番組紹介と朗読の開始
みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
Leave a Voice 明日へのでんぱ
この番組は、僕、シンイチの声や言葉や思いを今に残しておく。
それらが、電波に乗って明日の誰かに電波し、
役に立ってくれたらいいなぁって思いで始めたポッドキャストです。
今日は、2026年2月18日水曜日、8回目の配信です。
今までの配信は、結構難しい目のことを何とか言葉にしようとしたんですけど、
うまく話せないっていうのが続いていました。
今日はですね、かなりガラリと変えてある作品、小説ですかね、の朗読をしてみたいなって思います。
作品中の漢字の読み方とか、間違っているかもしれません。
あと、文章を読み飛ばしているところもあるかもしれません。
そのあたり、どうかご容赦いただければと思います。
李徴の過去と苦悩
三月記 中島敦志
老生の立長は、白鶴才英。
天邦の末年、若くしてなお古房につらね、
ついで高難易に補せられたが、
生、見解、自ら頼むところをすこぶる厚く、
千里に天ずるを潔しとしなかった。
幾泊もなく漢を退いた後は、
古山、郭略に飢餓し、
人と交わりを絶ってひたすら死作にふけった。
狩りとなって、長く膝を俗悪な大漢の前に屈するよりは、
死下として名を死後百年に残そうとしたのである。
しかし文明は容易にあがらず、
生活は費用で苦しくなる。
立長はようやく焦燥にかられてきた。
このころからその要望も小国となり、
肉落ち骨ひいで、眼光のみいたずらに敬敬として、
かつて紳士に登台したころの宝鏡の美少年の面影は、
どこに求めようもない。
数年の後、貧窮に絶えず、
妻子の遺職のためについに節を屈して、
再び東へ赴き、
一地方管理の職を頬ずることになった。
一方、これは己の修行に半ば絶望したためでもある。
かつての同輩はすでに遥か後位に進み、
彼が昔、
動物として死がにも欠けなかったその連中の仮名を這いさねばならぬことが、
李徴の失踪と袁傪との遭遇
往年の春祭離朝の自尊心をいかに傷つけたかは想像に堅くない。
彼は往々として楽しまず、
兄輩のせいはいよいよ抑えがたくなった。
一年の後、紅葉で旅に出、
女髄のほとりに宿ったとき、ついに発狂した。
ある夜半、急に顔色を変えて寝床から起き上がると、
何か訳のわからぬことを叫びつつ、そのまま下に飛び降りて、
闇の中へ駆け出した。
彼は二度と戻ってこなかった。
付近の山谷を捜索しても何の手がかりもない。
その後、離朝がどうなったかを知る者は誰もなかった。
翌年、観察漁師、陳軍の縁さんという者、
直面を奉じて礼難に使いし、道に将王の地に宿った。
次の朝、いまだ暗いうちに出発しようとしたところ、
えきりが言うことに、
これから先の道に人喰い虎が出るゆえ、
旅人は白昼でなければ通れない。
いまはまだ朝が早いから、
いま少し待たれたがよろしいでしょうと。
縁さんは、しかし、
友回りの多勢なのを頼み、
えきりの言葉をしりぞけて出発した。
残月の光を頼りに林中の草地を通って行ったとき、
はたして一匹の猛虎が草むらの中から躍り出た。
虎は阿波や縁さんに躍りかかると見えたが、
たちまち身をひるがえして、もとの草むらにかくれた。
草むらの中から人間の声で、
危ないところだったとくりかえしつぶやくのが聞えた。
その声に縁さんは聞き覚えがあった。
虎となった李徴の告白
恐怖のうちにも彼はとっさに思い当たって叫んだ。
その声は我が友李徴氏ではないか。
縁さんは李徴と同年に紳士の台にのぼり、
友人の少なかった李徴にとっては、もっとも親しい友であった。
恩和な縁さんの性格が、
春秋な李徴の性情と衝突しなかったためであろう。
草むらの中からはしばらく返事がなかった。
忍び泣きかと思われるかすかな声がときどき漏れるばかりである。
ややあって、低い声が答えた。
いかにも自分は老生の李徴である、と。
縁さんは恐怖を忘れ、馬から降りて草むらに近づき、
懐かしげに急滑を除した。
そして、なぜ草むらから出てこないのかと問うた。
李徴の声が答えていう。
自分は今や異類の身となっている。
どうして御目御目と友の前に浅ましい姿をさらせようか。
かつまた、自分が姿をあらわせば、
必ず君に異府献縁の錠を起こさせるに決まっているからだ。
しかし今、計らずも友に会うことを得て、
忌憚の念をも忘れるほどに懐かしい。
どうかほんのしばらくでいいから、
我が醜悪な今の外形を厭わず、
かつて君の友李徴であったこの自分と話を交わしてくれないだろうか。
あとで考えれば不思議だったが、
その時袁参は、この超自然の怪異を実に素直に受け入れて、少しも怪しもうとしなかった。
彼は部下に命じて行列の進行を止め、
自分は草むらのそばに立って、見えざる声と対談した。
都の噂、旧友の消息、
袁参が現在の地位、
それに対する李徴の祝辞、
青年時代に親しかった者同士のあの隔てのない誤調で、
それらが語られたのち、
袁参は李徴がどうして今の身となるに至ったかを尋ねた。
早中の声は次のように語った。
今から一年ほど前、
自分が旅に出て女髄のほとりに泊まった夜のこと、
一睡してから、
ふと目を覚ますと、
戸外で誰かが我が名を呼んでいる。
声に応じて外へ出てみると、
声は闇の中からしきりに自分を招く。
覚えず、自分は声を覆って走り出した。
無我夢中で駆けていくうちに、
いつしか道は山林に居り、
しかも知らぬ間に自分は左右の手で地をつかんで走っていた。
何か体中に力が満ち満ちたような感じで、
軽々と岩石を飛び越えて行った。
気がつくと、手先や肘のあたりに毛を生じているらしい。
少し明るくなってから谷側に臨んで姿を映してみると、
すでに虎となっていた。
自分は初め目を信じなかった。
次にこれは夢に違いないと考えた。
夢の中でこれは夢だぞと知っているような夢を
自分はそれまで見たことがあったから。
どうしても夢でないと悟らねばならなかった時、
自分は呆然とした。
そして恐れた。
全くどんなことでも起こりうるのだと思って、
深く恐れた。
しかしなぜこんなことになったのだろう。
わからぬ。
全く何事も我々にはわからぬ。
理由もわからずに押しつけられたものを
おとなしく受け取って、
理由もわからずに生きていくのが
我々生き物の定めだ。
自分はすぐに死を思った。
しかしその時、
目の前を一匹のうさぎが駆けすぎるのを見た途端に、
自分の中の人間はたちまち姿を消した。
再び自分の中の人間が目を覚ました時、
自分の口はうさぎの血にまみれ、
あたりにはうさぎの毛が散らばっていた。
これが虎としての最初の経験であった。
それ以来、今までにどんな処行をし続けてきたか、
それは到底語るには忍びない。
ただ一日のうちに必ず数時間は
人間の心が帰ってくる。
そういう時には、かつての火と同じく、
人ごも操れれば複雑な思考にも耐えうるし、
軽所の勝負をそらんずることもできる。
その人間の心で、
虎としての己の残虐な行いの跡を見、
己の運命を振り返る時が、
最も情けなく、恐ろしく、生きどろしい。
しかしその人間に帰る数時間も、
火を減るに従って、次第に短くなっていく。
今まではどうして虎などになったかと怪しんでいたのに、
この間ひょいと気がついてみたら、
俺はどうして以前、人間だったのかと考えていた。
これは恐ろしいことだ。
今少し経てば、
俺の中の人間の心は、
獣としての習慣の中にすっかり埋もれて消えてしまうだろう。
ちょうど古い宮殿の石杖が、
次第に土砂に埋没するように。
そうすれば、
始まりに俺は自分の過去を忘れ果て、
一匹の虎として狂いまわり、
今日のように道で君と出会っても、
友と認めることなく、
君を先喰らうて何の悔いも感じないだろう。
一体、獣でも人間でも、
李徴の遺志と別れ
元は何か他のものだったんだろう。
はじめはそれを覚えているが、
次第に忘れてしまい、
はじめから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか。
いや、そんなことはどうでもいい。
俺の中の人間の心がすっかり消えてしまえば、
おそらくその方が、
俺は幸せになれるのだろう。
だのに、俺の中の人間は、
そのことをこの上なく恐ろしく感じているのだ。
ああ、全くどんなに恐ろしく悲しく切なく思っているだろう。
俺が人間だった記憶のなくなることを、
この気持ちは誰にもわからない。
誰にもわからない。
俺と同じ身の上になったものでなければ。
ところで、そうだ、
俺がすっかり人間でなくなってしまう前に、
ひとつ頼んでおきたいことがある。
えんさんはじめ一行は、
息をのんで草中の声の語る不思議に聞き入っていた。
声は続けて言う、
他でもない、
自分は元来詩人として名を成すつもりでいた。
しかも、よう未だならざるに、
この運命に立ち至った。
かつて作るところの詩数百遍、
もとよりまだ世に行われておらぬ、
以降の所在ももはやわからなくなっていよう。
ところで、
そのうち今もなお希少せるものが数十ある。
これをわがために伝録していただきたいのだ。
何もこれによって一人前の詩人面をしたいのではない。
作の口説は知らず、
とにかく賛を破り心を狂わせてまで
自分が生涯それに執着したところのものを
一部なりとも後代に伝えないでは
死んでも死にきれないのだ。
縁さんは部下に命じ、
筆をとって曹中の声に従って書き取らせた。
李徴の声は草むらの中からロロと響いた。
長短およそ三十遍、
拡張口が一種卓一、
一読して作者の才の碑文を思わせるものばかりである。
しかし縁さんは簡単しながらも漠然と次のように感じていた。
なるほど、作者の素質が第一流に属するものであることは疑いない。
しかしこのままでは第一流の作品となるのには
どこか非常に微妙な点において書けるところがあるのではないかと。
急使を吐き終わった李徴の声は突然調子を変え
自らをあざけるが如くに言った。
ああ、恥ずかしいことだが今でもこんな浅ましい身となり果てた今でも
俺は俺の刺繍が長安風流人史の机の上に置かれている様を夢に見ることがあるのだ。
眼骨の中に横たわって見る夢にだよ。
縁さん、笑ってくれ。
詩人になり損なって虎になった哀れな男を。
縁さんは昔の青年李徴の辞帳壁を思い出しながら悲しく聞いていた。
そうだ、お笑い草ついでに今の思いを即席の詩に述べてみようか。
この虎の中にまだかつての李徴が生きている印に、縁さんはまた狩りに命じてこれを書き取らせた。
その詩に言う、たまたま教室によって種類となる。
最感愛よってのがるべからず。
今日の草が誰かあえて適せん。
その髪の成績共に愛たかし。
我異物となる方々の下、君すでに蝶に乗って犠牲後なり。
この夕べ景山明月に対す。
嘲笑をなさず、ただ好をなす。
時に残月、光冷やかに、薄露は血に茂く。
樹間を渡る礼風は、すでに暁の地下気をつけていた。
人々はもはや、ことのきいを忘れ、祝禅として、この詩人の箱を探じた。
李徴の声は再び続ける。
何ゆえこんな運命になったかわからぬと、千穀は言ったが、
しかし、考えようによれば、思い当たることが全然ないでもない。
人間であったとき、俺は努めて人との交わりを避けた。
人々は俺を虚構だ、存在だと言った。
実はそれがほとんど周知心に近いものであることを、人々は知らなかった。
もちろん、かつての教頭の記載と言われた自分に、自尊心がなかったとは言わない。
しかし、それは臆病な自尊心とでも言うべきものであった。
俺は死によって名をなそうと思いながら、進んで死についたり、
求めて死友と交わって切磋琢磨に努めたりすることをしなかった。
かといって、また俺は俗物の間に御することも潔しとしなかった。
ともに我が臆病な自尊心と存在な周知心とのせいである。
己の魂にあらざることを恐れるがゆえに、あえて刻苦して磨こうともせず、
また、己の魂なるべきを半ば信ずるがゆえに、ろくろくとして瓦に御することもできなかった。
俺は次第に世と離れ、人と遠ざかり、粉紋と罪意図によって、
ますます己の内なる臆病な自尊心を買い太らせる結果になった。
人間は誰でも猛獣使いであり、その猛獣に当たるのが各人の正常だという。
俺の場合、この存在な周知心が猛獣だった。
虎だったのだ。
これが己を損ない、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、
果ては己の外形を核の如く内心にふさわしいものに変えてしまったのだ。
今思えば、まったく、俺は己の持っていた僅かばかりの才能を空飛してしまったわけだ。
人生は何事をもなさぬにはあまりに長いが、何事かをなすにはあまりにも短いなどと口先ばかりの稽古を老しながら、
事実は、才能の不足を暴露するかもしれないとの卑怯な器具と、刻を厭う怠惰が俺の全てだったのだ。
俺よりも遥かに乏しい才能でありながら、それを僭越に磨いたがために、堂々たる歯科となった者がいくらでもいるのだ。
虎となり果てた今、俺はようやくそれに気がついた。
それを思うと、俺は今も胸を焼かれるような悔いを感じる。
俺にはもはや人間としての生活はできない。
たとえ今、俺が頭の中でどんな優れた詩を作ったにしたところで、どういう手段で発表できよう。
まして俺の頭は日ごとに虎に近づいていく。
どうすればいいのだ。
俺の空飛された過去は、俺はたまらなくなる。
そういう時、俺は向こうの山の頂の岩尾に登り、空谷に向かって吠える。
この胸を焼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。
俺は昨夕も賢で月に向かって吠えた。
誰かにこの苦しみがわかってもらえないかと。
しかし、獣どもは俺の声を聞いて、ただ恐れひれ伏すばかり。
山も木も月も梅雨も、一匹の虎が怒り狂ってたけているとしか考えない。
天に踊り、地に伏して嘆いても、誰一人俺の気持ちをわかってくれるものはない。
ちょうど人間だった頃、俺の傷つきやすい内心を誰も理解してくれなかったように、
俺の毛皮の濡れたのは夜露のためばかりではない。
ようやく辺りの暗さが薄らいできた。
この間を伝って、どこからか凝覚が悲しげに響き始めた。
もはや別れを告げねばならぬ、酔わねばならぬ時が、
虎に帰らねばならぬ時が近づいたから、と李徴の声が言った。
だがお別れする前にもう一つ頼みがある。
それは我が妻子のことだ。
彼らは未だ革略にいる。
もとより俺の運命については知るはずがない。
もし君が南から帰ったら、俺はすでに死んだと彼らに告げてもらえないだろうか。
決して今日のことだけは明かさないでほしい。
厚かましいお願いだが、
彼らの孤弱を憐れんで、今後とも道徒に寄託することのないように計らっていただけるならば、
自分にとって恩恒これに過ぎたるはない。
言い終わって早中から堂々の声が聞こえた。
園さんもまた涙を浮かべ、喜んで李徴の意に沿いたい胸を応えた。
李徴の声はしかしたちまちまた戦国の自張的な調子に戻っていった。
本当はまずこのことの方を先にお願いすべきだったのだ。
俺が人間だったなら、
飢え凍えようとする妻子のことよりも、
己の乏しい修行の方を気にかけているような男だから、
こんな獣に身を落とすのだ。
そうして付け加えて言うことに、
園さんが李徴からの寄託には決してこの道を通らないで欲しい。
その時には自分が酔っていて、
友を認めずに襲いかかるかもしれないから。
また今別れてから前方百歩のところにあるあの丘に上ったら、
こちらを振り返って見てもらいたい。
自分は今の姿をもう一度お目にかけよう。
優に誇ろうとしてではない。
我が醜悪な姿を示してもって、
再びここを過ぎて自分に会おうとの気持ちを君に起こさせないためである。
園さんは草むらに向かって年頃に別れの言葉を述べ馬に上った。
草むらの中からはまた絶えざるが如き悲急の声が漏れた。
園さんも幾度か草むらを振り返りながら涙のうちに出発した。
一行が丘の上に着いた時、
彼らは言われた通りに振り返って、
先ほどの林間の草地を眺めた。
たちまち一匹の虎が草の茂みから道の上に踊り出たのを彼らは見た。
虎は既に白く光を失った月を仰いで、
双子へ三子へ方向したかと思うと、
また元の草むらに踊り入って、
再びその姿を見なかった。