗教画の前では背筋が伸びる。
さて、開館まであと三十分。裏面、見に行きますか。懐中電灯は私の仕事道具ですからね。
お願いします。後藤さんの光で、百年前の文字を読んでみせます。
どうです?読めますか?
待ってください。光をもう少し斜めから。
あ、見えた。文字が浮き上がってきます。
鉛筆の線が木目に食い込んでいる。
斜めの光は正直ですな。正面からじゃ見えないものが出てくる。
読めました。返すじゃありません。返してね。です。
それから小さく、名前、たまえ、人の名前です。
全文はこうです。たまえに返してね。
そして日付は、1915年5月。
1915年。画家が亡くなる三年前ですな。
えー、つまりこの絵は、画家本人が言い残したんです。
たまえさんという人に、このキャンバスを返してほしい、と。
でも、絵が彼女のもとに戻ることはありませんでした。
今もこの美術館で風景学として百年を過ごしてきたんです。
下の横顔、あの女性がたまえさんかもしれません。
画家は恋人の肖像を描いた。
何かの事情で二人は別れて、絵は画家の手元に残った。
月日が流れ、老いた画家はそのキャンバスの上に、
若い頃二人で歩いた丘の風景を描いた。
そして裏に書いたんです。たまえに返してね、と。
自分の死後、この絵を彼女のもとへ、という願いを。
それは桜さんの想像ですよ。
ええ、想像です。
画家の手紙も日記も残っていませんから、確かめようがない。
でも、裏面の文字は本物です。
願いがあったことだけは確かです。
願いが叶わなかった絵、か。
怖くなってきました。
15:00
私に、この絵を表に出す資格があるんでしょうか。
下の絵は、画家が人に見せたくなかったものかもしれません。
それを私たちが表に出すのは、
個人の秘密を暴くことになりませんか。
桜さん、警備員の勘でものを言いますがね。
秘密を暴かれたくない人は、裏に文字なんか書きません。
あの人は、書いたんです。
返してね、と読める場所に、読める言葉で。
それはね、誰かに見つけてほしかったんじゃないですか。
見つけて、ほしかった。
人は、届けたい言葉ほど、遠回しな場所に隠すものです。
私の上坊も、タンスの手紙を処分してと言いながら、
紐だけは新しいものに結び直していました。
あれは、読んでの合図だったと、今では思います。
後藤さん、ありがとうございます。やります、この企画。
ただし、文章の書き方は考えます。
画家の恋愛を面白おかしく書くつもりはありません。
願いが書かれていたという事実だけを、静かに伝える展示にします。
それがいい。絵は静かなものですからな。
それから、もう一つ、展示の一番最後に、2枚の写真を並べます。
1枚はX線で見えた横顔、もう1枚は裏面の文字です。
キャプションは短くします。
1915年、画家はこの絵の裏に、ある人の名前を書きました。
それだけです。
珠江さん、100年待った甲斐がありますな。
さあ、開館の時間です。後藤さん、今日も美術館をお願いします。
任せてください。絵たちも、珠江さんも、私が見守っていますよ。
桜さん、ちょっといいですか。実は昨日の夕方、面白いことがありまして。
何ですか、後藤さん。展示まであと1週間。トラブルはご勘弁ですよ。
トラブルじゃありません。宝の話です。
昨日の閉館言語、あの風景画の前に、杖のご夫人が長いこと立っていたんです。
80歳を過ぎたくらいかな。私が声をかけたら、こう言うんです。
この丘、私の祖母の話に出てきた丘に似ているって。
祖母の話?
そのご夫人の祖母さんは、若い頃、画家のモデルをしていたことがあるそうで、
名前を聞きましたよ。パマエです。
うーん。
本当です。ご夫人は暇子にあたる方でした。
お祖母さんの玉江さんは、96歳まで生きて、晩年までこの画家の話をしたそうです。
丘の絵は、きっとどこかにあると。
あの丘は、実題したんですね。画家と玉江さんが歩いた丘が。
ご夫人は、企画展のチラシを見てきたそうです。
X線の横顔の写真に、耳の後ろのほくろを見つけて、これは祖母だと確信したと。
ほくろ、私が最初に気づいた、あの丁寧に描かれたほくろです。
ご夫人は、明日も来るそうです。展示が始まったら、正式に見せてほしい、と受付に伝言を残していきました。
18:04
名前は、藤田沙耶さん。
後藤さん、私、震えが止まりません。100年前に書かれた、返してね、が、今、届こうとしているんです。
私もです。警備を30年やって、こんな日が来るとは。
展示の文章、あの文字のことは事実だけ、と決めていましたね。
でも、藤田さん親子の話を聞いた上でなら、もう少しだけ温かい文章にしてもいいんじゃないですか。
桜さん、一つお願いがあります。
展示の文章、あの文字のことは事実だけ、と決めていましたね。
でも、藤田さん親子の話を聞いた上でなら、もう少しだけ温かい文章にしてもいいんじゃないですか。
ご本人の許しが得られれば展示 の最後に小さな一文を添えたい
この絵は百年ある人のもとへ帰る 日を待っていましたとそれ以上
は書きませんあとは見る人が絵 と抜き合う時間に任せます
いい文章だ玉江さんにも画家にも 失礼のない文章です
ありがとうございますあの後藤さん 展示が始まったら藤田さんをご
案内するのは私じゃなくて後藤 さんがいいと思います最初に声
をかけたのは後藤さんですから 私は警備員ですよ案内は学芸員
の仕事でしょう この絵の百年を一番長く夜ごと
見守ってきたのは学芸員じゃなくて 後藤さんですお願いします
わかりました制服の襟を正して おきます
楽しみにしていますね 展示今日からですね朝から並んで
くださる方がいてさっき館長が 正規各店でこの反響は珍しいと
笑っていました 私は朝展示室を一周して絵の前
で深呼吸してきました 玉江さんの横顔のパネル光の
加減がちょうどいい 後藤さん藤田さんは午後3時にい
らっしゃいます お孫さんと一緒だそうです
そうですか実は私昨日あまり眠れ なくて何を話せばいいかずっと
考えていました 絵の説明なら学芸員の方がうまい
私は警備の話しかできません 警備の話でいいんです藤田さん
が見たいのは学問としての絵じゃ なくてお祖母さんが生きた時間
ですその時間を夜ごと守ってきた 人の言葉が一番届くと思います
桜さんは言葉を選ぶのが上手だ 修復も言葉もどっちも直す仕事
ですな 直すというかほぐすですかね固く
なった絵の具も絡まった時間も 少しずつほぐしていくんです
3時になりました来ましたよ受付 に杖の方が
後藤さん行ってらっしゃい私は この柱の陰から見守っています
はい藤田祭様ですねようこそいらっしゃ いました警備員の後藤と申します
今日は私がこの絵のご案内をいたします この風景画は画家が晩年に描いた
21:00
ものです絵画の緑が美しいでしょう 実はこの絵の下にはもう一枚の
絵が眠っていますこちらを御覧 くださいx線で取った画像です
女性の横顔がうっすらと浮かんで います耳の後ろに小さなほくろ
がそうですか泣かないで下さい お祖母様はこの絵の中で百年ずっと
若いままでしたそして画家は絵 の裏にこう書きましたたまえに
返してねこの絵は百年あなたの ご家族のもとへ帰る日を待って
いたんです 今日その日が来ましたようこそ
お帰りなさい 後藤さん今の完璧でした藤田さん
お孫さんの肩にすがって何度も 何度もうなずいて私も危うく声
が震えるところでしたいや震えて いましたなぁ後藤さんありがとうございました
お願いしてよかったですこちら こそです藤田さんがこちらにお礼
を言いたいそうですそれは光栄 ですはい藤田さんお祖母様の笑顔
に似ている私ですかいえいえ私は ただの警備員でクッキーの差し入れ
ですか恐れ入ります職員みんな でいただきます
後藤さん今日は絵のほうが後藤 さんを見守っている気がします
ははははそうかもしれませんな 桜さん今朝の新聞見ましたか地方
版ですがこの展示が大きく載って いましたよ百年の願い届くという
見出しで見ました見ましたでも あの記事私のコメントが少し大げさ
に書かれていて恋の話ばかり強調 されているんです展示で伝えた
かったのはそんなことじゃない のに新聞は新聞の集売があります
からな取材の時ちゃんと話したん です事実は3つだけです絵の下に
別の絵があること裏に名前と日付 が書かれていることご家族が見つけて
くださったことあとは全部見る 人の想像ですってそれなのに桜
さん怒っていますね怒っています ね私だって画家と珠江さんの時間
は消費されるための話題じゃない 100年も静かに眠っていた時間を
面白い話として切り取られるのが 悔しいんですその気持ちは分かります
でもね桜さんあの記事を読んで 今日も朝から人が並んでいるんですよ
中にはお孫さんに手を引かれた お婆さんもいた記事の見出しは
派手でも絵の前に立てば人は静か になります絵の力は記事より強い
ですよ そうですね絵の前に立てばみんな
静かになる 受付の近くで私は見ていました
若いカップルが横顔のパネルを 見てしばらく無限で手をつない
でいたあれでいいんです説明は 最小限感じるのは本人桜さんの
展示はそれができています 後藤さんにそう言ってもらえる
とほっとします 館長からはテレビの取材も来る
かもしれないと言われています 断ろうかと思っていたんです
24:01
けど テレビは絵をそのまま映せますから
新聞より正直かもしれませんよ 条件をつければいい派手な演出
はしない家族の取材はしないと 条件交渉ですねやってみます
断るより伝わる形を選ぶ方が玉井 さんのためにもなります
隠すことも守ることですが届ける ことも守ることです百年閉ざされて
いたものが開くとき少しの騒ぎ はつきものです
あくときの騒ぎかわかりました テレビ受ける方向で館長に返事
します その代わり後藤さんも映ってください
ね夜ごと絵を見守る警備員として 私は顔が怖いのでテレビには不
向きですよ 大丈夫後姿で制服の背中が一番
物語っています 後姿なら考えましょう
あの後藤さん話は変わりますが 昨日の夜の見回りで第三展示室
の壺の前で長く立っていました ねあの壺にも何か物語があるんですか
気づいていましたか あの壺は私がこの美術館に来た
とし最初の仕事で受け入れた作品 なんです
個人の方からの寄贈で小さな田舎 の蔵に眠っていたものだそうです
ひびが入っていて値段の面では 館でも意見がわれた
そうだったんですか今は静かな 場所に置かれていい顔をしています
けど 私が若い頃夜の見回りで先輩に
教わったんです 値段のつかないものほど丁寧に
見ろ値段のつくものは金庫が守る 値段のつかないものは人の目が守る
しかないって その壺を見るたび先輩の言葉を
思い出します 人の目が守る警備の仕事の本質
ですね 桜さんの修復も同じでしょう
直す価値があるかは物が決めるん じゃない人が決める
価値は守ろうとする人の数で決まる のかもしれません
風景がもう100年誰にも帰り見られ なかったわけじゃない
収蔵庫の記録を見ると10年ごとに 状態チェックが入っているんです
名前も知らない先輩たちが静かに 守り続けてきた
その積み重ねの先に私たちがいる
いい話ですなぁ 美術館というのはそういう静かな
守りの積み重ねなんですね
はいだから私の名前が記事に出る のは本当は少し違和感があるんです
主役は100年守ってきた全員の時間 なのに
それでも最後の扉を開けたのは 桜さんです
そのことは誇っていい ありがとうございます
あもうこんな時間 藤田さんから明日届け物がある
そうです お祖母さんの遺品の中から画家に
関係するものが出てきたと
それは楽しみなような少し怖い ような
えー100年の物語がまだ続いてるん です
桜さん届いたら教えてください 開けるときは私も立ち会いたい
27:02
もちろんです 後藤さんはこの物語の承認ですから
後藤さん届きました 藤田さんが持ってきてくださった
お祖母さん玉江さんの遺品の箱 です
小さな文箱で中に手紙が3通と写真 が1枚
写真は あー丘の上で笑う若い女性間違い
ありませんな 横顔の人です耳の後ろに
ほくろが
手紙は2通が画家に当てたものもう 1通は宛名がありません
封画されていないので藤田さんの 許しを得て開けました
読みますね あなたへ
丘の絵が完成したと風の頼りに 聞きました
私の顔の上にあなたは丘を描いた のですね
迎えに来てほしかった春もありました でも今は分かります
あなたは私を消したのではなく 私の上にあなたの人生を重ねた
のです どうかその丘の緑のまま
長生きをしてください私はこの 町でささやかに幸せに生きます
あなたの珠江 出さなかった手紙ですか
珠江さんはこの手紙を書きながら きっと送らないと決めていた
でも捨てなかった96歳で亡くなる までこの文博を持っていたんです
画家の返してねと珠江さんのこの 手紙
届かなかった言葉が2人の間に2つ も残っていたんですね
そして100年後私たちが両方を 読むことになったんです
後藤さんこれはもう2人だけの秘密 ではいられないでも展示で騒ぎ
立てるものでも決してない
この手紙はご家族のもとに返します 美術館は写真と写しだけを非公開
の資料として預かる展示には使いません ただ展示の最後のキャプション
に一文だけ追加したいんです この絵をめぐる手紙が今もご家族
のもとに大切に残されています とそれで十分です
十分です見る人はそれで想像できます 自分の家族の文博のことを思い出す
人もいるでしょう
物は時間を運ぶと私は言いました けど言葉も運びますね届かなかった
言葉でさえ100年運ばれてきた
届かなかったのではないかもし れませんよ2人とも相手が読むかもし
れないと思って書いてしまった それはもう半分届いていたような
ものです
後藤さん今日も名言です
警備員の勘ですよさて夜になりました 振箱は金庫に預けて明日ご家族
へ連絡しましょう
はいあの後藤さん私修復師になって よかった心からそう思います
私も警備員でよかったそう思える 最後の年になりました
展示終わりましたね2週間あっと 今でした来場者はご企画展として
は記録的な数だそうです
最終日の夜は私も少し名残惜しくて 閉館後展示室に長く残ってしまいました
30:01
実は館長から新しい提案があったん ですこの絵とx線パネルを常設展示
に加えたいとそれから藤田さんの ご家族からお祖母さんの若い頃の
写真と手紙を資料として帰宅したい という申し出が
珠江さんの時間が美術館に残る わけですな
はいあのキャンバスは珠江さんの 元へ物理的に帰ることはありません
でしたでも別の形で帰れた絵の中の 彼女と家族の記憶がここで再会
したんです
返してねの願いは届いたんですが 100年かけて形を変えて
えー願いって届くまでに時間がかかる ことがあるでも誰かが受け取る
準備をしていれば必ず届く修復 の仕事はその受け取り準備なの
かもしれません
桜さん私事ですが私この春で退職 なんです
え後藤さんそれ初耳です
30年長かったようで短かった最後の 年にこの絵の話に立ち会えたのは
幸運でした情報にも仏壇に報告 しましたよ面白いことがあった
って
後藤さんがいなくなったら夜の 美術館は寂しくなります絵たち
もきっと
大丈夫次の警備の若い人に引き 継ぎのメモを書きました朝の展示室
では深呼吸すること絵の顔を見る ことあと修復室の桜さんが夜深
ししていたら温かいお茶を差し 入れること
ありがとうございます
桜さんこれからも絵の時間を 運んでください私は時々客として
きますあの丘の前で珠江さんに 挨拶をしに
約束ですよさあ閉館の時間です 後藤さん最後にもう一度だけ一緒
に展示室を回ってください
いや喜んでほら夕方の光丘の緑 が朝とは違う色をしています
本当だねえ後藤さんこの絵朝は 希望の色で夕方は思い出の色ですね
下の横顔もきっと同じ光を見て います
2つの絵が一枚の中で桜さんの好きな 言葉でしたな
はいでは明日からも絵たちまた 明日
また明日ゆっくりおやすみなさい
今日のme fmはここまでお相手は アレックスと冗談でした
32:23

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